戦略的世代進化(DE)プロジェクトの狙い

米国のアイディエーション・インターナショナル社が開発した戦略的世代進化(DE:Directed Evolution®)は、ユーザーが特定の事業分野で長期間に渡って競争優位の状態を維持し、継続的に成長することをサポートする方法論です。

 

DEは社会、経済、市場、技術といった外部環境の変化に適応する際に生じる組織(企業、団体、学校、家族など)の具体的な問題状況に応じて、その組織の内部環境を踏まえた上で、Ideation TRIZの発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)、不具合分析と再発防止(FA:Failure Analysis)、不具合予測と未然防止(FP:Failure Prediction)、知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)といった各種手法を的確な場面で適用するための体系的な方法論です。

 

DEを使用したプロジェクトは、ユーザーがはっきりと目標を持っている場合でも、漠然とした希望を実現したいと考えている段階でも実施可能です。また、ユーザーの具体的なニーズ、市場における地位、利用可能な経営資源に応じて、DEプロジェクトを展開する深さや規模は様々に設定できます。

 

DEプロジェクトが通常目標とするアウトプットは次の各項目です。

(1)対象システムの分析と診断を行い、必要な対応策を創出します。

・対象システムが直面している現在の問題の解決と潜在的問題の解明;システムの今後の発展を妨げている深刻な矛盾(ジレンマ)の解明と打開策の発見。

・システムを進化させるために利用可能な資源と、システムに関連する最も期待される方向の解明。これによって、システムの潜在的可能性を特定し、また、システムを期待される理想的な姿に近づけることが可能になります。具体的には、

・・現在の製品の改良、新しい有用な特徴や機能を付け加えることによる新製品や新技術の開発、システムの新用途の発見、製品・技術の総合的価値の向上。

・・既存の市場でのシェアの増加、新市場・新市場セクターの発見。

・現有の知的財産(IP)の客観的評価と知財としての品質と権利保護の水準を向上させることを通じた価値の増加。

 

(2)将来像の網羅的な提示 (可能性のある選択肢の提示) によって、ユーザーが対象システムの望ましい発展の方向を選択し、それに基づいて最適な投資計画や、事業戦略に立脚して具体的な開発を進めることが可能になります。

 

DEの原則に従って将来像(システムが今後たどってゆく可能性がある複数のシナリオ)を明らかにすることによって、対象としているシステムの可能性の中から、ユーザーの立場から見て望ましい方向を選択し、その方向を実現させるために最適の投資を行い、投資を活かすために効果的な戦略を立てることが可能になります。戦略には以下が含まれます。

・現在の製品・サービスを改良し、現有の技術を活用して既存の市場を拡大し、シェアを増加させることを目標とする短期計画

・現在の製品を大幅に改良、新製品・サービスを開発;現有の技術の飛躍的な改良、将来を切り開く新技術の導入し、市場の大幅な拡大;事業と市場の成長を狙った方策の開発;などを目標とする中期計画

・製品・サービスの新しい世代への進化、全く新しい製品・サービスや極めて効果的な新技術、新市場あるいは新市場セクター、更に新しいマーケティング・アプローチの創出などの技術的なあるいは市場ブレークスルー、および、新たな商品開発戦略、事業・市場成長戦略の開発を目標とする長期計画

 

(3)予想される不都合の解明を行なって、当該分野で将来予測されるリスクを(必要に応じて、短期、中期、長期に)予測し、未然防止策を創出します。

・システムおよびシステムに関連する分野で今後(短期、中期、長期的に)発生する可能性がある潜在的な問題、不都合な状況を明らかにし、これに対する対策を準備します。

具体的には、

・不都合な事象あるいは状況の回避

・不都合な事象あるいは状況が生じたことの早期診断

・不都合な事象あるいは状況発生時に対処し損失を食い止める方策の策定

・不都合な事象あるいは状況をチャンスへと替える(例えば、経済危機を自分の事業にとって有利な政府規制導入の機会とする、など)方策の発見

 

(4)知的財産の保護に関する指針によって、IPポートフォリオの形成をサポートします。知的財産(IP)を効果的に保護し、IPポートフォリオを戦略的に形成します。

これには以下が含まれます。

・既存のアイデア、期限の切れた・もうすぐ切れる特許など、利用できるアイデアの分析と改良;これらのアイデアの価値と、改良可能性を判定し、最善の活用法を発見します。

・新しいアイデアを付け加えることによって既存のIPポートフォリオを強化します。

・既存のIPポートフォリオ、中でも最も価値のある部分に対する権利保護を強化します。

 

上にあげた形でIPポートフォリオを強化することによって、以下の効果が期待されます。

・競合他社が類似の製品・サービスによって市場に参入したり、他社がライセンスなしに自社のアイデアを利用して製品を改良することを妨げる。

・自社が製品・サービスを何らかの方向に発展させることを、競合他社によって(特許侵害として)妨げられることを防止する。

・IPを販売あるいはライセンスすることによって、企業のドル箱に替える可能性の出現。

 

