「創造とは、既存の要素を有機的に組み合わせることで、ある目的を達成することができる新しい手段を得ることである。」と定義すると、創造的な問題解決には、(1)問題を発見すること、(2)その問題を解決するためのアイデアを出すこと、(3)そのアイデアを具体化すること、(4)その結果得られた具体案を分析・評価し、成果を確認すること、といった工程が必要と考えられます。
発明活動も創造活動の1つですから、当然前記(1)~(4)の各工程をたどると見ることができます。この意味で、発明活動を効果的に進めるための「発明技法」といった観点から、特に有効と思われる創造技法を各工程に位置付けると「発明活動における情報処理パターン」なる発明思考の手順を示すフローチャートが出来上がります。
「発明活動における情報処理パターン」の基本形は、市川亀久彌氏の等価変換フローチャート(「創造工学」、市川亀久彌著、(株)ラテイス社発行)を採用させていただきました。加えて、中山正和氏のHBCモデルおよびNM法(「NM法のすべて」、中山正和著、産業能率大学出版部発行)の各パターンとの対応関係を表したものです。
「発明活動における情報処理パターン」では、自発的(能動的)にスタートする場合には、その問題に関する欠点を抽出する「欠点列挙法」、希望することを列挙する「希望点列挙法」、川喜田二郎氏の「KJ法」(「KJ法-渾沌をして語らしめる」、川喜田二郎著、中央公論社発行)などを使用することが有効としています。
自発的(能動的)にスタートする場合には、願望や不満感といった問題解決の欲求はイメージとして現れますので、イメージ情報が主として保存されている右脳が働き出します。
また、上司から問題が与えられたように受動的にスタートする場合には、「発明活動における情報処理パターン」では、江崎通彦氏「KWの方法」(「デザイン・ツー・コストの新しい考え方とその手順」、江崎通彦著、産業能率大学出版部発行)を使用して、その問題を自分が理解できた問題として捉えることを薦めています。
ゴードン氏の「シネクティクス」(「シネクティクス」、W.J.J.ゴードン著、大鹿譲・金野正共訳、(株)ラテイス社発行)では、このことを「与えられた問題を理解された問題へ変換する」と表現しています。
受動的にスタートする場合には、問題は言葉で与えられますので、コトバ情報が主として保存されている左脳が働き出します。
問題が理解されたら、主として右脳に記憶されているイメージを走査してキーワード群(ΣKW)から1つのキーワード「KW」を選択して言葉で表現します。これにより、問題解決の方向づけができたことになります。
問題を解決するアイデアを出す方法には、その難易度により3つのタイプが考えられます。
1つは、求められる働きが何であるかを追求し、その機能を果たすことのできる方法や装置を考えていく方法で、「機能・装置開発型」とでもいえるものです。
2つには、ある働きを持った材料、装置または方法をいろいろな分野に利用できないかと考えていく方法で、「用途開発型」とでもいえるものです。
3つには、既存の装置や方法の欠点を見つけて、それを改良するための手段を考えていく方法で、「改良型」とでもいえるものがあります。
「発明活動における情報処理パターン」では、「機能・装置開発型」には、発散思考と集束思考の両方を活用し新しい機能や構造を開発するための、創造技法のうち論理的で体系的な技法である中山正和氏の「NM法T型」+「NM法A型」や江崎通彦氏の「FBSテクニック」(「デザイン・ツー・コストの新しい考え方とその手順」、江崎通彦著、産業能率大学出版部発行)などが有効としています。
また、「用途開発型」には、発散思考を中心にいろいろな観点や分野を当たることで新しい用途を開発するため、創造技法のうち固定観念にとらわれない発想法を促す技法である「ブレーンストーミング」や「NM法T型」の他、思考のきっかけを与える技法であるオズボーン氏の「チェックリスト法」が有効としています。
「改良型」には、発想の拠り所となる既存の装置や方法(これをモデル技術という。)がありあます。そのため、体系的で大掛かりな創造技法を使うまでもなく、発散思考によりたくさんのヒントに近いアイデアを出して、その中から適当なものを選択するといったことで十分であるため、「用途開発型」と同様の創造技法が使えます。
いずれの創造技法を使用する場合にも、キーワード「KW」(問題の本質:ε)が決定された後は、このキーワード「KW」を頼りに、イメージの中のアナロジー群ΣQA(モデル技術群ΣAο)から1つのアナロジーQA(モデル技術Aο)を選んで、それを言葉で表現します。
このアナロジーQA(モデル技術Aο)の背景イメージQBを走査し(この際、不必要要素Σaを廃棄する)、問題解決に役立つヒントQCを探し、そのヒントに基づいて基本アイデアとなる原理図cεを作成します。
原理図cεが完成したら、問題との整合性を確認し、判断の結果OKであれば、技術情報ΣTIや市場情報ΣMIの中から新しいアイデアの必要要素技術Σbを選択し、これを付加することで具体案Bτを完成します。
判断の結果NOであれば、複数のヒントQCを組み合わせる思考実験を行いながら、納得できる具体案Bτを完成させます。
具体案Bτが決定したら、その案に基づいて試作品を製作して、その実用性を判断します。判断の結果、OKなら発明が完成したことになります。NOであれば、技術情報ΣTIや市場情報ΣMIまで戻って、当初選択したものと別の必要要素技術Σbを採用してみて具体案Bτを作り直します。
それでも満足が得られそうもないような場合には、「発明活動における情報処理パターン」では、思い切ってアナロジーQAまたはキーワードKWの選定する段階まで戻って、当初選択したものと別なものを選択して、再度同様の検討を行うことを薦めます。