Ideationプロセスの「結果の評価」

IdeationTRIZ(I-TRIZ)は、アルトシューラの開発した古典的TRIZと違って、より実践的であって、解決コンセプトの実現可能性、信頼性、優位性を高める工夫がなされています。

 

解決コンセプトの実現可能性を高めるためにIdeationプロセスでは、中核問題についてのアイデアを出した後で、問題の様々な側面にそれぞれ対処する複数のアイデアを組み合わせることによって、状況を大きく改善する解決コンセプトとしてまとめあげる作業を行います。

 

アイデアを組み合わせる理由は、個々のアイデアには長所もあれば短所もあり、一方、優れた解決コンセプトは長所はあるが短所はないというものでなくてはならないからです。

 

アイデアを組み合わせるには、(1)同一の機能をねらったアイデアを組み合わせる、(2) 既存のシステムを組み合わせることで解決コンセプトのアイデアを得る、(3)解決コンセプトができたらそれを単純化することを試みる、といった方法を採用します。

 

問題解決作業の目標は、実行可能な解決コンセプトを1つ、場合によっては複数まとめあげることです。

 

解決コンセプトを評価するときには、アイデアに欠点や潜在的な問題が予測されるからといってその案を捨ててしまえば、残る案は1つもなくなってしまいます。案を捨てるのではなく、案に付随する顕在的・潜在的な欠点そのものを二次的な問題ととらえるようにします。その後、二次的な問題を解決する方法を考え出します。これにより、実現可能性を高めることができます。

 

解決コンセプトに関連して二次的な問題があることに気づいてもその案を放棄しません。二次的な問題はもう1つの問題があるというだけのことです。しかも、二次的な問題の解決は、多くの場合、当初の問題を解決するよりも容易です。

 

二次的な問題に取り組む時には、まずIdeationTRIZが定めた「標準問題」のなかに該当するものがないか検討してください。

 

対象としている問題を「標準問題」の1つとみなすことができれば、IdeationTRIZの知識ベースを直接適用することが可能です。

 

下記の「標準問題」リストから課題のありかたに類似性のある項目を選択し、適合性のあるリンクをたどっていくと、対応する解決ヒント集(オペレータ)に到達します。

 

(1)生産性を改善する、(2)利便性を改善する、(3)信頼性の向上、(4)機械的強度を改善する、(5)製造精度を改善する、(6)コストを低減する、(7)単純化、(8)重量を軽減する、(9)エネルギー消費を低減させる、(10)浪費時間を減少させる、(11)機能効率を向上させる、(12)変形、ずれ、衝撃、振動、破壊を抑制する、(13)騒音を低減させる、(14)摩耗を低減させる、(15)汚染を軽減する、(16)過熱を回避する、(17)環境との相互作用を減少させる

 

また、二次的な問題は、(1)どのようにして特性、機能、適応性を改善するかといった「有益機能を改善する」問題、(2)どのようにして有害な特性を排除、低減、防止するかといった「有害機能の排除、低減、防止」に関する問題、(3)ある有益機能は有益な結果を供給しなくてはならない、同時に有害機能を引起してはならない。どのようにシステムを変化させることで、望む有益な結果を実現し、有害な結果はなくなるか軽減されるようにするかといった「矛盾解決」問題、のいずれに該当するかを判定し、それぞれの問題のパターンに対応する解決ヒント集(オペレータ)を参照して、問題解決を図ります。

 

もうひとつの方法は、二次的な問題についてプロブレム・フォーミュレータを使って因果関係モデルを作成することです。

 

当初に作った問題状況の因果関係モデルに検討中の解決コンセプトを実行した場合の状況と、それに付随する二次的な問題を書き加えてください。

 

因果関係モデルで、新たに描き加えたボックス(有益機能または有害機能)を選択して、追加したブロック(新たに描き加えたボックスの集まり)に関連する新しい解決指針を得て、その課題を実現する解決ヒント集(オペレータ)を参照して、二次的な問題の解決を図ります。

 

当初の問題を完全に解決する完璧な解決コンセプトでも、実行に移すと予期せぬ不具合がおこることがあります。既存のシステムを改善する新しい方策を導入した際に起こるかもしれない潜在的不具合を事前に予測するために、Ideationプロセスでは、逆転の発想をします。

 

つまり、「気がつかないようなどんな不具合がおこるだろうか」と考える代わりに、問題を逆転させて不具合を故意に引き起こす、あるいは、可能な不具合を「発明する」ことを試みます。その後、逆転の発想により発見した不具合を予防する方法を考えます。これにより、解決コンセプトの信頼性を高めることができます。

 

さらに、対象システムが進化のライン上でどの段階にあるか特定することで、今後どのように変化していくか予測することができます。そして、解決コンセプトが進化のパターンに合致していれば、それが従来の方法より理想性の高いものであることが確認でき、その優位性が保証されたことになります。

Ideationプロセスの「プロジェクトの準備」

NPO法人日本TRIZ協会が毎年開催している「TRIZシンポジウム」(2016年度で12回目)の参加者アンケートの結果を見ても、たくさんあるTRIZのどの手法(技術的矛盾と発明原理物理的矛盾と分離の原則物質-場分析と発明標準解効果集進化の法則など)をどのような場面でどのように適用して、どのような問題が解決できたかといった具体的な問題解決事例の発表に関心が集まっています。

