因果関係と因果縁報

本を読んだりセミナーを受講して知識を獲得するといった個人の問題から、いろいろと考えをめぐらして未来を創造するといった企業や組織の問題のように、小さな問題から大きな問題まで、大きさの違う問題があります。
また、ものづくりといった産業上の問題から、マーケティングといったビジネス・経営上の問題、政治・経済といった組織・社会的な問題まで、いろいろな分野に関係する問題があります。 それらすべての問題が1つの法則で成り立っているといったら驚かれるでしょうか。
それは、「因果関係の法則」または「因果の法則」といわれるものです。 因果関係とは、2つ以上のものの間に原因と結果の関係があることをいいます(「デジタル大辞泉」、小学館発行)。「因果」とは短時間の原因と結果の関係を表します。 これに対して、長時間の縁と報いの関係を「縁報」といいます。因とは直接的原因のことをいい、縁とは間接的原因ことをいいます。
そこで、問題によっては因果関係だけではなく、縁報関係についても考慮に入れる必要があるということになります。 「因果縁報」とは仏教用語であるといわれていますが、そもそも日本には古くから問題解決学として仏教がありました。
ここでいう仏教とは宗教としての意味ではなく、お釈迦様の思考方法に限った意味です。 お釈迦様は人の悩みを救うにはどうしたらよいいか、を考えたといわれています。 人が持つ悩みとは、自分が直面している「問題」が解けないことと考えられます。
なぜうまくいかないかと、その原因を追求して、どうしたらいいかとあれこれ考えた末、その結論を出せないで悩むことになるというわけです。 日常的な悩み事から未来を創造する問題まで、すべての問題が「因果縁報」で説明できるとすれば、これを逆手に取ればそれらの問題解決ができるのではないか。
「因果縁報」の分析が十分行われた場合には、自然と根本的な問題の所在が明確となりますので、後はその根本的な問題に集中した取り組みを開始すればいいわけです。 具体的には、因果関係を図式化したダイヤグラム(以下、因果関係ダイヤグラムという。)を見て、どこをどのようにすれば、他のどこがどのように変化するかを予測しながら解決案を考えます。
さらに、変化後の「因果関係ダイヤグラム」を作成して、次に起こり得る二次的問題を事前に予測し、その二次的問題の防止策も考えるようにします。 また、変化後の「因果関係ダイヤグラム」を作成すると、そのシステムの変化後の進化レベル(発展の段階)を確認できますので、その時点での進化の潜在ポテンシャルが読めることになります。
そこで、その先の進化レベルを目指すようにすれば、そのシステムをより理想的な状態に近づけられます。

新しい研究開発のテーマを見つける方法(3)

I-TRIZには、製品や工程などの技術システムについて、可能性として結びつくすべての危険、または有害な事象を事前に明確にし、それらを回避するための不具合予測(FP:Failure Prediction)という手法があります。
不具合予測(FP)のプロセスの特徴は、潜在的な不具合を推測する代わりに、問題を能動的な課題へと「逆転」させるところにあります。 不具合予測(FP)では、分析問題を発明問題に変化すために、「どうしたら、不具合が起こせますか?」という質問をします。 システムの機能の焦点、つまり、システムにおいて要点となる(弱いまたは危険な)機能/作用/状態(通常複数)を選択します。
これを行なうには、対象システムの中の弱いゾーンと危険なゾーン(いずれも複数)をすべて選び出します。 次に、選び出されたそれぞれのゾーンに関して、(1)そのゾーンの”弱さ”の原因となっている有益機能/動作と、(2)そのゾーンを危険なものとしている有害機能を抽出し、これらの有益機能と有害機能とを因果関係で結合したダイヤグラム(IWBのプロブレム・フォーミュレータで描くものと同様のもの)を作成します。
作成した因果関係ダイヤグラムの中で、より多くのリンク(機能を結合する矢線)が出たり、入ったりしている所が不具合の「焦点」となります。 その「焦点」について、関係づけることのできるすべての不具合を予測し、その不具合を取り除いてしまえば、このシステムは実際上安全と見なすことができます。
そして、予測した不具合を実現するのに必要な資源が、現行のシステムの中にあることが確認できれば、その不具合は発生すると考えて間違いない(仮説が検証された)ことになります。 以上のような手順(不具合予測)によって見つけた潜在的不具合は、誰も気がついていない新しい研究開発テーマであるといえます。

新しい研究開発のテーマを見つける方法(2)

新しい研究開発のテーマは、時代を先取りすることで可能になります。 時代を先取りする方法として、TRIZの進化の法則が使えます。 I-TRIZで進化のパターンといっているものは、人工的なシステムの歴史的な発展の過程に繰り返して観察される傾向を抽出したものです。 典型的な進化のパターンは、以下の8つです。
(1) 進化の諸段階
(2) 理想性の向上
(3) 要素の不均衡進化(矛盾)
(4) 柔軟性と制御性の増加
(5) 複雑化後簡素化
(6) 要素間の対応と非対応
(7) ミクロ化と階層化
(8) 人の関与の減少
進化のパターンのほとんどについて、そのパターンに沿ってシステムが変化していく中で順次経過していく典型的な段階を示す進化のラインを認めることができます。 進化のラインという系統的な段階を知っていれば、あるシステムがそのライン上で現在どの段階にあるか、今後どのような変化の道筋をたどる可能性が高いか、という判定をすることが可能になります。
つまり、そのシステムの今後の発展の道筋を予測することが可能になるのです。 進化のパターンを広く深くかつ詳細に適用して、対象とするシステムの今後の発展の可能性を体系的、網羅的に検討し、システムの将来像、その途上で克服すべき課題を明らかにすることができます。
たとえば、「柔軟性と制御性の増加」には以下のような進化のラインが明らかになっています。 (1)柔軟性のないシステム→(2)メカニカルなレベルで変化するシステム→(3)ミクロレベルで変化するシステム→(4)様々なエネルギー場を使って制御可能なシステム
この進化のラインが示すように、柔軟性と制御性が増すことによって条件が変化してもシステムは高い理想性を維持することができるようになります。 航空機の主翼、自動車の座席、ベッドその他多くのものがその形態を変化させることができ、柔軟性を持ちその結果として使い心地のよいものになりました。
この傾向は極めて強い傾向です。 矢印の先が進化の方向を示していますので、仮に現在のシステムが蝶番を使って人手でその形態を変化させているものであれば、将来材料の組成を利用した形態の変化や電気的なエネルギーを使ってその形態を自動制御できるシステムに変化することが予測できます。
したがって、新しい研究開発のテーマをその範囲で探索することにより時代を先取りすることが可能となります。