Ideation TRIZをものにする創造的思考の基礎

Ideation TRIZの弊社の体験セミナーなどに参加して初めてIdeation TRIZを学んだ方の中には、オペレータというヒント集を使用した「類比思考」が難しいという意見を持たれていることが、アンケートの結果からわかっています。

 

古典的TRIZの発明原理、分離の原則、発明標準解、進化の法則、工学的効果集などの複数の解決テクニックを統合した「オペレータ」というヒント集の体系を作り上げることで、初心者でもTRIZの強力な問題解決力を使いこなせるようにしたのがIdeation TRIZです。

 

しかし、使い易いはずのIdeation TRIZにも壁があったということです。

 

私たちは、過去の知識経験に加えて、特許公報や技術論文などで公開されている新しい技術知識を使って、論理的思考により問題解決を行うといった一般的な方法(帰納法、演繹法)を採用しています。このような一般的な方法でほとんどの問題が効率的に解決することになりますが、中にはこのような方法では歯が立たない問題もあります。

 

徹底的に論理的思考を行ったにもかかわらず目的とする解が得られないなら、残る方法はイメージ思考(仮説設定法)によるしかありません。創造技法の分野では、積極的にイメージ思考を使うことを「類比思考」といいます。

 

Ideation TRIZに限らず、創造的な問題解決が必要な場面では、自分の問題と本質が共通な異分野の見本(アナロジー)を参考にして、イメージ思考で解決策を手に入れることが必要になります。

 

知らないものは、知っているものに見立てて理解するしかありません。それには豊かな想像力が必要とされます。

 

創造的思考が苦手な方を、頭が固い、固定観念にとらわれている、などといいます。

 

TRIZでは、慣れ親しんだ方向の考察を熱心に行いながら、他の技術分野の観点からの検討をないがしろにする傾向を「心理的惰性」と呼びます。心理的惰性は矛盾を含んでいる発明的問題に取り組む時間を大きく浪費させ、作業に深刻な悪影響を与えます。

 

解決策が自分の専門分野の中にある場合には必要な試行の数は比較的少ないかもしれません。しかし、そうでない場合には試行錯誤を通じて解決策にたどり着くのは容易ではありません。

 

類比思考で一番難しいのは、役立つ見本をどこからどのようにして見つけてくるかということです。

 

コンピュータの助けを借りないのであれば、見本は、自分の得意分野、趣味の世界などの自分がよく知っている分野から探します。また、日常的な出来事から探します。それは、その見本に詳しいから自分の問題解決に役立てられるという前提に立っています。

 

その他には、見本は、自然界から探します。自然界にはうそがないからです。

 

コンピュータを使うのであれば、インターネット検索(異分野の特許情報を含む)で分野を特定せずに、問題解決の目的に関する「~する」といった動詞形のキーワードや、「速い」「ゆっくり」といった形容詞、副詞などの価値観に関するキーワードで、共通の目的や価値観を持った見本を探します。

 

見本が見つかったら、見本の構造とその本質を参考にすることで、課題を抱えたシステムの目的や価値観を、どんな構造やメカニズム、やり方で実現するか考えます。

 

Ideation TRIZのオペレータを使えば、あらゆる技術分野の具体的な見本および見本から抽出した問題の類型ごとの解決ヒントが約500件用意されていますので、その都度見本を探しに行かなくてもいいことになります。

 

Ideation TRIZのオペレータは発想のヒントを一般的な表現で提供しますので、オペレータを使用するためには次のような手順で類比思考を行います。

 

ステップ1:

オペレータが推奨する考え方を読みます。オペレータに付随する解説を参考にして、オペレータの狙いを理解できたか確認します。次に、(1)オペレータの考え方、(2)対象としている状況(システム)、の二つを同時に頭の中に描きます。

 

ステップ2:

頭の中でオペレータの推奨する考え方をシステムに適用してイメージしてみます。オペレータの考え方でシステムを強制的に変化させるとどのようになるか、結びつけてみます。イメージがわかない場合は、別の推奨内容を試み、次々と検討していきます。

 

ステップ3:

アイデアが浮かんだら必ず記録を残します。バカバカしいと思うようなアイデアや、無理かもしれないアイデアも記録します。こうした記録が後で役に立つのです。

 

ステップ4:

オペレータを読んでもアイデアが浮かばないときには、オペレータで推奨している内容をそのまま記載します。

 

たとえば、「並列処理」というオペレータでは、「同時に並行して実行できる複数の処理に、プロセスを分割することを検討してください。」という推奨文(解説文)が記載されていますので、アイデアとして「~(利用できる資源)を同時に並行して実行できる複数の処理に、プロセスを分割する」と未完成な状態のまま記録します。

 

そして、アイデアを見直す「方策案のまとめ」の段階で再検討し、この未完成なアイデアの「~」の部分に利用できる資源の具体的な名称を記入してアイデアを完成させます。

イノベーションの種類と「意味のイノベーション」の実現

オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターは、1911年に「経済発展の理論」という書籍の中で、イノベーションを、経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合することと定義しました(ウィキペディア)。

そして、イノベーションの種類として、次の5つを挙げています。

  1. 消費者の間でまだ知られていない財、あるいは新しい品質の財の生産
  2. 新しい生産方法の導入
  3. 新しい販路・市場の開拓
  4. 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
  5. 新しい組織の実現

 