これら具体的な問題解決事例の場合は、問題解決を必要としたビジネス上の背景、テーマの難解さの度合い、使用可能な経営資源、技術的、経済的、時期的な制約条件、問題解決者の素養など、具体的な事案によって様々な特別な状況の中で取り組まれたものです。

そのため、いざ自分が抱えている問題と状況について、事例と同じような取り組みを行おうと思っても、そのままではうまく適用できないことがほとんどです。

そのため、少しでも自分が抱えている問題と同じような問題の解決事例を探し続けることになります。この状態がいつまでも続くことになります。

仮に、自分と同じ技術分野の問題解決事例が見つかったとしても、問題解決を必要としたビジネス上の背景、テーマの難解さの度合い、使用可能な経営資源、技術的、経済的、時期的な制約条件、問題解決者の素養まで似ている事例などはありません。

さらに、成果の上がった事例発表ということであれば、少なくとも問題解決に取り組んだのは数年から十数年前ということでしょうから、解決時と今とでは時代背景(技術トレンドや技術ニーズなど)が異なることは明らかです。

学校の教科書の問題とは違い、正解のない世界の実社会の問題解決の場合には、そのまま適用できる事例は1つもないと思った方がよいでしょう。

しかし、参考にするよい事例がないからといって悲観することはありません。どのような問題であっても、取り組むべき最初の段階で確認すべきことは同じです。

IdeationTRIZ(I-TRIZ)の基本的な思考プロセスである「Ideationプロセス」の最初のステップには、「プロジェクトの開始」という項目があり、「(1)目的・目標」について記載する欄」と、「(2)状況の持つ意味」について記載する欄が設けられています。

「(1)目的・目標」の欄では、
1. 今あなたが達成しようとしている目標はだれが決めましたか?
2. なぜ、他ならぬその目標が選ばれたのですか?
3. その目標が定められたのはいつのことですか?現在の状況に合わせる必要はないですか?
4. 目標は現実的ですか?
4.1 将来についての予測はどれくらい現実的ですか?
4.2 自分の能力を過大評価していませんでしたか?
4.3 他の人たちの能力を過大評価していませんでしたか?
という質問に答えることで、プロジェクトで検討対象としているシステム、プロセス、または他の対象の本来の目的を明らかにします。

「(2)状況の持つ意味」の欄では、
1. あなたが取り組んでいるプロジェクトによって可能性が切り開かれること、あるいは、問題が解決されることによって、だれが有利になりますか?
2. なぜ、特にこの状況が改善対象として選ばれたのですか?
3. この状況が改善されないとどうなりますか? その結果を避ける別の手段はありますか?
4. その状況は本当に改善する必要があるのですか?
5. 目標を決めたら、次の3つについて考えてください。
5.1 情報が多すぎて困っていることはありませんか?
5.2 何か重要なものを見逃していませんか?
5.3 この問題にかかわっている他の人達の意見を考慮に入れましたか?
6. 現在対象としている状況を改善することは本当に理屈にあったことですか?この改善を行うと、次の観点から見てどのような影響が生じるでしょうか(有益な影響、有害な影響を共に)予測してください。
6.1 家族またはあなたの同僚
6.2 あなたのボス
6.3 あなたの部門
6.4 あなたの会社
6.5 社会全体
7. 変化によって他のだれが(有益、または有害な)影響を受けますか?
という質問に答えることで、プロジェクトが対処している状況が、ビジネスの観点から、組織の観点から、どのような事情と関連しているのかを理解します。

「プロジェクトの開始」の項目の以上の質問に答えることで、特定の状況の下で自分たちはそのプロジェクトで「何をしさえすればいいのか」が明確になりますので、自信を持ってその後の「Ideationプロセス」に取り組むことができます。

通年プロジェクト支援サービスのご提案

技術開発型企業では、当該企業独自の中長期計画を受けて毎年新たな技術開発テーマが決定されます。しかし、技術担当者の人数、能力および実稼働時間などの内部資源の問題により、計画通りの成果が上がらないことがあります。

 

計画通りに進まないことが稀ならいいのですが、このような状況が慢性化している場合には、企業としては技術者の中途採用や組織変更などを考えることが多いかと思います。

 

私どもの長年のコンサルの経験から判断すると、技術開発が計画通りに進まない理由は技術担当者の問題というより、むしろ技術開発の進め方に問題がある場合がほとんどといえます。技術開発の進め方については、(1)技術開発の業務システムと、(2)技術開発自体の方法論との問題があります。

 

現状の技術開発の業務システムを急に変更することは技術担当者の戸惑いを生み、短期的にはその効果が表れ難いものです。一方、技術開発自体の方法論については、人手不足などの理由で熟練技術者の思考方法がうまく伝承されていないのが現状のようです。

 

技術開発を積極的に推進しなければならない企業であれば、早々に技術開発の生産効率の向上を図らなければなりません。

 

唯一の正解というものがない技術開発のような問題(テーマ)については、新たな知識を適用して論理的思考を進めるだけの方法では解決できません。そのため、日本企業の多くが技術開発の問題解決力を向上させるための方法論を担当者に教育できていません。単に、総稼働時間を増やせばいいというものではないのです。