(5)企業の総合的創造性強化を図ります。

企業の総合的創造性の強化に含まれる内容は以下の通りです。

・事業および組織を継続的に成長させる原動力となる社員・スタッフにDEの基礎となっている効果的な問題解決手法を身に付けてもらうことによって、日常的に活用する技能を育成する。

・社員・スタッフの間で創造性に対する関心を高め、継続的な自己研鑽意欲と、新しいアイデアを探求する習慣を育成する。

信念、理念、ビジョンとプロジェクトの目的・目標

心理学者であるアンジェラ・ダックワーク女史が、いろいろな分野の成功者の共通点としてあげたのは「才能」ではなく、「やり抜く力」です。彼女は「やり抜く力」こそが誰でもどんな分野でも一流になれる最強・最適な方法であると主張しています(「やり抜く力」、アンジェラ・ダックワーク著、神崎朗子訳、ダイヤモンド社発行)。

 

「やり抜く力」は物事を最後まで実行する力のことです。目標に向かって最後まで実行すれば、成功できます。最後まで(成功するまで)やった人が成功するのです。

 

何かの目標に向かって最後までやるには、その目標を達成することの意味を深く理解し、それを固く信じて疑わない心が必要です。これを「信念」といいます。「信念」こそが人の行動を駆り立てるエネルギーの源といえるものではないでしょうか。

 

個人や企業(組織)であれば、それが「理念やビジョン」という形になります。

 

個人や企業(組織)の将来のあるべき姿を描いた「ビジョン」こそが、成功への鍵を握っているのです。特に、企業(組織)にとっては、役員、従業員などの構成員の全員が同じ思想のもとに一致団結するための拠り所といえるものが「ビジョン」です。

 

個人や企業(組織)がやるべきことは、問題を解決することです。問題を解決するためには、その問題を解決する意義を自分/自社の「ビジョン」に照らし合わせて考えることが最初になります。

 

その問題を解くことで、何が実現できるようになるのか。その結果として、「ビジョン」の達成に近づくことができるのか。

 

ジェラルド・ナドラーと日比野省三氏が創案したブレークスルー思考では、仕事をするときに犯しやすい「7つの過誤」を教えてくれています(「ブレークスルー思考」、ジェラルド・ナドラー、日比野省三共著、発行)。

 

(1)やってはいけないことをやる、(2)選択を間違える、(3)間違った問題に対して努力して正解を出す、(4)タイミングを間違える、(5)アプローチをまちがえる、(6)管理過剰を行う、(7)思い込みの失敗をおかす、が犯してはならない7つの過誤であるといいます。

 

ここでは、3番目の「間違った問題に対して努力して正解を出す」ことについて考えてみます。

 

そもそも、仕事として取り組む問題には、自らの思いつきの問題や上司から与えられた問題がありますが、これらは間違った問題の可能性があります。

 

自分の「信念」に従って一生懸命やれば必ず成功するかといえば、そうではありません。「信念」の先にある「ビジョン」が正しくなければ、その努力は報われません。同様に、その問題が間違いであったら、その仕事は失敗に終わります。

 

やらなくてもよいことを、効率よくやることほど、非効率的なことはないのです。問題解決に取り組む前に、よくよくその問題を解決する意義を考える必要があります。

 

Ideation TRIZを使用したプロジェクトを開始する場合には、問題解決プロセス(Ideationプロセス)を始める前に、プロジェクトの目的・目標と状況の持つ意味を確認します。

 

「目的・目標」の欄では、プロジェクトで検討対象としているシステム、プロセス、または他の対象の本来の目的を書きます。

 

「目的・目標」の欄では、以下の質問に答えることになります。

本来の目的は慎重に考えてください。答えは思うほど簡単でないかも知れません。例えば車の修理に関連して問題が発生しているとしても、車の本来の目的は「修理される」ことではなく、「人や貨物を輸送する」ことです。

  1. 今あなたが達成しようとしている目標はだれが決めましたか?
  2. なぜ、他ならぬその目標が選ばれたのですか?
  3. その目標が定められたのはいつのことですか?現在の状況に合わせる必要はないですか?
  4. 目標は現実的ですか?

・将来についての予測はどれくらい現実的ですか?

・自分の能力を過大評価していませんでしたか?

・他の人たちの能力を過大評価していませんでしたか?

 

「状況の持つ意味」の欄では、プロジェクトが対処している状況が、ビジネスの観点から、組織の観点から、どのような事情と関連しているのかを確認します。

 

「状況の持つ意味」の欄では、以下の質問に答えることになります。

 

1.あなたが取り組んでいるプロジェクトによって可能性が切り開かれること、あるいは、問題が解決されることによって、だれが有利になりますか?

2.なぜ、特にこの状況が改善対象として選ばれたのですか?

3.この状況が改善されないとどうなりますか? その結果を避ける別の手段はありますか?

4.その状況は本当に改善する必要があるのですか?

5.目標を決めたら、次の3つについて考えてください。

・情報が多すぎて困っていることはありませんか?

・何か重要なものを見逃していませんか?

・この問題にかかわっている他の人達の意見を考慮に入れましたか?

