理想性の向上と理想化

TRIZの知見によれば、技術システムは理想性が向上する方向に進化するといいます。

ここでいう理想性は、システムの有益な諸特性の合計を有害な(望ましくない)諸特性の合計で割った値と定義されます。

したがって、「理想性の向上」は、システムの有益な特性の増化・改善、または有害な要因の減少・軽減、あるいは、これら両方によって生じます。

理想性を徐々に向上させる一般的なアプローチとしては、以下のようなことが考えられます。
(1)有益な機能や特性の数を増やす
たとえば、①対象としているシステムの周辺の他のシステムやシステムの環境が持っている有益な機能をシステムに取り入れる、②新たな有益機能を発明してシステムに付け加える、など。
(2)有益機能の質(あるいは、他の性能)を改良する
(3)システムの有害な要因の数を減らす
たとえば、①有害な要因を排除・回避する、②有害な作用をそこならば有害な影響が軽減される他のシステムやシステムの他の部分に振り向ける、③有害な要因を有益に活用する方法を発見する、など。
(4)有害さの程度を軽減する
(5)(1)~(4)を複数組み合わせて実現する

理想性の向上を図るには、以下のような資源の活用によって達成することが可能です。
(1)システムおよびシステムの環境に含まれるあらゆる物体(廃棄物も含む)
(2)使われていないエネルギー、力、作用
(3)活用されていない時間
(4)使われていない空間
(5)システムまたはその一部、あるいはシステムの環境内の何かが追加の機能をはたす可能性
(6)システムに関する情報

「理想性の向上」に関連した概念に「理想化」という考え方があります。

「理想化」とは、システムそのものが存在しないのに必要な機能が得られる理想的なシステムを目標とする考え方のことです。

理想化という発想をもつことによって、利用可能な資源と与えられた制約の範囲内で、できるだけ理想的な状態に近づけるといった現実的なアイデアの発想が可能となります。

システムの理想化を行うには、以下の事項を検討します。
(1)システムの中の重複する要素を取り除く
(2)現在より集積度の高い下位システムを使う
(3)付随的機能を取り除く
(4)セルフサービスの仕組みを取り入れる
(5)要素をできるだけ減らす
(6)別々になっている下位システムをまとめて一つにする
(7)全体を取り替えて単純化をはかる

アイディエーション社の「システム進化の傾向」の捉え方

人工的なシステムや自然界のシステムが進化する過程を丁寧に観察すると、進化の仕方に様々な 傾向を観察することができます。

人工的なシステムの進化の記録-特許資料-の分析を通じて技術システムの進化のパターンを抽出しようとした初めての人物がTRIZを創ったG.アルトシューラです。

彼は1950年代半ばに「進化の過程における理想性増加の法則」と「技術的矛盾を克服することによる進化の法則」という形で進化の法則を初めて定式化し、1975年には、これを発展させた「技術システムの進化の法則」の最初の体系を提起しました。

アイディエーション社のTRIZ(I-TRIZ)では、人工的なシステムの進化の傾向を(1)進化のトレンド、(2)進化のパターン、(3)進化のライン、の3種類に分けて捉えます。

以下、アイディエーション社のDE:Directed Evolution(戦略的世代進化)というソフトウェアに掲載されている「システム進化の傾向」についての解説の要約を示します。

 


 

進化のトレンドとは、システムが進化してゆく歴史的な発展の過程で見受けられる短期的・長期的のあらゆる傾向を一般的に指します。ここには進化のパターン、進化のラインも含まれますが、これ以外に歴史の中で一度だけ、あるいは、まれに観察される傾向も含まれます。

人工システムが発展するきっかけは、進化を妨げる環境が変化することです。環境の変化はほんの少しでも、影響が大勢の人に及ぶとシステムの発展を大きく左右することがあります。

たとえば、現代は人が単に筋肉を使って行う労働は様々な機械によって置き変えられることでその量が減り、創造的な労働が増加してゆく強い定常的なトレンドがあります。

どのようなトレンドの背景にも、それがどうして出現し存在するのか原因と結果の関係として論理的に説明できる何らかのメカニズムがあります。あるトレンドは他の何らかのトレンドの(または、いつかのトレンドが組み合わさった)メカニズムによって出現し、それ自身もまた、他のトレンドが出現する条件となってゆきます。