 

日本企業の中ではあまり知られていないことですが、先進的な欧米企業では、当然の如く技術開発の生産性を向上できる方法論を駆使しています。その方法論は、論理的思考だけでは解けない問題に対して、「効率的に試行錯誤を進める方法(Ideationプロセス)」であって、米国アイディエーション・インターナショナル社による30年以上のコンサルの実績があります。

 

ただし、技術開発テーマは1つひとつ特殊な問題であるため、実際の技術開発テーマを解決する作業の中で、熟練の技術者からマン・ツー・マンで指導を受けるような環境がなければ、技術者がその方法論を習得することが難しいといえます。日本ではそのような場を提供できるコンサル機関が少ないため、そのため、よい方法論とわかってはいても、全社的に採用している企業がほとんどないのが現状です。

 

そこでアイディエーション・ジャパンでは、「技術開発を積極的に推進しなければならない」といった強いニーズを持った企業に限って、かつ、年間に数社限定で、OJT型の「通年プロジェクト支援サービス」を提供させていただくことを現在企画しております。

 

コンサル期間は、具体的な問題解決の終了如何にかかわらず、特定の技術開発テーマに対して原則として1年以内とさせていただきます。

コンサルの頻度は、1~2週間に1度の頻度で、アイディエーション・ジャパンのコンサルタントが貴社の事業所まで出向いて、特定の技術開発テーマについての問題解決のコンサルを実施します。

コンサルの内容は、貴社の指定された特定の技術開発テーマを題材として、「効率的に試行錯誤を進める方法(Ideationプロセス)」の方法論を習得していただくと共に、特定の技術開発テーマの問題解決の支援をさせていただきます。

 

貴社の指定された技術開発テーマについては、事前に秘密保持契約を締結させていただいた後に、コンサルの実施前に、技術開発テーマについて弊社指定の「問題状況質問票」に回答していただきます。「問題状況質問票」の回答を受けた後、アイディエーション・ジャパンから質問をさせていただいたうえで、実際の技術開発テーマについてのコンサルを開始させていただきます。

 

コンサル期間中に実施する内容としては、(1)基本メニューと、(2)オプションメニューとの2種類です。

 

基本メニューでは、

1)「問題状況質問票」によるヒヤリング、
2)プロジェクトの目的、目標、制約条件の確認、
3)Ideationプロセスの概要説明、
4)システムアプローチ(多次元分析)の演習、
5)プロブレム・フォーミュレーション(因果関係モデルの作成)の演習、
6)プロブレム・フォーミュレーション(解決方針の決定と課題の抽出)の演習、
7)オペレータとアイディエーション・ブレーンストーミング(アイデア発想)の演習、
8)解決策のまとめ(アイデアの分類・整理)の演習、

の8段階です。

オプションメニューでは、

9)二次的問題の特定と解決の演習、
10)実施計画の策定とプロジェクトのレポート作成の演習、
11)特許出願用の発明提案書作成の演習、

の3段階です。

 

基本メニューの8項目は、1年以内に必ず終了する項目です。オプションメニューの3項目は、1年以内であれば基本メニューの後に追加できる項目です。

 

なお、「通年プロジェクト支援サービス」の詳細は、直接アイディエーション・ジャパンにお問い合わせください。

ビジネスパーソンにとっての基礎的なスキルを身に付けよう

顧客に商品・サービスを提供することで顧客がそれを使用したときの経験から得られる価値を高めることが企業である提供側の仕事である、と考えます。

顧客の経験価値を実現するためには、ものづくり企業としては、(1)商品企画、(2)研究、開発、(3)設計、(4)生産、(5)販売、(6)知的財産管理などの一連の仕事を担うことになります。ただし、これらのすべてを一企業で満足させなければならないわけではなく、企業の規模や特長に応じて、その一部を担うことでもよい。

ここでは、ものづくり企業で働くビジネスパーソンにとって必要になる基礎的なスキルとは何かを考えてみましょう。

ものづくり企業で働く人の多くが、(1)商品企画、(2)研究、開発、(3)設計、(4)生産、(5)販売、(6)知的財産管理のいずれかを担当することになりますが、そのいずれの業務にも必要とされるスキルは「新しいことに挑戦する」という態度です。

「新しいことに挑戦する」こととは、機械化できるような単なる作業ではない仕事を行うことが求められます。

いうまでもなく、「仕事」とは、その結果によって誰かに価値を届けるための活動のことであって、事前に定められた手続きとゴールが決まっている「作業」とは違います。

したがって、ものづくり企業で働く人にとっては、
(1)物事の因果関係を追及することができる論理思考能力
(2)物事の合目的性を考えられる抽象化能力
(3)論理思考では解けない問題に取り組める類比思考能力
(4)イメージを言葉に変換して仮説を作りその仮説の検証を行う具体化能力
(5)問題の発見から解決までの一連の思考プロセスを一人でたどれる持続力・責任力
が必要と考えられます。

論理思考能力とは、具体的には物事の原因と結果の関係をたどることのできる能力であって、その思考結果を第三者に伝えられることが必要です。そのため、原因と結果の連鎖からなる因果関係モデルが作成できることが求められます。