6.現在対象としている状況を改善することは本当に理屈にあったことですか?この改善を行うと、次の観点から見てどのような影響が生じるでしょうか(有益な影響、有害な影響を共に)予測してください。

・家族またはあなたの同僚

・あなたのボス

・あなたの部門

・あなたの会社

・社会全体

7.変化によって他のだれが(有益、または有害な)影響を受けますか?

プロジェクトを成功させるために必要なこと

実際の業務上の問題解決にIdeation TRIZを使うプロジェクトには、問題解決の目的に応じて、(1)発明的(革新的)技術問題を解決するための発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)、(2)顕在している故障や不具合の原因を分析してその再発防止を図るための不具合分析(FA:Failure Analysis)、(3)潜在している故障や不具合を事前に予測してその未然防止を図るための不具合予測(FP:Failure Prediction)、(4)他社の特許権を回避および/または自社の発明を強化するための知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)、(5)次世代の商品・サービスを企画するための戦略的世代進化(DE:Directed Evolution®)の5種類があります。

 

Ideation TRIZが実際の業務上の問題解決に有効なものかどうかを判定するために、本格プロジェクトを行う前にパイロット・プロジェクトを実施することがあります。

 

特に、問題を抱えている現場の担当者がIdeation TRIZを採用したいと考えた場合には、会社の了解を得るために最初にパイロット・プロジェクトを実施することになります。

 

パイロット・プロジェクトを実施する際の最大の関心事は、パイロット・プロジェクトが成功するかどうかということでしょう。

 

パイロット・プロジェクトを成功させなければ本格プロジェクトが開始できません。パイロット・プロジェクトを成功させるためには、それなりの準備が必要になります。

 

どのような準備が必要かは、パイロット・プロジェクトが失敗に終わるパターンを見ることでわかります。

 

最も多い失敗例としては、時間と費用の節約を優先するため、パイロット・プロジェクトに参加するメンバーに事前にIdeation TRIZの基礎的な教育を行っていない場合です。

 

この場合には、メンバーがIdeation TRIZの思考プロセスの各工程の意義を理解していないため、各工程での検討内容が単なる事務的作業のレベルに止まってしまい、心理的惰性が排除されないで普段通りのバイアスがかかったアイデアしか出ません。

 

特に、知識レベルの高い方の場合には、具体的な思考プロセスの工程の意味(なぜその工程を使わなければならないか)が理解できていないため、興味も湧かず不信感を持ったままやらされ感が残るだけです。

 

結局、従来のロジカル・シンキングやブレーンストーミングを使ったプロジェクトの場合との違いが実感できないため、パイロット・プロジェクトが終わったときの感想は、「意外性のない無難な問題解決策しか得られなかった」というものになります。

 

または、「自分が従来から考えていたアイデアが正しいことがわかった」というような、Ideation TRIZを自分のアイデアを肯定する材料とみなす意見が述べられることになります。

 

Ideation TRIZの思考プロセスの神髄は、心理的惰性を排除して普段の思考のバイアスを崩すことにあります。しかし、思考プロセスの一つひとつの工程に素直に取り組まない場合には、それが実現されないことになります。

 

パイロット・プロジェクトを成功させるには、メンバーの選定が重要です。メンバーが少なくともIdeation TRIZの思考プロセスの基礎的な教育を受けており、Ideation TRIZに興味を持っていること。また、当然ですが、プロジェクトのテーマに関する知識経験があることが必要です。

 

パイロット・プロジェクトは、Ideation TRIZの思考プロセスやテーマに関する知識を学ぶ場ではありません。Ideation TRIZの思考プロセスの手順に従って、実際の業務上の問題を解決するための方策案を得ることに集中する場です。

 

私たちは、本格プロジェクトまたはパイロット・プロジェクトを実施する前に、メンバーの方々にIdeation TRIZの思考プロセスの基礎的な教育を受けていただくことを勧めています。具体的には、以下のセミナーの受講を検討してください(詳細は弊社HPを参照してください)。

(1)発明的(革新的)技術問題を解決したいのであれば、発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)の体験セミナー

(2)顕在している故障や不具合の原因を分析してその再発防止をしたい、または潜在している故障や不具合を事前に予測してその未然防止をしたいのであれば、不具合分析(FA:Failure Analysis)の体験セミナー

(3)他社の特許権を回避および/または自社の発明を強化したいのであれば、知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)の体験セミナー

(4)次世代の商品・サービスを企画したいのであれば戦略的世代進化(DE:Directed Evolution®)の体験セミナー

「考えるTRIZ」の教育とプロジェクト支援活動

「考えるTRIZ」とは、われわれの技術提携先であるアイディエーション・インターナショナル社(米国)が推進しているものであって、事前に準備されている質問に答える形で思考を前進させていくことで解決策を求めるようというものです。

 

「考えるTRIZ」であるIdeation TRIZでは、問題分析段階では最初に「問題状況質問票(ISQ:Innovation Situation Questionnaire)」の各項目に答えることで、問題に取り組む意義を確認し、問題が解決されたときの理想的な状態のイメージを明確にし、問題に関係するシステムおよびその周辺にある有望な資源を見つけ出します。

 

