問題解決のツールとして「理想性」の概念を使う

技術に関与するモノはどれも多くの特徴・特性を持っていますが具体的な状況で人間が利用しているのはほとんどの場合そのうちごく一部でしかありません。したがって、技術に関与するモノにはいわば「予備」といえる多くの特徴・特性がありますから、私たちはシステムの種々の要素に新しい何かを期待しそれを利用する新たな可能性を見い出すことができます(「思考ツールとしての『理想性』の使い方」、A.B.クドゥリャフツェフ著、黒澤慎輔訳)。

 

この文章は、TRIZの理想性という概念が問題解決ツールとして使用できる根拠が記載されていると考えられます。

 

TRIZは世界各国の特許データベースと発明・発見の歴史に関する様々な資料を研究した結果、技術システムは理想性が増加する方向に進化するといった最も基本的な傾向を見つけ出しました。

 

この文章を言い直して、システムに含まれる有益機能の総和と有害機能の総和の比率であると定義したものが「理想性」という概念です。

 

理想性の定義で「機能」とはシステムに関連する作用、過程、操作、状態、影響などを指します(理想性という考え方は量的な概念ではなく、質的な概念です)。

 

システムの有益機能には、(1)基本有益機能(システムが生み出されることになった目的を表わす機能)、(2)副次的有益機能(基本有益機能の他にシステムがアウトプットとして提供する有益機能)、(3)補助機能(システムが基本有益機能を実現することを助ける機能)、(4)付属機能(システムを作った人々が基本有益機能に追加して目指した修正機能、制御機能、収納機能、搬送機能など)。

 

システムの有害機能には、設計のコスト、占めるスペース、発生する騒音、消費するエネルギー、維持するために必要な資源などの、システムに関連するすべての有害な要素が含まれます。

 

有害機能に着目して理想性が増加する方向を考えると、システムはより小さく、コストはより少なく、エネルギー効率はより良く、公害はより少なくなる、などの方向が予測されます。

 

理想性の程度をシステムの有益機能と有害機能との比だとする定義に基づいて考えれば、理想的なシステムとは有害機能を一切含まないシステムだと想定することができます。つまり、作るためにも、維持するために一切コストを必要としないで、エネルギーを使わず、空間を占めず、有害な廃棄物や副産物は出さない、などなどの特徴があることになります。つまり、「理想的なシステムとは、システムとして存在せず、機能だけを実現するシステムである。」といえます。

 

マーケティングの世界で古くから使われている格言に「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」(「マーケティング発想法」、セオドア・レビット著、土岐坤訳、ダイアモンド社発行)というものがありますが、私たちに必要なのはシステムではなく、システムの機能なのです(たとえば、自動車のハンドルが必要なのではなくて、自動車を制御する方法が必要な訳です)。これに加えて、すべての有害な作用は機能に付随するのではなく、システムに付随するのです。

 

理想的なシステムを考えるときには、(1)システムは実際には存在しなくてもいい、システムなしでやっていけるという状況をイメージする。(2)どのような機能があるからそのシステムが必要なのか、その機能(基本有益機能)を明らかにする。

 

理想性とは完全性に近い概念であり、正しい理想性は世界に一つしか存在しないということになりそうです。しかし、理想性の内容は主観的な観点、あるいは、システムや問題状況が置かれた局地的な条件に密接に関係することは明らかです。言い換えれば、私たちは局地的理想性という概念を持つことが可能です。

 

問題解決についていえば、局地的理想性は周囲から入手可能な資源の限界の中で問題を解決する私たちの能力に関係するものだと考えることができます。

 

問題解決における私たちの目標とは、既存のシステムをより理想的な状態に向かって進化させることだとわかった訳ですから、これをどのようにして行うかです。

 

理想に近い問題解決を行う一般的アプローチとは資源を活用する方法を考えることです。