考えるTRIZとしてのI-TRIZの仕組み

TRIZが他の創造理論・技法と違う点は、膨大な先人の知恵を体系的にまとめ上げた知識ベースを持っていることでしょう。
したがって、TRIZを使いこなすということは、いかにTRIZ特有の知識ベースを効率的かつ効果的に使うかにかかっているといえます。
ところで、世界的な傾向でいえば、現在TRIZは大きく二つの方向に向かって進化しています。
一つの方向は、GEN3パートナーズが推進しているものであって、知識ベースを検索することによって解決策を求めようとする方向です。これは、「今抱えている問題は既にどこかで解かれている」ことを前提とし、他の分野の解決策を自分の問題に適用すればよいという考えによるものです。いわば「検索するTRIZ」を指向するものです。
そのため、意味検索エンジンを搭載したG-FINというソフトウェアでは、過去の技術情報はもちろん最新の技術情報についても逐次検索できるよう日々そのデータベースが更新されています。
これにより、最新の他分野の具体的な解決策を自分の問題解決に役立てることができるようになっています。
もう一つの方向は、アイディエーション・インターナショナル社が推進しているものであって、事前に準備されている質問に答える形で思考を前進させていくことで解決策を求めるようというものです。
問題の分析段階では「問題状況質問票(ISQ:Innovation Situation Questionnaire)」の各項目に答えることで、一方でシステムおよびその周辺にある有望な資源を見い出し、他方で問題の発生メカニズムを因果関係ダイヤグラムで表現しその内容を理解します。
そして、因果関係ダイヤグラムから読み取れる問題構造によって決定される課題を実現するために、発見された資源に先人の知恵のエッセンス(知識ベース)を適用することで問題解決を図るとの考えによっています。いわば「考えるTRIZ」を指向するものです。
そのため、「考えるTRIZ」であるI-TRIZ(Ideation TRIZ)では知識ベースは類比思考を行うための拠り所であって、あらゆる資源の変更の仕方が体系づけられたチャックリストとして整理されている(これをオペレータ・システムという)。
したがって、I-TRIZでは技術の進化に伴うチェックリストの更新を検討することはあっても、課題の実現案を考える際に日々公開される最新の技術情報を検索するようなことはしません。
I-TRIZでは、問題解決をシステムの理想性を向上することであると捉えています。
そのため、因果関係ダイヤグラムから読み取れる問題が(1)「有益機能を改良する問題」、(2)「有害機能を排除、軽減、防止する問題」、(3)「一方で有益機能を供給し、他方で有害機能を排除する問題」のいずれであるかを見極めたうえで、それぞれの問題に対応させて体系づけられたオペレータの指示に従ってそれらの解決策を考えるようになっています。
したがって、I-TRIZを使う場合には、網羅的なシステム思考、因果関係による論理的思考、体系づけられたチェックリストによる類比思考(イメージ思考)により、問題解決に至る全工程についてしっかりと考えることができるようになっています。

システムアプローチの4つの観点

システムアプローチは、問題を抱えているシステムを「システムの階層」、「問題」、「時間」、「機能」といった4つの観点で観察することで問題の状況を詳細に把握し、問題を解決するために使用できるモノ、コト(これらを資源という。)を見つけ出すための手法です。
仏教の方では、モノ、コトを見るためには(1)童眼、(2)密眼、(3)漠眼、(4)洞眼、(5)慈眼、(6)自在眼といった六つの眼を使うこととされている。
童眼とは、子供のように見ることで、ああだこうだと余計なことを考えずに無心に見ることを要求します。
童眼は、なぜそうするのかの理屈は置いといて、システムアプローチの「システムの階層」、「問題」、「時間」、「機能」といった4つの観点に沿って、まずシステムをよく観察してみることを薦めていると考えればよいでしょう。
密眼とは、ものごとを細かく子細に点検する眼を持って、よく見ることを要求します。
密眼は、システムアプローチの「システムの階層」という観点で観察することに相当します。「システムの階層」の観点では、問題の対象となるシステムの構成要素(これを下位システムという。)を観察することを求めます。
漠眼とは、漠然と見ることで、ものから離れて全体の姿を把握することを要求します。
漠眼は、密眼と同様、システムアプローチの「システムの階層」という観点で観察することに相当します。具体的には、システムの周りにあるシステムと関連する他のシステムやシステムの環境(これを上位システムという。)を観察することで、システムの存在価値を再認識することを求めます。
洞眼とは、洞察することで、原因と結果を観察することを要求します。
洞眼は、システムアプローチの「問題」という観点で観察することに相当します。具体的には、問題が生じている原因と問題があることによって生じる結果を観察することを求めます。
慈眼とは、慈悲心を持って見ることで、母親が自分の子供を見ることを要求します。そのものと一体になることであって、シネクティクスという創造技法でも推奨していう方法に相当します。
慈眼は、TRIZでいうところの、賢い小人たち(SLP:Smart Little People)だったらどうするだろうかという観点で解決策を検討することに相当します。
システムアプローチでは、六眼の他に、「機能」という観点から、システムの目的とする機能を実現するための入力と、その機能が実現されることによって生じる出力(成果物)を観察することを求めます。また、「時間」という観点から、現在のシステムに至る前の過去のシステムを観察することと、システムの問題を解決した後の未来のシステムを想像することを求めます。なお、システムがプロセスであれば、そのプロセスの前のプロセス(前工程)とそのプロセスの後のプロセス(後工程)を観察することを求めます。
自在眼とは、自分のイメージ記憶が自在にある状態で見ることであって、体験的なイメージ記憶が自動的に発火してひらめきが起きることをいいます。
自在眼は、問題を抱えているシステムについて、システムアプローチの4つの観点で観察することで、問題解決に役立つ資源が網羅的に発見できるため、解決策を考える準備が整うことを示しています。
つまり、自在眼は、システムアプローチを実施することにより、今まで見落とされていた有望な資源が見つかることで、その資源をどのように変更すれば求める解決策が得られるかは自動的に考えつくだろうことを示しています。
つまり、解決策を考えるとは、発見された資源のすべて見渡してその中から有望そうな資源を見つけることと、見つけた資源を変更する具体的な手段を見つけることといえます。
なお、資源を変更する手段は、I-TRIZが備えている知識ベースである豊富なオペレータ(約500種類)を使用した類比思考を行うことで見つけることができます。