システムの進化は常に、様々なベクトルや力を持ち、しばしば互いに矛盾する複数のトレンドの相互作用の結果として生じます。現実の進化は様々な作用の複合的な結果です。何か新しいトレンドが加わった場合、そのトレンドは何らかの主要なトレンドに単に従属するということにはなりません。そのため、進化の道筋は線形に進むことにはならないのです。

こうした進化のトレンドやその背景に隠れたメカニズム、さらに、これらを変化させる方法について知識を持つことで(真空管やトランジスターが電波を増幅するのと同じように)比較的小さな力を用いてシステムの進化を大きく制御することが可能になります。

現実には、唯一の極めて複雑な進化のプロセスが進展しているのであって、それ以外のすべての詳細なパターンや傾向はこの一つのプロセスを様々な特定の観点から見たものに過ぎないのは明らかです。しかし、この複雑なプロセスを理解し、目的に合わせて利用できるようにするためは、幾つかの切り口で単純化することが有効です。

進化のパターンとは、システムが進化してゆく歴史的な発展の過程で何度も繰り返される、幾つかの強い傾向を抽出したものです。進化のパターンの多くには、そのパターンに関係の深い複数の進化のラインが存在します。

進化のラインとは、進化のパターンが展開してゆく段階の系列を含むやや詳細な進化の傾向です。段階とはシステムがある時点でそのラインのどの段階にあるか、いわば進化の進捗の度合いを示す変化の特性です。

進化のラインという系統的な段階を知っていれば、あるシステムがそのライン上で現在どの段階にあるか、今後どのような変化の道筋をたどる可能性が高いか、という判定をすることが可能になります。つまり、そのシステムの今後の発展の道筋を予測することが可能になるのです。

 


 

アイディエーション社のDE(戦略的世代進化)というソフトウェアに掲載されている以下の「進化のパターン」の体系はG.アルトシューラの偉業を引き継いだ30年間の研究の成果です。

1.進化の諸段階
2.理想性の向上
3.要素の不均衡進化(矛盾)
4.柔軟性と制御性の増加
5.複雑化後簡素化
6.要素間の対応と非対応
7.ミクロ化と階層化
8.人の関与の減少

知恵の生産技術を身に着ける

今企業が一番必要としているものは知恵です。

今のような変化の激しい時代は、自分で知恵を出し、自信を持って提案できる人や企業だけが生き残れます。

相手の心の中に「変わった考えだけど、面白いかもしれない。」という感覚を引き起こせるかどうかによります。人が商品を買うのは、その商品の知恵の部分に感心して買うのです。

変化とは、消費者が商品なりイベントにすぐ飽きて次々と新しいものに興味を持つことです。

それは無意識がそれはもう飽きた。こっちのほうが楽しそう、と決めるのです。変化が早いということは、無意識が主導権を握っている時代ということです。

消費者に「こういう楽しい企画を考えましたので、ぜひ試してみてください」という「知恵のメッセージ」(あるべき姿、理想像)を出し続けなければなりません。

企業は単に「知恵を出せ」と押しつけるだけではなく、社員に知恵の出し方を教育する必要があります。社員に知恵の生産技術を教えなくてはなりません。

知恵の元は誰でも持っています。それは「いのち」です。そのため、知恵の生産は、身体、特に脳を使う作業なので、若干の練習が必要です。

NM法を創案した中山正和氏は「知恵とは、自然というシステムに組み込まれた変化のプログラム。知恵とは、言葉でなく体で考えること。自然の知恵なのだからそれは『自動的』なのである。問題は言葉で(知識で)考えたら解けるといものではない。あるときあることに『ハッと気づく』ということがないとだめなのだ。」といいます。

創造性に関する本を読んだり、創造性に関する話を聞いても、知恵は出ません。知恵は、自分の頭から生み出すものだから、自分の脳を使う肉体的作業によらなければなりません。

知恵を出すにはコツがあります。自分の身の回りや世の中の出来事で、何か「変化」が発生したら、すぐその変化の「本質」は何だろうと考える習慣を身につけておくことです。

あれこれと考えるタネがなくなっても考えつづけていると、「あるとき」「あること」に「ハッと気づく」のです。「あること」というのは、「こういうふうに考えたらどうか?」というので、これが問題の解決の「ヒント」とか「アイデア」というものです。

