標準問題のオペレータ

TRIZでは膨大な特許資料を分析した結果に基づいて、技術的な問題を「標準的な問題」と「標準的でない問題」との2つのグループに大きく区分することにしました。

 

そのうち「標準的な問題」は、問題を解決するためにはシステムをどのように変化さなくてはならないかというアプローチで、技術システム進化のパターンを踏まえたルールを使って、1段階あるいは2段階の考察ステップによって解決策を発見することができます。

 

このルールは「発明問題解決の標準」と名づけられました。日本ではこれを一般的に「標準解」と呼んでいます。

 

「標準解」を適用するためには、まず、ある具体的な問題が「標準的な問題」のどのタイプに該当するのか判定する必要があります。そのために、問題のタイプを特定するために物質場分析というモデル化作業を行います。

 

物質場分析によるモデル化の要点は問題の焦点を(1)作用を与える物質要素(ツール)、(2)作用を受ける物質要素(ワーク)、(3)そこで働いている作用(エネルギーの場)の3つの基本要素間の相互作用として捉えることです。物資場分析と呼ばれるのはこのためです。

 

問題を解決するためには問題が発生しているシステムが作っている物質場を変化させる必要があります。

 

どのように変化させるかについてのルールは問題のタイプによって決まります。つまり、「標準解」はあるタイプの問題を解決するためには、システムをどのように変化させたら良いのかという「ヒント」をモデルの形で示唆しているのです。

 

実際に問題を解決するためには「標準解」が示唆する内容を実際のシステムにどのように具体化するか考察する必要があります。

 

TRIZの歴史をたどると、現在「標準解」と呼ばれているルールの起源は、さらに古いTRIZの手法である「発明原理」と様々な「工学的効果」との組み合わせのなかで特に効果的なものを抜き出したものでした。

 

こうした組み合わせが、その後、進化のパターンに沿って技術システムを変形させるルールと一体化されて1975年に「標準解」の体系となりました。

 

取り組むべき問題を「標準的な問題」の1つとみなすことができれば、Ideation TRIZのナレッジベースを直接適用することが可能です。

 

Ideation TRIZ の代表的なIWB(Innovation WorkBench)ソフトウェアには、Ideation プロセスの最初の「問題の情報把握」の段階に記載してある「状況の要約」という項目をクリックすると、「標準問題」のオペレータが掲載されています。

 

「標準問題」のオペレータとしては、(1)生産性を改善する、(2)利便性を改善する、(3)信頼性の向上、(4)機械的強度を改善する、(5)製造精度を改善する、(6)コストを低減する、(7)単純化、(8)重量を軽減する、(9)エネルギー消費を低減させる、(10)浪費時間を減少させる、(11)機能効率を向上させる、(12)変形、ずれ、衝撃、振動、破壊を抑制する、(13)騒音を低減させる、(14)摩耗を低減させる、(15)汚染を軽減する、(16)過熱を回避する、(17)環境との相互作用を減少させる、といったタイトルが用意されています。

 

「標準問題」のオペレータの使用に際しては、これらのタイトルから課題のありかたに類似性のある項目を選択し、適合性のあるリンクをたどっていくと、対応するオペレータの詳細内容を知ることができます。

技術システムと社会的システムの理想性の向上

技術システムは 理想性の向上する方向に進化します。ここでいう理想性は、システムの有益な諸特性の合計を有害な(望ましくない)諸要因の合計で割った値と定義されます。

 

したがって、理想性の向上は、システムの有益な特性の増化・改善、有害な要因の減少・軽減、あるいは、これら両方によって生じます。

 

理想性を徐々に向上させる一般的なアプローチは、以下のとおりです。

 

1.有益な機能や特性の数を増やす

たとえば、(1)対象としているシステムの周辺の他のシステムやシステムの 環境が持っている有益な機能をシステムに取り入れる、(2)新たな有益機能を発明してシステムに付け加える。

