問題の情報把握(ISQ)の有効性(問題の関連情報など)

問題の情報把握(ISQ)の「(6)問題の関連情報」の項目は、問題を抱えているシステムの技術分野以外の分野の知識を利用することで、資源を変更する具体的な方法を手に入れるための思考プロセスを与えるものです。
つまり、ここにはI-TRIZが先人の知恵を体系的にまとめた知識ベースを効率的に使用できるようにしたオペレータ・システムに通じる思考プロセスが示されています(本格的なアイデア発想は問題の情報把握(ISQ)に続くアイデア生成プロセスで行います)。
問題の情報把握(ISQ)の「(7)解決策の理想的なビジョン」の項目は、TRIZの基本的概念であって、問題解決に当たって心理的惰性を排除して思考領域を有効な範囲に導くためのものです。
問題に取り組む最初の段階で、問題の情報把握(ISQ)の「(9)システムの変化の許容範囲」と「(10)解決策の評価基準」を確認することの意味は大きい。評価基準が明確でない分野は進歩しないといわれるように、評価基準が定まっていないプロジェクトは必ず失敗するというのが私の中の経験則です。
解決策が完成した時点でそのプロジェクトが成功か否かを見極めなりませんが、評価基準が定まっていない場合には、期限が来れば終わりにするといったことになり兼ねません。
その結果は当然、時間を掛けた割に達成感のないものとなります。そして、多くの場合このプロジェクトは失敗と判定されます。
つまり、プロジェクトは何を持って成功とするかの評価基準がないものは失敗します。
反対に、評価基準が明確であれば、成功するまでやるには後どのくらいの時間が必要かも予測できます。
したがって、評価基準をクリアした時点でプロジェクトが終了になり、そのプロジェクトは成功といえます。
問題の情報把握(ISQ)の「(11)会社のビジネス環境」の項目は、プロジェクトを単なる技術問題として取り組むのではなく、会社の利益に貢献できる結果を生み出す業務であることを自覚した上で、やらなくてはならないことを必ず実現するといったやりがいのある仕事に取り組む姿勢を確認するためのものです。
くれぐれも、「やらなくてもよい仕事を一生懸命やる」といった過ちを起こさないようにしたいものです。

問題の情報把握(ISQ)の有効性(資源把握編)

I-TRIZには、発明的問題解決(IPS)、不具合分析(FA)、不具合予測(FP)、戦略的世代進化(DE)、知的財産制御(CIP)のすべてに共通する「アイディエーション・プロセス」という汎用的な問題解決プロセスがあります。
アイディエーション・プロセスの最初には、11項目からなる問題の情報把握(ISQ:Innovation Situation Questionnaire)があります。
問題の情報把握(ISQ)は、問題解決プロセスをサポートするために、自分が抱えている問題の状況についての入手可能な知識を収集し、系統立てるのに役立つ一組の質問からなっています。
問題の情報把握(ISQ)に記載されている質問に答えることは、心理的惰性を低減し、その問題に対する研究者、技術者のビジョンを変更し、価値のある知識を再構成して、次のアイデア生成プロセスへ導くことを助けます。
問題の情報把握(ISQ)の最初の項目は「(1)問題の簡単な説明」です。
「一つの、単純なフレーズで、あなたの問題を記述してください。専門の用語を使用することを避けてください。その代わりに、あなたが中学生と話すのに使用するだろう「日常的な」言語を使用してください。専門用語を使わずに表現すると、状況をより一般化することになり、解決策を探すうえで幅広いアプローチを使えるようになります。」
この「(1)問題の簡単な説明」の質問文に答えることで、当初考えていた問題点とは違ったところに問題の本質があることに気がつき、問題に取り組む最初の段階での過ちを避けることができるのは大きな利点です。
問題の情報把握(ISQ)の項目の「(2)システムの階層に関する情報」、「(3)システムの機能に関する情報」、「(4)システムの問題状況(問題発生メカニズム)に関する情報」、「(5)システムの時間に関する情報」では、問題解決に使用できる資源を探索することになります。
(8)利用可能な資源の項目では、①物質資源、②場の資源、③空間資源、④時間資源、⑤情報資源、⑥機能資源といった観点で資源を漏れなく探索することが要求されます。
これにより、問題を抱えたシステムの中やシステムの周辺にある利用可能な資源が網羅的にリストアップされることで、問題を解くために使用できる要素のすべてが明らかになります。
この資源把握を体系的に行うための手法を、アイディエーション・プロセスでは「システムアプローチ」と呼んでいます。
問題の情報把握(ISQ)では、システムアプローチが自然に行えるように、「(2)システムの階層に関する情報」、「(3)システムの機能に関する情報」、「(4)システムの問題状況(問題発生メカニズム)に関する情報」、「(5)システムの時間に関する情報」、「(8)利用可能な資源」、という項目が盛り込まれています。
その結果、思考領域が一挙に広がり、問題解決に際して何に手を付ければよいかといった全体観が得られ、特定の箇所に偏った取り組みに陥るようなことがなくなります。
「問題解決とは資源を変更することである」ということを知っていれば、どの資源にどのような変更を加えればよいかを考えるだけで、問題が簡単に解けてしまう場合もあります。
そのため、この後のアイデア生成プロセスを経ることなく、問題解決のプロジェクトが終了になることも起きます。それだけ威力のあるのが「資源把握」という概念です。

