TRIZの取り組み(TRIZの小史)

アルトシュラーが1946年にTRIZの研究を始めたとき、彼は「技術的矛盾」を解決することが発明的な解決策を思いつくための鍵であると考えていました。 1956年にTRIZの最初の論文が発表され、「理想性」、「システム・オペレータ」、「技術システムの完全性の法則」の概念が発表されました。
1963年には、発明的な問題解決のためのアルゴリズムとしての「ARIZ」の考え方が発表されました。 1971年には、「40の発明原理」からなる「コントラディクションテーブル(技術的矛盾マトリックス)」を含んだARIZ-71が発表されました。 1975年には、「物質-場分析」と「標準解」が発表されました。
また、「技術進化のパターン」に関するアルトシュラーの最初の論文が発表されました。さらに、ARIZ-75Bでは理想的な技術的解決策を見つけるためには、「コントラディクションテーブル(技術的矛盾マトリックス)」では不十分であるとし、ARIZの本文から除外しました。そして、発明的問題解決のすべての操作は、「物理的矛盾」を定式化し、それを解消することであるとしました。
1982年には、ARIZ-82で「X-要素」、「最小問題」などの概念が導入され、「40の発明原理」と「コントラディクションテーブル(技術的矛盾マトリックス)」はARIZから完全に削除されました。アルトシュラーは、標準的な発明問題は「発明標準解」で解決できるとし、標準的でない(より高度な)発明問題を解決するためにARIZを使用するとしました。
1985年には、公式バージョンとしては最新のARIZ-85Cが発表されました。ARIZ-85Cでは、「技術システムの進化の法則」の構造に応じて5つのクラスに組織化された「76の発明標準解」が含まれています。
以上が、アルトシュラーが第一線で活躍した時代のTRIZの小史です(参考文献:(1)「TRIZの歴史の概要」、Valeri Souchkov著、中川徹訳、TRIZホームページ掲載、(2)「TRIZの発展」、アイディエーション・リサーチ・グループ編、(学)産業能率大学TRIZセンター内部資料)。
以上のように、少なくとも1985年まではTRIZとARIZはほとんど同義語として使われ、ARIZがTRIZのさまざまな技法を一緒に用いるように組織化されていました。 しかしながら、現在では、いくつかのTRIZ技法がしばしば独立して使われることになっています。この点に関しては、別途意見を述べることにします。

複数の手法を組み合わせて使用する

世の中には問題解決に関するたくさんの手法が公開されています。しかし、唯一の手法でどんな種類の問題にも対応できるものはありません。 親和図法は具体的なたくさんのデータに基づいて、それらのデータから一般的な概念を発見する手法として有効ですが、それらのデータから新しい発明をしようとしても無理です。
特定の課題を実現するための新しい発明を創出する発明技法としは、中山正和氏のNM法が知られています。 革新的な発明とはいわないまでも、技術の分野では、生産現場の改善活動に使用されるQC(品質管理)、コストダウンを目的とした改善活動に使用されるVE(価値工学)、顧客の要求を製品の仕様に落とし込むために使用されるQFD(品質機能展開)といった手法が使用されています。
QC,VE,QFDはそれぞれの分野で実際に有効に使用されている手法ですが、残念ながらそれらの問題を解決するためのアイデアを創出する方法論を持っていません。 それらはアイデア創出法として、ブレーンストーミングを使用することを推奨しているだけであり、アイデア発想段階での力不足が問題であるといえます。
そのため、最近になって、QC,VE,QFDではアイデア発想段階でTRIZ(発明的問題解決理論)を使用することが行われています。 このように、問題の種類によって複数の手法を使い分けること自体はよいことです。
しかし、TRIZ自体は膨大な体系からなる理論と方法論を持ったものであり、その一部だけを取り出して使用した場合、その機能が十分に発揮されないで終わってしまうことが考えられます。 ある手法(モデル)の部分的な使用に当たっては、その手法の有効性を損なうような中途半端な使い方にならないように注意すべきです。
たとえば、NM法では、具体的には問題の種類によって、またはその取り組みの段階の違いによって、NM法T型、NM法A型、NM法S型、NM法H型といった複数の手法を使い分けるようになっています。
問題解決に役立つ解決策を出す前にたくさんのヒントを得る際には、高橋浩氏が提案された展開思考を主とするNM法T(Takahashi)型を使用します。 物の発明を考える場合には、構造といった問題を取り扱うため、ヒントやアイデアを空間的に組み合わせていく、収束思考のためのNM法A(Area)型を使用します。
方法の発明を考える場合には、手順や工程といった問題を取り扱うため、ヒントやアイデアを時間的に組み合わせていく、収束思考のためのNM法S(Serial)型を使用します。 また、物の発明の場合には、使えそうなヒントを手に入れたら一気に解決策まで仕上げてしまう方が効率的な場合が多いことから、NM法T型+NM法A型を組み合わせたNM法H(Hardware)型を使用します。
そこで、QC,VE,QFDのアイデア発想段階にNM法の一部を使用するとすれば、問題解決の初期のヒント出しにNM法T型を使用することが考えられるでしょう。 (補足)TRIZの部分的な使用については、次回に説明します。