資源とは問題解決に使用できる「物質、エネルギー、空間、時間、情報、機能」のことですが、これは問題の状況をいろいろな観点で観察する「システムアプローチ」という手法によって入手します。

 

次に、「システムアプローチ」によって見つけ出した資源をもとに、問題の発生メカニズムを明らかにします。ここでは、問題を生じている事象の個々の機能(作用)を原因と結果の連鎖で表現した「因果関係モデル」を作成します。

 

次に、「因果関係モデル」から読み取れる問題の構造によって決定される課題(これを指針という)を実現するために、見つけ出した資源に先人の知恵のエッセンス(知識ベース)を適用することで問題解決を図ります。

 

Ideation TRIZでは、あらゆる資源の変更の仕方が体系づけられたチェックリストとして整理されているオペレータ(解決パターンのヒント集)を使用した類比思考を行います。

 

オペレータを使った類比思考を行う「オペレータ・システム」では、理想的な状態を実現するために、システムの理想性を向上するための3つの可能性を検討します。

 

「理想性=有益機能の総和/有害機能の総和」で定義されるシステムの「理想性」を向上させる方法には、(1)有益機能を改良する方法、(2)有害機能を排除、軽減、防止する方法、(3)一方で有益機能を供給し、他方で有害機能を排除することを行う方法、の3つが考えられます。そのため、ぞれぞれの方法に対応させて体系づけられた「オペレータ・システム」の指示に従って、それらを使い分けることになります。

 

Ideation TRIZでは、以上のような問題分析から問題解決に至る全工程(システムアプローチ、因果関係モデル、オペレータ・システム)を行うことで、問題を「自分でしっかりと考える」ことができるようになっています。

 

ところで、「考えるTRIZ」の難しいところは、検索エンジンでWeb上の情報を検索する場合と違って、問題解決者がIdeation TRIZの思考プロセスに沿って次々に出てくる質問について自分でしっかりと考えなければ、解決策が得られないということです。

 

そこで、われわれが行っているIdeation TRIZの思考プロセスの教育(セミナー、ワークショップ)では、「自分でしっかりと考える」ための方法論を教えています。

 

また、われわれが行っているIdeation TRIZのプロジェクト支援では、「自分でしっかりと考える」ための問題提起を行いますが、解答を押し付けるコンサルティング型介入はしません。あくまでも自発性を促すファシリテーション型介入です。

問題解決のエネルギー源は何か

心理学者であるアンジェラ・ダックワーク女史が、いろいろな分野の成功者の共通点としてあげたのは「才能」ではなく、「やり抜く力」です。彼女は「やり抜く力」こそが誰でもどんな分野でも一流になれる最強・最適な方法であると主張しています(「やり抜く力」、アンジェラ・ダックワーク著、神崎朗子訳、ダイヤモンド社発行)。

 

「やり抜く力」は物事を最後まで実行する力のことです。目標に向かって最後まで実行すれば、成功できます。最後までやった人が成功するのです。

 

何かの目標に向かって最後までやるには、その目標を達成することの意味を深く理解し、それを固く信じて疑わない心が必要です。これを「信念」といいます。「信念」こそが人の行動を駆り立てるエネルギーの源といえるものではないでしょうか。

 

個人や企業(組織)であれば、それが「理念やビジョン」という形になります。

 

個人や企業(組織)の将来のあるべき姿を描いた「ビジョン」こそが、成功への鍵を握っているのです。特に、企業(組織)にとっては、役員、従業員などの構成員の全員が同じ思想のもとに一致団結するための拠り所といえるものが「ビジョン」です。

 

個人や企業(組織)がやるべきことは、問題を解決することです。問題を解決するためには、その問題を解決する意義を自分/自社の「ビジョン」に照らし合わせて考えることが最初になります。

 

その問題を解くことで、何が実現できるようになるのか。その結果として、「ビジョン」の達成に近づくことができるのか。

 

ジェラルド・ナドラーと日比野省三氏が創案したブレークスルー思考では、仕事をするときに犯しやすい「7つの過誤」を教えてくれています(「ブレークスルー思考」、ジェラルド・ナドラー、日比野省三共著、発行)。それによれば、(1)やってはいけないことをやる、(2)選択を間違える、(3)間違った問題に対して努力して正解を出す、(4)タイミングを間違える、(5)アプローチをまちがえる、(6)管理過剰を行う、(7)思い込みの失敗をおかす、が犯してはならない7つの過誤であるといいます。

 

ここでは、7つの過誤の3番目の「間違った問題に対して努力して正解を出す」ことについて考えてみます。

 

そもそも、仕事として取り組む問題には、自らの思いつきの問題や上司から与えられた問題がありますが、これらは間違った問題の可能性があります。

 

自分の「信念」に従って一生懸命やれば必ず成功するかといえば、そうではありません。「信念」の先にある「ビジョン」が正しくなければ、その努力は報われません。同様に、その問題が間違いであったら、その仕事は失敗に終わります。

 

やらなくてもよいことを、効率よくやることほど、非効率的なことはないのです。問題解決に取り組む前に、よくよくその問題を解決する意義を考える必要があります。

 

