10年先を目指した長期開発戦略を立てる場合は、必ずといっていいほど将来の技術や市場のトレンドを予測します。もし、社内で技術や市場のトレンドを予測するのが難しい場合には、外部の調査機関に依頼して膨大な量のレポートを入手することになります。
そして、社内または社外のトレンドの予測結果を受けて、10年先の技術や市場がこのようになるからこんな商品を提供すれば顧客からよい評価を得られるであろうと考え、商品開発に取り組むわけです。
なぜ、将来の技術や市場のトレンドを予測するかといえば、「対象とするシステムの機能はその上位システム(環境を含む)が規定する」というシステム自体の性質があるからです。
対象システムを自動車とすれば、将来の自動車は、将来の社会・文化、経済・税制、政治・規制・政策、科学・技術、地球環境などのマクロ環境と、そのときの競合他社の状況および自社の内部環境によって制約されます。
特に、現代のように世の中が不連続に変化する環境にあっては、一見関連なさそうな事象や要因も一旦すべて考察し評価する必要があります。その上でそれらの環境要因(上位システム)が対象システムにもたらす影響について考察する発想(これを、アウトサイド・イン発想という。)が重要になります。
しかしながら、このような考え方は当然同業他社も採用しています。その結果、苦労して開発した商品が、他社と同じようなものになってしまうことが起きます。
また、3~5年先を目指した短期・中期開発戦略を立てる場合は、顧客の声を聞いて顧客が要求する品質を明らかにした上で、その要求品質を満足する商品の仕様を決定して、新しい商品を開発するQFD(品質機能展開)という手法が採用されています。
そもそも、顧客は新商品が市場に出て初めて、自分はそれが欲しかったのだと自分のニーズを事後的に確認するだけであって、未だ存在しない未来の商品についてのニーズは顧客自身わかっていないわけです。
そのため、既存商品を前提とした顧客の声を聞けば聞くほど、複数の顧客から同じような意見が返ってきます。結果として、同業他社と同じような商品を開発することになります。
そこで、イノベーション創出の世界で今注目されているのが、人の行動から洞察を得て、仮説を作り、プロトタイプを作って、それを検証し、試行錯誤を繰り返して改善を重ねながら新商品を創り出す、といった「デザイン思考」です。
デザイン思考は、アメリカのデザインコンサルティング会社であるIDEO社のコンサルティングノウハウから発展したもので、アップル社の初期のマウスや、パーム社のPDA、無印良品の壁掛け式CDプレーヤーを生み出した手法といわれています。
デザイン思考では、第三者的に顧客の行動を観察して、その場の文脈の中での顧客の行動や思考を理解する方法を採用しますが、顧客の意を理解するのは簡単ではないようです。
将来の世の中のトレンド予測をする方法、顧客の声に耳を傾けるQFD、顧客の行動を観察するデザイン思考のいずれも、将来の顧客のニーズを捉えようとする目的は同じです。
将来の顧客のニーズを捉えるための第4の方法として、アイディエーション・インターナショナル社が開発したDE(Directed Evolution:戦略的技術進化)があります。
DEでは、現在の顧客の声に耳を傾けるのではなく、将来の世の中の変化を予測した上で、想定される未来の世の中で対象システムに望まれる機能(要求機能)を見い出すことを考えます。
顧客が対象システムを購入したり使用するという場面を想定して、自分が顧客になったつもりでその場面ごとに、そこでどんなことを感じ、そしてどんなことを求めているかを身体全体で感じ取る(これを、ボディ・ストーミングという。)ことで、将来の顧客の要求機能を明らかにしていきます。
顧客といえども供給者と同じ人間ですし、対象システムについての供給者は他のシステムについての顧客でもあります。
したがって、供給者自らが対象システムにとっての顧客の立場になれるわけです。スティーブ・ジョブスがその最たるものでしょう。彼の行動は、将来の世の中の変化を予測した上で、顧客の立場で商品開発を行うといった手法の典型例といえるでしょう。
DEは、スティーブ・ジョブスのような天才の個人的能力に頼らずに、企業内の企画、開発、設計、製造のチームワークで将来の顧客が求める商品を開発できるようにするための手法です。