コスト・コントロールについて

フォードモーターは車の組み立てをコンベア方式へとシフトさせ、大幅なコスト削減と信頼性の向上をもたらしました。マクドナルドは大量生産で価格を下げ、同時に品質を保証しました。
これらは、コスト・コントロールの典型といえます。 一般的な常識では、品質を上げればコストが上がり、コストを下げれば品質が下がると考えられています。品質とコストとは矛盾の関係にあるというのが一般の常識です。
I-TRIZは矛盾を解決する方法論ですので、品質とコストの問題もスマートに解決することを考えます。 I-TRIZでは、品質を上げて、コストを下げることを考えます。あるいは、コストを下げて品質を上げることを考えます。
このように、品質とコストとの矛盾を解決することをコスト・コントロールといいます。 品質(信頼性)の向上のためには、そのシステムの有害機能を排除、軽減し、有益機能を改良することを考えます。
コストは有害機能の一要素と考え、それを排除、軽減することを考えます。 コスト削減と品質改善を同時に目指すことは、製品・プロセスの改善であるからI-TRIZの中の発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)で対応します。
品質の悪化、不具合、望ましくない出来事などの原因の決定、排除、予防は、不具合分析(FA:Failure Analysis)で対応します。 潜在的な品質の改善および/または悪化の予測および品質の低下に関係した潜在的問題の解決は、不具合予測(FP:Failure Prediction)で対応します。
I-TRIZでは、コスト削減と品質改善のために、発明的問題解決、不具合分析、不具合予測を適用するために以下の5つのオペレータを使用します。 製品・プロセスの新世代を開発する必要がある場合は、「新しいシステムの合成」というオペレータを使用します。 ある主要機能を改善する場合は、「機能を遂行するための条件の修正」というオペレータを使用します。
システムを簡素化すべき場合は、「機能的理想性の簡素化」というオペレータを使用します。 システムの部品または単純な組立品を簡素化する場合は、「要素の理想化」というオペレータを使用します。
システムの有効性を改善し、コストを削減する場合は、「利用できる資源の利用」というオペレータを使用します。 それぞれのオペレータを適用する場合のより詳細な内容については、次回以降に説明することにします。

