VEのアイデア発想に因果関係モデルを使用する

「製品やサービスの『価値』を、それが果たすべき『機能』とそのためにかける『コスト』との関係で把握し、システム化された手順によって『価値』の向上をはかる」(公益社団法人日本バリュー・エンジニアリング協会HPより)ための手法としてVE(バリュー・エンジニアリング)があります。

公益社団法人日本バリュー・エンジニアリング協会のホームページからダウンロードできる「VE基本テキスト」によれば、VEを実施するための基本ステップは、(1)対象選定、(2)機能定義、(3)機能評価、(4)アイデアの発想、(5)アイデアの具体化、(6)提案、(7)実施、の7つのステップからなっています。

このうち、(4)アイデア発想では、「集団思考によって、各種の創造技法を使って、飛躍的なアイデアを生み出す。先ず、多くのヒントを集め、それを分類整理し、本質を追求し、さらに、連想発展させて、アイデアにまとめる。」とし、「アイデアの発想方法は、多数の権威者により開発され、活用されているので、対象や発想の段暗に応じて、適切な技法を採用すると良い。」との説明がなされています。

つまり、VEで一般的に使用されているアイデアの発想技法は、ブレーンストーミングであるということになります。

その他、必要に応じて、親和図法、類比発想法、強制連想法を使用するとよいということですので、創造技法に明るい方なら、NM法、シネクティクスのような類比技法や、ブレーンストーミングを考え出したオズボーンのチェックリスト(SCAMPER:(Substitute)代える、代用する、(Combine)組み合わせる、(Adapt)適応させる、(Modify)修正する、(Put to other uses)他の使い道、(Eliminate)省略する、排除する、(Rearrange)再調整する)を使った強制発想を実施することになるでしょう。

今回は、VEの基本ステップの「機能定義」段階で作成する「機能系統図」の他に機能同士の原因と結果の関係を明らかにした「因果関係モデル」を作成することを提案します。

これにより、より効率的で効果的なアイデア発想が実現できるばかりでなく、「機能評価」段階での価値の評価、改善の方向づけ、順位づけが容易になります。

「因果関係モデル」は機能系統図にシステムの構成要素、作用、属性、条件などを付加したものです。

「因果関係モデル」があれば、不足機能や不要機能といった現状システムの問題の発生メカニズムが読み取れます。問題のメカニズムがわかると、機能同士の因果関係をたどることで、不足機能や不要機能が生じている原因を突き止めることができます。

不足機能や不要機能が生じている原因を排除、軽減、防止することで、問題である不足機能を補うことや、不要機能をなくすことができます(これを、有害機能の排除、軽減、防止という)。

基本機能や補助機能といった有益機能については、今とは異なるコストの低い手段で同じ有益機能を実現するか、今とは異なる同じコストの手段で今以上の有益機能を実現することを考えることができます(これを、有益機能の改良という)。

さらに、不足機能を補い、不要機能をなくし、有益機能を今とは異なるコストの低い手段で同じ有益機能を実現するか、今とは異なる同じコストの手段で今以上の有益機能を実現する、ことも考えることができます(これを、矛盾の解決という)。

問題を解決するということは、(1)有害機能の排除、軽減、防止、(2)有益機能の改良、(3)矛盾の解決、を行うことですが、そのための指針(解決アプローチ)が「因果関係モデル」から読み取ることができます(「プロブレム・フォーミュレータ」という専用ソフトウェアを使用すると、指針は自動的に入手できます)。

問題解決の指針が得られると、その指針で示されている内容を実現するための一般的な解法(TOC(制約条件理論)やTRIZ(発明的問題解決理論)の知識)を適用する(「イノベーション・ワークベンチ」という専用ソフトウェアを使用すると、指針の種類に応じた一般的な解法(約500種類)が提示される)ことで、多くの解決策のヒントやアイデアが得られます。

