進化の過程の何らかの段階で、新しい資源や新しい考え方を用いることによって、システムはそれまでの自然な制約を逃れることができます。様々な制約を逃れる可能性は、同じ目標を達成する別の方法を選択するところに出現します。
他と異なる方法を考えることで、通常以下のような効果を伴います。
(1)システムそれ自身と、システムの操作法の劇的な単純化。
(2)システム、生産プロセス、技術、使用法、量産方法などの標準化。
(3)システムの機能メカニズムの効率向上。
(3)Sカーブの進化段階3(成熟期)に進まずに進化段階2(成長期)にとどまり続けること。
しかし、TRIZの観点から見ると、もう1つの本質的な制約があります。それは、ある機能を実現するあらゆる方法が尽きてしまうことです。
どの1つの機能をとってみても、その機能を実現する方法(それぞれが、既知のあらゆる資源と、資源の組合せを使用することに基づく他と基本的に異なる1つの方法です)の数は有限です。
したがって、事前に資源の標準的なリストを持っていれば、それに基づいて、ある機能を実現する上で実用的な方法をすべて確認することができます。
比較的にそれほど複雑でない量産システムを使い、多くの専門家と多数の競合企業が存在する旧来の技術分野は、その技術を進化させる上で使用できる資源をほとんど使い尽くしてしまう状況に直面する可能性があります。
そうなるまでの期間は、多くの技術分野でおよそ20~50年と考えられています。より複雑で生産量の少ないシステムでは、世代の移行は改良をもたらすあらゆる方法が使い尽くされるよりもはるかに早い段階で生じます。これらのことから、次の結論が得られます。
まだ解決されていないまったく新しい問題があった場合、TRIZを用いることによってその問題を解決できるという保証はありませんが、その課題を解決する方法が1つでもある場合には、同じ課題を達成する別の方法を複数発見し、それを実現する解決策を得ることは可能です。
未知なものを含めてある機能を実現するすべての現実的な可能性を明らかにすることによって、その機能を実現する精度と効率を改良し、進化戦略の失敗を回避することができます。
資源を詳細に分析することによって、次の2つの可能性が生まれます。
(1)独立した特許であれば、基本的にどのようなものでも回避する方法を発見することができます(後発企業の戦略)。
(2)特定の産業分野あるいは市場では、回避することのできないパテントフェンスを構築して、これを持った企業の独占を確立する(先発企業の戦略)。
TRIZは原理的に可能な限界を超えた解決策を生み出すことはできません。しかし、一定の時間の枠内で、現実的に可能な解決策を網羅的に発見することができます。
ここでいう網羅的とは、完全な網羅ということではなく、現実的な範囲で網羅的ということを意味します。これは、以下の3つの可能性が完全な網羅を不可能にするためです。
(1)余りにも高価だ、あるいは危険だなどの理由で、以前は考えられなかった新しい資源が使われるようになることがあります。例えば、ロケットのエンジンを通常の自動車に搭載するような例です。
(2)以前には知られていなかった資源(利用可能な資源のリストに含まれていない)が使われるようになることがあります。ただし、利用可能な資源のリストは何百万という過去の発明の膨大な統計と分析に基づいて作られたものですから、この可能性はごく小さいといえます。
(3)新しい発見によってシステムを進化させる新しいシステムが生まれることがあります。例えば、反重力法の自動車への導入のようなケースです。現代の科学の急速な発展がこうした事態をもたらす可能性があります。ただし、現実には科学的な発見からそれが、現実に何らかの物を作るために使われ始めるまでには、現在でも大きな時間差(数十年)があることを考慮する必要が有ります。