新規事業や起業を開始するときの戦略として、やりたいこと(テーマ)を並べ挙げて、それらのテーマ毎に必要な条件を決定し、それらの条件を満足する手段を考えようとする方法があります。
これは、理想の状態と現状との差を埋めるタイプの問題解決法であって、まったく新しいシステムを開発する場合に利用される「理想性アプローチ」という有効な手法の一つです。
新規事業や起業を開始するときには、自分のやりたいことが先走ってしまうため、当初立てた企画の評価も不十分なまま、スタートを切ってしまうケースが多々見受けられます。
その結果、当初思っていたようにはいかない状況に行き当たります。そのため、ようやくこの段階で自分が立てた企画の見直しをすることになります。
この段階での企画の見直しの場面で起きる過ちは、企画を0から考え直すことです。そもそも、最初に立てた企画が「やりたいこと」を中心に、自分が思い込んでいる「こうなるはずだ」という仮説の連続で作り上げられたものである場合には、0から考え直したところで、修正企画案の結果も同じことになりかねません。
前だけを向いて進むのは一見かっこいいのですが、後ろを振り返ることを先に行うべきです。
曲がりなりにも、スタートを切ってから現在までに経験した結果があるはずですので、その過程を振り返った、現状での不具合を分析してみることです。
そのためには、スタートから現在までに起きた事象の因果関係を追って、望ましくない現在の状況が存在している理由を明らかにすることです。
具体的は、個々の事象とその原因、個々の事象から起きた結果、のそれぞれについて因果関係の連鎖の形で表した「因果関係ダイアグラム」を作成することです。
現状分析の「因果関係ダイアグラム」は、米国のアイディエーション・インターナショナル社が開発したプロブレム・フォーミュレータ(PF:Problem Formulator)を使えば、比較的簡単に作成できますが、普段使用しているワープロや表計算のソフトウェアに付属した描画機能を使用しても作成できます。
現状分析の「因果関係ダイアグラム」を作成する目的は、第一義的に、現在起きている不具合(予想と違った結果)について、その不具合の因果関係のメカニズムを明らかにすることにあります。
因果関係のメカニズムがわかれば、不具合の原因となっている特定の事象にどのような変更を加えれば、結果としてどのような都合のよい事象が起きるかが予測できますので、問題解決の見通しが立てられます。
新規事業や起業のスタートアップで起きた不具合について「因果関係ダイアグラム」を作成することの目的は、むしろ当初の企画立案時には深く考えることがなかった自分の思い込みによる誤りに気づき、その思い込みを排除した客観的な因果関係に基づいた企画案に作り替えることにあります。
「やりたいこと」を中心にした当初の企画案を成立させていた「思い込み」「仮定」を見つけ出し、それらを客観的な「前提」に切り替えて、再度考え直してみましょう。
「思い込み」は個々の事象だけではなく、目的についての「思い込み」もあります。当初のまったく新しいシステムを開発するといった企画案の目的を見直して、より本質的な目的に切り替えることが有効です。
その昔、ある企業が介護施設で使用する「老人向けの風呂」を開発するというテーマに取り組んでいたとき、当初は「老人の体を洗う」ことがその風呂の目的だと考えていました。そのときに生まれたアイデアは、従来のものを多少改良した当たり前のようなものばかりでした。
そこで、当初の「老人の体を洗う」という目的の1つ上の目的は何かと考えてみたところ、「体を清潔に保つ」「体をマッサージする」「体をお湯につける」というものが見つかりました。さらに、その上の目的を考えるということを繰り返した結果、「若さを取り戻す」「生命力を吹き込む」といったより本質的な目的が見つかりました。
そこで、この「生命力を吹き込む」という目的に切り替えて、「老人向けの風呂」を開発した結果、新しく開発した風呂に是非入りたいという老人が大勢押し寄せたといいます。