システムが利用する物質の「進化のライン」

システムが利用する物質の進化のラインは、(1)新しい物質(資源)の追加、(2)環境の有効利用、(3)異なる物理的状態の物質の利用、(4)異なるレベルの物体構造の資源の利用、(5)物質のマッチング、(6)物質マッチングのシスト、(7)物質のミスマッチング、が考えられます。

 

「新しい物質(資源)の追加」の進化のラインでは、①すぐに利用できる物質資源を利用する→②派生させた物質資源を利用する→③何らかの重要機能を行うことができる物質を利用する、といったラインに従います。

 

「① すぐに利用できる物質資源を利用する」では、システムやその周辺の物を構成している、あらゆる種類の物質資源が利用できます。たとえば、a.廃棄物、b.原料/原産物(未完成品)、c.システム要素(部品、部材)、d.安価な物質(水、空気、土砂、雪など)、e.物質の流れ(移動)、f.物質の特性、などが挙げられます。

 

「② 派生させた物質を利用する」では、利用可能な物質資源を変換して(変化させて)から利用します。たとえば、a.廃棄物の変換、b.原料/原産物(未完成品)の変換、c.他の物質への変換、d.水の変換、などが挙げられます。

 

「③ 何らかの重要機能を行うことができる物質を利用する」では、a.検出(さまざまな場の指標や源)を可能にする物質(応力ゲージとなる変換子、色剤、塗料;バイメタル、液晶、熱電対;化学指示薬;発光物質、感光物質;強く特異な匂い、味、色変化特性をもつ物質;強磁性材;放射性物質、など)、b.エネルギー放出、吸収、蓄積、変換できる物質(弾性材、爆発材、テルミット(発熱材)、熱蓄積材、放射性物質、など)、c.破壊、除去が容易な物質(蒸発、燃焼、分解、溶解する物質;解離、イオン化する物質、など)、d.場の影響や相変化により寸法、体積、形状が変わる物質(バイメタル;融解や凝固により寸法が大きく変わる物質(水と氷、ビスマスなど);圧電材、磁歪材;形状記憶材、など)、などが挙げられます。

 

「環境の有効利用」の進化のラインでは、環境をより経済的に、より安全に利用するアプローチは、①資源を今までより効果的に使用することによって消費を減らす→②廃棄物の減少、の2つがあるとしています。

 

「① 資源を今までより効果的に使用することによって消費を減らす」では、たとえば、効率のよいエンジンによって燃料消費を削減する、原鉱から金属を得る際のロスを減らす、合金化によってスチールの防食性を高めることで鋼材の消費を少なくする、などが挙げられます。

 

「② 廃棄物の減少」では、たとえば、廃棄物の出ない製造技術、廃棄物の有効利用、閉じた生産循環(廃棄物の再利用によって、追加資源の投入や、廃棄物の発生のない生産循環)、などが挙げられます。

 

「異なる物理状態の物質の利用」の進化のラインでは、①固体(硬い、弾性、ゲル)→②液体→③気体→④固体、液体、気体の混合、といったラインに従います。

 

④固体、液体、気体の混合では、a.固体+液体の混合(液体を満たした多孔質材料、濡れた(湿った)固体材料、液体中に浮いた固体物、コロイド液)、b.固体+気体(気体を満たした多孔質材料、気体中に浮いた固体物、埃、煙)、c.液体+気体(気体を満たした液体、気体中に浮いた液体、湿った気体、泡、霧、液体蒸気と気体の混合物)、などが挙げられます。

 

「異なるレベルの物体構造の資源の利用」の進化のラインでは、①マクロ・レベル→②単純な幾何学的形状の要素からなるポリ・システム→③小さな要素からなるポリ・システム→④ナノレベルの現象の利用に基づくシステム→⑤物質構造(超分子レベル)に関連した現象の利用に基づくシステム→⑥分子現象の利用に基づくシステム→⑦原子現象に基づくシステム→⑧物質に代えて場の作用の利用に基づくシステム、といったラインに従います。

 

「異なるレベルの物体構造の資源の利用」の進化のラインの例としては、①特別な部品を組み立ててなる大きい歯車→②プレス成型板を積層してなる歯車→③粉体の金属(焼結金属)からなる歯車→④歯車の潤滑剤のナノ粒子→⑤圧電材料による歯車→⑥歯車の化学的修復(自動車オイル中の銅合金ナノ粒子)→⑦例なし→⑧非接触磁気歯車、などが挙げられます。

 

「物質のマッチング」の進化のラインでは、①部品の材料をマッチさせる(その部品全体で特性を等しくする:材料の純度を上げる→材料内の異質(不均質)をなくす→内部応力をなくす)→②異なる部品間で材料をマッチさせる(異なる機能を果たす複数部品に同じ材料を使う→同じまたは類似の特性を持つ異なる材料を使う→異なる材料が接触する箇所における接触現象をなくす)→③自己マッチング(機械的な自己マッチング→化学的な自己マッチング)、といったラインに従います。

 

「物質のマッチング」の進化のラインの例としては、①純鉄は腐食しない→タービンブレードにチタン単結晶合金を使う→硬化鋼の応力解放→②純銅を純銅で包装して汚染を防ぐ→熱膨張係数の等しい複数材料で真空管を作る→電気化学ポテンシャルの等しい材料を使うことで接触部品間の腐食を防ぐ→③摩耗による自己マッチング→アルミニウムの自己保護酸化膜、などが挙げられます。

 

「物質マッチングのシフト」の進化のラインでは、①部品の材料マッチングのシフト(その部品内で異なる特性の材料を用いる:直接合金→材料内での異質(内部構造)を生み出す→材料内で内部応力を生み出す)→②異なる部品間で材料マッチングのシスト(追加機能を得るために材料特性の違いを利用する→異なる材料が接触する箇所における接触現象を利用する→マッチングのシフトを生む特別の特性を持つ境界層を作る)→③自己マッチング、といったラインに従います。

 

「物質マッチングのシフト」の進化のラインの例としては、①ステンレス鋼(異材料間の特別の作用が腐食を防ぐ)→表面硬化材料;カーボンファイバー複合材料、など→コンクリート中のプリストレス鉄筋→②バイメタル材料→電気防食(犠牲材料)→高品質光学システムにおいてレンズの光学特性を高めるために反射防止コーティングを施す→③靴底や鉄道車両の機械的摩耗、などが挙げられます。

 

「物質のミスマッチング」の進化のラインでは、①部品の材料のミスマッチング→②異なる部品間で材料のミスマッチング(部品間のインターフェースの特性を変える→有害または不必要なエネルギーの流れを反射、方向転換、吸収、などする境界層を設ける、といったラインに従います。

 

「物質のミスマッチング」の進化のラインの例としては、①特定の波長の光は通さない光ファイバー→②異なる特性を提供する多層の材料を用いる(たとえば、宇宙服用の反射、断熱、耐圧性を持った複合材料)→鋼のクロムメッキなどの保護層、などが挙げられます。