2.有益機能の質(あるいは、他の性能)を改良する

3.システムの有害な要因の数を減らす。

たとえば、(1)有害な要因を排除・回避する、(2)有害な作用をそこならば有害な影響が軽減される他のシステムや システムの他の部分に振り向ける、(3)有害な要因を有益に活用する方法を発見する。

4.有害さの程度を軽減する

5.確実に理想性を向上させるために以上を複数組み合わせて実現する

 

理想性の向上は、「技術システム」だけでなく「社会的システム」でも生じますが、それぞれに固有の特徴があります。

 

技術システムの有益機能の改良の着眼点としては、a.機能の効果、b.信頼性、c.動作のスピード、d.機械的強度、e.組成の安定、f.利便性、g.生産性・生産力、h.加工精度、i.配合精度、j.形状、k.汎用性、l.制御性、m.順応性、といったものが考えられます。

 

技術システムの望ましくない要因の排除・軽減・防止の着眼点としては、a.重量、b.全体寸法、c.エネルギー消費、d.複雑さ、e.エネルギーの無駄、f.時間の無駄、g.コスト、h.変形、衝撃、振動、破壊、i.機械的障害、j.磨耗、k.騒音、l.汚染・混入、m.過熱(オーバーヒート)、n.有害な付着、o.発火・爆発、p.環境への悪影響、q.人の危険な行為、r.両立させられない有益作用、といったものが考えられます。

 

社会的システムの有益機能の改良の着眼点としては、a.安全、b.安定、c.自由と人権、d.人間の基本的ニーズの充足、e.情報へのアクセス、f.生活の質、g.人の寿命、といったものが考えられます。

 

社会的システムの望ましくない要因の排除・軽減・防止の着眼点としては、a.社会・経済・政治問題、危機(誘発されたものも、自律的なものも)、b.軍事、犯罪、テロによる危険、c.政治的専制による危険、d.経営、組織内政治、物流、競合、官僚主義にかかわる諸問題、e.誤ったあるいは不正確な情報、および、宣伝や政治その他の手段による大衆操作に関連する諸問題、f.環境および人口学的諸問題、g.人と人との交流に関連する諸問題、h.身体的および精神的健康にかかわる諸問題、といったものが考えられます。

発明活動における情報処理パターンと創造技法

「創造とは、既存の要素を有機的に組み合わせることで、ある目的を達成することができる新しい手段を得ることである。」と定義すると、創造的な問題解決には、(1)問題を発見すること、(2)その問題を解決するためのアイデアを出すこと、(3)そのアイデアを具体化すること、(4)その結果得られた具体案を分析・評価し、成果を確認すること、といった工程が必要と考えられます。

 

発明活動も創造活動の1つですから、当然前記(1)~(4)の各工程をたどると見ることができます。この意味で、発明活動を効果的に進めるための「発明技法」といった観点から、特に有効と思われる創造技法を各工程に位置付けると「発明活動における情報処理パターン」なる発明思考の手順を示すフローチャートが出来上がります。

 

「発明活動における情報処理パターン」の基本形は、市川亀久彌氏の等価変換フローチャート(「創造工学」、市川亀久彌著、(株)ラテイス社発行)を採用させていただきました。加えて、中山正和氏のHBCモデルおよびNM法(「NM法のすべて」、中山正和著、産業能率大学出版部発行)の各パターンとの対応関係を表したものです。

 

「発明活動における情報処理パターン」では、自発的(能動的)にスタートする場合には、その問題に関する欠点を抽出する「欠点列挙法」、希望することを列挙する「希望点列挙法」、川喜田二郎氏の「KJ法」(「KJ法-渾沌をして語らしめる」、川喜田二郎著、中央公論社発行)などを使用することが有効としています。

 

自発的(能動的)にスタートする場合には、願望や不満感といった問題解決の欲求はイメージとして現れますので、イメージ情報が主として保存されている右脳が働き出します。

 