一般的な文章が作成できればいいのではないかという人がいますが、文章では論理性が曖昧になりがちであり、その解釈も一意には決まらないといった欠点があります。

抽象化能力とは、具体的に物事の目的と手段の関係をたどることで合目的思考ができる能力であって、その思考結果を第三者に伝えられることが必要です。そのため、目的と手段の連鎖からなる目的手段モデルが作成できることが求められます。

類比思考能力とは、自分の専門分野の知識と論理思考を駆使しても解決できない問題に対して、求める機能を実現している異分野の知識を参考にして問題を解決する能力です。

ここで参考にする知識は、自分の専門分野のものとは異なるため、そのままでは利用できません。参考にするのは具体的な知識の背後にある本質に相当する機能や機構、構造です。

したがって、異分野の知識を参考にして問題を解くには、最終的に自分の専門分野の知識、経験が必要になります。知識は深い理解がないと、現場では使えません。日頃から自分の専門分野の知識を習得する努力と試作実験によって仮説を検証する努力を怠らないことです。

自立したものづくり企業で働くビジネスパーソンになるには、単に、ものづくりの一場面で役立つワークシートや管理ツールが使用できるだけでは不十分です。論理思考能力、抽象化能力、類比思考能力、具体化能力のすべてを駆使して、問題の発見から解決までの一連の思考プロセスを一人でたどれる持続力・責任力が必要です。

成功するまで努力することで、成功が得られます。途中であきらめれば、成功することはできません。

ものづくり企業で働くビジネスパーソンにとって必要になる基礎的なスキルは、個別具体的なアイデア発想法や管理技法の教育セミナーを受けても身に付けることはできません。

ビジネスパーソンにとって必要になる基礎的なスキルを身に付けるには、それ専用のセミナーを受講すべきです。

アイディエーション・ジャパン株式会社では、ビジネスパーソンにとって必要になる基礎的なスキルを身に付けるためのセミナーとして、
(1)論理思考能力向上のための因果関係モデルの作成、
(2)抽象化能力の向上のための等価性の発見と目的展開、
(3)類比思考能力向上のためのシネクティクス、NM法、
(4)問題を発見して解決するまでのTOC思考プロセス、
などを行っていますので参考にしてみてください。

発明的問題解決(IPS)で使用される「オペレータ」と「革新ガイド」

I-TRIZを活用されている方々から、アイディエーション社の発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)で使用される「オペレータ」というツールは、表現が抽象的でわかりにくいというご指摘をいただきます。

一般には、オペレータというと、機械を操作・運転する人という意味があります(「大辞林」第三版、三省堂発行)が、そもそも、問題解決で「オペレータ」とは何か?

実は、このネーミングには、それなりの意味があります。

発明的問題解決(IPS)で使用される「オペレータ」とは、アルトシューラが作り上げた膨大な体系からなる古典的TRIZの知識べースを、一般の研究者、技術者にも使用しやすいようにアイディエーション社が作り直したものです。

発明的問題解決(IPS)を使ってアイデアを出す際に、その考え方のヒントを与えてくれるものが「オぺレータ」です。

アイディエーション社では、アイデアとは「資源を変更すること」であると考えます。

TRIZでは、資源とは問題解決に使用できるすべてのモノ、コトをいい、具体的には問題を抱えているシステム(装置やプロセスなど)の中にあるモノ、コトやシステムの周辺にあるモノ、コト(環境を含む)をいいます。

それらの資源をどのように変更することによって問題解決を図るのか?という質問に対する答えがアイデアということです。

資源を変更すること、つまり「資源を操作する」方法をたくさん集めたものが「オペレータ」というものです。
アルトシューラは、世界の約20万件の特許のうち、発明的といえる水準にある約4万件を対象に詳細な分析を行った結果、全く同一の基本的問題(矛盾)が様々な技術分野で何度も繰り返し取り上げられ、そして解決されてきたことが明らかになりました。

このように繰り返して使われる解決策の原理(発明原理、分離の原則、発明標準解、進化の法則など)に、アイディエーション社がその後200万件以上の特許の分析を行った結果を加えて、約500種類の体系に整理したものが発明的問題解決(IPS)で使用される「オペレータ」です。

あらゆる技術分野の解決策の原理を約500種類にまとめてしまったわけですので、その表現が抽象的なのは当然です。

たとえば、「有害機能を排除、軽減、防止する」オペレータの一つの「システムを有害な影響から隔離」というオペレータには、「分離物質の使用」、「液体の導入」、「透過による選択分離」、「破壊しやすい中間層の使用」、「有害作用の原因を使用」、「一定期間の“保護”」の6種類のより具体的なオペレータがあります。

ここで、「分離物質の使用」というオペレータを見てみると、「分離物質を導入することによって、障害からシステムまたはプロセスを分離することを検討してください。」という説明がなされています。

つまり、ここには資源を変更する方法が記載されているので、問題を抱えているシステムの中やその周辺にある具体的なモノ、コトを「分離物質を導入することによって、障害から分離する」ことを考えて(想像して)みます。

