思い込み、先入観、固定概念を壊す方法(その4)

前回、思い込み、先入観、固定概念を壊す方法として、「問題の逆転」という方法を紹介しました。

今回は、「特性転写法」を紹介します。

「特性転写法」とは、改良しようとしているシステム(通常は製品)に無作為に選んだ物の特徴を与えるとどうなるかを考えてみるものです。

「特性転写法」は、以下のステップに従います。

ステップ1. 改良対象となるシステムを決めます。

ステップ2. 無作為に3~5個の物を選んでください(たとえば、本か雑誌を開いて目についた名詞を選んでください)。

ステップ3. 選んだものそれぞれの特徴をリストアップしてください。

ステップ4. 改良したい製品にこれらの特徴を持たせるとどうなるか、考えてください。具体的には、
(1) 先に選んだものの特徴をリストに従って1つずつ、製品に当てはめてみてください。
(2) 無作為に選んだ特徴が示す方向に製品を改良するとしたら、課題はどう表現されますか?文章にしてください。

アイデア出しに多く使用されているブレーンストーミングは自由連想法(思いつくままに自由に発想する方法)であるのに対して、「特性転写法」は強制発想法(各種ヒントを強制的に結び付けて発想する方法)といえます。

決められた方向に向かって強制的に発想すると、自然に、思い込み、先入観、固定概念を壊すことができます。

 

I-TRIZ(Ideation TRIZ)のオペレータ(繰り返して使われる解決策の原理となっている思考パターン)を使ってアイデアを出す場合は、以下のような方向付けに従います。

【オペレータを使う場合の発想の仕方】
(1)あなたが取り組んでいる状況にオペレータが推奨する方法を当てはめたらどうなるか考えてみてください。

(2)現在、対象としているシステムについてオペレータの推奨に沿って変化させるとどういうことになるか考えてください。

(3)システム(とその周囲)にあるどんな資源を変化させる必要があるか考えてください。

(4)その資源を変化させる方法を考えてください。

(5)そうした変化を起こさせるうえで移用できる資源がないか探してください。

(6)以上考えてきたアイデアの実現可能性を考えてください。

(7)そのアイデアをそのまま使ったら、どんな(二次的な/付随する)問題が生じるか考えてください。

(8)現在使っているオペレータが二次的な(付随する)問題に関連するガイダンスも含んでいる場合には、そのガイダンスについても検討してください。

 

これは強制発想法を行っているときの頭の使い方と同じです。

I-TRIZのオペレータを使ったアイデア出しが円滑に進められずにいる方は、「特性転写法」のような強制発想法を身に着けることで、アイデア出しのスピードアップも図れることになるでしょう。

思い込み、先入観、固定概念を壊す方法(その3)

前回、思い込み、先入観、固定概念を壊す方法として、「Good-Badゲーム」という方法を紹介しました。

今回は、「問題の逆転」を紹介します。

問題の逆転」では、以下のようなことを考えます。

作用を反対作用に取り替えてください。たとえば、加熱する代わりに、冷却してみてください。あるいは、操作の順序を逆にして後の操作を先にしてみたらどうなるか考えてみてください。

可動部分と静止部分とを逆にしてみてください、あるいは、動きのタイプを往復運動から回転運動あるいは揺動運動に、または、その逆にしてみてください。

物体、システム、プロセスの内側と外側とを裏返しにしたり、上下をひっくり返してみてください。あるいは、内側の作用を外側での作用に、外側の作用を内側での作用に逆にすることを考えてください。

これらは、現在起きている事象を逆転させることで、思い込み、先入観、固定概念を壊して、新しい発想を得ることを目的としています。

逆転といえば、I-TRIZ(Ideation TRIZ)の不具合分析(FA:Failure Analysis)と不具合予測(FP:Failure Prediction)です。

不具合分析(FA)では、製品や工程などの技術システムに生じる不具合やその他の問題の原因を「推測」するのでなく、問題を能動的な課題へと「逆転」させます。

不具合予測(FP)では、潜在的な不具合を「推測」する代わりに、問題を能動的な課題へと「逆転」させます。

いずれも、不具合を「作り出す」方法を見つけることをします。

不具合を一般的な現象に読み替え、その現象を意図的に生じさせる方法を探すことによって、不具合のメカニズムを想定するのです。

想定された方法に関与する、すべての要素がシステムまたはその近くの環境の中に存在していなければなりません。

つまり、不具合を引き起こすには、そのために必要な「資源」が存在しなければならないのです。そこで、次にそのような資源が存在するかどうかを判定し、すべて存在するということが確認できれば、想定した不具合のメカニズムが正しいと考えるわけです。

不具合分析(FA)や不具合予測(FP)が、不具合やその他の問題の原因を「推測」するのでなく、問題を能動的な課題へと「逆転」させる理由は、「不具合を発明する」問題に切り替えるためです。

不具合は起きて欲しくないことであるため、起きた不具合についての情報を隠そうとします。そのため、不具合を取り扱う分野には、不具合のメカニズムを解明する情報が少ないといえます。