やかんと湯沸かし保温ポットが消えた日

やかんに水を入れてガスコンロでお湯を沸かします。沸かしたお湯は、保温ポットに入れて飲みたいときに保温ポットからお湯を取り出して使います。 今は湯沸かし保温ポットがあるので、ポットに入れてから時間がたっても大丈夫です。
ポットの中のお湯が冷めてきたら自動的に再沸騰するので、いつでも熱いお湯が使えます。 ある日、湯沸かし保温ポットにお湯を入れ終わったやかんにお湯が少し残ってしまったので、やかんをテーブルの上の鍋敷きに乗せました。
すると、鍋敷きからお湯が滴り落ちているのに気づきました。使い込んだやかんだったため、いつの間にか、やかんの底に孔が明いてしまっていたのです。 それから少し立って、今度は湯沸かし保温ポットの手押しポンプが壊れたようで、お湯が少しずつしか出てきません。 悪いことは重なるようです。
仕方なく、やかんと湯沸かし保温ポットを買いに行くことにしました。 家電量販店に行ってから気づいたことがあります。一人分のお湯を沸かすのであれば、一度に使用する量は0.5~1リットル程度で十分です。
要は、お湯を沸かすのにかかる時間と沸かしたお湯を使用するまでにかかる時間をどう考えるかです。 実は、一人暮らしの人に聞いたところ、電気ケトルを使っているということでした。 その人は、電気ケトルでお湯を沸かす場合と、やかんをガスコンロにかけてお湯を沸かす場合とを比較したといいます。
それによると、1リットルの水を沸騰させるのにかかる時間は、電気ケトルとガスコンロとでほぼ同じだったといいます。 湯沸かし保温ポットの場合は、その都度お湯を沸かす時間がいらないため便利なのですが、保温時に約40W~50W程度の消費電力が必要になるということです(お湯が冷めたら自動的に再沸騰させる機能もある)。
インターネットで検索した結果によれば、0.5リットルの水を沸騰させるのに、電気ケトルで加熱した場合の光熱費は1.2円、ガスコンロで加熱した場合の光熱費は0.9円(東京近郊の都市ガスの場合)というデータが公開されていました。
ただし、やかんのお湯が沸騰したことを知ってからガスコンロの火を止めるまでの間、やかんのお湯が沸騰状態のままガスコンロの火を放置してしまうため、その間のガスが無駄になります。また、ガスコンロを使用した場合は、換気扇やレンジフードを運転させる必要がありますので、その分の電気代がかかることを考えると、実質的な光熱費はほぼ同じと考えていいのではないでしょうか。
留守の時間帯と夜間は「湯沸かし保温ポット」の電源を切りますが、朝起きたときと外出先から帰宅したときに電源を入れて在宅中は電源を入れたままです。いつでも適温のお湯が飲めるといった便利さでいえば「湯沸かし保温ポット」がいいのですが、常時適温で保温しておくために余分な電気を使うことになります。
電気ケトルの容量は0.5~1リットルのものが多いようです。これは、一人分の湯量として適当であるとともに、片手で持てる重さでもあります。 水を入れて沸騰するまでに1~3分ぐらいかかりますが、待っていられない程の時間ではありません。お湯が沸騰すると自動的に電源が切れますので、無駄な電気を使用することもありません。
電気ケトルは、やかんと違ってそのままテーブルに置いておいても、違和感はありません。昔の電気ケトルは電熱器の上にステンレス製のケトルを直接乗せるようなものでしたが、今は保温機能を備えたおしゃれなデザインのものがいろいろ選べます。 電気ケトルは、湯沸かし保温ポットの半分ほどの値段です。
電気ケトルがあれば、やかんはいりません。一人暮らしでは、湯沸かし保温ポットで常時適温のお湯を保温しておく程の湯量(2~3リットル)も必要ありません。 やかんと湯沸かし保温ポットを買いに行ったのですが、電気ケトルを1つ購入しただけで用が足りてしまいました。
「やかん+ガスコンロ」と「湯沸かし保温ポット」を使っていた生活は、初期投資も少なく、ランニングコストも少ない「電気ケトル」を使う生活に変わりました。 旧型の電気ケトルが見直されて、新型の電気ケトル(進化形)が売れている理由を実感した1日でした。