「ヒント」はまだ役立つかどうかわからないくらいのもので、「アイデア」というときにはもう確かに問題解決に役立つような形をとる場合です。

ブレーンストーミングを行う上で重要なことは、このような「ヒント」を捨てずに記録することです。その「ヒント」が「アイデア」の基になります。

問題解決のヒントを着想といい、こういうヒントがいくつか集まって、だんだんある一つの論理的な裏づけを持ったものを形作って行くことを発想といいます。

問題解決のヒントは、自分で考えついたものに限らず、他人から与えられたものでも、本から得たものでもよい。

TRIZは先人の知恵を集めたヒント集を作っている。一般に知られているのが「40の発明原理」です。

I-TRIZではそのヒントを約500種類集めて、必要なときに必要なものが取り出せるように体系的に整理している。これを「オペレータ」と呼んでいます。

オペレータには、40の発明原理だけではなく、TRIZでいう「分離の原則」、「標準解」、「進化のパターン/ライン」、「効果集」の他、アイディエーション・インターナショナル社が独自に決めた解決パターンが含まれています。

ただし、先人の知恵は知識ですので、自分なりにその本質を突き止めてから使用することが必要です。

頭に浮かんだものが知恵かどうかを判定するには、それで感動する喜びがあったかどうか?を確認すればよい。

自分の出したアイデアに感動する喜びがなければ、その考え方は既にどこかであなたは知っていたということです。新しく生まれてきた知恵は、必ず感動する喜びを伴います。

だから、個人や企業が成功するためには感動する喜びを求めつづけなければなりません。感動する喜びの方向にしか、個人や企業の成功はありません。

視点を変える発想と加減乗除(四則演算)

視点を変える発想のツールとして、オズボーンのチェクリスト(①転用したら?、②応用したら?、③変更したら?、④拡大したら?、⑤縮小したら?、⑥代用したら?、⑦再利用したら?、⑧逆転したら?、⑨結合したら?)が広く知られています。

オズボーンのチェクリストから派生したものに、「SCAMPER(スキャンパー)」というチェックリストがあります。

SCAMPERは、以下のような7つの質問の頭文字から名付けられた強制発想のためのツールです。
(1)Substitute(入れ替えたら?)
(2)Combine(統合したら?)
(3)Adapt(応用したら?)
(4)Modify(修正したら?)
(5)Put to other uses(使い道を変えたら?)
(6)Eliminate(取り除いたら?)
(7)Rearrange/Reverse(並び替えたら?/逆にしたら?)

オズボーンのチェクリストもSCAMPERリストも、1件ずつ見ていくだけで違う視点から物事を考えることができます。

SCAMPERよりもシンプルなものとして、「加減乗除(四則演算)」の発想法があります。

足し算をしてみたら?、引き算をしてみたら?、掛け算をしてみたら?、割り算をしてみたら?、というものです。

加減乗除(四則演算)は視点が4つだけであるため、一見簡単そうに思えますが、それだけ項目の概念の抽象度が高いということです。

そのため、加減乗除(四則演算)を実務に適用する場合には、それらの視点の本質をよく理解してから使用するとよいでしょう。

問題解決は問題の分析から始まりますので、最初に割り算を適用します。「わからないことは分けろ」というとおり、問題を細かな要素に分解・分割するという意味です。

問題解決の目的が現状の改善、改良の場合には、割り算で分解した各要素について足し算、引き算を検討します。

足し算では、有益機能を増やすことで価値を高めることができる方法はないか?と考えます。引き算では、有害機能を減らすことで価値を高めることができる方法はないか?と考えます。

あるべき姿を追求する場合には、理想的な解決策を見つけようとしますので、現状の改善、改良とは違い、より高度な発想が求められます。

いろいろな構成要素同士またはそれらの構成要素に関する知識を組み合わせるという掛け算の発想が必要になります。

ただし、問題の対象になっているシステム内にある要素については同業者もよく知っているので、単にそれらの知識を組み合わせても画期的なアイデアを得ることは難しいところです。

