システムは理想性の向上する方向へ向けて進化します。システムの理想性は、そのシステムが持つあらゆる有用な特性の合計を、そのシステムに含まれるすべての有害な(あるいは、望ましくない)要因の合計で割った比率で表されます。
システムの理想性=有用な特性(有益機能)の合計/有害な要因(有害機能)の合計
したがって、あらゆる人工システムの進化の度合を次の3つの観点から評価することができます。
(1)システムの有用性の増加
(2)システムに含まれる不都合な要因の減少
(3)有用性と不都合な要因との相互関係の好転
理想性の向上へ向けた進化のパターンは次の重要な帰結を示唆しています。
・すべての問題(中には、問題の立て方そのものが間違っていることもある)を解決することは不可能だが、あらゆるシステムはさらに進化させることが可能である。
・システムの進化の過程は1つだけではない。システムはそのシステムにとって可能な様々な経緯をたどって理想性を高めてゆく。
・違う道筋をたどって進化してゆくシステム同士の間で、競争が生じることがある。
今回は「理想性の向上」という進化のパターンに関連した進化のラインとして、「(1)システムの有用性の増加」のラインについて説明します。
あらゆる人工システムは何らか一群の「有益機能」を実現する目的で作られます。これらの有益機能は、何らかの目的を達成することを狙って求められているといえます。有益機能には次の種類があります。
・基本(有益)機能:システムが作られた目的としての機能です。
・補助(有益)機能:基本機能を実現することを可能にする機能です。
・付属(有益)機能:システムを作った人々が基本機能に追加して目指した機能です。
システムが進化する過程で、機能の数を増やし、機能の質を向上させ、自分の機能と他のシステムが持つ機能と対応させるようにすることを通じて、有益機能を発展させて理想性を向上させてゆきます。
システムの価値を高めてゆく具体的なアプローチ(進化のライン)には、(1)システムの有用性の増加、(2)有益機能の追加、(3)補助機能の追加、(4)付属機能の追加、(5)機能の改良、(6)ユーザーの期待と満足度の変化、(7)システムの基本有益機能の発展、(8)専門化と汎用化、(9)システムの機能の進化、(10)システムの基本有益機能の発展、(11)機能の分散(分担)、(12)機能の細分化、(13)快適機能の進化、(14)豪華機能の進化、などがあります。
「(1)システムの有用性の増加」の進化のラインでは、①a.基本有益機能群の内容を変化させる、b.システムの主要機能を改良し、使いやすさを増す補助機能の追加する、c.ユーザーにとってシステムの有用性を増す付属機能の追加する、などの手段で有益機能の数を増やす。→②既存の有益機能の性能を改良する。→③特定の目的にあわせて様々な有益機能を持つ専門化したシステムを創出する。→④最も効果的で使いやすい有益機能群を持ち、かつ、機能間の干渉を排除してシステムの最適化を図る調整をする(たとえば、電話がかかってきた相手によって優先度を判断したり(寝ているユーザーを起こす、他の電話に割り込ませる、など)、相手のメッセージを残すか否か判断したり、相手によっては回線を切断するなどの機能を持った電話機)。→⑤特定の機能を持ったシステムを外部環境や、周辺の他のシステムに対応させる(たとえば、テレビやコーヒーメーカーのリモコン、自宅や自家用車の警備システムの一部、インターネット端末、ナビゲーションシステムなどとして使うことのできる携帯電話)、のように進みます。
「(2)有益機能の追加」の進化のラインでは、システムへの新しい有益機能の追加は次のように行われます。①従来知られていない新機能の発明(たとえば、薬を入れておくケースが付いていて、ユーザーがいつ服用したか記録をとってくれる携帯電話)。→②機能の細分化と下位機能の分離。次に、下位機能の基本機能への格上げと、その基本機能を持った新規独立システムの創出(たとえば、誰が呼んでいるか記録をとってくれるポケベル)。→③他の何かが持っている機能のシステムへの移転(取り込み):a.システムのそばにあるもの(たとえば、時計、鏡、口紅入れなどが付いている携帯電話)、b.他の分野の類似性のあるもの(たとえば、テレビ、パソコン、などの他のコミュニケーション装置の機能を持った携帯電話)、c.特殊な条件で使われる、ただし、類似の下位システムを含むもの(たとえば、 護身用電気ショック銃機能を持った携帯電話(アンテナ、バッテリー、アンプ、などを共有する)、d.他のシステムが持っている機能(たとえば、一定の条件で、基地局を通さずに他の電話機に直接連絡を取ることのできる携帯電話)。→④従来人がしている機能のシステムへの移転(取り込み)(たとえば、人が歩く運動や自動車の振動などを利用して自動的に充電する携帯電話。これによって、人が充電の心配をする必要がなくなる)。→⑤システムの従来の機能と逆の機能の追加(たとえば、他の携帯電話が繋がらなくする機能を持った携帯電話。これを使うと、たとえば劇場で誰かの携帯電話のベルがなってしまうことを防ぐことができる)。→⑥特権的指標、快適さ、豪華さなどの機能の追加。→⑦何らかの有害な特性の有益機能への転換。→⑧特定のユーザー向けに特殊な機能を持ったシステムの創出(たとえば、子供用携帯電話、聴力や視力が弱い人用の携帯電話、など)、のように進みます。
