「人間にとっての一般的なニーズの進化」とその利用

I-TRIZには、次世代の商品やサービスを企画したり新規事業の構想案を作成するための戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)という手法があります。
戦略的世代進化(DE)の特徴は、I-TRIZの他の手法と違って社会、市場、組織、経営といった技術以外の分野も対象にしている点です。
たとえば、人間にとっての価値創造といった漠然とした問題を扱う場合には、マーケティングの分野で重要とされているニーズについての検討から始めます。
進化を促す力の中でも最も重要な要素は社会のニーズ(進化を牽引する要因)です。社会のニーズは市場の反応や、影響力のある人物、あるいは、組織の意思表示といった形で表面化します。
文明が進化してきた過程で、ニーズは自然に出現し、現れたニーズは人工システムの進化と同じパターンに沿って変化してきました。
ニーズとそのニーズを充足する手段とは相互に影響を与えて雪崩現象ともいえるプロセスが発生します。たとえば、あるニーズがあることが認識されると、それを充足させる方法を発見することへの関心が高まります。
こうした方法は進化のパターンに従って進化して、それがまたニーズを大きくし、ニーズそのものを進化させます。次には、こうして増大したニーズがそれを充足する手段と、その生産量に影響をあたえる、といった具合です。
またそれとは逆に、ある技術的可能性(たとえば電子による加熱)が発見されると、これを使えば既存のニーズを充足させることができるということが認識されたり、あるいは、新らしいニーズが形成されて、それによって、技術システムが変化し洗練されることに繋がることがあります。
アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化した「マズローの欲求段階説」は有名です。
マズローによれば、人間の基本的欲求を低次から述べると、(1).生理的欲求、(2)安全の欲求、(3)所属と愛の欲求、(4)承認(尊重)の欲求、(5)自己実現の欲求、の順であるという。このマズローの欲求段階説は人のニーズを考える際の基準となります(ウィキペディアの「自己実現理論」の項目より)。
人のニーズが充足されてきた歴史を振り返ると、当初は全く生理的ニーズだけが問題とされていた段階から、やがてより高次のニーズへと一歩一歩進化してきたといえます。
個人の生涯を通じてニーズが変化してゆく過程も歴史的な進化とほぼ同じことが繰り返されます。より高次なニーズが生じるための主な条件は、それより低いレベルのニーズが少なくとも多少は充足されていることです。
(1)生理的ニーズとしては、①食べ物、水、呼吸、身体を動かすこと、休息、性、など、②健康で快適な環境、住居、家具、衣類、など、③感覚的ニーズの充足、新鮮さや感動を感じられること、④身体的、精神的健康、などがあります。
(2)安全(存在)のニーズとしては、①自由、安全の保障、自分自身の行動や仕事を自分で判断できるという感覚。同時に、誰かが自分の心配をしてくれている、助けてもらえる、誰かが責任をとって護ってくれているという感覚、②生きてゆくうえでの安定した条件と将来に対する安心感。自分を取り巻く世界、事象、人々について十分に情報を得ているという感覚、③自分が持っている認識(体系)の中に不調和(明らか矛盾や不一致)が存在しないこと、などがあります。
(3)所属と愛(社会的)ニーズとしては、①家族、友人、他の人々との関係の維持と保護、②何らかのコミュニティー、他の人々との係累に属していること、③権力、高い地位、階層的昇進、義務、順応への願望、④他の人々の面倒を見たい、他の人々に心配されたいという願望、⑤尊敬を受けたい、自尊心を持つ権利、名誉・栄光・著名な人に認められたいという願望、虚栄、見栄、⑥倫理的行為、道徳的規範遵守への願望、があります。
(4)承認(精神的)ニーズとしては、①物見高さ、知的好奇心、学びたい、知識を得たいという願望、②他のニーズを充足させる欲求をやわらげるゲームへの志向、③リスクへの欲求、リスク、抗争、障害の克服を通じた自己確認の欲求、④新規さ、変化、自己改善、世界の改良への願望、⑤自己表現、創造を通じた研鑽への願望、などがあります。
(5)自己実現ニーズとしては、①親しい人びと(子供、親族)、②同じコミュニティーの人びと、宗教的同胞、③人間一般、④文化、科学、芸術、⑤何らか特定の目的、⑥ペット、他の動物、環境保全、などがあります。
以上のようないくつかのニーズは、お互いに矛盾することがあります。どちらのニーズが優先されるかは人の心理や育ってきた文化的環境によって左右されますが、その矛盾を解決することが進化の方向ということになります。
戦略的世代進化(DE)では、「個人におけるニーズの進化」として、基本的なニーズの充足が進む状況(進化の段階)を以下のようにまとめています。
(1)既知のニーズの増大と詳細化
(2)隠れたニーズの表面化(例:身体がビタミンを求める)
(3)従来存在しなかった新しいニーズの発明(例:自然な体臭を消したい)
(4)何らかのニーズの他のニーズによる代償(例:激しい権力欲をスポーツでの勝利への願望によって代償)
(5)教育、成長・老化、地位の変化などに伴うニーズの変化、変容
(6)ニーズの標準的な水準からの変動-しばしば流行や社会における状況変化に伴う
(7)ニーズの充足に関連する正のフィードバック(悪循環)の発生と結果としての過剰消費
(8)ニーズの充足に関連する矛盾の発生と解消(ある一人の個人が持つ異なるニーズの間の矛盾と、異なる人びとのニーズの間の矛盾)
(9)人々あるいは社会に有害なニーズの充足に対する反作用
(10)何らかのニーズの充足に伴う有害な結果を排除する方法の創出
(11)進化の過程における何らかのニーズの消滅
ここで、最後の「ニーズの消滅」についていえば、ニーズの対象がなくなることでその対象に対するニーズが弱まり、いずれは消滅することが考えられます。
たとえば、ある高校生が県大会の出

TRIZの使命と戦略的世代進化(DE)

TRIZが他の発明技法といわれるシネクティクス、等価変換理論、NM法などと違うのは、(1)イノベーションのための知識ベースを有していること、(2)システム進化の法則を活用した未来を制御する手法を有していること、の2点です。
私たちは、組織、会社、国が成功のために未来に備えたいと考えています。
アメリカの社会学者のアルヴィン・トフラーは1980年に「第三の波」という著書で発表した、情報化社会の波は、人類の運命を制御しようとする波です。
人類が自らの未来を制御するという波は、自分たち自身の進化やその環境の進化を制御するというものです。
誰もが自分の未来を支配する者になりたいと望んでいるし、あらゆる会社が将来の成功を保証することを必要としており、すべての国が成功、安定、安全を欲しています。未来を制御することは普遍的な必要性といえます。
技術の進化は、一方では、技術的な進展が人類のパワーを高めるので、自然や慣らされていない要素による危険性を減らしますが、他方では、人類自体の中での危険性を高めます。
技術が多くの知識や発明を蓄積すればするほど、新しい知識や発明の現れるペースが速くなります。制御されていない肯定的なフィードバックを伴うプロセスが、常にそのプロセスの存在するシステムを不安定にさせ、やがては、そのシステムの枯渇、悪化、または完全な崩壊をもたらすというのが一般的な認識です。
この危険な進化を止めようとするのは意味のないことです。長い歴史の中で進歩を止めることができた者などいません。進化は止めてはなりません。進化は制御し、方向づけるべきなのです。それが、I-TRIZの基本的な考えになっています。
TRIZは人類の歴史において進化の制御を可能にした最初の手段といえます。これは、I-TRIZの中の戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)と名付けられたTRIZベースのアプローチを通して実現されます。