TOCの問題解決のための常套手段は、(1)前提条件、思い込みを疑う、(2)自分と相手の行動、要求を見直す、の2つです。

TRIZの問題解決のための常套手段は、(1)理想性(有益機能の総和/有害機能の総和)を向上させる、(2)資源(システムに付随するすべての内容と性質などで、システムの特性を変化する可能性をもっているもの)を有効活用する、(3)矛盾を解決する(空間、時間、構造、条件で矛盾する要望を実現する)、の3つです。

短期間で次世代商品・サービスの企画提案を考えるには

次世代商品・サービスの企画提案を担当する企画者、開発者は、
●新規事業を企画する部署を立ち上げたが、具体的な作業の進め方がわからない
●経営理論、経済理論、マーケティング理論やたくさんの管理技術があり、いろいろと試みたが、納得感のある提案が作れない
●製品・サービスでの企画の実績はあるが、事業企画は初めてである
●新規事業として技術の用途開発を提案したいが、どう提案したらいいかわからない
●外部機関の支援を受けているが、難しすぎて今後自分たちにはできそうもない
●対象が広すぎて、どこまでの情報を収集して取り組めばいいのかわからない
●顧客のニーズの具体的な内容を想定することができない
●短期計画は見通せるが、中期、長期となると自信がない
●事業の見通しについて、社内での共有化ができていない
●新規事業を企画構想できる人材が育たない
のような種々の悩みを抱えていることと思います。

その理由は、企画のよりどころを何に求めたらよいのかがわからない、からではないでしょうか。そのため、従来は企画提案に先立ち、高価な外部調査機関による膨大な未来予測資料を入手していたのではないでしょうか。

発想を転換して「未来は予測しようとするのではなく、未来を創造する」ことを考えましょう。未来を創造するには、まず未来を想像する方法がわかればいいのです。

人工システムや自然界のシステムが進化する過程を丁寧に観察すると、システムが進化してゆく過程で見受けられる短期的・長期的のあらゆる傾向(進化のトレンド)があることがわかります。

人工的なシステムの歴史的な発展の過程に繰り返して観察される傾向を「進化のパターン」といいます。

「進化のパターン」は、そのパターンに沿ってシステムが変化してゆく中で順次経過してゆく典型的な段階を示す「進化のライン」を認めることができます。

「進化のライン」という系統的な段階を知っていれば、あるシステムがそのライン上で現在どの段階にあるか、今後どのような変化の道筋をたどる可能性が高いか、という判定をすることが可能になります。つまり、そのシステムの今後の発展の道筋を予測することが可能になるのです。

アイディエーション・インターナショナル社が開発したDE(Directed Evolution®:戦略歴世代進化)は、対象として選択したシステム(製品、技術プロセスなど)を新しい世代のシステムへと進化させる企画の立案作業を支援するプログラムです。

本格的なDEのプロセスは、概略以下のとおりの手順に従います。
1.プロジェクトの目的を設定する
2.システムの過去情報の収集と解析
(1)進化史上の主な事象と、それらの間の相互関係を明らかにした歴史マップを作成する
3.次の進化ステップの予測と問題抽出
(1)進化を阻害する主な力や制約を明らかにする
4.アイデア出しとコンセプト生成
(1)問題の状況を表した因果関係モデルを作成する
(2)方向付けられた進化の指針と、問題解決の指針を得て、指針に沿ったアイデアを創出する
5.進化シナリオの作成
(1)たどり着くゴール、必要な条件、現実的な方法を明らかにする
(2)必要となる資源を明らかにする
(3)進化上の問題を明らかにし、方策案を準備する
(4)必要な知的財産の保護の方策を講じる
6.行動計画の作成と実行
(1)パイロット・プロジェクトの計画
(2)システムの進化をサポートする
①計画からの逸脱の予測
②システムの進化状況の継続的モニタリング
③計画(システムの進化シナリオ)の修正

トライアルの場合には、DEの知見である「進化の可能性に関する情報バンク」と「進化のパターン/ライン」に焦点を当てて、短期間で次世代商品・サービスの企画提案を考えます。

DEに興味を持たれた方は、まずは、具体的なテーマでDEのトライアルを検討されることをおすすめします。