現代では、イギリスのイノベーション研究者であるパビットが「イノベーションとは、機会を新しいアイデアへと転換し、さらにそれらが広く用いられるようにするプロセスである。」と定義しているように、多くの学者の議論により、①アイデアが新しいだけではなく、②それが広く社会に受け入れられる、という2つの条件が揃って初めてイノベーションと呼び得る、というのが定説になっています(「日本のイノベーションのジレンマ」、玉田俊平太著、(株)翔泳社発行)。

 

従来の我が国の経済発展は、いわゆる「カイゼン」を中心とするプロセス・イノベーションや、トランジスタラジオやヘッドフォンステレオの小型軽量化によるプロダクト・イノベーションの、先進国をキャッチアップし、より強い競争力を得るといった従来製品・サービスの改良による「持続的イノベーション」を中心に遂げられてきたと考えられます(「イノベーション創出に向けた現状と課題」、総務省、平成25年版白書)。

 

持続的イノベーションには、徐々に性能を向上させる「漸進的イノベーション」と、一気に性能を向上させてライバル企業を突き放す「急進的(画期的)イノベーション」があります。両者は、技術進歩の方向が、既存顧客が重視する性能の向上であるという点で共通しています。

 

多くの人がイノベーションという言葉を聞いて思い浮かべるのは、この持続的イノベーションでしょう。しかし、イノベーションとは「新しいものを創り出すこと」であり、必ずしも製品の性能の向上を意味しているわけではありません。

 

「新しいものを創り出すこと」と「広く社会に受け入れられる」の2つの条件を満足するものとして、既存の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品やサービスをもたらすイノベーションもあります。これを、従来製品・サービスの価値を破壊するという意味で「破壊的イノベーション」といいます。

 

「破壊的イノベーション」には、これまで製品やサービスをまったく使っていなかった顧客にアピールする「新市場型破壊」と、既存の主要性能が過剰なまでに進歩したために一般消費者が求める水準を超えてしまっている状況で、一部のローエンド顧客にアピールする「ローエンド型破壊」があります。

 

「新市場型破壊」の破壊的イノベーションとしては、パーソナルコンピュータの原型であるAppleⅡの当初の用途は「プログラミングやゲーム」であったものが、ビジカルクという表計算用のアプリケーションソフトが製品化された後は、家庭やビジネスで使用できる金銭勘定のための「実用品」へと変貌を遂げた例が挙げられます。

 

「ローエンド型破壊」の破壊的のベーションとしては、保温温度を何段階にも選べて、日本茶や紅茶の種類に応じて最適な温度でお茶が煎れられる機能、電動式ポンプで簡単にお湯を注ぐ機能はもちろん、その他の多くの機能を有する「湯沸かしポット」が一般家庭で使用されているときに、沸かしたお湯を保温することはできないが少ない量のお湯を短時間で沸かせる「電気ケトル」が、少人数での経済的な使用を実現した例が挙げられます。

 

何が変わるかでイノベーションを分類すると、

①企業から顧客に提供される「製品やサービス」が変わるプロダクト・イノベーション

②企業内部における「やり方」が変わるプロセス・イノベーション

の他に、③顧客の「認識」が変わるメンタルモデル・イノベーションという第三のイノベーションが考えられます(「日本のイノベーションのジレンマ」、玉田俊平太著、(株)翔泳社発行)。

 

顧客の認識とは、顧客にとっての製品やサービスの意味のことです。

そもそも、製品やサービスは技術と意味の両方の変化により生み出されます。顧客が本当に喜ぶ価値を「顧客価値」といい、「顧客価値」には「機能的価値」と「意味的価値」があります。

 

顧客価値というものは、経済状況や時代、その商品の成熟度などによって大きく変わってきます。例えば、高度経済成長期には多くの人が高性能で多機能な商品、すなわち機能的価値が高い商品を好んで選んでいましたが、今では自分の趣味やセンスに合ったものを選ぶ人が増えています。意味的価値の高い商品が好まれる時代になったのです。現在は、日本企業が得意としていた高性能・多機能の商品の顧客価値が必ずしも高いわけではないのです。商品の顧客価値は、機能的価値と意味的価値の合計ですが、現在は様々な領域で意味的価値の重要性が高まっているのです(「価値づくり経営の論理」、延岡健太郎著、日本経済新聞出版部発行)。

 

例えば、トヨタの高級車ブランドのレクサスは、単にトヨタの最高品質の自動車を開発するということではなく、最高のプロダクトを作るための新しいプロセスを作りつつ、それに相応しい新たなディーラー網を立ち上げ、そこで新次元の購入体験を提供して、顧客のメンタルモデルを変化させる必要がありました(「日本のイノベーションのジレンマ」、玉田俊平太著、(株)翔泳社発行)。つまり、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、メンタルモデル・イノベーションの3つを同時並行で起こさなければなりませんでした。

 

古典的TRIZは、そもそも技術の進化の法則に着眼し、発明的問題(技術的革新問題)を解決することを目的として開発されました。

 

今では、Ideation TRIZの戦略的世代進化(DE:Directed Evolusion®)というツールを使うことで、技術だけではなく社会、市場、消費者の進化のトレンドを総合的に判断して、製品やサービスや事業を新しい世代のシステムへ進化させるといった価値づくりの最上流の「企画の立案」作業を効率的に進めることができるようになっています。

 

玉田氏がいうメンタル・インベーションを「意味のイノベーション」と言い換えるとすると、意味のイノベーション⇒プロダクト・イノベーション⇒プロセス・イノベーションのすべての実現に当たって、戦略的世代進化(DE:Directed Evolusion®)のツールが有効に活用できます。