その結果、よいアイデアが生まれれば問題が解決します。アイデアがでなければ、推奨されている他の5つの「オペレータ」を順に参考にしていきます。

実は、自分が取り組む問題の状況がはっきりわかっているならば(何をすればいいのかがわかっているならば)、「オペレータ」を使用する必要はありません。「革新ガイド」というツールを使って、すでに蓄積されているたくさんの発明情報に直接アクセスすればいいのです。

たとえば、「あるものを移動すればいい」、「あるものを加熱すればいい」がその具体的な方法がわからないという場合には、「革新ガイド」の「資源を生成・変更する」という項目の中の「対象物の移動」を選択すると、「重力、圧力、押しのけ浮力、強磁性の液体、電磁力、熱膨張、爆発、磁気ひずみ、圧電効果」を使った移動方法が参照できます。また、「対象物の加熱」を選択すると、「発熱反応、燃焼、対象物に電流を流す、対象物に電気誘導 、予熱ある伝達剤の使用、対象物の空力抵抗の使用、気体の圧縮、放射を対象物表面に集中」を使った加熱方法が参照できます。

「トレンド予測、QFD、デザイン思考」とDEの顧客ニーズの捉え方の違い

10年先を目指した長期開発戦略を立てる場合は、必ずといっていいほど将来の技術や市場のトレンドを予測します。もし、社内で技術や市場のトレンドを予測するのが難しい場合には、外部の調査機関に依頼して膨大な量のレポートを入手することになります。

そして、社内または社外のトレンドの予測結果を受けて、10年先の技術や市場がこのようになるからこんな商品を提供すれば顧客からよい評価を得られるであろうと考え、商品開発に取り組むわけです。

なぜ、将来の技術や市場のトレンドを予測するかといえば、「対象とするシステムの機能はその上位システム(環境を含む)が規定する」というシステム自体の性質があるからです。

対象システムを自動車とすれば、将来の自動車は、将来の社会・文化、経済・税制、政治・規制・政策、科学・技術、地球環境などのマクロ環境と、そのときの競合他社の状況および自社の内部環境によって制約されます。

特に、現代のように世の中が不連続に変化する環境にあっては、一見関連なさそうな事象や要因も一旦すべて考察し評価する必要があります。その上でそれらの環境要因(上位システム)が対象システムにもたらす影響について考察する発想(これを、アウトサイド・イン発想という。)が重要になります。

しかしながら、このような考え方は当然同業他社も採用しています。その結果、苦労して開発した商品が、他社と同じようなものになってしまうことが起きます。

 

また、3~5年先を目指した短期・中期開発戦略を立てる場合は、顧客の声を聞いて顧客が要求する品質を明らかにした上で、その要求品質を満足する商品の仕様を決定して、新しい商品を開発するQFD(品質機能展開)という手法が採用されています。

そもそも、顧客は新商品が市場に出て初めて、自分はそれが欲しかったのだと自分のニーズを事後的に確認するだけであって、未だ存在しない未来の商品についてのニーズは顧客自身わかっていないわけです。

そのため、既存商品を前提とした顧客の声を聞けば聞くほど、複数の顧客から同じような意見が返ってきます。結果として、同業他社と同じような商品を開発することになります。

そこで、イノベーション創出の世界で今注目されているのが、人の行動から洞察を得て、仮説を作り、プロトタイプを作って、それを検証し、試行錯誤を繰り返して改善を重ねながら新商品を創り出す、といった「デザイン思考」です。

デザイン思考は、アメリカのデザインコンサルティング会社であるIDEO社のコンサルティングノウハウから発展したもので、アップル社の初期のマウスや、パーム社のPDA、無印良品の壁掛け式CDプレーヤーを生み出した手法といわれています。

デザイン思考では、第三者的に顧客の行動を観察して、その場の文脈の中での顧客の行動や思考を理解する方法を採用しますが、顧客の意を理解するのは簡単ではないようです。

将来の世の中のトレンド予測をする方法、顧客の声に耳を傾けるQFD、顧客の行動を観察するデザイン思考のいずれも、将来の顧客のニーズを捉えようとする目的は同じです。

 

将来の顧客のニーズを捉えるための第4の方法として、アイディエーション・インターナショナル社が開発したDE(Directed Evolution:戦略的技術進化)があります。

DEでは、現在の顧客の声に耳を傾けるのではなく、将来の世の中の変化を予測した上で、想定される未来の世の中で対象システムに望まれる機能(要求機能)を見い出すことを考えます。

顧客が対象システムを購入したり使用するという場面を想定して、自分が顧客になったつもりでその場面ごとに、そこでどんなことを感じ、そしてどんなことを求めているかを身体全体で感じ取る(これを、ボディ・ストーミングという。)ことで、将来の顧客の要求機能を明らかにしていきます。

顧客といえども供給者と同じ人間ですし、対象システムについての供給者は他のシステムについての顧客でもあります。

したがって、供給者自らが対象システムにとっての顧客の立場になれるわけです。スティーブ・ジョブスがその最たるものでしょう。彼の行動は、将来の世の中の変化を予測した上で、顧客の立場で商品開発を行うといった手法の典型例といえるでしょう。

