Ideation TRIZの基本的なソフトウェアはIWB(Innovation WorkBench®)ですが、Ideation TRIZの集大成ともいえるソフトウェアはDE(Directed Evolution®)というものになります。
DEでは、次世代の商品やサービスを開発するような場合に有効な「進化パターン、ライン」といったツールを使用します。DEには、(1)進化の諸段階、(2)理想性の向上、(3)要素の不均衡進化(矛盾)、(4)柔軟性と制御性の増加、(5)複雑化後簡素化、(6)要素間の対応と非対応、(7)ミクロ化と階層化、(8)人の関与の減少、という8種類の進化パターンについて説明がされています。
「進化パターン」のほとんどについて、そのパターンに沿ってシステムが変化していく中で順次経過していく典型的な段階を示す「進化ライン」を認めることができ、DEのソフトウェアでは、約250種類の進化ラインについての解説があります。
「人の関与の減少」という進化パターンの中には、「人工システムへの関与が減少する過程における知的要素の排除」というタイトルの進化ラインがあります。
この進化ラインを使って、TRIZを技術開発に活用する場合の進め方を考えてみましょう。
一昔前(日本のTRIZ導入の第一世代)には、日本でもトップダウン方式でTRIZを導入していた会社がいくつもありましたが、今ではその陰もありません。
皆さんの会社でも各事業部単位でバラバラにTRIZを導入していることでしょう。毎年NPO法人日本TRIZ協会開催しているTRIZシンポジウムでも、ボトムアップ方式で導入して実務問題にTRIZを適用した事例発表がほとんどです。
「人工システムへの関与が減少する過程における知的要素の排除」という進化ラインでは、
(1)ある機能を、創造的で才能のある専門家が担当する、(2)同じ機能を、訓練を受けた専門家が担当する、(3)同じ機能を、訓練を受けていない人が担当する、(4)同じ機能を、人が専用機を操作して実現する、(5)同じ機能を、人が汎用機を操作して実現する、(6)同じ機能を、自動機械が担当する、という順番で進展するといいます。
TRIZを社内に導入する場合には、まず、(1)TRIZの機能を、創造的で才能のある専門家が活用する、ということです。これは、外部のTRIZコンサルタントが企業の依頼を受けてTRIZで新規事業の企画や既存技術についての問題を解決する段階です。日本では、このようなニーズはほとんどありません。
次に、(2)TRIZの機能を、訓練を受けた専門家が活用する、ということです。これは、外部のTRIZコンサルタントの指導を受けて企業内のTRIZに興味を持つ研究者、技術者がTRIZを実務問題に使用する段階です。日本では、このようなケースが一番多いといえます。
次に、(3)TRIZの機能を、訓練を受けていない人が活用する、ということです。これは、企業内のTRIZに興味を持つ研究者、技術者が市販のTRIZのテキストを使ってTRIZを知らない研究者、技術者に教えながら(自分達も勉強しながら)実務問題に使用する段階です。ただし、市販されているTRIZのテキストは膨大な体系を持っているTRIZの一部(技術的矛盾や発明原理など)を紹介したものがほとんどですので、実務問題に取り組むには非力なため、うまくいかないことが多いといえます。
次に、(4)TRIZの機能を、人が専用機を操作して実現する、という段階です。これは、TRIZの専用ソフト(IWB(Innovation WorkBench®)やDE(Directed Evolution®)といったソフトウェア)を使用して、企業内のTRIZ専門家が自分で問題解決をしたり、現場の研究者、技術者の問題解決の支援をする段階です。
次に、(5)TRIZの機能を、人が汎用機を操作して実現する、という段階です。これは、現場の研究者、技術者が(IWB-LiteやProblem Formulatorといったソフトウェア)を使用して、現場の研究者、技術者が実務問題を自分で解決する段階です。
最後は、(6)TRIZの機能を、自動機械が利用する、という段階です。これは、たとえば、コンピュータがディープラーニング(深層学習)の技術を駆使し、TRIZのアルゴリズムやデータベースを使って問題の解決策を自動生成するといったイメージでしょうか。
ボトムアップ方式でTRIZを社内に導入しようという場合には、今、進化ラインのどの段階にいるかを確認してから、次の段階へ進むことをお勧めします。手軽だという理由で、(1)、(2)を飛ばして、(3)段階から始める方が多いと思いますが、おそらくうまくいかないと思います。TRIZはそれほど簡単な方法論ではありません。
通常の実務問題を解くのであれば、専門知識と経験による従来の方法を採用した方がよいでしょう。TRIZは従来の方法では歯が立たないとか、イノベーションを起こすような企画案を出さなければならないといったときに、TRIZの基本思想を理解した上で、ステップ・バイ・ステップでしっかりとした手順を踏んで使用すべきものです。