Sカーブ上の段階ごとの問題点

新技術を開発しても、それを受け入れる市場ができていない場合には、いわゆる「死の谷」に落ち込んでしまい、日の目を見ずに終わることがあります。これを、「クロコダイル・バック現象」といいます。
I-TRIZではSカーブ分析に関する研究成果が豊富であり、「クロコダイル・バック現象」はその一つです。
「クロコダイル・バック現象」はSカーブの幼児期の段階にある事業が遭遇する主要な問題の一つです。
システムの現実の進化のプロセスでは、Sカーブの段階1(幼児期)から段階2(成長期)への移行がスムースに進む例は多くありません。むしろ、様々な試みが失敗に終わった後で、漸くしてから成功にたどり着くことになります。
多くの試みが失敗に終わる理由は、「(1)登場したばかりのシステムはまだ商品として売られ、使われる準備が整っていない。(2)市場に新しいシステムを受け入れる態勢ができていない。」などがあります。
古く、複雑で、生産量が比較的少なく、開発している企業の数が少ないなどで競争も激しくないシステムでは、システムの基本的パラダイムが、可能な改良のアイデアが出尽くしていないうちに、時期尚早に固定化してしまうことがあります。これはSカーブの成長期に起きる現象であり、「時期尚早の老化」と呼んでいます。
「時期尚早の老化」の結果、本来は成長期にあるべきシステムの性能は長期間ほとんど変化していない、どの会社も同じような製品を売っている状況(成熟期に似た状況)に陥っていることがあります。
Sカーブの成熟期では、それまでにシステムに関する標準は確立され、固定化されているため、原理的に高度な発明は行われず、改良といっても仕様の最適化、妥協的な設計、小さな発明が行われるだけです。他方、売り上げは順調に伸びているため、新しいシステムへ移行することなどには思いも寄りません。
その結果、いつも間にか安価な代替システムに市場を奪われてしまうこと(破壊的イノベーションの発生)になります。
いずれのケースも、システムやその周辺に存在する資源を見逃しているか、またはそれらの資源の活用が不十分であることに起因しています。
いずれのケースの問題解決の鍵は資源の有効活用です。となれば、既存の技術の新しい用途を見つけ出す用途開発の手法が使えるはずです。
つまり、システムの資源を有効活用すべく新しい市場を作り出せばよい。そのためには、人の新しい生活習慣や振る舞いを提案する新文化の開発が必要です。
I-TRIZには、新しい市場を作り出すための新文化の開発に有効な方法論として戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)が用意されています。