古典的TRIZと比較したIdeation TRIZのシステムアプローチの意義

Ideation TRIZの「システムアプローチ」は、問題が起こっているシステムをいろいろな観点で観察するための手法であって、日本語では「多観点分析」や「多次元分析」といいます。

 

問題を解決しようとするときには、私たちはほとんどの場合、問題が起こっているシステムそのものに焦点を合わせて考えようとします。しかし、経験を積んだ技術者は対象を複数の視点から同時に見つめることで、革新的な成果をもたらします。

 

問題状況の予備的分析の段階で「システムアプローチ」を使うことで、私たちも経験を積んだ技術者のように視野を広げることができます。

 

「システムアプローチ」では、(1)システムの構造と環境を観察する「システム階層軸」、(2)システムの使用状況や歴史、理想を観察する「時間軸」、(3)起きている問題の原因や結果を観察する「問題軸」、(4)システムの必要条件、機能、成果を観察する「機能軸」、といった4つの観点で問題の状況を体系的に分析することになります。

 

しかしながら、問題が複雑な場合には、これらのすべてを一遍に考慮に入れるのは面倒であり、かなりの時間がかかりますので、研究者、技術者からは敬遠されがちです。

 

古典的TRIZには、下位システム、システム、上位システムという「空間軸」と過去、現在、未来という「時間軸」を組み合わせた9つの画面を使って問題の状況を分析する「システム・オペレータ」(9画面法)という手法があります。

 

「システム・オペレータ」では、空間軸と時間軸とで出来上がる(1)過去×下位システム、(2)過去×システム、(3)過去×上位システム、(4)現在×下位システム、(5)現在×システム、(6)現在×上位システム、(7)未来×下位システム、(8)未来×システム、(9)未来×上位システム、の9つの画面を設定してその中を観察することになります。

 

「システム・オペレータ」の基本形は9画面ですので、人間の頭脳にやさしいボリュームです。これなら、研究者、技術者にも使ってみようかと思ってもらえます。

 

「システム・オペレータ」の「空間軸」と「時間軸」とは「システムアプローチ」の「システム階層軸」と「時間軸」に相当しますので、現実の世界での物事の状態を知るために、実践で9画面をよく使います。

 

「システムアプローチ」の「機能軸」と「問題軸」は、現実の世界で起きている物事の意味を理解するのに都合のよい観点であって、目的手段関係と原因結果関係を明らかにするためのものです。Ideation TRIZでは、「因果関係ダイアグラム」を作成する工程がこの作業に相当します。

 

「機能軸」では、システムに対する様々な入力、システムからの出力、それらの問題との関係を観察した結果を「入力(手段)」⇒「機能」⇒「出力(目的)」といった連鎖で表現します。

 

「問題軸」では、問題の原因、問題の結果として生じる不都合、および、これらに関連するシステムの機能を観察した結果を「原因」⇒「問題」⇒「結果」といった連鎖で表現します。

 

「機能軸」という観点でシステムを観察することで、システムを作るときに採用した手段(入力)が、今までにない有益な機能を生じ、その有益な機能の結果としてシステムの当初の目的(出力)が実現できていることがわかります。

 

「問題軸」という観点でシステムを観察することで、システムを作るときに採用した手段(原因)が、問題(有害な機能)を生じ、その問題の結果として思わぬ不都合を生じていることがわかります。

 

つまり、「システムアプローチ」の「機能軸」と「問題軸」の観点で問題を起こしているシステムを観察すると、システムの本来の目的と問題が発生するメカニズムが明らかになります。

 

問題が発生するメカニズムがわかると、システムで起きている問題の本質(一つの特性を改良しようとすると何らかの他の特性が悪化してしまう状況(TRIZではこれを技術的矛盾という)、または、一つの特性についての反対方向の二つの要求が求められる状況(TRIZではこれを物理的矛盾という))が明らかになります。

 

問題の本質(矛盾)を正しく把握することは困難な問題を解決する上での要点ですので、問題が起きているシステムについて「空間軸」と「時間軸」で分析した「9画面」と、「機能軸」と「問題軸」で分析した「因果関係ダイアグラム」が作成できれば、自ずと問題解決の道が見えることになります(少なくとも、取り組むべき課題が明らかになります)。