製品の歴史の中で長い期間、使いやすさについて配慮がなされることはほとんどありませんでした。博物館に展示されている古代の衣服、家具や住居の生活環境を見ればこれは明らかです。生活を少しでも便利にしようとする発明(たとえば、やわらかい家具)が現れたのはルネサンス時代のことで、こうした狙いを持って様々な製品が大量生産されるようになったのは産業革命以降、19世紀に始まることでしかありません。
消費財の利便性を向上させるアプローチは以下の通りです。
(1)製品が人の身体、生理、美的感覚によりよく対応するようにする
(2)製品を使用することに伴う有害な作用(負荷、外傷、汚れや廃棄物の蓄積など)を減少させる
(3)容易に使用できるようにする(特に据付けたり、練習をしたり、などの準備をしなくても使える)
「製品の進化」の進化のトレンドには、(1)消費財の「スマート化」(賢い製品化)、(2)安全要求の高まり、(2)環境規制、(3)機能の拡張、(4)多様性の増加、(5)集積化の進展、(6)人間の負担軽減、(7)有益な機能を持った包装、が考えられます。
消費財の「スマート化」の進化のトレンドとしては、過去15年間の消費財の進化にみられる主な傾向の1つは製品が「賢く」なってゆく、ということです。
だれもが情報技術は大きな可能性を持っていると考え、様々な出版物によって、たとえば、コンピュータ化された家庭や「賢い」機械などが紹介されるため、電子技術はどんな分野でも奇跡(時には非現実的な)を起すことができるという期待が高まりました。その結果今日では、こうした期待に応えることのできる企業でないと成功することが難しくなりました。
ほとんどの消費財で「賢い」製品とは使用者の特定のニーズ、状態などに合わせることができることを意味します。たとえば、
(1)消費者からの情報を様々な形態で受け取ることができる。
(例)
① 指示(プログラム、命令など)
② 声、動作、ボタンを押すなどによって行われる選択
③ 鼓動や体温などについてのセンサーからの情報
(2)得られた情報を処理して必要な対応を行なう
(3)得られた情報を活用する、あるいは、他の装置に伝達する
人の生活環境が進化してゆくなかで重要な傾向の1つは個人の健康状態をモニターし、状態の悪化を早期に発見できるようになってゆくことです。このトレンドを反映して、健康状態に関する情報をモニターして必要な連絡先に送る機能をもった消費財が既に多数出現しています。
このトレンドを可能にしたのは、以下のような技術です。
(1)特殊な機能を果たすことのできる「賢い」素材
(2)各種のマイクロ・デバイス(センサー、マイクロチップなど)
(3)LANやインターネットを通じて行なわれる、製品・システム間の自動通信
この傾向が進むと、一般的に製品は複雑になり、コストは高くなってゆきます。消費者の側もそれに対応してゆきますが、時に過剰な期待を持つことがあります。
「安全要求の高まり」の進化のトレンドについては、安全そのものの定義があいまいなまま、安全への要求が次第に高まっている傾向があります。
戦争、飢餓、感染症など死に繋がる危険の可能性が低くなった一方で、人々は製品によって身体や心が侵されるなどの、より軽度な危険に強い関心を持つようになっています。加えて、以前よりはるかに精密な検査が可能になった結果、従来は気づかなかった危険が認識されるようになりました。
最近は、特定の食品および食品メーカーをターゲットとする攻撃が激化しています。タバコメーカーに対する消費者の訴訟が成功したため、同様の動きが他の分野に拡がり、訴訟の数と様々な製品に起因する負傷、障害、およびその他の不都合に対する保障の裁定が増加し、結果として保険料が高騰することになっています。情報公開が進んで顧客が大量の情報を入手・交換することができるようになり、製品の使用と有害あるいは不都合な効果との間の関係が明らかになったことによって更に強まっています。
タバコおよび食品の次には様々な消費財が訴訟の対象となることは明らかと思われます。各種洗剤、家具、衣料品、電子製品、住宅用建材などほとんどの製品が何らかの条件では潜在的に危険性を秘めているといえます。
