前回、未来に起きる事象の発生を予め知った後で、その事象を自らの事業の発展に結び付けるといった積極的な対応をすることを「未来制御」と呼ぶことにしました。
また、製品や工程などの技術システムについて、可能性として結びつくすべての危険、または有害な事象を事前に明確にし、回避するための体系的な手法である不具合予測(FP:Failure Prediction)は、未来制御をするための基本的な手法であるといいました。
製品の開発や使用に関連して遭遇する技術的な難問を克服する目的で使用するための発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)の場合と、製品や工程などの技術システムを新しい世代のシステムへと進化させる企画の立案作業を支援する戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)の場合には、新製品や新企画のリスク管理の意味でそれらのコンセプトを創出した後の工程で不具合予測(FP)を使います。
他社特許の回避、無効化の検討の他、特許の侵害と回避からの保護を強化して自社の知的財産の価値を増加させるための知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)の場合には、特許出願しようとする発明に潜在する不具合とその発生メカニズムを予測して、より強力な発明を創出する(これを発明強化という。)際に不具合予測(FP)を使用します。
アイディエーション・インターナショナル社の発明的問題解決(IPS)、戦略世代進化(DE)、知的財産制御(CIP)における不具合予測(FP)の位置づけは、以上のとおりです。
私は、不具合予測(FP)は未来制御のツールであるとの考えから、発明的問題解決(IPS)のアイデア発想の段階で使用することを提案します。
製品の開発や使用に関連して遭遇する技術的な難問を克服する解決コンセプトを考える場合に、その解決コンセプトが顧客の要求する品質が十分に満されることを保証するものであることが必要です。
解決コンセプトを実装した製品やサービスが顧客に受け入れられなければ(売れなければ)、新製品や新サービスは完成したけれどもその開発は失敗したということです。
開発を成功させるには、開発した新製品や新サービスの品質が保証できる解決コンセプトを完成させなければなりません。
その取り組みの一つが、新製品等の開発に当たり顧客の要求する品質を基に設計品質を決定し, これを実現するためその構成機能・部品の品質を細部部品や工程にまで体系的に図式化して展開し, 製造開始前に品質保証を行おうとする品質機能展開(QFD:Quality Function Deployment)です。
ここで、「顧客の要求する品質」を決めるには、顧客の声を集めて、様々な使用シーンを描いて、顧客の要求を機能表現の形でまとめることが必要ということです。
しかしながら、市場に製品やサービスが溢れていて新製品や新サービスがなかなか受け入れられない時代に、顧客の声を聞くことが正しいかどうか疑問です。
たとえば、iPod、iPhon、iPadは、顧客の声を聞いて開発したものではありません。むしろ、「こういう製品を望んでいるのではないですか?」と、開発者側から顧客へ提案したものです。
つまり、市場に製品やサービスが溢れている時代には、開発者側から未来品質を保証した製品やサービスを提案するといった考え方を取るべきではないでしょうか。顧客は新たに提案された製品を見てそれが欲しかったとはいえますが、市場に存在してしない自分が欲しいものをいうことはできません。
そこで、未来に起きる事象の発生を予め知った後で、その事象を自らの事業の発展に結び付けるといった積極的な対応をする「未来制御」という発想を使います。
未来制御による製品開発に当たって重要なことは、製品に関する未来品質だけを考えるのではなく、製品を使用する際の未来品質をも考えることです。
具体的には、(1)従来品や新たに考えた製品コンセプトについて、製品自体の不具合と製品を使用する際の不具合(環境や行動との関係で生じる不具合)を予測し、それらの不具合を是正するアイデアを考えて、(2)成功する可能性の要素(狙いの明確性、必要性、機能性、利便性、使い勝手、安心感、意外性(面白味)、感動度合い)がどの程度あるかを確認することです。