画期的なアイデアとは、自分たちが知っている分野の知識だけではなかなか生まれてこないものです。

そのため、等価変換理論、NM法、シネクティクス、TRIZという発明的問題の解決に有効な技法では、いずれも自然界の知識や異なる技術分野の知識を組み合わせることを推奨しています。

ちなみに、TRIZの簡易技法であるSIT(Structured Inventive Thinking:体系的創造思考法)では、加減乗除(四則演算)を基本とした発想法を採用しています。

アイディエーション・インターナショナル社のヴァレリー・プルシンスキーは、TRIZと生物進化の考え方を結合して、構成要素や構成要素に関する知識の組み合わせを加減乗除(四則演算)に沿って説明した「ハイブリッド化」という手法を提唱しています。

資源の使い方

理想性の高い解決策を得るには、最低限のコストで目的とする機能を実現することが必要です。そのためには、問題を抱えたシステムあるいはその周辺で適切な資源を見つけなければなりません。

 

TRIZで資源とは、問題を解決するために利用できるシステムあるいはその周囲に存在する何らかの物質、エネルギー、空間、時間、情報、機能などのことです。

 

システムの進化のすべてのステップは何らかの資源を活用することによって支えられるとともに、その進化によってシステム自身にとって、あるいは、他のシステムにとっての新しい進化の資源が生み出されます。

 

問題が解けるかどうかは適切な資源を発見して、それをうまく利用できるか否かにかかっています。

 

理想性の高い解決策はシステムの中に既に存在する資源(以下、既存の資源という。)を活用することで実現します。システムの中に資源が見つからなければ、システムの周辺にある資源を利用することも考えます。

 

必要な既存の資源がない場合には、既存の資源を変化させたり手を加えたりして何らかの変更処理した資源(以下、派生資源という。)を使います。

 

問題解決に必要な資源を明らかにするためには、深く、更に深くと、システムを深く見つめてゆく必要があるという点です。長年解決することができなかった懸案に取組む場合には、「問題を掘り下げる」発想が特に重要です。

 

そのようなケースではほとんどの場合、解決策をもたらす資源は容易には明らかになりません。ですから、今まで気づかなかった資源を発見することが、成功と失敗の分かれ目になるのです。

 

実務的には、新たに発見した既存の資源をそのまま利用するよりも、その既存の資源に変更を加えてた派生資源を使うことが多いといえます。

 

技術システムの進化の過程で様々な構成要素は通常それぞれ独自のテンポで進化します。このため、個々の要素が異なるタイミングでそれぞれに固有の進化の限界に到達することがあります。

 

この状況が引き起こす矛盾のために、システムはそれまでと同じ方向に進化することが不可能になります。

 

一番先に限界に達した要素が、システム全体のそれ以降の進化を妨害するのが普通です。システムを更に進化させるためには、進化を妨害している要素をつきとめて、進化の限界となっている矛盾を排除(解決)しなくてはなりません。

 

システムの進化は「進化の諸段階」のパターンに沿って進みます。S-カーブはシステムの進化の道筋を一般的に表現したものです。

 

現実のシステムは多数の下位システムから成り立っていますが、個々の下位システムに着目するとそれぞれが自分のS-カーブに沿って進化しています。

 

下位システムが異なるタイミングで自分の進化の限界に到達する可能性があるということです。

 

一番始めに限界に到達した下位システムはシステム全体の成長を妨げることになります。この下位システムは自分が成長するための資源を使い尽くしてしまったわけですから、どのようにして状況を改善しよう試みるにせよ、他の下位システムの資源を借りるしかありません。

 

こうして、下位システム同士の間で資源を取り合う競争が生じることになり、これが矛盾の原因となります。

 

システムの成長を継続するためには、ボトルネックとなっている下位システムを明らかにすることは極めて重要です。ボトルネックの下位システムはより進んだものと置き換えなくてはなりません。限界をむかえた下位システムを放置して、手を付けやすい他の下位システムを改良しようとするのはしばしば犯される誤りです。

思い込み、先入観、固定概念を壊す方法(その4)

