非まじめ、不合理、反システム、逆転思考

現在世界中で行われるロボットコンテストの開催を最初に提唱した、日本のロボット工学の権威である東京工業大学名誉教授の森政弘博士は、「まじめは美徳であるが、まじめの基本的な性質は一面的で一方的で視野が狭い。不まじめは困るが、ここにいう『非まじめ』は、まじめに対する非まじめの意味ではない。正・反・合というように、正のまじめと、反の不まじめとを共に包括して、しかもそれを超えた徳性を『非まじめ』という」といい、「非まじめ」の実行を勧めています(「非まじめのすすめ」、森政弘著、講談社発行)。

 

企業の経営者や起業家にコーチングを提供しているポール・レンバーグが著した「不合理のマネジメント」に関する書籍では、「辞書によれば、『合理的』とは理にかなっていること、『不合理』とは理にかなっていないことを言う。しかし現実を見れば、合理的とは世の中の常識に従うことであり、不合理とは自分の心の声に従うことである」「理にかなった行動をするとは、昔から行われていたことや、ずっと昔に誰かがこうすべきだと言ったことをあたかも絶対的に正しいかのように取り上げ、その結果、素晴らしい結果をもたらすかもしれないユニークな考え方を殺してしまうことだ。」として、「不合理」の実行を勧めています(「会社を変える不合理のマネジメント」、ポール・レンバーグ著、山崎康司訳、ダイヤモンド社発行)。

 

ポール・レンバーグは、「理にかなった行動をすることはビジネスを維持するための助けになるかもしれない。しかし、それは同時に、ビジネスを大きな上昇軌道に乗せることへの妨げになる。」「ビジネスを大きく成長させたいと思うならば、未来をつくり出す自分の能力を信じなさい。」ともいっています。

 

TRIZの創始者であるアルトシューラは、「優れた設計者が質的に異なっている点は、課題として与えられたシステム(製品や技術)だけではなく、上位システムや下位システムを視野に収めているところです(「クレーン」についての課題では建設計画全体(上位システム)を変化させたり、クレーンの材質(下位システム)を変化させたりすることによって解決することも可能です)。」「もう一段高い優秀さの特徴は、それぞれのシステムレベルについて、現在の状況だけでなく、過去と未来をも視野に入れているという点です。」といい、発明者の特徴的な能力や性質について説明しています(「体系的思考を育てることがARIZを教える最終目的だ」、アルトシューラ著、TRIZ塾 http://www.trizstudy.com/)。

 

「さらにもう一段高い水準はシステムとともに反システム―クレーンに対しては反クレーン、木に対しては木の反対のもの、など―もまた視野に入れることのできる才能です。これが特に重要になるのは対象としているシステムが発展の可能性を使い尽くしていて、何か原理的に新しい物に置き換える必要がある場合です。」とし、課題として与えられたシステムが「砕氷船」の場合であれば、氷を砕かない「反砕氷船」という反システムについて検討することであるといいます。

 

こうすることで、課題に対する大胆な解決策に一気に近づくことができるとし、「反システム」を考えることを勧めています。

 

Ideation TRIZのFA(Failure Analysis)という不具合の分析と不具合の再発防止を行う手法と、FP(Failure Prediction)という不具合の予測と不具合の未然防止を行う手法では、理由のわからない「不具合」の隠れた発生メカニズムの解明と、未知の潜在的な不具合の予見のために使う従来にない有効性をもった「逆転思考」による分析方法を勧めています。

 

「逆転思考」による分析の要点は、不具合の原因を「どのようにしてそれが起きているのだろうか。」と推測するのではなく、問題を逆転させ、それを積極的な表現に置き換えることです。

 

それにより、不具合分析(FA:Failure Analysis)では、推測するのではなく何かを成し遂げようとすることで、考える人が純粋な情熱、創造力、能力や専門知識を総動員するようになります。「達成しようとすれば、道は見つかる」のです。

 

また、不具合予測(FP:Failure Prediction)においては、自分の計画や作業について「何が問題になるだろうか」と考えると、気持ちが守りに入ってしまい、否定的反応によって「私の」システムや計画について問題が発生する可能性を否定したり、最小限に見積もったりするようになってしまいます。ところが問いを逆転させて、「どのようにすれば問題を引き起こすことができるだろうか」と考えると、攻めの姿勢に転じることができます。潜在している不具合を発見することが満足感を与えてくれるので、その目的に向って自分の創造的能力を発揮するようになるのです。

 

自然の中には「良い」現象も「悪い」現象もありません。すべての現象は無色中立です。本来は中立的な自然現象も、否定的な観点から見ると見えなくなってしまうことがあるのです。つまり、実際に起きているできごとの背景にある現象のメカニズムはすべて必ず自然の法則に従っているのですから再現が可能なのです。つまり、問題を逆転することによって否定的な作用を現象として利用する視点が生まれるのです。