「どうすればイノベーションを成功させられるか」に応える「ジョブ理論」というものがあります。
ジョブ理論を構築したクレイトン・M・クリステンセンの著作物である「ジョブ理論」(訳者:依田光江、発行所:株式会社ハーパーコリンズ・ジャパン)によると、「顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるというものだ。この『進歩』のことを、顧客が片づけるべき『ジョブ』と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を『雇用』するという比喩的な言い方をしている。ジョブは『ある特定の状況で人が成し遂げようとする進歩』と定義する。」と説明されています。
「顧客がなぜある特定の商品を買うのかという因果関係を明らかにできなければ、顧客が求める商品は開発できません。」「顧客の行動における因果関係メカニズムを理解するうえでジョブ理論が強力なツールになり、イノベーションを成功させる原動力となる。」とも説明されています。
これと同じことをIdeation TRIZでは因果関係ダイアグラムを作成することによって、問題状況に関する知識を整理して原因と結果の関係で結ばれた「機能-リンク-機能」の図式モデルに変えることで、視覚的(直感的)に問題状況を把握できるようにしています。
好ましくない状況というものは、ほとんどの場合、多数の問題が複雑に絡み合った結果として生じています。面白いことに、それぞれの問題について、解決するアプローチ、または、問題解決への可能な道筋は1つではなく複数あります。Ideation TRIZでは、これら1つ1つのアプローチ、または可能性を指し示す「指針」と呼ばれる手がかりを因果関係ダイアグラムから自動的に入手します。
1つの問題に対して複数の指針が得られれば、問題解決に利用可能な思考上の領域を大きく広げることができます。また、これによって良い解決策を発見できる見込みが格段に大きくなります。
クレイトン・M・クリステンセンによれば、「世界中の有能なイノベーターはほとんど、普通の人とは違うレンズで問題を見ている。」といいます。
これと同じことをIdeation TRIZのシステムアプローチでは、「問題を解決しようとする時には、(普通の人は)ほとんどの場合、問題が起こっているシステムそのものに焦点を合わせて考えます。しかし、経験を積んだ技術者は以下を視野に入れて問題を多角的にとらえようとします。」と説明しています。
そして、システムアプローチでは、(1)空間軸(システムの階層軸):システム、システムの構成要素である下位システム、およびシステムに関連する上位システム、(2)時間軸:システム、下位システム、および上位システムそれぞれの過去の、ならびに、予想される未来、(3)問題軸:問題の原因、問題の結果として生じる不都合、および、これらに関連するシステムの機能、(4)機能軸:システムに対する様々なインプット、システムからのアウトプット、それらの問題との関係、といった4つの観点で問題状況を体系的に分析します。
クレイトン・M・クリステンセンは、「ジョブを明らかにして把握できた後は、そこで得た知見を、優れたプロダクト/サービスの開発に落とし込む青写真に翻訳しなければならない。この過程に含まれるのが、ジョブを解決する上での、プロダクト/サービスに付随した体験の正しい構築法である。さらに、ジョブを一貫して捕捉できるように、最終的には社内の能力とプロセスを統合する必要がある。」といいます。
これは、単に革新的な商品・サービスのアイデアを出すだけではなく、考え出したアイデアを実現する商品・サービスを普及してはじめてイノベーションと呼ぶことができる、ということでしょう。
また、イノベーションを成功させるという観点では、社内の組織やイノベーションを推進するプロセスをもジョブを中心とした体制が必要であると、ということです。