DEは、スティーブ・ジョブスのような天才の個人的能力に頼らずに、企業内の企画、開発、設計、製造のチームワークで将来の顧客が求める商品を開発できるようにするための手法です。

必要性の存在と、その必要性を満たす方法の存在

I-TRIZでは、問題状況の全体を把握する目的で、様々な観点から対象システムを分析する「システムアプローチ」という手法を使います。

システムアプローチでは、(1)システム、システムの構成要素である下位システム、およびシステムに関連する上位システム(これをシステムの階層軸という)、(2)システム、下位システム、および上位システムそれぞれの過去の、ならびに、予想される未来(これを時間軸という)、(3)問題の原因、問題の結果として生じる不具合、および、これらに関連するシステムの機能(これを問題軸という)、(4)システムに対する様々な入力、システムからの出力、それらの問題との関係(これを機能軸という)、の4つの観点で対象システムを分析します。

時間軸において、時間の間隔を短く取ると、問題のシステムの使用前、使用中、使用後を観察することになります。また、時間の間隔を長く取ると、問題のシステムの進化の歴史を考えることになります。

問題が最初に起こった時点からはじめて、その後システムがどのように進化してきたかを確認します。問題が含まれないシステムが問題の含まれるシステムに変わったのは、どのような判断の結果だったのか、その判断についても明らかにします。

対象システムが生まれる前の原型、あるいは、対象システムの祖先と考えることのできるシステムをすべてリストアップします。現在のシステムと同じ機能、似通った機能を持つ先行システムを捜します。

様々な原型システムのそれぞれが持っている特徴のどれとどれが現在のシステムでは改良されているのか。

原型と比較して、現在のシステムに新たに加わっている特長は何か。原型が持っていた特長の中で、現在のシステムには失われてしまっているのは何か。

対象システムが生まれることを可能にした条件を確認します。
(1)システムが必要とする構成要素が、利用可能な状態になっていたか。具体的にはどのような要素があったか。
(2)システムが生まれるきっかけとなった画期的なアイデアはどのようなものか。
(3)システムが生まれた当時に検討が行われていた、システムの類似品、システムのバリエーションはどのようなものか。

技術が進化する歴史では、必要な技術が出現するずっと以前から必要性だけは存在している場合があります。たとえば、人々は居ながらにして遠くにいる人と通信することのできる空飛ぶ機械や魔法を長い期間夢見てきました。しかし、電話が出現したのは、発明の前提となる様々な発見がなされた後のことです。

一旦そうした発見がなされてしまうと、アレクサンダー・グラハム・ベルを筆頭に多数の人々によって様々な電話が一斉に発明されることになりました。

しかし、他方では、技術は存在したのにその技術に対する必要性が認識されていないあるいは表面化していないというケースもあります。

新しい技術システムが登場するためには、(1)必要性の存在、(2)その必要性を満たす方法(技術)の存在、の2つの条件が揃う必要があります。

ある社会システムが人々のどのような必要性によって生まれてきたのか、に焦点を当てて考えてみると、その次の展開も自ずと見えてきます(「未来に先回りする思考法」、佐藤航陽著、(株)ディスカヴァー・トゥエンティワン発行)。

そして、その必要性をより効率的に満たすことのできる方法(技術)が普及したとき、社会システムに変化が生じます(イノベーションが起きます)。

VEのアイデア発想に因果関係モデルを使用する

「製品やサービスの『価値』を、それが果たすべき『機能』とそのためにかける『コスト』との関係で把握し、システム化された手順によって『価値』の向上をはかる」(公益社団法人日本バリュー・エンジニアリング協会HPより)ための手法としてVE(バリュー・エンジニアリング)があります。

公益社団法人日本バリュー・エンジニアリング協会のホームページからダウンロードできる「VE基本テキスト」によれば、VEを実施するための基本ステップは、(1)対象選定、(2)機能定義、(3)機能評価、(4)アイデアの発想、(5)アイデアの具体化、(6)提案、(7)実施、の7つのステップからなっています。

このうち、(4)アイデア発想では、「集団思考によって、各種の創造技法を使って、飛躍的なアイデアを生み出す。先ず、多くのヒントを集め、それを分類整理し、本質を追求し、さらに、連想発展させて、アイデアにまとめる。」とし、「アイデアの発想方法は、多数の権威者により開発され、活用されているので、対象や発想の段暗に応じて、適切な技法を採用すると良い。」との説明がなされています。

つまり、VEで一般的に使用されているアイデアの発想技法は、ブレーンストーミングであるということになります。

その他、必要に応じて、親和図法、類比発想法、強制連想法を使用するとよいということですので、創造技法に明るい方なら、NM法、シネクティクスのような類比技法や、ブレーンストーミングを考え出したオズボーンのチェックリスト(SCAMPER:(Substitute)代える、代用する、(Combine)組み合わせる、(Adapt)適応させる、(Modify)修正する、(Put to other uses)他の使い道、(Eliminate)省略する、排除する、(Rearrange)再調整する)を使った強制発想を実施することになるでしょう。