また、上司から問題が与えられたように受動的にスタートする場合には、「発明活動における情報処理パターン」では、江崎通彦氏「KWの方法」(「デザイン・ツー・コストの新しい考え方とその手順」、江崎通彦著、産業能率大学出版部発行)を使用して、その問題を自分が理解できた問題として捉えることを薦めています。

 

ゴードン氏の「シネクティクス」(「シネクティクス」、W.J.J.ゴードン著、大鹿譲・金野正共訳、(株)ラテイス社発行)では、このことを「与えられた問題を理解された問題へ変換する」と表現しています。

 

受動的にスタートする場合には、問題は言葉で与えられますので、コトバ情報が主として保存されている左脳が働き出します。

 

問題が理解されたら、主として右脳に記憶されているイメージを走査してキーワード群(ΣKW)から1つのキーワード「KW」を選択して言葉で表現します。これにより、問題解決の方向づけができたことになります。

 

問題を解決するアイデアを出す方法には、その難易度により3つのタイプが考えられます。

 

1つは、求められる働きが何であるかを追求し、その機能を果たすことのできる方法や装置を考えていく方法で、「機能・装置開発型」とでもいえるものです。

 

2つには、ある働きを持った材料、装置または方法をいろいろな分野に利用できないかと考えていく方法で、「用途開発型」とでもいえるものです。

 

3つには、既存の装置や方法の欠点を見つけて、それを改良するための手段を考えていく方法で、「改良型」とでもいえるものがあります。

 

「発明活動における情報処理パターン」では、「機能・装置開発型」には、発散思考と集束思考の両方を活用し新しい機能や構造を開発するための、創造技法のうち論理的で体系的な技法である中山正和氏の「NM法T型」+「NM法A型」や江崎通彦氏の「FBSテクニック」(「デザイン・ツー・コストの新しい考え方とその手順」、江崎通彦著、産業能率大学出版部発行)などが有効としています。

 

また、「用途開発型」には、発散思考を中心にいろいろな観点や分野を当たることで新しい用途を開発するため、創造技法のうち固定観念にとらわれない発想法を促す技法である「ブレーンストーミング」や「NM法T型」の他、思考のきっかけを与える技法であるオズボーン氏の「チェックリスト法」が有効としています。

 

「改良型」には、発想の拠り所となる既存の装置や方法(これをモデル技術という。)がありあます。そのため、体系的で大掛かりな創造技法を使うまでもなく、発散思考によりたくさんのヒントに近いアイデアを出して、その中から適当なものを選択するといったことで十分であるため、「用途開発型」と同様の創造技法が使えます。

 

いずれの創造技法を使用する場合にも、キーワード「KW」(問題の本質:ε)が決定された後は、このキーワード「KW」を頼りに、イメージの中のアナロジー群ΣQA(モデル技術群ΣAο)から1つのアナロジーQA(モデル技術Aο)を選んで、それを言葉で表現します。

 

このアナロジーQA(モデル技術Aο)の背景イメージQBを走査し(この際、不必要要素Σaを廃棄する)、問題解決に役立つヒントQCを探し、そのヒントに基づいて基本アイデアとなる原理図cεを作成します。

 

原理図cεが完成したら、問題との整合性を確認し、判断の結果OKであれば、技術情報ΣTIや市場情報ΣMIの中から新しいアイデアの必要要素技術Σbを選択し、これを付加することで具体案Bτを完成します。

 

判断の結果NOであれば、複数のヒントQCを組み合わせる思考実験を行いながら、納得できる具体案Bτを完成させます。

 

具体案Bτが決定したら、その案に基づいて試作品を製作して、その実用性を判断します。判断の結果、OKなら発明が完成したことになります。NOであれば、技術情報ΣTIや市場情報ΣMIまで戻って、当初選択したものと別の必要要素技術Σbを採用してみて具体案Bτを作り直します。

 

それでも満足が得られそうもないような場合には、「発明活動における情報処理パターン」では、思い切ってアナロジーQAまたはキーワードKWの選定する段階まで戻って、当初選択したものと別なものを選択して、再度同様の検討を行うことを薦めます。