前回、思い込み、先入観、固定概念を壊す方法として、「問題の逆転」という方法を紹介しました。

今回は、「特性転写法」を紹介します。

「特性転写法」とは、改良しようとしているシステム(通常は製品)に無作為に選んだ物の特徴を与えるとどうなるかを考えてみるものです。

「特性転写法」は、以下のステップに従います。

ステップ1. 改良対象となるシステムを決めます。

ステップ2. 無作為に3~5個の物を選んでください(たとえば、本か雑誌を開いて目についた名詞を選んでください)。

ステップ3. 選んだものそれぞれの特徴をリストアップしてください。

ステップ4. 改良したい製品にこれらの特徴を持たせるとどうなるか、考えてください。具体的には、
(1) 先に選んだものの特徴をリストに従って1つずつ、製品に当てはめてみてください。
(2) 無作為に選んだ特徴が示す方向に製品を改良するとしたら、課題はどう表現されますか?文章にしてください。

アイデア出しに多く使用されているブレーンストーミングは自由連想法(思いつくままに自由に発想する方法)であるのに対して、「特性転写法」は強制発想法(各種ヒントを強制的に結び付けて発想する方法)といえます。

決められた方向に向かって強制的に発想すると、自然に、思い込み、先入観、固定概念を壊すことができます。

 

I-TRIZ(Ideation TRIZ)のオペレータ(繰り返して使われる解決策の原理となっている思考パターン)を使ってアイデアを出す場合は、以下のような方向付けに従います。

【オペレータを使う場合の発想の仕方】
(1)あなたが取り組んでいる状況にオペレータが推奨する方法を当てはめたらどうなるか考えてみてください。

(2)現在、対象としているシステムについてオペレータの推奨に沿って変化させるとどういうことになるか考えてください。

(3)システム(とその周囲)にあるどんな資源を変化させる必要があるか考えてください。

(4)その資源を変化させる方法を考えてください。

(5)そうした変化を起こさせるうえで移用できる資源がないか探してください。

(6)以上考えてきたアイデアの実現可能性を考えてください。

(7)そのアイデアをそのまま使ったら、どんな(二次的な/付随する)問題が生じるか考えてください。

(8)現在使っているオペレータが二次的な(付随する)問題に関連するガイダンスも含んでいる場合には、そのガイダンスについても検討してください。

 

これは強制発想法を行っているときの頭の使い方と同じです。

I-TRIZのオペレータを使ったアイデア出しが円滑に進められずにいる方は、「特性転写法」のような強制発想法を身に着けることで、アイデア出しのスピードアップも図れることになるでしょう。

思い込み、先入観、固定概念を壊す方法(その3)

前回、思い込み、先入観、固定概念を壊す方法として、「Good-Badゲーム」という方法を紹介しました。

今回は、「問題の逆転」を紹介します。

問題の逆転」では、以下のようなことを考えます。

作用を反対作用に取り替えてください。たとえば、加熱する代わりに、冷却してみてください。あるいは、操作の順序を逆にして後の操作を先にしてみたらどうなるか考えてみてください。

可動部分と静止部分とを逆にしてみてください、あるいは、動きのタイプを往復運動から回転運動あるいは揺動運動に、または、その逆にしてみてください。

物体、システム、プロセスの内側と外側とを裏返しにしたり、上下をひっくり返してみてください。あるいは、内側の作用を外側での作用に、外側の作用を内側での作用に逆にすることを考えてください。

これらは、現在起きている事象を逆転させることで、思い込み、先入観、固定概念を壊して、新しい発想を得ることを目的としています。

逆転といえば、I-TRIZ(Ideation TRIZ)の不具合分析(FA:Failure Analysis)と不具合予測(FP:Failure Prediction)です。

不具合分析(FA)では、製品や工程などの技術システムに生じる不具合やその他の問題の原因を「推測」するのでなく、問題を能動的な課題へと「逆転」させます。

不具合予測(FP)では、潜在的な不具合を「推測」する代わりに、問題を能動的な課題へと「逆転」させます。

いずれも、不具合を「作り出す」方法を見つけることをします。

不具合を一般的な現象に読み替え、その現象を意図的に生じさせる方法を探すことによって、不具合のメカニズムを想定するのです。

想定された方法に関与する、すべての要素がシステムまたはその近くの環境の中に存在していなければなりません。

つまり、不具合を引き起こすには、そのために必要な「資源」が存在しなければならないのです。そこで、次にそのような資源が存在するかどうかを判定し、すべて存在するということが確認できれば、想定した不具合のメカニズムが正しいと考えるわけです。

