思考のメカニズムを探る

創造の問題を考えるとき、避けて通れないのが人間の思考のメカニズムがどうなっているかということです。

 

そのメカニズムがわかれば、どんな入力があるとどんな出力が生じるかの予測が立てられることになります。すると、種々の問題に対してどのように対処すればもっとも効率よく解決が図れるかがわかり、結果的に次々に新たな問題に取り組んでいけますので、どんな変革の時代にあっても自分を見失うことがなくなります。そして、人間の最も高い欲望といわれている自己実現が可能となります。

 

ところで、私たちが日常的に行っている仕事とは、つまりは問題解決の連続です。

 

その際の問題が通常の論理的思考だけで解決するものであれば、「これは問題だ」というほどのことはありません。しかし、中には論理的思考だけでは解決できないものがあります。

 

創造技法として紹介されてるもののほとんどが、その手順の最初に「問題の発見」を上げていますので、思考のメカニズムについてもこの点から考えてみましょう。

 

私たちの回りにはたくさんの問題が散在していますが、そのうち個人が仕事として解決しなければならない問題は、時間的、物理的、能力的等いろいろな要因により、ある範囲に限定されているのが普通です。むしろ、問題の範囲を自分で限定しているといった方がよいかもしれません。

 

これと正反対なのが、仕事が趣味とも思えるほどに、特定の問題意識を強く持っていて自分で問題を作り出す人がいます。そこまでいかなくとも、人から与えられる問題(飛び込んでくる問題)を手に余すことなく、自分で問題を見つけるくらいにはなりたいものです。

 

「問題の発見」とは、この自分で問題を見つけるレベルであると考えればわかり易いでしょう。

 

私たちが問題を問題と意識するのは、イ.その問題の所在に気づいて、ロ.その問題を自分の問題であると認識したときです。この辺の過程を岩崎隆治氏が思考レベルに沿って詳しく紹介されていますので(「情報活用の技術」、岩崎隆治著、日本経営者団体連盟広報部発行)、以下、その文章を引用させていただきます。

 

「わたしたちは、身のまわりに何らかの『変化』を身体で感じるとそれが『意味ある刺激』として心の中を占めるようになる。しばらくの間、心の中にあった『刺激の束』は、やがてはっきりした形をとるようになる。こうしてできあがった『問題のイメージ』は、頭の中に送り込まれ、ついには、その問題を『ことば』ではっきりといいあらわすことができるようになってくるのである。つまり、わたしの経験によると、『身体』で感じた『変化』は、『心』の中でイメージとなり、やがて、『頭』の中で『問題』として意識されるようになる-というわけである。」

 

つまり、岩崎隆治氏は、「問題の発見」には、イ.問題を身体で感じる段階(感覚レベル)、ロ.問題を心の中で思う段階(知覚レベル)、ハ.問題を頭の中で考える段階(認識レベル)の三つの思考の段階がある、といわれます。

 

なお、実際の問題解決に当たっては、「問題の発見」の後に、分析→計画→実行→評価という手順が追加されることになります。

 

「問題の発見」についての岩崎隆治氏の意見を、思考一般のことに拡張して考えると、中山正和氏のHBC(人脳コンピュータ)モデル(「NM法のすべて」、中山正和著、産業能率大学出版部発行)とうまく符合します。

 

問題を見つけるきっかけは、外部からの「刺激」と外部からの「情報」と考えられます。

 

刺激には、人間の五官が感じる、手で「触れる」、鼻で「嗅ぐ」、舌で「味わう」、体で「験す」といったことがあります。情報には、人間の五官が受け止める、目で「見る」、耳で「聞く」、口の「読む」といったことがあります。

 

一般に、人が文章を読むとき、黙読しています。ということは、しゃべっている状態と同じですので、口で読んでいるといえるわけです。いわゆる速読は、口で読まずに目で読んでいるからスピードアップが可能なわけです。

 

刺激は、体で「感じる」ものであり、情報が与えられると、頭で「考える」ものです。その結果、体の反応としては、何気ない仕事や態度として現れます。また、頭を使って計画して、言葉を話し、文字を書き、絵を描きます。

 

岩崎隆治氏の考えと中山正和氏の「脳の機能モデル」とを合わせて眺めてみると、「イメージ」と「言葉」が思考のメカニズムを考える上での重要なキーワードであることが理解できます。