今回は、VEの基本ステップの「機能定義」段階で作成する「機能系統図」の他に機能同士の原因と結果の関係を明らかにした「因果関係モデル」を作成することを提案します。

これにより、より効率的で効果的なアイデア発想が実現できるばかりでなく、「機能評価」段階での価値の評価、改善の方向づけ、順位づけが容易になります。

「因果関係モデル」は機能系統図にシステムの構成要素、作用、属性、条件などを付加したものです。

「因果関係モデル」があれば、不足機能や不要機能といった現状システムの問題の発生メカニズムが読み取れます。問題のメカニズムがわかると、機能同士の因果関係をたどることで、不足機能や不要機能が生じている原因を突き止めることができます。

不足機能や不要機能が生じている原因を排除、軽減、防止することで、問題である不足機能を補うことや、不要機能をなくすことができます(これを、有害機能の排除、軽減、防止という)。

基本機能や補助機能といった有益機能については、今とは異なるコストの低い手段で同じ有益機能を実現するか、今とは異なる同じコストの手段で今以上の有益機能を実現することを考えることができます(これを、有益機能の改良という)。

さらに、不足機能を補い、不要機能をなくし、有益機能を今とは異なるコストの低い手段で同じ有益機能を実現するか、今とは異なる同じコストの手段で今以上の有益機能を実現する、ことも考えることができます(これを、矛盾の解決という)。

問題を解決するということは、(1)有害機能の排除、軽減、防止、(2)有益機能の改良、(3)矛盾の解決、を行うことですが、そのための指針(解決アプローチ)が「因果関係モデル」から読み取ることができます(「プロブレム・フォーミュレータ」という専用ソフトウェアを使用すると、指針は自動的に入手できます)。

問題解決の指針が得られると、その指針で示されている内容を実現するための一般的な解法(TOC(制約条件理論)やTRIZ(発明的問題解決理論)の知識)を適用する(「イノベーション・ワークベンチ」という専用ソフトウェアを使用すると、指針の種類に応じた一般的な解法(約500種類)が提示される)ことで、多くの解決策のヒントやアイデアが得られます。

TOCの問題解決のための常套手段は、(1)前提条件、思い込みを疑う、(2)自分と相手の行動、要求を見直す、の2つです。

TRIZの問題解決のための常套手段は、(1)理想性(有益機能の総和/有害機能の総和)を向上させる、(2)資源(システムに付随するすべての内容と性質などで、システムの特性を変化する可能性をもっているもの)を有効活用する、(3)矛盾を解決する(空間、時間、構造、条件で矛盾する要望を実現する)、の3つです。

短期間で次世代商品・サービスの企画提案を考えるには

次世代商品・サービスの企画提案を担当する企画者、開発者は、
●新規事業を企画する部署を立ち上げたが、具体的な作業の進め方がわからない
●経営理論、経済理論、マーケティング理論やたくさんの管理技術があり、いろいろと試みたが、納得感のある提案が作れない
●製品・サービスでの企画の実績はあるが、事業企画は初めてである
●新規事業として技術の用途開発を提案したいが、どう提案したらいいかわからない
●外部機関の支援を受けているが、難しすぎて今後自分たちにはできそうもない
●対象が広すぎて、どこまでの情報を収集して取り組めばいいのかわからない
●顧客のニーズの具体的な内容を想定することができない
●短期計画は見通せるが、中期、長期となると自信がない
●事業の見通しについて、社内での共有化ができていない
●新規事業を企画構想できる人材が育たない
のような種々の悩みを抱えていることと思います。

その理由は、企画のよりどころを何に求めたらよいのかがわからない、からではないでしょうか。そのため、従来は企画提案に先立ち、高価な外部調査機関による膨大な未来予測資料を入手していたのではないでしょうか。

発想を転換して「未来は予測しようとするのではなく、未来を創造する」ことを考えましょう。未来を創造するには、まず未来を想像する方法がわかればいいのです。

人工システムや自然界のシステムが進化する過程を丁寧に観察すると、システムが進化してゆく過程で見受けられる短期的・長期的のあらゆる傾向(進化のトレンド)があることがわかります。

人工的なシステムの歴史的な発展の過程に繰り返して観察される傾向を「進化のパターン」といいます。

「進化のパターン」は、そのパターンに沿ってシステムが変化してゆく中で順次経過してゆく典型的な段階を示す「進化のライン」を認めることができます。

「進化のライン」という系統的な段階を知っていれば、あるシステムがそのライン上で現在どの段階にあるか、今後どのような変化の道筋をたどる可能性が高いか、という判定をすることが可能になります。つまり、そのシステムの今後の発展の道筋を予測することが可能になるのです。

アイディエーション・インターナショナル社が開発したDE(Directed Evolution®:戦略歴世代進化)は、対象として選択したシステム(製品、技術プロセスなど)を新しい世代のシステムへと進化させる企画の立案作業を支援するプログラムです。