異質なものを結びつけ統合するという意味の「シネクティクス」という類比思考の手法では、最初に「与えられた問題(Problem as Given = PAG)」を「理解した問題(Problem as Understood = PAU)」に変換するという手順があります。これは、ずばり、「間違った問題に対して努力して正解を出す」過ちを避けるための方法の1つといえます。

 

「与えられた問題」とは、顧客や上司から与えられた問題ということです。「与えられた問題」はそれを鵜吞みにするのではなく、自分かよく理解した「理解した問題」に変換することで、真の問題を明らかにする必要性がある、ということです(「シネクティクス」、大鹿譲、金野正共著、ラティス社発行)。

 

私の経験では、問題そのものについての深い検討を行った結果、真の問題は別のところにあったということも多くありましたので、真の問題を明らかにする作業は問題解決を成功させるには最も重要なことといえます。

標準問題のオペレータ

TRIZでは膨大な特許資料を分析した結果に基づいて、技術的な問題を「標準的な問題」と「標準的でない問題」との2つのグループに大きく区分することにしました。

 

そのうち「標準的な問題」は、問題を解決するためにはシステムをどのように変化さなくてはならないかというアプローチで、技術システム進化のパターンを踏まえたルールを使って、1段階あるいは2段階の考察ステップによって解決策を発見することができます。

 

このルールは「発明問題解決の標準」と名づけられました。日本ではこれを一般的に「標準解」と呼んでいます。

 

「標準解」を適用するためには、まず、ある具体的な問題が「標準的な問題」のどのタイプに該当するのか判定する必要があります。そのために、問題のタイプを特定するために物質場分析というモデル化作業を行います。

 

物質場分析によるモデル化の要点は問題の焦点を(1)作用を与える物質要素(ツール)、(2)作用を受ける物質要素(ワーク)、(3)そこで働いている作用(エネルギーの場)の3つの基本要素間の相互作用として捉えることです。物資場分析と呼ばれるのはこのためです。

 

問題を解決するためには問題が発生しているシステムが作っている物質場を変化させる必要があります。

 

どのように変化させるかについてのルールは問題のタイプによって決まります。つまり、「標準解」はあるタイプの問題を解決するためには、システムをどのように変化させたら良いのかという「ヒント」をモデルの形で示唆しているのです。

 

実際に問題を解決するためには「標準解」が示唆する内容を実際のシステムにどのように具体化するか考察する必要があります。

 

TRIZの歴史をたどると、現在「標準解」と呼ばれているルールの起源は、さらに古いTRIZの手法である「発明原理」と様々な「工学的効果」との組み合わせのなかで特に効果的なものを抜き出したものでした。

 

こうした組み合わせが、その後、進化のパターンに沿って技術システムを変形させるルールと一体化されて1975年に「標準解」の体系となりました。

 

取り組むべき問題を「標準的な問題」の1つとみなすことができれば、Ideation TRIZのナレッジベースを直接適用することが可能です。

 

Ideation TRIZ の代表的なIWB(Innovation WorkBench)ソフトウェアには、Ideation プロセスの最初の「問題の情報把握」の段階に記載してある「状況の要約」という項目をクリックすると、「標準問題」のオペレータが掲載されています。

 

「標準問題」のオペレータとしては、(1)生産性を改善する、(2)利便性を改善する、(3)信頼性の向上、(4)機械的強度を改善する、(5)製造精度を改善する、(6)コストを低減する、(7)単純化、(8)重量を軽減する、(9)エネルギー消費を低減させる、(10)浪費時間を減少させる、(11)機能効率を向上させる、(12)変形、ずれ、衝撃、振動、破壊を抑制する、(13)騒音を低減させる、(14)摩耗を低減させる、(15)汚染を軽減する、(16)過熱を回避する、(17)環境との相互作用を減少させる、といったタイトルが用意されています。

 

「標準問題」のオペレータの使用に際しては、これらのタイトルから課題のありかたに類似性のある項目を選択し、適合性のあるリンクをたどっていくと、対応するオペレータの詳細内容を知ることができます。

技術システムと社会的システムの理想性の向上

技術システムは 理想性の向上する方向に進化します。ここでいう理想性は、システムの有益な諸特性の合計を有害な(望ましくない)諸要因の合計で割った値と定義されます。

 

したがって、理想性の向上は、システムの有益な特性の増化・改善、有害な要因の減少・軽減、あるいは、これら両方によって生じます。

 

理想性を徐々に向上させる一般的なアプローチは、以下のとおりです。

 

1.有益な機能や特性の数を増やす

たとえば、(1)対象としているシステムの周辺の他のシステムやシステムの 環境が持っている有益な機能をシステムに取り入れる、(2)新たな有益機能を発明してシステムに付け加える。

2.有益機能の質(あるいは、他の性能)を改良する

3.システムの有害な要因の数を減らす。

たとえば、(1)有害な要因を排除・回避する、(2)有害な作用をそこならば有害な影響が軽減される他のシステムや システムの他の部分に振り向ける、(3)有害な要因を有益に活用する方法を発見する。

4.有害さの程度を軽減する

5.確実に理想性を向上させるために以上を複数組み合わせて実現する

 

