心理学者であるアンジェラ・ダックワーク女史が、いろいろな分野の成功者の共通点としてあげたのは「才能」ではなく、「やり抜く力」です。彼女は「やり抜く力」こそが誰でもどんな分野でも一流になれる最強・最適な方法であると主張しています(「やり抜く力」、アンジェラ・ダックワーク著、神崎朗子訳、ダイヤモンド社発行)。
「やり抜く力」は物事を最後まで実行する力のことです。目標に向かって最後まで実行すれば、成功できます。最後までやった人が成功するのです。
何かの目標に向かって最後までやるには、その目標を達成することの意味を深く理解し、それを固く信じて疑わない心が必要です。これを「信念」といいます。「信念」こそが人の行動を駆り立てるエネルギーの源といえるものではないでしょうか。
個人や企業(組織)であれば、それが「理念やビジョン」という形になります。
個人や企業(組織)の将来のあるべき姿を描いた「ビジョン」こそが、成功への鍵を握っているのです。特に、企業(組織)にとっては、役員、従業員などの構成員の全員が同じ思想のもとに一致団結するための拠り所といえるものが「ビジョン」です。
個人や企業(組織)がやるべきことは、問題を解決することです。問題を解決するためには、その問題を解決する意義を自分/自社の「ビジョン」に照らし合わせて考えることが最初になります。
その問題を解くことで、何が実現できるようになるのか。その結果として、「ビジョン」の達成に近づくことができるのか。
ジェラルド・ナドラーと日比野省三氏が創案したブレークスルー思考では、仕事をするときに犯しやすい「7つの過誤」を教えてくれています(「ブレークスルー思考」、ジェラルド・ナドラー、日比野省三共著、発行)。それによれば、(1)やってはいけないことをやる、(2)選択を間違える、(3)間違った問題に対して努力して正解を出す、(4)タイミングを間違える、(5)アプローチをまちがえる、(6)管理過剰を行う、(7)思い込みの失敗をおかす、が犯してはならない7つの過誤であるといいます。
ここでは、7つの過誤の3番目の「間違った問題に対して努力して正解を出す」ことについて考えてみます。
そもそも、仕事として取り組む問題には、自らの思いつきの問題や上司から与えられた問題がありますが、これらは間違った問題の可能性があります。
自分の「信念」に従って一生懸命やれば必ず成功するかといえば、そうではありません。「信念」の先にある「ビジョン」が正しくなければ、その努力は報われません。同様に、その問題が間違いであったら、その仕事は失敗に終わります。
やらなくてもよいことを、効率よくやることほど、非効率的なことはないのです。問題解決に取り組む前に、よくよくその問題を解決する意義を考える必要があります。
異質なものを結びつけ統合するという意味の「シネクティクス」という類比思考の手法では、最初に「与えられた問題(Problem as Given = PAG)」を「理解した問題(Problem as Understood = PAU)」に変換するという手順があります。これは、ずばり、「間違った問題に対して努力して正解を出す」過ちを避けるための方法の1つといえます。
「与えられた問題」とは、顧客や上司から与えられた問題ということです。「与えられた問題」はそれを鵜吞みにするのではなく、自分かよく理解した「理解した問題」に変換することで、真の問題を明らかにする必要性がある、ということです(「シネクティクス」、大鹿譲、金野正共著、ラティス社発行)。
私の経験では、問題そのものについての深い検討を行った結果、真の問題は別のところにあったということも多くありましたので、真の問題を明らかにする作業は問題解決を成功させるには最も重要なことといえます。