問題発見、問題解決と因果関係

鉛筆が机から落ちて芯が折れてしまうのは困りものです。これは問題だと思いますが、なぜ机から鉛筆が落ちるのでしょうか?
それは、「鉛筆は転び易い」からだとわかります。 なぜ、転び易いのでしょうか?机が傾いているわけではありません。 それは、使っている「鉛筆の断面が丸い」からです。 ここまでくると、鉛筆の断面の形状を変えれば転び難くなるのではないかという考えが生まれます。
問題となっている結果、つまり、好ましくない結果の原因を見つけるには、「なぜ、その結果が生まれたのか?」という質問に対する回答を考えればよいといわれます。 「なぜ」という言葉が、原因を見つけるためのキーワードということです。
鉛筆の断面の形状を変えれば転び難くなるのではないかという考えが生まれたら、たとえば、鉛筆の断面を三角形ないし八角形といった多角形にすればよい(「断面を多角形にする」)というアイデアが浮かびます。
このようなアイデアなら多くの人が思いつくはずです。 そこで、人と違ったアイデアが欲しい場合にどうするか。 その場合には、今の問題にしている「鉛筆を転び難くする」のは、何のためなのかを考えてみます。
すると、それは「鉛筆が机から落ちないようにする」ためであるとわかります。 それならば、使い終わった鉛筆を入れ物に入れてしまってもいいし(「ペンスタンドにさす」、「ペンケースに入れる」など)、鉛筆の本体にころがり摩擦の大きな素材で作った「グリップをはめる」ようにしてもいい、といったアイデアが浮かぶでしょう。
「鉛筆は転がってもいい」。「鉛筆が机から落ちなければいい」というように、ひねった考えをしても面白いでしょう。 すると、芯の先端から芯の根本側に向かって鉛筆の本体を徐々に太くするといったアイデアが出たりします。
なぜなら、その鉛筆は、置いた場所で鉛筆の長さに等しい大きさの円を描いて回転するだけで、机からは落ちないと考えられるからです。 原因と結果の因果関係はもちろん、目的と手段の関係も、目的を結果と捉えて手段を原因と捉えれば因果関係であるといえます。
問題発見も問題解決も、実は因果関係を突き詰めることが重要であるといえます。

原因結果系統図と問題解決

「原因結果系統図」とは、物事の原因と結果との関係を体系化した図です。 たとえば、ハードウェアに関する問題であれば、その問題を結果として捉え、その結果はどのような自然法則(因果関係=仕組み、機構)が働いたかを確かめれば、その原因がわかります。
原因→仕組み、機構(自然法則)→結果 結果(問題)に対して「なぜ」という質問をすれば、結果(問題)が具体化された原因がわかります。 原因を上に、結果を下に書くようにすれば、「原因結果系統図」の頂点には現状の結果が位置します。
頂点の結果(問題)から下がっていくと、より具体的個別的な原因が現れ、底辺にはそれ以上説明を必要としない、自然法則が位置します(「創造性を高めるアイデア発想の技術」、さとう秀徳著、日本実業出版社発行)。
対象となるテーマから「どうなる」という言葉を発しながら上にあがると(抽象化すると)上位の結果(問題)が次々と現れ、ついには現状の結果である頂点に至ります。 対象とするテーマから上がっていくと、次々と上位の結果が現れ、ついには頂点に位置する現状の結果に至ります。
結果か原因かとは相対的なものであり、どの概念も結果といえども原因であり、原因といえど結果であるといえます。
問題を解決するためには、その問題自体をはっきりと認識するとともに、問題の状況を作り出している自然法則(仕組み、機構)に沿った因果関係を把握して、問題が生じている原因を突き止め、その原因を取り除く努力をすることになります。

特性要因図と因果関係ダイヤグラムとの違い

QC(Quality Control)活動で使われている問題解決法は、不具合を生じているのはどこに原因があるのか、細部に分けて調べ、悪い部分を改善していこうという分析思考を中心としたものです。
全体を細かい要素に分け、1つひとつを検討し、悪い部分を置き換えるというアプローチを採用しています(「こんなにやさしいアイデア発想法」、杉浦正他著、(株)日科技連出版社発行)。
これは明らかに因果関係の法則を利用した手法であるといえます。たとえば、1つの問題の特性について因果関係をたどっていき、最終的にはいわゆる「魚の骨」のように多数の原因に枝分かれした「特性要因図」が作成されます。
ただし、「特性要因図」の場合には、各大枝の要因に関連する中枝の要因や小枝の要にどのようなものがあるかはわかりますが、異なる大枝、中枝、小枝間の要因同士の関係はまったくわかりません。 そのため、その問題を解決するには、多数の原因の1つひとつを排除していく改善策を考えます。
現実的には時間と労力に限りがありますので、全体の結果の8割が、たかだか2割の原因によって生じているという「パレートの法則」に従い、重要度が高いと思われる主要な要因を2つ、3つ選んで手を打つことになります。
1つの特性(状態)は複数の要因(原因)の影響を受けているといった内容が表現がされていますが、中枝や小枝同士の関係がわかりませんので、どの要因(原因)に手を加えればよいかの判断が難しいといえます。
特性要因図が因果関係を表している点では、I-TRIZのプロブレム・フォーミュレータで描く因果関係ダイヤグラムと同じです。 特性要因図では、同じ系統または/および異なる系統の大枝、中枝、小枝間の要因同士は接続されることがありませんが、プロブレム・フォーミュレータの因果関係ダイヤグラムでは、データ間に原因と結果の関係にあれば異なる系統(機能群、部品群)の間のものであっても、原因から結果に向かう矢印で接続します。
そのため、問題のメカニズムが明確になり、不具合である結果から矢印を逆方向に辿ることで、その根本原因が何なのかがを知ることができます。 したがって、因果関係ダイヤグラムを使用すれば、パレートの法則に頼ることなく直接根本原因を取り除くための対策を検討することができます。

問題分析のための図解ツール

「問題は、その状況が明確になれば解決できたものと同然である。」といわれるように、問題解決に先立ち、問題の状況を分析し、問題を正しく定義して、取り組むべき具体的な課題を明確にすることが重要になります。
問題の状況を「見える化」するための方法は、従来からいろいろな図解ツールが考えられており、そのための解説書がたくさん発行されています。ここでは、その中で「因果縁報」を表現できる「因果関係ダイヤグラム」を紹介し、その使い方を実例に沿って説明したいと思います。
ここでいう「因果縁報」を表現できる「因果関係ダイヤグラム」とは、I-TRIZ(Ideation TRIZ)の「原因結果ダイヤグラム」とTOC(Theory of Constraints:制約条件理論)の「論理ツリー」であり、いずれも比較的最近になって考え出されたものです。
I-TRIZの「原因結果ダイヤグラム」は、米国のアイデイエーション・インターナショナル社(Ideation International Inc.、以下II社という。)が開発したイノベーション・ワークベンチ(IWB:Innovation WorkBench)およびプロブレム・フォーミュレータ(PF:Problem Formulator)というソフトウェアで使われている図解ツールです。
イノベーション・ワークベンチ(IWB)のソフトウェアの日本語版(2.9J)が学校法人産業能率大学から販売されたのが2000年です。 TOCの「論理ツリー」は、TOCの創始者であるエリヤフ・ゴールドラットの著作による「ザ・ゴール2」という小説の中で、思考プロセスという手法のツールとして紹介されたのが最初ですので、日本では2002年に公開されたものです。