「(3)補助機能の追加」の進化のラインでは、システムが改良される過程で次のような補助機能が追加されてゆきます。①位置決め、接続、など(たとえば、フレーム、基盤、ワイヤーハーネス、ケーブルコネクタなど)。→②輸送、倉庫、保管、など(たとえば、自動車のトランクルーム、ウインドグラスの収納スペース、パーキング・ブレーキ、ドアロック、など)。→③ユーザーに合わせる機能(たとえば、運転席のシートの調整、ステアリングコラムの調整機構、など)。→④操作を助ける機能(たとえば、パワステ、パワーブレーキ、など)。→⑤システムの制御をしやすくする、計測、情報処理機能(たとえば、燃料計、次回燃料補給までに走行可能な距離の表示装置、など)。→⑥重要な事象についての警告機能(たとえば、着氷による滑り警告、シートベルト未着用警告、反ドア警告、など)。→⑦システムが有効に稼働するようにする準備機能(たとえば、大型トラックの燃料予熱装置、など)。→⑧有害な作用を排除するための修正機能(たとえば、排気ガスの一酸化炭素を炭酸ガスに変える触媒装置、PMを除去するアフターバーナ等の排気浄化装置、など)。→⑨有害な作用の発生を回避する保護・救済機能(たとえば、自動車のシートベルト、バンパー、飛行機のパラシュート、など)、のように進みます。
「(4)付属機能の追加」の進化のラインでは、システムが改良されてゆく過程で、次のような付属機能が追加されます。①ユーザーの学習と訓練(たとえば、マニュアル、インストラクション、パソコンのヘルプ機能、など)。→②同時に複数の有益機能を行う可能性(たとえば、運転中に安全に通話ができる自動車電話、など)。→③快適さを増す機構(たとえば、自動車の座席の暖房・冷房、エアコン、など)。→④豪華さ、特権的指標、富かさを示す指標、など(たとえば、ダイアモンド付きの時計、など)。→⑤基本機能を実行しながら娯楽や、楽しむことを可能にする機能(たとえば、カーラジオ、カーステレオ、など)。
「(5)機能の改良」の進化のラインでは、システムの機能の質は何らかの特性値あるいは性能によって判定されます。こうした特性値・性能はシステムが進化してゆく過程で比較的急速に変化してゆきます。機能の質を表す一般的な指標には以下があります。①ユーザー満足の改善。システムの機能に満足している人の数、あるいは、彼らの満足の度合いの増加。→②資源活用効率指数の向上(この指数は使われた資源の中でどれだけが実際にシステムの機能となったかを示すといえます。この指標を更に具体的に示すと、たとえば、a.人の時間、労働の活用効率指数:システムの有益機能によって現実の便益を得るためにユーザーがどの程の時間、努力、精神的エネルギーを使う必要があるかを左右する指数です。(ここには、そのシステムがどうすれば働くのか、どのボタンを押せば良いのか、などを理解するための時間・労力も含まれます)。b.エネルギー活用の効率指数:システムが使うエネルギーのうちどれだけの部分が 有効に使われているのかを示します。c.材料の活用効率指数。d.空間の活用効率(たとえば、農地、生産スペース、オフィス、家庭、その他の空間)。e.時間の活用効率(たとえば、システムが機能を発揮している時間と、システムの全生産サイクルとの比率)。→③システムを使う代償の比重の低減(システムの有益機能とそれを得るための代償として受け入れなくてはならない有害なあるいは望ましくない作用・影響との間の比率)。
「(6)ユーザーの期待と満足度の変化」の進化のラインでは、システムが進化する過程ではユーザーの側も変化してゆきます。市場の5%位の新しい物好きで何でも試してみる人たちから始まり、やがて、保守的で新しい物は大多数に受け入れられてから買う人々へ移ってゆきます。実際は、進化のどのステップにもこの2つの傾向の間の拮抗関係が観察されます。満足感の向上という視点でいえば、①システムが流行の対象となり、多くの人々に受け入れられる(正のフィードバックの発生)。→②更に洗練された改良型システムの登場(新しいデザインと品質の向上)。→③製品ラインやサービスの多様化。→④システムの操作の容易化(ユーザーに対応して変化する製品の開発)、のように進みます。満足感の減少(期待の増大)という視点でいえば、①大衆の好みの変化(システムは流行遅れになる)。→②システムへの慣れ(ワクワク感の喪失)。→③システム全てに共通する機能や、誰でもが習慣的に行う使い方が無くなってゆく(この傾向は、進歩して使いやすくなった改良品が登場しても進んでゆく)。→④近似あるいは類似機能を持ち、より洗練された新システムの登場(これによって、ユーザー側に新しい期待が出現する)、のように進みます。
