技術的問題を解決するために採用されるIPS(Inventive Problem Solving:発明的問題解決)ソフトウェア(ソフトウェアの名称はIWB(Innovation WorkBench®)という。)には組み込まれているオペレータは、技術的なアイデアを発想する際のヒントを提供するものです。
1つひとつのオペレータは、過去の発明のパターンを体系的に整理したデータベースの中の特定の知識です。IWBではオペレータの「タイトル」と「解説」と「事例」を知ることができます。IWBではオペレータのタイトルが約500あるといいます。
すべてのオペレータに習熟すれば、そのタイトルを聞いただけで適切な発明パターンを活用することができることになるでしょう。それは理想ですが、一般の研究者、技術者にそこまで求めるのは酷です。
オペレータはタイトルとその解説を読んだだけでは何のことを言っているのかわかりづらいものもあります。ロシア語を英語に翻訳し、それを日本語に翻訳したわけですから、無理もないかもしれません。
そこで、特定のオペレータの意味を理解するのに役立つのが、事例ということになります。オペレータの事例は、過去の特許にかかわる技術やアイディエーション・インターナショナル社が手掛けたコンサルの事例に基づいて作成されています。
ただし、IWBに出てくる事例は軍事関係の技術や機械分野、建築土木分野、電気分野、化学分野のものが多いことは否めません。そのため、最新の情報技術分野などについてのものは見当たらないのも事実です。
たとえ、自分が関係する技術分野の事例が見つかったとしても、その事例は具体的なものですので、その用途特有の事情がわかっていないと(それについての予備知識がないと)理解できないものもあります。
また、機械、建設土木、電気、化学、その他にわけた場合のすべてについて、少なくとも1つの事例があるということでもありません。
そのような状態のオペレータを有効活用するにはどうしたら良いでしょうか?
実は、オペレータに付随している事例を自分の問題に直接類比させて使おうとすると辛いと思います。
これは、TRIZやI-TRIZに限った問題ではありません。一般の知識であっても、自分の知らないものは自分が知っているものになぞらえて理解するしかないのです。
初めて電気回路について学んだ時のことを覚えているでしょうか?
電気回路を水が流れる水路に見立てて、電圧を水路の落差に、電気抵抗を水路にかかっている水車に、電流を1秒間に水路を流れる水の量に、電池を上流まで水を汲み上げるポンプに、それぞれなぞらえて理解したのではないでしょうか。電気は目に見えませんが、水の流れなら見てわかるからです。
つまり、類比思考をする際に使用する他の分野の事例は、自分のよく知っている内容のものでなくては役に立たないということです。日本で生まれた創造理論である「等価変換理論」では、これを熟知系といっています。
オペレータの事例を使ってアイデアを発想する場合、そのオペレータを使う人によって知識経験が異なるわけですから、その事例はその人が良く知っているものでなければならないということです。
IWBに掲載されている事例がわかり難いということであれば、一つひとつのオペレータについて、あなたはあなたのよく知っている事例を新たに加えていくことが必要になります。
これがオペレータを使いこなすための極意です。