TRIZのツールには、(1)問題自体を見直して問題説明文を変更するのに役立つ「分析ツール」と(2)システムを変容する方法を推奨する「ナレッジベース・ツール」の2種類があります。
一般的な発明者は問題解決をする場合に、システムを変更することで問題を排除しようとします。しかし、問題解決に関係する構成要素には、(1)問題自体と(2)問題が存在するシステムの2つがあり、経験豊富な発明者は、難問に直面した場合に、問題そのものを疑ってかかります。
アイディエーション・インターナショナル社は「分析ツール」と「ナレッジベース・ツール」の両方について新しいシステムを提案していますが、ここでは、「ナレッジベース・ツール」について説明することにします。
イノベーション価値のレベル3として考えられていたTRIZの「統合イノベーション・ナレッジベース」ですが、コンピュータが普及していなかったため、アルトシューラが活躍していた古典的TRIZの時代には完成されませんでした。
ちなみに、前回紹介したように、レベル0は、技術分野別に分類された特許情報です。レベル1は発明の代表的な事例を整理した発明カードファイルです。レベル2はいろいろな観点で発明の本質を抽出して一般化した法則集(発明原理、分離原則、標準解、効果集など)です。
アイディエーション・インターナショナル社が開発したInnovation WorkBench(IWB)というソフトウェアに組み込まれている「オペレータ・システム」は、古典的TRIZの「40の発明原理」「分離原則」「76の発明標準解」「工学的効果集」などに含まれるあらゆる推奨を含む統合された「ナレッジベース・ツール」です。
創造的なシステムの変容のための手段としての特徴を備えた「オペレータ」には、以下のような効用があります。
(1)心理的惰性を克服するのに役立つ(例:オペレータ「反転」は、車両から氷結した砂を降ろすのに、それを加熱するのではなく、過剰に冷却する際に適用される)。
(2)問題の対する別の見方を提供する(例:その重量を減らそうとするよりも、滑りやすいパッドを使うことによって、重たい物体の運搬を容易なものとする)。
(3)それが明らかにされる前に、典型的な潜在的矛盾または二次的な問題の解決策を提供する(例:部分的に非対称的にすることは、機械的強度が犠牲になるという非常に可能性の高い結果をもたらされることなく、重量を減らすのに役立つ)。
(4)問題を解決するための典型的な資源を提供する(例:利用できる物質を活用することは、腐食試験用の容器の必要性を排除するために、試料で酸の容器を作ることを提案している)。
(5)進化ステップを提案する(例:「ダイナミック性」はシステムをより普遍的にし、新しいシステムの発生を表わしている)。
「オペレータ・システム」は網状の構造を有し、TRIZ専門家の考え方をモデル化した関連連鎖が事前に構築されたソフトウェアに組み込まれているので、経験豊富なTRIZ専門家のように効果的な思考ができるようになっています。
たとえば、過熱から物体を守る方法を見つけなければならないという問題があったとしよう。ある「オペレータ」は、過剰な熱を取る物質を導入することを推奨しており、一つの解決策が見つかります。しかしながら、経験豊富なTRIZ専門家であれば、この解決策では追加の物質をシステムに導入しなければならず、複雑性が増すことになるので、これが理想解でないことに気づきます。そこで、より理想的なものとするために、物質を導入することなくその物質を導入する、あるいは少なくともその物質が機能を果たしたらすぐに引き出すといった、いわゆる「スマート」な方法を検討するはずです。そして次のステップは、物質を抜き出す方法を検討することになるでしょう。
物質の抜き出しを容易にする一つの方法は、物質を可動状態、つまり気体状、流体状、粒子状などにすることです。気体状態が有望であるとすれば、移相(たとえば、蒸発)、燃焼、化学反応などのこの必要な変容を達成する方法を検討することができます。
これで、解決策がかなり明確になりました。物体を過熱から守る一方で簡単に消える(蒸発する)物質を導入するのです。こうした考え方によって理想性と実行可能性が高まる方向で当初のアイデアを改良できることになります。