理想性の向上は、「技術システム」だけでなく「社会的システム」でも生じますが、それぞれに固有の特徴があります。

 

技術システムの有益機能の改良の着眼点としては、a.機能の効果、b.信頼性、c.動作のスピード、d.機械的強度、e.組成の安定、f.利便性、g.生産性・生産力、h.加工精度、i.配合精度、j.形状、k.汎用性、l.制御性、m.順応性、といったものが考えられます。

 

技術システムの望ましくない要因の排除・軽減・防止の着眼点としては、a.重量、b.全体寸法、c.エネルギー消費、d.複雑さ、e.エネルギーの無駄、f.時間の無駄、g.コスト、h.変形、衝撃、振動、破壊、i.機械的障害、j.磨耗、k.騒音、l.汚染・混入、m.過熱(オーバーヒート)、n.有害な付着、o.発火・爆発、p.環境への悪影響、q.人の危険な行為、r.両立させられない有益作用、といったものが考えられます。

 

社会的システムの有益機能の改良の着眼点としては、a.安全、b.安定、c.自由と人権、d.人間の基本的ニーズの充足、e.情報へのアクセス、f.生活の質、g.人の寿命、といったものが考えられます。

 

社会的システムの望ましくない要因の排除・軽減・防止の着眼点としては、a.社会・経済・政治問題、危機(誘発されたものも、自律的なものも)、b.軍事、犯罪、テロによる危険、c.政治的専制による危険、d.経営、組織内政治、物流、競合、官僚主義にかかわる諸問題、e.誤ったあるいは不正確な情報、および、宣伝や政治その他の手段による大衆操作に関連する諸問題、f.環境および人口学的諸問題、g.人と人との交流に関連する諸問題、h.身体的および精神的健康にかかわる諸問題、といったものが考えられます。

発明活動における情報処理パターンと創造技法

「創造とは、既存の要素を有機的に組み合わせることで、ある目的を達成することができる新しい手段を得ることである。」と定義すると、創造的な問題解決には、(1)問題を発見すること、(2)その問題を解決するためのアイデアを出すこと、(3)そのアイデアを具体化すること、(4)その結果得られた具体案を分析・評価し、成果を確認すること、といった工程が必要と考えられます。

 

発明活動も創造活動の1つですから、当然前記(1)~(4)の各工程をたどると見ることができます。この意味で、発明活動を効果的に進めるための「発明技法」といった観点から、特に有効と思われる創造技法を各工程に位置付けると「発明活動における情報処理パターン」なる発明思考の手順を示すフローチャートが出来上がります。

 

「発明活動における情報処理パターン」の基本形は、市川亀久彌氏の等価変換フローチャート(「創造工学」、市川亀久彌著、(株)ラテイス社発行)を採用させていただきました。加えて、中山正和氏のHBCモデルおよびNM法(「NM法のすべて」、中山正和著、産業能率大学出版部発行)の各パターンとの対応関係を表したものです。

 

「発明活動における情報処理パターン」では、自発的(能動的)にスタートする場合には、その問題に関する欠点を抽出する「欠点列挙法」、希望することを列挙する「希望点列挙法」、川喜田二郎氏の「KJ法」(「KJ法-渾沌をして語らしめる」、川喜田二郎著、中央公論社発行)などを使用することが有効としています。

 

自発的(能動的)にスタートする場合には、願望や不満感といった問題解決の欲求はイメージとして現れますので、イメージ情報が主として保存されている右脳が働き出します。

 

また、上司から問題が与えられたように受動的にスタートする場合には、「発明活動における情報処理パターン」では、江崎通彦氏「KWの方法」(「デザイン・ツー・コストの新しい考え方とその手順」、江崎通彦著、産業能率大学出版部発行)を使用して、その問題を自分が理解できた問題として捉えることを薦めています。

 

ゴードン氏の「シネクティクス」(「シネクティクス」、W.J.J.ゴードン著、大鹿譲・金野正共訳、(株)ラテイス社発行)では、このことを「与えられた問題を理解された問題へ変換する」と表現しています。

 

受動的にスタートする場合には、問題は言葉で与えられますので、コトバ情報が主として保存されている左脳が働き出します。

 

問題が理解されたら、主として右脳に記憶されているイメージを走査してキーワード群(ΣKW)から1つのキーワード「KW」を選択して言葉で表現します。これにより、問題解決の方向づけができたことになります。

 

問題を解決するアイデアを出す方法には、その難易度により3つのタイプが考えられます。

 

1つは、求められる働きが何であるかを追求し、その機能を果たすことのできる方法や装置を考えていく方法で、「機能・装置開発型」とでもいえるものです。

 

2つには、ある働きを持った材料、装置または方法をいろいろな分野に利用できないかと考えていく方法で、「用途開発型」とでもいえるものです。

 

3つには、既存の装置や方法の欠点を見つけて、それを改良するための手段を考えていく方法で、「改良型」とでもいえるものがあります。

 