これによって、相互に関連する以下の2つの事態が予測されます。
(1)生産者および販売業者を相手取った訴訟の増加
(2)新種の製品の導入に対する政府の規制。製品が持つ潜在的な危険を分析して製品を禁止すべきか否かを判断するFDA(米国食品医薬品局)のような組織が新設されることも含まれます。
現状では、消費財メーカーの姿勢は一般的に受身で、製品のテスト方法を改良(しかし、適切なテスト法がないので潜在する深刻な危険を全て明らかにすることは実際は不可能です)する、製品を市場に導入した後に顧客から苦情や要望がでてから対処する、といったことにとどまっています。将来は、アイディエーション・インターナショナル社のFP(不具合予測)に類する手法と、製品開発のプロセスで潜在的な危険を明らかにし排除する方法とを有効に使う能力が企業の成功を左右することになります。
「環境規制」の進化のトレンドについては、環境および健康に対する要求が厳しくなる結果として以下の事態が予想されます。
(1)人工の素材に対する疑念が高まり、イメージが悪化する
(2)先進国では様々な生産施設に対する批判が高まり、規制が導入され、コスト高につながる
(3)廃棄物や人工素材の使用量が少ない、環境負荷の低い生産形態への移行
「機能の拡張」の進化のトレンドは、どのような消費財でも機能の数を増やし質を改良することによって製品価値を高めることができる、ということです。そのために、以下のアプローチが考えられます。
(1)関連製品の機能の取込。当該の製品と同じ環境で使われる、あるいは、ライフサイクルの様々な段階で当該の製品と一緒に使われる他の製品やシステムが持っている機能を取り込みます。
(2)自動化あるいは「賢い」技術を使うことによって、従来人間が担っていた機能を吸収する。
(3)既存の製品の機能を幾つかに分けて、部分的動作や部分的機能を導入する。場合によっては専門に特化した(特定の機能だけを行う)製品が生まれることがあります。
「多様性の増加」の進化のトレンドは、製品の多様性の増加は顧客の要求や好み(「えり好み」)が強まり、ファッションの変化が早くなり、情報交換の量やスピードが増加することに対応して生じます。結果として以下の現象が生じます。
(1)個別製品の量が減少
(2)特定の製品に対する需要の(しばしば予測不能な)急激な増加と減少
(3)高価格贅沢品から低価格品まで、価格と性能の幅広い品揃えを狙った製品ラインの拡大。一般的に、顧客が高価格を許容する傾向が強くなります。
(4)顧客が製品生産者の他の側面を意識するようになる。たとえば、環境対策、地域あるいは国内における雇用の確保に対する姿勢など。
(5)新製品の開発から市場導入に至る期間の短縮
(6)機動的な生産技術の開発
マス・カスタマイゼーションの考えを採用することによって製品の多様性を増すことができます。このためには、生産の最終段階、あるいは、更には顧客の望む場所で、簡単に改造できるようなベース製品を生産する技術を開発することが必要です。
「集積化の進展」の進化のトレンドは、製品が進化するにつれて、その製品を同じ上位システムに属する他の要素と組み合わせて1つの統合システムを生み出す、ある意味で「ファミリー」が形成される傾向がある、ということです。
こうした統合は機能レベル、あるいは、これよりも限られたレベル(スタイルあるいは色彩など)で生じる場合があります。
「人間の負担軽減」の進化のトレンドは、生活に不可欠なニーズや家庭用設備のメンテナンスなどに必要な作業が少なくなってゆく強い傾向がある、ということです。
これは「プラグ・アンド・プレイ」(据付けたり、練習したり、他の準備をしなくても使える)ようにしたいという希望の結果です。この過程は以下の順序で進みます。
(1)部分的あるいは全面的に自動化された「賢い」システム
(2)ユーザーと意思疎通できるシステム
(3)複雑な消費財に対するオンラインサポート
「有益な機能を持った包装」の進化のトレンドは、製品が進化する過程で、様々な有用な目的に製品の包装が利用されるようになる、ということです。