不具合分析(FA)や不具合予測(FP)が、不具合やその他の問題の原因を「推測」するのでなく、問題を能動的な課題へと「逆転」させる理由は、「不具合を発明する」問題に切り替えるためです。

不具合は起きて欲しくないことであるため、起きた不具合についての情報を隠そうとします。そのため、不具合を取り扱う分野には、不具合のメカニズムを解明する情報が少ないといえます。

これに対して、発明はどんどん生み出そうとしますし、生み出された発明の多くは公開されます(特許出願された発明は、一定期間経過後に公開されることが法律で規定されています)。そのため、発明を取り扱う分野には、発明のメカニズムを解明する情報が多いといえます。

そこで、不具合やその他の問題の原因を「推測」するのでなく、問題を能動的な課題へと「逆転」させて、情報量で圧倒的に有利な発明のメカニズムを使って「不具合を発明する」ことを考える方法を採用しています。

その効果は絶大です。従来の不具合分析法や不具合予測法で歯が立たなかった問題について、是非、不具合分析(FA)や不具合予測(FP)の逆転の発想を採用してみてください。

思い込み、先入観、固定概念を壊す(その2)

前回、思い込み、先入観、固定概念を壊す方法として、「視点の転換」と「極大・極小オペレータ」という方法を紹介しました。

今回は、「Good-Badゲーム」を紹介します。

「Good-Badゲーム」は、以下の定型文の< >の中に問題状況に対応する事実・思いつきを記入することで行います。

対象システムの欠点< 対象システムの欠点をここに記入します >は悪い、なぜなら:< 理由を記入します=理由1 >だから

理由1< 理由1を記入します >は良い、なぜなら:< 理由を記入します=理由2 >だから

理由2< 理由2を記入します >は悪い、なぜなら:< 理由を記入します=理由3 >だから

理由3< 理由3を記入します >は良い、なぜなら:< 理由を記入します=理由4 >だから

このようにして、少なくとも4~5つの文章を作成するようにします。

(例)食卓のソース差し

対象システムの欠点< ソース差しの注ぎ口からソースが垂れる >は悪い、なぜなら< ソースがソース差しを汚す >から

< ソースがソース差しを汚す >は良い、なぜなら< ソースが円滑に食べ物に注がれる >から

< ソースが円滑に食べ物に注がれる >は悪い、なぜなら< ソースが手やテーブルを汚す >から

< ソースが手やテーブルを汚す >は良い、なぜなら< 汚れを拭き取ることでソース差し、手、テーブルを常に清潔に保てる >から

「ソースがソース差しを汚す」とか「ソースが手やテーブルを汚す」が「良い」なんて言ったら、普通は「何バカなこと言っているんだ」と言われそうです。

理由がバカバカしいとか、受け入れられないように思えても気にしないでください。このように考えてみる目的は、自由に発想することにあるのです。

バカバカしいと思えるアイデアや、受け入れられないアイデアとは、現在の常識に反しているということです。

常識は思い込み、先入観、固定概念の源ですので、思い込み、先入観、固定概念を壊すためには、非常識なアイデアを一旦受け入れることが必要です。

その後で、実現性を高めるアイデアを考えればいいのです。

試しに、ソースが食べ物に円滑に注がれ、ソース差し本体、手、テーブルが汚れない「キレのよい清潔なソース差し」を考えてみてください。

思い込み、先入観、固定概念を壊す方法(その1)

思い込み、先入観、固定概念のことをTRIZでは心理的惰性といいます。

I-TRIZ(Ideation TRIZ)では、心理的惰性を壊す方法としていくつかのツールを用意しています。

最初に、「視点の転換」という方法を紹介します。

目の前にいる人に自分が抱えている問題について説明するとしたら、どのように説明するとわかってもらえるか想像してきてください。

中学生を相手にするつもりで、問題についてわかりやすく説明してください。

職場で使われている専門用語を使わないで一般的な言葉を使ってください。

「視点の転換」では、説明する相手が以下のような人達だと仮定します。
(1) あなたが対象としているシステムに関して何も知らない人
(2) 縄文人
(3) 奇人・変人
(4) 宇宙人