これに対して、発明はどんどん生み出そうとしますし、生み出された発明の多くは公開されます(特許出願された発明は、一定期間経過後に公開されることが法律で規定されています)。そのため、発明を取り扱う分野には、発明のメカニズムを解明する情報が多いといえます。

そこで、不具合やその他の問題の原因を「推測」するのでなく、問題を能動的な課題へと「逆転」させて、情報量で圧倒的に有利な発明のメカニズムを使って「不具合を発明する」ことを考える方法を採用しています。

その効果は絶大です。従来の不具合分析法や不具合予測法で歯が立たなかった問題について、是非、不具合分析(FA)や不具合予測(FP)の逆転の発想を採用してみてください。

思い込み、先入観、固定概念を壊す(その2)

前回、思い込み、先入観、固定概念を壊す方法として、「視点の転換」と「極大・極小オペレータ」という方法を紹介しました。

今回は、「Good-Badゲーム」を紹介します。

「Good-Badゲーム」は、以下の定型文の< >の中に問題状況に対応する事実・思いつきを記入することで行います。

対象システムの欠点< 対象システムの欠点をここに記入します >は悪い、なぜなら:< 理由を記入します=理由1 >だから

理由1< 理由1を記入します >は良い、なぜなら:< 理由を記入します=理由2 >だから

理由2< 理由2を記入します >は悪い、なぜなら:< 理由を記入します=理由3 >だから

理由3< 理由3を記入します >は良い、なぜなら:< 理由を記入します=理由4 >だから

このようにして、少なくとも4~5つの文章を作成するようにします。

(例)食卓のソース差し

対象システムの欠点< ソース差しの注ぎ口からソースが垂れる >は悪い、なぜなら< ソースがソース差しを汚す >から

< ソースがソース差しを汚す >は良い、なぜなら< ソースが円滑に食べ物に注がれる >から

< ソースが円滑に食べ物に注がれる >は悪い、なぜなら< ソースが手やテーブルを汚す >から

< ソースが手やテーブルを汚す >は良い、なぜなら< 汚れを拭き取ることでソース差し、手、テーブルを常に清潔に保てる >から

「ソースがソース差しを汚す」とか「ソースが手やテーブルを汚す」が「良い」なんて言ったら、普通は「何バカなこと言っているんだ」と言われそうです。

理由がバカバカしいとか、受け入れられないように思えても気にしないでください。このように考えてみる目的は、自由に発想することにあるのです。

バカバカしいと思えるアイデアや、受け入れられないアイデアとは、現在の常識に反しているということです。

常識は思い込み、先入観、固定概念の源ですので、思い込み、先入観、固定概念を壊すためには、非常識なアイデアを一旦受け入れることが必要です。

その後で、実現性を高めるアイデアを考えればいいのです。

試しに、ソースが食べ物に円滑に注がれ、ソース差し本体、手、テーブルが汚れない「キレのよい清潔なソース差し」を考えてみてください。

思い込み、先入観、固定概念を壊す方法(その1)

思い込み、先入観、固定概念のことをTRIZでは心理的惰性といいます。

I-TRIZ(Ideation TRIZ)では、心理的惰性を壊す方法としていくつかのツールを用意しています。

最初に、「視点の転換」という方法を紹介します。

目の前にいる人に自分が抱えている問題について説明するとしたら、どのように説明するとわかってもらえるか想像してきてください。

中学生を相手にするつもりで、問題についてわかりやすく説明してください。

職場で使われている専門用語を使わないで一般的な言葉を使ってください。

「視点の転換」では、説明する相手が以下のような人達だと仮定します。
(1) あなたが対象としているシステムに関して何も知らない人
(2) 縄文人
(3) 奇人・変人
(4) 宇宙人

さて、あなたならどのように説明しますか。

もう1つ、「極大・極小オペレータ」という方法を紹介します。

システムが持つ特性のうちのどれか、あるいはいくつかの値が2倍、5倍、10倍、50倍、500倍、または10000倍の規模で増減したら、問題はどのように変化するかを考えます。

たとえば、次のような項目について考えてください。
(1)寸法
(2)作用速度
(3)問題解決に要する費用
・百円で何ができますか?
・一億円で何ができますか?

また、温度、出力/作用力、効率、精度などのシステムの主要な機能に関連する特性値についても同じように考えてみてください。

さらに、特性値の正負が逆転したら、どうなるか考えてみてください。

イノベーションにおける戦略的世代進化(DE)と発明的問題解決(IPS)との違い

1950年代には、様々なシステムの将来特性を今までの進化の延長線上で確率の高い姿にモデリングする技術予測法がありました。しかし、実際には、進化は非線形である(今までの進化の延長線上から外れる)ため、特に長期の予測は外れました。

1970年代には、古典的TRIZ(発明的問題解決の理論)の中の「技術システム進化の法則」を使った次期製品・プロセスの創出方法が使用されました。

1980年代には、古典的TRIZを改良したI-TRIZ(Ideation TRIZ)が進化の結果としてまたは進化のプロセスの中で将来発生する可能性のある有害事象を予測して予防する「不具合予測(FP:Failure Prediction)」という方法論が使用されました。

