システムの理想性を高める進化のライン-(2)システムに含まれる不都合な要因の減少

今回は「理想性の向上」という進化のパターンに関連した進化のラインとして、「(2)システムに含まれる不都合な要因の減少」のラインについて説明します。

 

「(2)システムに含まれる不都合な要因の減少」の進化のラインには、(1)不都合な要因とそれを減少させる方法、(2)望ましくない機能とその作用に対する姿勢の進化、(3)有害な作用の予測の進化、(4)有害な作用に対する反作用の進化、(5)有害な作用に対する防御の進化、(6)有害な作用を受けるシステムの進化、(7)有害な作用を引き起こすシステムの進化、(8)システムのコストの進化、(9)有害な作用を取り除く手段の進化、(10)有害機能の有益機能への転換、などがあります。

 

システムの有益機能が進化するプロセスは常に予測の難しい変化を伴います。進化に伴って、不都合な要因が蓄積し、有害な機能やそれがもたらす有害な作用が発生してくるのです。

 

「(1)不都合な要因とそれを減少させる方法」の進化のラインという観点では、多くのシステムで観測される不都合な要因と、それに対処する方法には次のようなものがあります。

 

「一般的な不都合」→「その不都合を減少させる方法」の順に説明すると、次のようなことがいえます。①(特に)システムの進化の初期段階で通常の市場分析が不可能な時期における顧客のニーズ、希望、好みについての不完全な理解、あるいは、誤解。→人々や市場のニーズに関連する進化のパターンを活用する。類比思考を活用する。②a.システムに固有の重要な問題が未解決となっていることに関連して、システムを使用することに不便や危険が伴い、システム自体が往々にして複雑過ぎる。→アイディエーション社の先行的不具合対処(AFD)プロセスに含まれる不具合予測(FP)あるいは不具合分析(FA)を活用して、問題を未然に予測し、あるいは発生した問題の原因を分析する。b.システムやその機能、下位システムなどの改良や開発に関連する判断の誤り。→問題を迅速に解決するためにTRIZの創造的手法を活用する。③(とりわけ、生産規模の拡大、システムの規模の拡大、使用時間の延長などに関連する)有害な作用に関する知識不足。→不具合予測(FP)を活用し、変化に伴う効果を予測して未然に対処する。

 

「(2)望ましくない機能とその作用に対する姿勢の進化」の進化のラインでは、多くの場合、有害な作用を1つの攻撃だと理解することができます。たとえば、「ある部品に対する腐食の攻撃」「市場における競合相手の攻撃」「事故の際の誰かの車による自分の車への攻撃」「事業利益に対する税務当局の攻撃」などのように捉えることができます。攻撃への対処の仕方は様々ありますから、予測される被害に対応して十分な対処方法を選択することが大切です。たとえば、税務当局が存在しないようにしてしまうまでの対応は不必要です。対処の仕方には次のような考え方があります。①有害な作用を見落とす、あるいは、有害な作用について知らない(たとえば、100年以前にはタバコを吸うことの有害な作用は知られていませんでした)。→②有害な作用を避けられないものとして我慢する(たとえば、自動車の歴史の中で、長い期間騒音が問題視されることはありませんでした)。→③有害な作用が持つ攻撃のエネルギーを吸収する装置や作用を使った受身の防衛。→④攻撃のエネルギーをそらしたり、エネルギー源に向けて反射させる半ば能動的な防衛。→⑤攻撃の源泉に向けて、こちらからもエネルギー使って反応する積極的な防衛。→⑥こちらが被害を被らないうちに、有害な可能性をもつ源泉に対して攻撃を仕掛ける、予防的攻撃による積極的防衛。

 

「(3)有害な作用の予測の進化」の進化のラインでは、①既知の有害作用に対する防御のみ。→②予測の難しい有害作用から贅沢(余裕、安全係数、予備の出力、など)な防御策を講じ、結果としてコスト、重量などが増える。→③類推、数学的計算、モデルの研究、などに基づいた、有害な作用の簡単な予測。情報の蓄積と分析に基づくFMEA、HAZOPなどの手法の活用。→④診断システムを用いた有害作用の早期検出。→⑤不具合予測(FP)などの専門的手法に基づいた複雑な有害作用(システム効果、多経路(マルチパス)効果、遅延的有害作用、など)の予測、のように進みます。

 

「(4)有害な作用に対する反作用の進化」の進化のラインでは、①有害作用の原因を取り除く。→②有害作用の有害さを許容可能な水準まで下げる。→③有害作用が発生する頻度および発生する可能性を下げる。→④有害性を持つ作用を、他の有害性が低く許容水準内に収まる作用に置き換える。→⑤有害作用およびその結果が、何かによって埋め合わせされることを条件として、その作用を我慢する。→⑥有害作用そのものに対して直接対抗手段を講じて、作用を弱めたり、その影響を遅らせる(たとえば、負のフィードバック作用を使って作用を弱くする)。→⑦特定の有害作用がユーザーに与える効果を減少させる(たとえば、有害な結果が目立たないようにする(マスキング効果)。→⑧有害な作用を受け入れやすくするために有益な作用を追加する(たとえば、苦い薬を糖衣錠にする)。→⑨有害作用を無害な作用に変化させる。→⑩有害作用を有益に利用する方法を発見する、のように進みます。