さて、あなたならどのように説明しますか。

もう1つ、「極大・極小オペレータ」という方法を紹介します。

システムが持つ特性のうちのどれか、あるいはいくつかの値が2倍、5倍、10倍、50倍、500倍、または10000倍の規模で増減したら、問題はどのように変化するかを考えます。

たとえば、次のような項目について考えてください。
(1)寸法
(2)作用速度
(3)問題解決に要する費用
・百円で何ができますか?
・一億円で何ができますか?

また、温度、出力/作用力、効率、精度などのシステムの主要な機能に関連する特性値についても同じように考えてみてください。

さらに、特性値の正負が逆転したら、どうなるか考えてみてください。

イノベーションにおける戦略的世代進化(DE)と発明的問題解決(IPS)との違い

1950年代には、様々なシステムの将来特性を今までの進化の延長線上で確率の高い姿にモデリングする技術予測法がありました。しかし、実際には、進化は非線形である(今までの進化の延長線上から外れる)ため、特に長期の予測は外れました。

1970年代には、古典的TRIZ(発明的問題解決の理論)の中の「技術システム進化の法則」を使った次期製品・プロセスの創出方法が使用されました。

1980年代には、古典的TRIZを改良したI-TRIZ(Ideation TRIZ)が進化の結果としてまたは進化のプロセスの中で将来発生する可能性のある有害事象を予測して予防する「不具合予測(FP:Failure Prediction)」という方法論が使用されました。

アイディエーション・インターナショナル社は、1990年の初頭に古典的TRIZの「技術システム進化の法則」や不具合予測(FP)をさらに進化させて、戦略的世代進化(DE:Directed Evolution、以下DEと略記する。)を開発しました。

戦略的世代進化(DE)は、技術システム、非技術システムを問わず、既存の各種システムを積極的に進化させるために可能性のあるシナリオの網羅的なセットを手に入れるためのものです。

企業の立場で考えれば、新規事業開発や新商品・サービスの企画を支援するための方法論といえます。

当初(1990年代)の戦略的世代進化(DE)は、技術、市場および社会の動向の歴史的発達を分析した結果得た技術進化のパターン、市場進化のパターンや社会のトレンドなどを体系化したハンドブックを使用したマニュアルベースの方法論でした。

アイディエーション・インターナショナル社は、2009年に戦略的世代進化(DE)をコンピュータのソフトウェアとして完成させました。

2015年には、アイディエーション・ジャパン株式会社が戦略的世代進化(DE)のソフトウェアの日本語版を完成させる予定です。

従来製品の性能向上、信頼性向上、利便性向上といったいわゆる最適化技術に長けた日本企業は今、韓国、台湾、中国、インドなどの国からの追い上げによる低価格化競争に飲み込まれています。

この低価格化競争から抜け出すには、従来品の最適化を行いつつ、今までにない商品・サービスを日本企業が他国の企業より先に市場へ投入していかなければなりません。

従来の漸進的イノベーションだけでは足りず、急進的イノベーションを起こさなければなりません。

従来歩んできた漸進的イノベーションの進化の旧系統から離れ、新しい進化の系統に飛び移る急進的イノベーションを起こす方法を身に着けなければなりません。

「よりよいものにするために継続的に改善する」といった、相反する特性を高い値で両立させる最適化行為が漸進的イノベーションであるとすれば、「より新しいものにするために根本から変えてしまう」といった、それまでの枠組みを変える革新的行為が急進的イノベーションです。

漸進的イノベーションの実行には発明的問題解決(IPS)で対応できますが、急進的イノベーションの実行には戦略的世代進化(DE)の考え方が必要になります。

急進的イノベーションは、システムの進化を妨げている本質的な矛盾(未だ誰も気づいていない概念的枠組みについての矛盾)を発見して、その矛盾を解決することで未来を先取りすることによって起こします。

本質的な矛盾の正体は、思い込み、先入観、固定概念などといわれるものです。

思い込み、先入観、固定概念を壊すことが急進的イノベーションの重要な要素になります。