アイディエーション・ジャパンでは、Ideation TRIZの入門セミナーをはじめ、体験セミナー、認定セミナー、ワークショップなどの各種セミナーと、ファシリテーション型コンサルを実施することで、Ideation TRIZ の普及活動とIdeation TRIZを使用した問題解決に挑戦する方々の支援を行っています。
これらのセミナーやコンサルの中で一番多い質問は、「TRIZはすばらしい手法だと思いますが、なぜ普及していないのですか?」というものです。
TRIZは1997年日本で「超発明術」として紹介されました(「超発明術TRIZ シリーズ 1~4」、日経 BP 社発行)。そのため、当初はTRIZを使えば誰でも自動的に発明ができるようになると思い込んだのか、日本の大手企業の多くがTRIZに飛びつきましたが、多くの企業が思うような成果を出せなかったことで、結果として「TRIZは使えない」という誤解を産んだという歴史があります。
日本ではロシア語から日本語に翻訳された発明アルゴリズム「ARIZ」についての解説本が1970年代に出版されていましたが、当時は誰も関心を示しませんでした(「発明発想入門」、G.アルトシューラ著、遠藤敬一、高田孝夫共訳、(株)アグネ発行、1972年5月30日)。したがって、日本のTRIZの歴史は「超発明術」の書籍が発行された1997年または英語版のTRIZソフトウェアが輸入された1996年がスタートとされています。
日本で最初にTRIZの社内への普及に努力した人達(第一世代の人達)は、今は企業を定年退社しています。そして、NPO法人日本TRIZ協会が毎年開催しているTRIZシンポジウムでの発表を聞く限り、それらの方々が現在も引き続きTRIZを実践しているケースは少ないようです。
日本で第一世代の人達が経験したTRIZが普及しなかった理由には、その取り組み方に原因があったように思います。
アルトシューラが確立した古典的TRIZは膨大な体系(公準、心理的惰性の打破、理想解、資源、技術的矛盾、物理的矛盾、物質場分析、小さな賢人、進化の法則、効果集など)であるにもかかわらず、日本では企業側の都合に合わせて、当時は2~3日程度の教育課程が組まれていました。その内容は膨大であって、参加者は消化不良に陥るケースが多かったといえます(諸外国では、古典的TRIZの習得には100~150時間を費やします)。
そのため、当然のことのように、実践的活用を優先する企業では、比較的簡単なアルゴリズムに従って発想のヒントを手に入れてアイデアを創出できる「技術的矛盾マトリックス」を使った「発明原理」によるブレーンストーミングだけを採用して技術的問題を解決する道が選ばれました。いままでの発想法にはなかった、問題の種類によって異なる解決のヒントが示される「技術的矛盾マトリックス」というツールが珍しかったのでしょう。
その結果、革新的な問題解決を可能にするはずのTRIZが、日常的な改善提案を推進する便利な発想ツールになってしまいました。
TRIZが使用されるという意味ではよかったのかもしれませんが、「TRIZは使えない」という考えにつながる原因になってしまったともいえます。
実は、「技術的矛盾マトリックス」を使うには、取り組む問題について「改善する特性」と「悪化する特性」といった対立する2つの異なる特性の組み合わせ(アルトシューラは「39種の改善する特性×39種の悪化する特性」のマトリックス表を提案している)を定義しなければなりませんが、実際にはこの定義が一意に決められない場面に出会います。
それは、問題解決者がその問題をどのように捉えているかによって、対立する2つの異なる特性の組み合わせの内容が変わるからです。解決者が複数いると解決者の数だけ異なった組み合わせができてしまうことがあります。
また、1つの組み合わせが採用されたとしても、その1つの組み合わせから得られる解決のヒントは最大で4種類の「発明原理」に限定されます。
その発明原理も、例えば「入れ子の原理」「複合材料の原理」といったような抽象的な概念でしかないため、具体的に製品に実装できるアイデアを得ることは問題に関連する専門技術に精通している人以外には難しいのが現実でした。
「TRIZが使えない」とされるこれらの問題に対して、日本では、(1)アルトシューラの39×39の「技術的矛盾マトリックス」を簡略化した「簡易版矛盾マトリックス」が提案されたり、(2)「技術的矛盾マトリックス」を使用せずに(問題の状況を吟味せずに)、最初から汎用性の高い「発明原理」だけを使用する方法が試みられました。
前者の場合には、1つの組み合わせから得られる解決のヒントが10種類位に増え、複数の組み合わせが考えられる場合にはその数倍のヒントを検討します。後者の場合には、「8個の発明原理」「12個の発明原理」「16個の発明原理」・・・などが使われました。
これらの解決策が最終的に行き着いた先は、問題の種類にかかわらず40の「発明原理」のすべてを使うという方法です。
現在は、日本ではTRIZの第一世代の人達が活躍されていた時代を知らない第二世代の人達が活躍しているといえます。それなのに、なぜ第二世代になってもTRIZが研究者、技術者の間で普及していないのでしょうか。
それは、40の発明原理の全部を使用しても自分の問題が解決しなかったからでしょう。
なぜ、40の発明原理の全部を使用しても自分の問題が解決しなかったのか?
私の推測ですが、問題が置かれている状況や問題自体の内容をよく考えなかったからではないかと思います。
(1)TRIZなら問題が簡単に解けると思っていた
(2)問題を解決したいという思いが強すぎて、アイデア発想に集中してしまった
この改善策としては、
(1)自分が抱えている問題の状況をよく検討すること
⇒例えばアイディエーション社の「問題状況質問票」の質問に答える
⇒システムアプローチ(多観点分析)を行う
(2)問題の本質を突き止め、問題を解決するための課題を明確にする
⇒問題の状況を明らかにした「因果関係ダイアグラム」を作成する
これら2つのポイントがしっかりと把握されていれば、「発明原理」のような思考のチェックリストのようなものがなくとも、TRIZの基本思想である「理想性の向上」や「資源の活用」の概念を採用することで、自分の専門分野の問題は解決できてしまうことが起きます。
*「問題状況質問票」、「システムアプローチ」、「因果関係ダイアグラム」については、それぞれのキーワードが記載されている本ブログの他の項目を参照してください。