アイディエーション・インターナショナル社が販売しているIWB(Innovation WorkBench)というソフトウェアは、I-TRIZ(Ideation-TRIZ)の基本的なソフトウェアです。
IWBは、主として研究・開発分野の問題解決を目的としたもので、Ⅰ.問題の情報把握→Ⅱ.プロブレムフォーミュレーションとブレーンストーミング→Ⅲ.方策案のまとめ→Ⅳ.結果の評価といった4つの大項目からなるアイディエーション・プロセスに沿って思考を進めていきます。
Ⅰ.問題の情報把握では、問題の状況に関する情報収集と問題解決に役立ちそうなシステム内の資源とシステム周辺の資源を探索します。
問題の状況に関する情報収集は、特に重要なのはシステムの問題発生のメカニズムを「原因→問題→結果」という観点で分析する部分といえます。
なぜならば、問題の原因が見つかれば、目的とする機能を損なわずにその原因を取り除くことができれば当初の問題は解決するからです。
しかしながら、実は問題の発生メカニズムを見つけ出すことが難しいのです。
当事者は問題を隠したがるため、分析のための情報が乏しいといえます。システムの構成要素のすべてについて問題の原因となる可能性を検討するには、問題解決手段を考えるより多くの時間が必要になることがあり、現実的ではありません。
そこで、IWBでは、問題が発生するメカニズムを発見するために「不具合分析の手順」を活用することを進めています。
IWBの中の「不具合分析の手順」は、FA(不具合分析)というソフトウェアの簡易版であって、
(1)問題の記述
(2)反転問題の記述
(3)反転問題の拡大
(4)(反転問題を起こすための)解法の探索
(5)仮説とその実証テストの記述
(6)不具合の解消、といった手順が示されています。
「不具合分析の手順」の中で問題発生のメカニズムを発見する部分は、(2)反転問題の記述と(3)反転問題の拡大、(4)(反転問題を起こすための)解法の探索、の3つです。
(2)反転問題の記述では、「所定の状況下で(問題の発生する状況を記述)、問題(障害を記述)を再現する必要があります。」という定型表現を採用することで、発生している問題を故意に発生させる方法を考えさせます。
たとえば、ヘリコプタのブレードの主荷重を支えるロンジロン、すなわち表面を研磨および酸化処理した複雑な断面形状のパイプに黒点という望ましくない結果は加工、研磨、電気酸化処理を含む製造工程の状況下で引き起こされている問題(以下、ロンジロンの黒点問題という。)の場合には、「既存の製造工程の状況下でロンジロンの表面上の黒点を再現する必要があります。」のように表現します。
問題を反転する理由は、不具合分析の問題を「発明をする問題」に置き換えることで、情報量の多い発明に関する情報源にアクセスを可能とし、しかも創造性を発揮する前向きな思考に取り組むことができるといった利点が得られるからです。
発明に関する情報源は、問題を生じた分野とは関係のない他の分野のものであるため、担当者が否定的な反応を生じることがないので、情報収集作業にとって好都合です。
(3)反転問題の拡大では、「状況下で(状況を記述)拡大された現象(現象の記述) を実現する必要があります。」という定型表現を採用することで、発生している問題の現象を拡大し、問題を拡大させることで、問題の複雑さを見失わないようにします。
ロンジロンの黒点問題の場合であれば、「既存の製造工程という状況下でロンジロンの表面に完全な黒点を発生させる必要があります。」のように表現することになります。
以上のような準備が整ったら、(4)(反転問題を起こすための)解法の探索に進みます。
以下、ロンジロンの黒点問題を例に説明します。
文献検索や専門家との意見交換の結果、「アルミニウムに黒点が発生するには、アルミニウム表面を希塩酸で酸化処理をする必要がある。」がわかりました。
まず、反転問題を起こすための必要な構成要素を特定します。
物質:アルミニウム地金、希塩酸、ガルバニ溶液(電解質溶液)
エネルギー:化学的エネルギー、電気的エネルギー
空間的条件:アルミニウムの表面が希塩酸に晒される状態
次に、問題のシステムやその周辺に、必要な構成要素に対応する資源を確認します。
必要な構成要素中の希塩酸だけが見つかりません。
そこで、問題のシステムやその周辺に存在する資源から希塩酸を作り出せないか検討します。
塩酸は水素と塩素から生成されます。周囲には大量の水素(大気中の水分、冷却液など)が存在します。塩素は加工中に使用する冷却液(水道水)の中にあります。ゆえに、塩酸も存在したと考えられます。そして、水、水素と塩素から生成された数滴の塩酸がアルミニウムの表面に付着することが考えられます。
以上で、問題の発生メカニズムについての1つの仮説が完成したことになります。実際には、この仮説が正しいかどうかを確かめるために、簡単な実験を行うことになります。