「発明活動における情報処理パターン」では、「機能・装置開発型」には、発散思考と集束思考の両方を活用し新しい機能や構造を開発するための、創造技法のうち論理的で体系的な技法である中山正和氏の「NM法T型」+「NM法A型」や江崎通彦氏の「FBSテクニック」(「デザイン・ツー・コストの新しい考え方とその手順」、江崎通彦著、産業能率大学出版部発行)などが有効としています。

 

また、「用途開発型」には、発散思考を中心にいろいろな観点や分野を当たることで新しい用途を開発するため、創造技法のうち固定観念にとらわれない発想法を促す技法である「ブレーンストーミング」や「NM法T型」の他、思考のきっかけを与える技法であるオズボーン氏の「チェックリスト法」が有効としています。

 

「改良型」には、発想の拠り所となる既存の装置や方法(これをモデル技術という。)がありあます。そのため、体系的で大掛かりな創造技法を使うまでもなく、発散思考によりたくさんのヒントに近いアイデアを出して、その中から適当なものを選択するといったことで十分であるため、「用途開発型」と同様の創造技法が使えます。

 

いずれの創造技法を使用する場合にも、キーワード「KW」(問題の本質:ε)が決定された後は、このキーワード「KW」を頼りに、イメージの中のアナロジー群ΣQA(モデル技術群ΣAο)から1つのアナロジーQA(モデル技術Aο)を選んで、それを言葉で表現します。

 

このアナロジーQA(モデル技術Aο)の背景イメージQBを走査し(この際、不必要要素Σaを廃棄する)、問題解決に役立つヒントQCを探し、そのヒントに基づいて基本アイデアとなる原理図cεを作成します。

 

原理図cεが完成したら、問題との整合性を確認し、判断の結果OKであれば、技術情報ΣTIや市場情報ΣMIの中から新しいアイデアの必要要素技術Σbを選択し、これを付加することで具体案Bτを完成します。

 

判断の結果NOであれば、複数のヒントQCを組み合わせる思考実験を行いながら、納得できる具体案Bτを完成させます。

 

具体案Bτが決定したら、その案に基づいて試作品を製作して、その実用性を判断します。判断の結果、OKなら発明が完成したことになります。NOであれば、技術情報ΣTIや市場情報ΣMIまで戻って、当初選択したものと別の必要要素技術Σbを採用してみて具体案Bτを作り直します。

 

それでも満足が得られそうもないような場合には、「発明活動における情報処理パターン」では、思い切ってアナロジーQAまたはキーワードKWの選定する段階まで戻って、当初選択したものと別なものを選択して、再度同様の検討を行うことを薦めます。

連想をうまく利用するポイント

私たちの頭の中にある記憶は、「思い出そうとすれば思い出せる記憶」と、「思い出そうとしても思い出せない記憶」の二つがあることはご存じの通りです。

 

このうち思い出そうとしても思い出せない記憶は、絶対に思い出せないわけではなく、イ.刺激(手がかり)が与えられると思い出す記憶、ロ.催眠術など特殊な方法によらなければ思い出せない記憶、の二つががあるといいます(「情報創造」、樺島忠夫著、(株)三省堂発行)。

 

このいずれも、いわば他力本願の感がありますが、私たちは意識するとしないとに関わらずに、その問題を他人に話をして、その人の意見を聞いたり、問題とは直接関係ないが何かのヒントになりそうな分野の知識を吸収したりすることを試みることがあります。

 

創造というのは、このような考えあぐねていろいろなことを試みる(試行錯誤)中から手がかりとなる刺激や情報を自ら探ることしかないのではないかと思います。今までと同じ思考努力の範囲で解けるようなものは、自分自身で問題とは意識しないでしょう。

 

また、刺激を受けたとしても、もっといえば、手がかりとなるヒントが得られていたとしても本人がそれに気づかなければ、問題解決には結びつきません。

 

ということは、自分自身の中にある過去の経験から得た記憶にアクセスして、その中からヒントやアイデアを得るしかないといえるでしょう。たまたま、他人から役立つヒントやアイデアをもらうことで、問題が解決したとしても、いつもそのようなことが期待できるはずもないのですから、「自ら思い出そうとしてもすぐには思い出せない記憶をどうして思い出すのか」ということが、創造技法の当面の目的とするところであると思います。

 

頼れるのは、最後は自分の頭の中にある膨大な量の記憶であるということです。つまり、人脳データベースをいかに使いこなすかにかかっています。

 

古典的な提案としては、プラトンやアリストテレスが人間心理の基本的な原理であると強調したといわれているものに、「観念連合」という概念があります。これは、心像(イメージ)を記憶に対応させ、ある考えからの他の考えをもたらす心理的現象のことで、「接近」、「類似」、「反対」等の連合(想)を積極的に利用することをいいます(「新版 独創力をのばせ」、A.F.オズボーン著、上野一郎訳、ダイヤモンド社発行)。

 

発想の効率を上げるためには、せっかく出したヒントを生かすことです。一つのアイデアが出たら、それを刺激として次から次へと関連したイメージを広げるようにして、それにまつわるイメージを徹底的に追求することです。そして、イメージが途切れたとき、別のイメージを探るようにするとよい。この場合、テーマを意識しながら思考の方向を定めることが、イメージを探るテクニックといえるでしょう。