「(7)システムの基本有益機能の発展」の進化のラインでは、①ある基本有益機能を持ったシステムの創出。→②システムが散発的に他の用途に使われる(システムを使ったり試したりする過程で新しい使い方が発見される)。→③当初と異なる他の基本有益機能を目的とするシステムの変形の創出、のように進みます。
「(8)専門化と汎用化」の進化のラインでは、専門化によってシステムの機能の幅が狭まりますが、その代わりに、その幅の範囲での性能が向上し、使いやすくなります。他方、汎用化は幅広い用途を可能にします。「専門化と汎用化」という進化のラインは、ユーザーのニーズに対応して、逆の方向に向けてそれぞれ理想性が向上することを示唆しています。専用化という視点でいえば、①ある基本有益機能を持ったシステムの創出。→②システムが様々な用途で特殊な使い方をされる。→③一群の専門化したシステム・バリエーションの創出。→④関連する他の専用システムの機能を取り込んだシステムの創出、と進みます。汎用化という視点でいえば、①それぞれが特定の機能を持った一群の専用システムの並存。→②関連する他の専用システムの機能を取り込んだシステムの創出。→③部分的汎用化。専門化したバリエーションの間で共通する機能について 一部互換性が発生。→④汎用システムの創出(多くの場合、当初のシステムと異なる新しい物理的原理に基づくシステム)、のように進みます。
「(9)システムの機能の進化」の進化のラインでは、①純粋にシステムの基本有益機能のみ実現する。→②基本有益機能の実現を促進する、システムの維持、使用上の快適さ便利さを向上する、制御、診断を可能にする、保護する、といった目的を持った補助機能の出現。→②システム(の作用)に関連する有害機能等への対処(対策する機能の追加)。→③ 付属的(二次的)有益機能の出現。→④システムに存在する機能の資源の発見と活用。→⑤快適機能や豪華機能の出現、のように進みます。
「(10)システムの基本有益機能の発展」の進化のラインでは、①基本有益機能のみ(ある基本有益機能を目的とするシステムの創出)。→②基本有益機能の逆の機能の追加(例:自動車のブレーキ)。→③基本有益機能と逆の機能との間に動的なバランス(変化する相互関係)の導入(例:電車のモーターを逆転させるリターダ・ブレーキ)。→④基本有益機能と逆の機能とのバランス関係の制御(例:ハイブリッド・カー)、のように進みます。
「(11)機能の分散(分担)」の進化のラインでは、①1つしか機能をもたないシステム。→②複数の異なる機能をもつシステム。→③様々な機能をシステムの様々な部分に配分(それぞれの部分がそれぞれの機能を分担する)。→④様々な機能を複数の独立したシステムに分散。あるいは、システムが持つ機能のいくつかを他のシステムに移転、のように進みます。
「(12)機能の細分化」の進化のラインでは、①ある基本有益機能を目的としたシステムの創出。→②ほとんどの補助機能を人が実行する。→③使いやすさや性能を向上させる補助機能の自然発生的な増加。→④補助機能の実現をサポートする一連の下位機能(装置、など)の出現。→⑤補助機能を実現する組み込み形式の下位システムを持った当初のシステムの新世代が出現。→⑥ほとんどの補助機能を必要としない当初のシステムの新世代の出現、のように進みます。
「(13)快適機能の進化」の進化のラインでは、ものの視点でいえば、①システムに内在する不便さの排除。→② 新たな快適さの追加(a.様々な条件でシステムを使うことに関連するもの、b.システムを使う準備や使用後の後始末を簡単にすることに関連するもの、c.補助機能の実現に関連するもの、d.移動、輸送に関連するもの)。→③豪華機能の導入、のように進みます。ユーザーにとっての視点でいえば、①すべてのユーザーにとっての便利さの提供。→②特定のタイプのユーザーに対応させた特別な便利さの提供。→③特定のユーザー(個人など)に対応させた特別な便利さの提供、のように進みます。
「(14)豪華機能の進化」の進化のラインでは、①ある基本有益機能を持ったシステムの登場。→②当該システムに豪華機能を導入(a.特定の働きを持った豪華機能。b.特定の働きを持たない豪華機能、c.働きを持った豪華機能の量産システムの標準的補助機能への転換)。→③働きを持たない豪華機能の排除、のように進みます。