 

「(5)有害な作用に対する防御の進化」の進化のラインでは、①システムのコストアップにつながる作用によって有害作用から防御する(a.システムの構造や操作・保守作業の複雑化を伴う対策、b.より優れた素材や装置の導入、c.より高価な生産方法の採用、製造精度の向上、システムに有害作用を減少させる、予防する、打ち消す、などの機能をもつ下位システムや要素を組み込む)。→②有害作用と関係している有益作用を変化させることによる有害作用からの防御(a.有害作用に関係している有益作用を減少させたり、悪化させることで対処する、b.有益なプロセスの実行スケジュールや特性値を変化させることによって有害作用を減少させる、c.有益なプロセスの制御性を高めることによって有害作用を排除する)。→③システムの転換による有害作用からの防御(a.有害作用やそれに関係のある作動ステップを他のシステム、下位システム、あるいは上位システムに移す、b.システムを有害作用を活用できるようにする他のシステムと一体化させる、c.システムを同じ機能を他の方法で実現し、元のシステムと異なる有害作用をもつ他のシステムとハイブリッド化して、お互いの有害作用を相殺し合うようにする)、のように進みます。

 

「(6)有害な作用を受けるシステムの進化」の進化のラインでは、①システムを有害な作用・動作から隔離する。→②有害な作用・動作の向かう方向を変える。→③有害な作用の危険性を減らす目的でシステムの耐性を高める(ワクチン効果)。→④有害作用の影響を受ける、あるいは、有害作用に対する感受性が高いシステムの要素を取り除く。→⑤有害作用の影響を受ける、あるいは、有害作用に対する感受性が高いシステムの要素に対して特に防御策を講じる。→⑥システムに次のような追加の装置、物質、エネルギー場、などを導入する(a.有害作用を受動的に抑圧あるいは吸収し、他方、システムの有益機能に悪影響を与えない(あるいは良い影響を与える)、b.有害作用に能動的に反作用を行う)。→⑦システムの環境あるいはシステムの要素を変更する。→⑧有害作用の影響を受けるシステムの要素を並行的、あるいは、定期的に修復する。→⑨システムと類似の機能を持ち、問題となっている有害作用の影響が生じない別のシステムに交換する、のように進みます。

 

「(7)有害な作用を引き起こすシステムの進化」の進化のラインでは、①システムを隔離して、有害作用の影響範囲を限定し、影響が広がったり、特定の方向に伝わったりして有害性が表面化しないようにする。→②有害作用を安全に排出しあるいは取り除く目的で、有害作用のための経路をつくる。→③有害作用を引き起こすシステムの要素の排除。→④有害作用を抑圧あるいは吸収し、他方、システムの有益機能に悪影響を与えない(あるいは良い影響を与える)追加の装置、物質、エネルギー場、などをシステムに導入する。→⑤システムあるいはシステムの作動プロセスを下位システム、あるいは、下位ステップに分割して、有害作用を引き起こしている下位システム、あるいは、下位ステップに対策を講じる(たとえば、a.当該の下位システム、下位ステップの隔離、b.有害作用に対する反対作用の導入)。→⑥有害作用の発生に関係しているシステムの外部環境や内部環境を変化させる。→⑦システムと類似の機能を持ち、問題となっている有害作用を引き起こさない別のシステムに交換する、のように進みます。

 

「(8)システムのコストの進化」の進化のラインでは、①システムの簡素化。高価あるいは過剰な装置や下位システムが排除される。→②システムを生産する技術の簡素化。人の労働や補助的作業などが排除される。→③大量生産方式への移行。→④製造拠点の労働コストの安い国・地域への移動。→⑤輸送、保管、組立、保守、修理、使用に関わる管理費の削減。→⑥機能を限定した、耐久性が高く、省エネで、他のコスト関連性能の優れた専用システムの開発。→⑦高コストに対する代償機能(a.高コストを高機能によって補う汎用システムの開発、b.高コストを高級感や独自の特性で補う豪華システムの開発)のように進みます。

 

「(9)有害な作用を取り除く手段の進化」の進化のラインでは、①有益機能を引き下げることによる有害作用を排除する。→②ある不都合を他の不都合に置き換える。→③有害作用を何らかの方法で補填する。→④有害な流れとの対応関係を回避する。→⑤有害作用への反対作用を導入する。→⑥有害作用を有益に活用する、のように進みます。

 

「(10)有害機能の有益機能への転換」の進化のラインでは、①有害機能との格闘。→②ある有害機能やその作用を部分的に許容する(a.有害作用の発生可能性を許容可能な水準に引き下げる、b.有害作用の有害さを許容可能な水準に引き下げる、c.有害機能とその作用を完全にあるいは部分的に相殺する、d.有害作用を有益作用と組み合わせて許容できるようにする(糖衣錠の効果))。→③一部の有害機能や作用の結果を有益な目的に活用する。→④一部の有害機能や作用を有益な目的に活用する。→⑤従来有害機能を考えられていた機能を基本有益機能にしたシステムの創出、のように進みます。