 

思考の方向を定めるものは、市川亀久彌氏の等価変換理論でいえばvi→(観点)であり、中山正和氏のNM法ではKW(キーワード)です。これら二つこそが、連想をうまく利用するポイントです。

 

TRIZは、様々な技術分野でまったく同じ基本的問題(矛盾)が何度も繰り返し取り上げられ、解決されてきたことを明らかにしました。Ideation TRIZでは、このように繰り返し使われる解決策の原理を約500種類抽出して、オペレータ(問題解決のヒント集)というものを作り上げました。このオペレータは、連想をうまく利用するための実践的ツールの一つといえるでしょう。

 

なお、等価変換理論とNM法については、別の回で説明することとします。

思考のメカニズムを探る

創造の問題を考えるとき、避けて通れないのが人間の思考のメカニズムがどうなっているかということです。

 

そのメカニズムがわかれば、どんな入力があるとどんな出力が生じるかの予測が立てられることになります。すると、種々の問題に対してどのように対処すればもっとも効率よく解決が図れるかがわかり、結果的に次々に新たな問題に取り組んでいけますので、どんな変革の時代にあっても自分を見失うことがなくなります。そして、人間の最も高い欲望といわれている自己実現が可能となります。

 

ところで、私たちが日常的に行っている仕事とは、つまりは問題解決の連続です。

 

その際の問題が通常の論理的思考だけで解決するものであれば、「これは問題だ」というほどのことはありません。しかし、中には論理的思考だけでは解決できないものがあります。

 

創造技法として紹介されてるもののほとんどが、その手順の最初に「問題の発見」を上げていますので、思考のメカニズムについてもこの点から考えてみましょう。

 

私たちの回りにはたくさんの問題が散在していますが、そのうち個人が仕事として解決しなければならない問題は、時間的、物理的、能力的等いろいろな要因により、ある範囲に限定されているのが普通です。むしろ、問題の範囲を自分で限定しているといった方がよいかもしれません。

 

これと正反対なのが、仕事が趣味とも思えるほどに、特定の問題意識を強く持っていて自分で問題を作り出す人がいます。そこまでいかなくとも、人から与えられる問題(飛び込んでくる問題)を手に余すことなく、自分で問題を見つけるくらいにはなりたいものです。

 

「問題の発見」とは、この自分で問題を見つけるレベルであると考えればわかり易いでしょう。

 

私たちが問題を問題と意識するのは、イ.その問題の所在に気づいて、ロ.その問題を自分の問題であると認識したときです。この辺の過程を岩崎隆治氏が思考レベルに沿って詳しく紹介されていますので(「情報活用の技術」、岩崎隆治著、日本経営者団体連盟広報部発行)、以下、その文章を引用させていただきます。

 

「わたしたちは、身のまわりに何らかの『変化』を身体で感じるとそれが『意味ある刺激』として心の中を占めるようになる。しばらくの間、心の中にあった『刺激の束』は、やがてはっきりした形をとるようになる。こうしてできあがった『問題のイメージ』は、頭の中に送り込まれ、ついには、その問題を『ことば』ではっきりといいあらわすことができるようになってくるのである。つまり、わたしの経験によると、『身体』で感じた『変化』は、『心』の中でイメージとなり、やがて、『頭』の中で『問題』として意識されるようになる-というわけである。」

 

つまり、岩崎隆治氏は、「問題の発見」には、イ.問題を身体で感じる段階(感覚レベル)、ロ.問題を心の中で思う段階(知覚レベル)、ハ.問題を頭の中で考える段階(認識レベル)の三つの思考の段階がある、といわれます。

 

なお、実際の問題解決に当たっては、「問題の発見」の後に、分析→計画→実行→評価という手順が追加されることになります。

 

「問題の発見」についての岩崎隆治氏の意見を、思考一般のことに拡張して考えると、中山正和氏のHBC(人脳コンピュータ)モデル(「NM法のすべて」、中山正和著、産業能率大学出版部発行)とうまく符合します。

 

問題を見つけるきっかけは、外部からの「刺激」と外部からの「情報」と考えられます。

 

刺激には、人間の五官が感じる、手で「触れる」、鼻で「嗅ぐ」、舌で「味わう」、体で「験す」といったことがあります。情報には、人間の五官が受け止める、目で「見る」、耳で「聞く」、口の「読む」といったことがあります。

 

一般に、人が文章を読むとき、黙読しています。ということは、しゃべっている状態と同じですので、口で読んでいるといえるわけです。いわゆる速読は、口で読まずに目で読んでいるからスピードアップが可能なわけです。

 

刺激は、体で「感じる」ものであり、情報が与えられると、頭で「考える」ものです。その結果、体の反応としては、何気ない仕事や態度として現れます。また、頭を使って計画して、言葉を話し、文字を書き、絵を描きます。

 

岩崎隆治氏の考えと中山正和氏の「脳の機能モデル」とを合わせて眺めてみると、「イメージ」と「言葉」が思考のメカニズムを考える上での重要なキーワードであることが理解できます。