NPO法人日本TRIZ協会が毎年開催している「TRIZシンポジウム」(2016年度で12回目)の参加者アンケートの結果を見ても、たくさんあるTRIZのどの手法(技術的矛盾と発明原理、物理的矛盾と分離の原則、物質-場分析と発明標準解、効果集、進化の法則など)をどのような場面でどのように適用して、どのような問題が解決できたかといった具体的な問題解決事例の発表に関心が集まっています。
これら具体的な問題解決事例の場合は、問題解決を必要としたビジネス上の背景、テーマの難解さの度合い、使用可能な経営資源、技術的、経済的、時期的な制約条件、問題解決者の素養など、具体的な事案によって様々な特別な状況の中で取り組まれたものです。
そのため、いざ自分が抱えている問題と状況について、事例と同じような取り組みを行おうと思っても、そのままではうまく適用できないことがほとんどです。
そのため、少しでも自分が抱えている問題と同じような問題の解決事例を探し続けることになります。この状態がいつまでも続くことになります。
仮に、自分と同じ技術分野の問題解決事例が見つかったとしても、問題解決を必要としたビジネス上の背景、テーマの難解さの度合い、使用可能な経営資源、技術的、経済的、時期的な制約条件、問題解決者の素養まで似ている事例などはありません。
さらに、成果の上がった事例発表ということであれば、少なくとも問題解決に取り組んだのは数年から十数年前ということでしょうから、解決時と今とでは時代背景(技術トレンドや技術ニーズなど)が異なることは明らかです。
学校の教科書の問題とは違い、正解のない世界の実社会の問題解決の場合には、そのまま適用できる事例は1つもないと思った方がよいでしょう。
しかし、参考にするよい事例がないからといって悲観することはありません。どのような問題であっても、取り組むべき最初の段階で確認すべきことは同じです。
IdeationTRIZ(I-TRIZ)の基本的な思考プロセスである「Ideationプロセス」の最初のステップには、「プロジェクトの開始」という項目があり、「(1)目的・目標」について記載する欄」と、「(2)状況の持つ意味」について記載する欄が設けられています。
「(1)目的・目標」の欄では、
1. 今あなたが達成しようとしている目標はだれが決めましたか?
2. なぜ、他ならぬその目標が選ばれたのですか?
3. その目標が定められたのはいつのことですか?現在の状況に合わせる必要はないですか?
4. 目標は現実的ですか?
4.1 将来についての予測はどれくらい現実的ですか?
4.2 自分の能力を過大評価していませんでしたか?
4.3 他の人たちの能力を過大評価していませんでしたか?
という質問に答えることで、プロジェクトで検討対象としているシステム、プロセス、または他の対象の本来の目的を明らかにします。
「(2)状況の持つ意味」の欄では、
1. あなたが取り組んでいるプロジェクトによって可能性が切り開かれること、あるいは、問題が解決されることによって、だれが有利になりますか?
2. なぜ、特にこの状況が改善対象として選ばれたのですか?
3. この状況が改善されないとどうなりますか? その結果を避ける別の手段はありますか?
4. その状況は本当に改善する必要があるのですか?
5. 目標を決めたら、次の3つについて考えてください。
5.1 情報が多すぎて困っていることはありませんか?
5.2 何か重要なものを見逃していませんか?
5.3 この問題にかかわっている他の人達の意見を考慮に入れましたか?
6. 現在対象としている状況を改善することは本当に理屈にあったことですか?この改善を行うと、次の観点から見てどのような影響が生じるでしょうか(有益な影響、有害な影響を共に)予測してください。
6.1 家族またはあなたの同僚
6.2 あなたのボス
6.3 あなたの部門
6.4 あなたの会社
6.5 社会全体
7. 変化によって他のだれが(有益、または有害な)影響を受けますか?
という質問に答えることで、プロジェクトが対処している状況が、ビジネスの観点から、組織の観点から、どのような事情と関連しているのかを理解します。
「プロジェクトの開始」の項目の以上の質問に答えることで、特定の状況の下で自分たちはそのプロジェクトで「何をしさえすればいいのか」が明確になりますので、自信を持ってその後の「Ideationプロセス」に取り組むことができます。