アイディエーション・インターナショナル社は、1990年の初頭に古典的TRIZの「技術システム進化の法則」や不具合予測(FP)をさらに進化させて、戦略的世代進化(DE:Directed Evolution、以下DEと略記する。)を開発しました。

戦略的世代進化(DE)は、技術システム、非技術システムを問わず、既存の各種システムを積極的に進化させるために可能性のあるシナリオの網羅的なセットを手に入れるためのものです。

企業の立場で考えれば、新規事業開発や新商品・サービスの企画を支援するための方法論といえます。

当初(1990年代)の戦略的世代進化(DE)は、技術、市場および社会の動向の歴史的発達を分析した結果得た技術進化のパターン、市場進化のパターンや社会のトレンドなどを体系化したハンドブックを使用したマニュアルベースの方法論でした。

アイディエーション・インターナショナル社は、2009年に戦略的世代進化(DE)をコンピュータのソフトウェアとして完成させました。

2015年には、アイディエーション・ジャパン株式会社が戦略的世代進化(DE)のソフトウェアの日本語版を完成させる予定です。

従来製品の性能向上、信頼性向上、利便性向上といったいわゆる最適化技術に長けた日本企業は今、韓国、台湾、中国、インドなどの国からの追い上げによる低価格化競争に飲み込まれています。

この低価格化競争から抜け出すには、従来品の最適化を行いつつ、今までにない商品・サービスを日本企業が他国の企業より先に市場へ投入していかなければなりません。

従来の漸進的イノベーションだけでは足りず、急進的イノベーションを起こさなければなりません。

従来歩んできた漸進的イノベーションの進化の旧系統から離れ、新しい進化の系統に飛び移る急進的イノベーションを起こす方法を身に着けなければなりません。

「よりよいものにするために継続的に改善する」といった、相反する特性を高い値で両立させる最適化行為が漸進的イノベーションであるとすれば、「より新しいものにするために根本から変えてしまう」といった、それまでの枠組みを変える革新的行為が急進的イノベーションです。

漸進的イノベーションの実行には発明的問題解決(IPS)で対応できますが、急進的イノベーションの実行には戦略的世代進化(DE)の考え方が必要になります。

急進的イノベーションは、システムの進化を妨げている本質的な矛盾(未だ誰も気づいていない概念的枠組みについての矛盾)を発見して、その矛盾を解決することで未来を先取りすることによって起こします。

本質的な矛盾の正体は、思い込み、先入観、固定概念などといわれるものです。

思い込み、先入観、固定概念を壊すことが急進的イノベーションの重要な要素になります。

論理思考とイメージ思考との関係

前回は、「ひらめき」は無意識の脳の機能であるため、意識的に得ることはできないといいました。

しかし、「ひらめき」が起きやすい環境を整えることはできるともいいました。

その方法は、対象となる問題について論理思考で徹底的に考えること。つまり、もうこれ以上考えられることはないと思えるまで考えること。ここまでは、意識してできることです。

この段階まで来ると意識側からの手立てがなくなり、意識の脳はその働きを停止しますが、常にその問題が気になる状態が作り出されます。すると、自動的に無意識の脳が過去のイメージ記憶の中を問題解決に役立つヒントを走査し始めます。

そして、あるとき突然その解決のヒントがひらめくことになります。しかし、いつひらめくはわかりません。何等かの外部刺激が影響しているはずですが、今すぐひらめかそうとしてもひらめくわけではありません。

実は、人間には意識的な論理思考と無意識の脳の働きの他に、意識的に行えるイメージ思考という思考方法があります。

私たちは、日常的に外部から新しい情報を取り入れて、「コトバにつながっているいつでも思い出せるイメージ記憶:◎」を増やすことを行っています。

そうすることによって、自分の持っている膨大な量の「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」を、「コトバにつながっているいつでも思い出せるイメージ記憶:◎」に変換するようにしています。

そして、「イメージに直結したコトバ記憶:〇」を使って、これとつながっている「コトバにつながっているいつでも思い出せるイメージ記憶:◎」を介することによって、目的とする「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」を引き出すようにします。

そのための手段としては、考えている問題に一見関係のないことをイメージしてみることが効果的です。

その場合のアナロジー(類比)は、身の回りのものや趣味に関係するものの他、うそのない自然界の生物や現象に求めるのがいいとされています。それは、それらにまつわるイメージが豊富だからです。

問題解決に役立つのは、「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」です。

創造技法とか発想法といわれるものは、すべてこの「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」をどのようにして思い出させるかという手法であるといってもいいでしょう。

ブレーンストーミング、ゴードン法、シネクティクス、等価変換理論、NM法、TRIZなども同じです。

そのため、意識しているか意識していないかは別にして、これらはすべてイメージを操作するためのアナロジー(類比)を使っています。