ブレーンストーミングで創出したアイデアの整理方法

前回、単なるブレーンストーミングは慎重な日本人の性格に合っていないため、短時間でたくさんのアイデアが出ることはないといいました。
では、単に時間をかければたくさんのアイデアが出るかといえば、そうはいきません。それは考えるための視点が参加者の知識や体験の範囲に限定されるからです。つまり、会社でブレーンストーミングを行うとほとんどが同じ部署の担当者の集まりということになるため、全員が同じような心理的惰性(固定概念)に捉われているからです。
I-TRIZでは問題の本質に関係する複数のオペレータ(アイデア出しのヒント)という視点を採用し、たとえば5分毎に異なるオペレータを参考にして次から次へと異なる視点からのアイデアを出していくことにしています。
前回紹介しました「ブレーンライティング」とI-TRIZのオペレータを併用すれば、1グループ(原則として6人)が30分で約100件のアイデアが出せます。その中身は複数の視点の異なったアイデアが多数揃っていることになります。
そこで、これらのアイデアをどのようにして整理するか。
まず、1枚のアイデアシートには18件アイデアが記載されていますので、各自がアイデアシートから面白い(意外)と思うアイデアを3件選択します。この段階では、実現可能性の良否で選ばないことが大切です。実現可能性は二次的問題として後でじっくりと解決策を考えます。
次に、各自が選択した3件のアイデアについて選択した理由(新たな視点)を全員に発表します。
発表は、従属関係にない2つの視点(目的(要求機能)と手段(構成要素))からなる4象限マップを作成して行います。その際、それぞれの視点には「長い、短い」、「無限、ゼロ」のような両極端の概念を指標として採用します。
4象限マップの指標にしたがって出来上がった領域のどこかに、自分が選択したアイデアをマッピングすればよいかを考えます。また、現行製品やサービスがあれば、この4象限マップにマッピングします。
4象限マップにアイデアをマッピングすることで、参加者の心理的惰性(固定観念)が読み取れます。そこで、4象限マップから読み取れた心理的惰性を打破するようなアイデアを創出するようにします。このときには、アイデアの組み合わせを考えるとよいでしょう。
4象限マップ上でアイデアの整理をする意味は、心理的惰性を見える化し、その心理的惰性を打破するアイデアを創出することにあります。これは、ブレーンストーミングの本来の目的の一つです。

ブレーンストーミングで有効なアイデアをたくさん出す方法

日本で最も多く使用されている問題解決に関する技法は、ブレーンストーミングであるといわれています。事実、ゴードン法、シネクティクス、QFD、NM法、等価変換理論、TRIZでも、アイデアを出す際にはブレーンストーミングを使っているわけです。
ブレーンストーミングは広告代理店のアレックス・オズボーンによって考え出されたもので、次のルールに従って行われます。
(1)アイデアに対する否定的な判断は保留し後回しにする(批判厳禁)
(2)非凡なアイデアまたは無謀なアイデアも大いに述べる(荒唐無稽)
(3)他人のアイデアに便乗してよい(便乗歓迎)
(4)アイデアが多いほどよい(質より量)
ブレーンストーミングを行う際には、まずどういう問題を解決すべきかはっきりさせた上で、固定観念を捨てて何らの制約を設けずに自由連想するという。また、画期的なアイデアを生み出すためには、できる限り遠くの世界にさまよい出ることが有効であるといいます。
しかしながら、ブレーンストーミングで得られるアイデアの数は多くないし、ほとんどがいわゆる単なるアイデアといった実施可能性が低いものばかりで、期待するほどの効果が得られないとの批判があります。
アイデアの数を増やすためには、問題に詳しい専門家を参加させることはもちろん、全員が発言することを前提としたものでなくてはなりません。しかし、日本人は「こんなのは笑われる」、「実現可能性が乏しい」と自分で自分のアイデアを評価してしまい、結果的に発言しないことが多いため、ブレーンストーミングをやってもたくさんのアイデアが出ることはありません。
そのような日本人の性格に合ったブレーンストーミングがあります。それを「ブレーンライティング」といいます。「ブレーンライティング」はドイツ人のホリゲルが開発した635法を、バッテル記念研究所のスタッフが改良したアイデア発想法です。
「ブレーンライティング」では、ブレーンストーミングのような議論のようなことはせず、全員に配られたシートの上にアイデアを書いていきます。「ブレーンライティング」は6人1グループを原則として行いますので、グループに6枚のシートが必要です。
決められた時間(通常5分)でアイデア(3件)をシートに記入していきます。「ブレーンライティング」には、前の人が記入したアイデアと同じアイデアは記載できないというルールがありますので、これを守ります。
アイデアを記載したシートは回覧板のように次の人へと順番に回していきます。すると、6人×5分=30分で一巡します。1シートに6人×3件=18件のアイデアが記載されますので30分で6シート×18件=108件のアイデアが出ることになります。
ブレーンストーミングではじっくり考えることはできませんが、「ブレーンライティング」では持ち時間の5分間は熟考できますので、日本人の性格に合っています。

技術開発の死の谷を越える

新技術を開発しても、それを受け入れる市場ができていない場合には、いわゆる「死の谷」に
落ち込んでしまい、日の目を見ずに終わることがあります。
古く、複雑で、生産量が比較的少なく、開発している企業の数が少ないなどで競争も激しくないシステムでは、システムの基本的パラダイムが、可能な改良のアイデアが出尽くしていないうちに、時期尚早に固定化してしまっている。
その結果、本来は成長期にあるべきシステムの性能は長期間ほとんど変化していない、どの会社も同じような製品を売っている状況(成熟期に似た状況)に陥っていることがあります。
成熟期では、それまでにシステムに関する標準は確立され、固定化されているため、原理的に高度な発明は行われず、改良といっても仕様の最適化、妥協的な設計、小さな発明が行われるだけです。
他方、売り上げは順調に伸びているため、新しいシステムへ移行することなどには思いも寄らない。その結果、いつも間にか安価な代替システムに市場を奪われてしまうことになります破壊的イノベーション)。
いずれのケースも、システムやその周辺に存在する資源を見逃しているか、またはそれらの資源の活用が不十分であることに起因しています。
いずれのケースも問題解決の鍵は資源の有効活用である。となれば、既存の技術の新しい用途を見つけ出す用途開発の手法が使えるはずです。
つまり、システムの資源を有効活用すべく新しい市場を作り出せばよい。そのためには、人の新しい生活習慣や振る舞いを提案する新文化の開発が必要です。
まずは、「高齢者の理想の暮らし」とは何か、といった新しい価値観、文化のデザインに挑戦し、その後で、その暮らしを実現するための技術開発に挑戦してみましょう。
以上のような考えに基づいて、今年から日本TRIZ協会の知財創造研究分科会では「高齢者の新しいライフスタイルを提案する」ことをテーマに複数年をかけて検討していくことになりました。
今後開催されるTRIZシンポジウム(直近は今年の9月)でその報告をする予定にしていますので、楽しみにしていてください。