本格的なDEのプロセスは、概略以下のとおりの手順に従います。
1.プロジェクトの目的を設定する
2.システムの過去情報の収集と解析
(1)進化史上の主な事象と、それらの間の相互関係を明らかにした歴史マップを作成する
3.次の進化ステップの予測と問題抽出
(1)進化を阻害する主な力や制約を明らかにする
4.アイデア出しとコンセプト生成
(1)問題の状況を表した因果関係モデルを作成する
(2)方向付けられた進化の指針と、問題解決の指針を得て、指針に沿ったアイデアを創出する
5.進化シナリオの作成
(1)たどり着くゴール、必要な条件、現実的な方法を明らかにする
(2)必要となる資源を明らかにする
(3)進化上の問題を明らかにし、方策案を準備する
(4)必要な知的財産の保護の方策を講じる
6.行動計画の作成と実行
(1)パイロット・プロジェクトの計画
(2)システムの進化をサポートする
①計画からの逸脱の予測
②システムの進化状況の継続的モニタリング
③計画(システムの進化シナリオ)の修正

トライアルの場合には、DEの知見である「進化の可能性に関する情報バンク」と「進化のパターン/ライン」に焦点を当てて、短期間で次世代商品・サービスの企画提案を考えます。

DEに興味を持たれた方は、まずは、具体的なテーマでDEのトライアルを検討されることをおすすめします。

新規事業開発の矛盾を解決するDE

近年になって、技術に関する事業の持続的発展のために研究開発や技術開発の成果を事業化に結びつけ、新たな経済的価値を創出していくためのマネジメント手法としてMOT(Management of Technology)の導入を検討している企業が増えています。

1981年にマサチューセッツ工科大学スローン校にビジネススクールの派生的コースとして設けられた技術経営コースを起源とするMOTは、日本では、2000年代初頭より経済産業省が主導して「技術経営人材育成プログラム導入促進事業」が提唱されたことにより、2002年から技術経営に関した大学院の開設が相次ぎ、今日に至っています(ウィキペディア「技術経営の歴史」より)。

MOTで解説されているマーケティング戦略では、顧客の声(VOC:Voice Of Customer)を聞いて、自社の強みを活かしてまったく新しい事業を考えるといいます。ここで、自社の強みは、SWOT分析(内部環境としての強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、外部環境としての機会(Opportunities)、脅威 (Threats))の結果から特定することになります。

しかし、「顧客の声を聞く」ということは、顧客がすでに持っているニーズをベースに考えるということであり、「自社の強みを活かす」ということは、自社の過去の成功体験の延長線上で考えることに他なりません。

したがって、MOTで解説されるマーケティング戦略に従うと、ゼロベース(既存の枠組みにとらわれず、目的に対して白紙の段階から考えようとする考え方の姿勢)の発想が禁止されるため、まったく新しいアイデアは生まれないのではないでしょうか。

外部環境である技術革新、制度改革など、世の中は日々変化しています。他方、内部環境である社内組織は、新しい変化に対応しようとする気持ちはありながらも、過去の成功の大きさからくる現状を肯定する考えに捉われています。

世の中の変化に対応することばかりに偏ると、話としては美しく魅力的ですが実現可能性が乏しいものとなります。また、組織内の感情ばかり気にすれば、実現はできるであろうが、魅力のない話で終わってしまいます。

新規事業を開発する場合には、「アイデアが革新的であればあるほど、実現可能性が低くなり、組織での合意形成が難しくなる」という矛盾を承知で進めることになります。

MOTは、世の中の変化に対応した革新的なアイデアの提案と、その実現に向けた取り組みを実現するには、組織の変革が必要であるとし、組織マネジメントについても論じています。

詳細な組織マネジメント論は別にしても、組織に関する一番の問題は、提案を承認する人や組織の裁量ではないでしょうか。

承認する人が理解しやすい提案(目新しさのない提案)の場合には簡単に了承されますが、承認する人の発想の枠を超える提案の場合には、提案内容の不整合や漏れの指摘がほとんどで結果的に了承が得られないことになります。

小さい市場規模ながら革新的な事業に取り組み続けている株式会社キングジムのように、役員(承認する人)のうち一人でも賛成であれば、その提案は商品化を検討する、という企業文化は稀なようです。

日本にイノベーションが起きにくいといわれる所以は、実は新規事業の提案を承認する人やその組織のあり方に問題があるのかもしれません。

どんなすばらしいアイデアであっても、企業にあっては承認されなければなかったことと同じになるわけです。

現場の研究者、技術者にできることは、新規事業の提案書(企画書)に、外部環境と内部環境との間に存在する数々の矛盾を紐解き、一見、実現不可能と思われるようなことを実現させるような戦略と戦術を記載して、組織の合意形成に努めることではないでしょうか。

イノベーション戦略を構造化して策定しそれを企業で実現する新規事業開発に有効に使用できる方法論は、アイディエーション・インターナショナル社が開発した戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)であろう。

DEは、イノベーション・システムを理解するために必要な(1)システムの複雑性、(2)システムとしての相互作用、(3)システムの進化の3つの側面を表現することで、イノベーション戦略策定のデザインとイノベーション戦略策定のプロセス作成し実行することを支援します。最終的には、技術ロードマップ、知的財産ロードマップを作成することになります。

なお、(1)システムの複雑性、(2)システムとしての相互作用、(3)システムの進化の3つの側面を可視化したものは、アーキテクチャ(構成要素、連結、制約といった点からみたシステムの構造)で表現し、構成要素同士が「どのように」相互作用するかといったより詳しい内容は、意味ネットワークや因果関係モデルで表現することで、ツールの操作性を向上させるとよい。