アルトシューラは1940年代に、創造性に対して信頼性の低い、繰り返すことのできない、個性に依存する「心理学的なアプローチ」を採用することを拒否しました。
TRIZと他の創造技法との違いを強調するために、アルトシューラは「TRIZは心理学よりも技術に基づいている」といいました。
アルトシューラは、「心理学的なアプローチ」を拒否して、特許資料や人類の革新的な経験を文書化した他の技術資料源から技術における創造性の成果(発明)を分析する「発明的なアプローチ」を採用したのです。
最も成功した発明に関する発明上の慣行に関する知識を蓄積し、そこから(1)発明上の問題の定義、(2)発明のレベル、(3)発明のパターン、(4)技術進化のパターン、というTRIZの基礎的な知識を築き上げました。
アルトシューラは、同じような問題(矛盾)が異なる技術分野の間で対処されていることに気づきました。
・給油と同時に気化したガソリンを回収
・ジェット機の燃料の液体水素と酸化剤の液体酸素の断熱
・列車のドアのデザイン
・クレーンの電磁石グリッパ
以上の問題はいずれも、一つの対象物を他の物体に入れ、それを更に他の物体に入れることで、空間を有効に使用できないかといった問題を解決しています。
こうした発明は、異なる技術分野で、異なる時代に発生しています。その上、こうした発明を特徴づける基本的な問題(矛盾)は同じであり、同じ方法で解決されています。後の発明者が以前の解決策を知っていれば、彼らの仕事がずっと簡単であったことは明らかです。しかし残念ながら、学際的な障壁がこうした知識の交換を実質的に不可能にしています。
アルトシューラは、発明に関する知識を、あらゆる技術分野の発明者が簡単に利用できる方法で抽出して整理し、一般化することが可能であると考えました。そして、世界で最初の「イノベーション・ナレッジベース」を誕生させました。
特許資料は特許分類に従って分類されており、前述したクレーンの電磁石グリッパの問題を解こうとしている発明者がガソリンの給油に採用されている解決策を見つけ出す可能性はゼロに近いといえます。この場合の特許資料のデータベースは、発明者にとってのイノベーション価値はレベル0といえます。
これに対して、アルトシューラの最初の「イノベーション・ナレッジベース」はカードファイルとして始まりましたが、給油と同時に気化したガソリンを回収の発明が多くの技術分野にわたるいくつもの同様の発明に対応しており、それらは同様の問題に取り組む後続の発明者にとって、効果的な事例であると考えられます。
アルトシューラは、何百万もの発明から、異なる技術分野に同様の発明を見つけることのできる代表的な発明であって、低コストで多大な効果をもたらす数千程度の発明に選別しました。これらを発明の代表事例として整理したカードファイルは、イノベーション価値としてはレベル1といえるでしょう。
その後他のTRIZ専門家もアルトシューラに従って、発明カードファイルをまとめ、そこに含まれる情報をお互いに交換し始めるようになりました。
しかしながら、この発明カードファイルは、選択したイノベーションを利用する際の検索方法がありませんでした。つまり、一見関係ないと見える他の技術分野の発明を自分の問題に適用できないかどうかを認識する手段が求められていました。
そこで、各発明の本質を抽象化(一般化)し、特定の技術分野に関連した詳細を省略することにより、たとえば、前述の4つの発明はすべて「一つの対象物を他の物体に入れ、それを更に他の物体に入れることで、対象物の内側にある空間を有効に使用する。」というように、より一般的な原則の発明としてまとめることが考えられました。
このアプローチの結果「40の発明原理」「76の標準解」「工学的効果集」といった、イノベーション価値がレベル2の「イノベーション・ナレッジベース・ツール」を完成させました。
「40の発明原理」は特定の順序を持たない参照リストでしたが、必要とする発明原理を参照するための検索ツールとして、技術的矛盾表が作成されました。同様に、「工学的効果集」には機能一覧表が作成されました。
「76の標準解」は、最初から問題のタイプや望まれる改善に従って構造化されているので発明者にはわかりやすいものでしたが、事前に使用する「物質―場分析」が馴染みにくいのが欠点でした。
次の論理的ステップとしては、イノベーション価値のレベル3として、参照するすべての発明情報が1つにまとめられた「統合イノベーション・ナレッジベース」が完成することでしたが、コンピュータのない時代には無理でした。
その代わりに、レベル1とレベル2のツールの発展と並行して、最も強力な「イノベーション・ナレッジベース・ツール」として、イノベーション価値がレベル4といえる「技術進化のパターン」の開発が始まりました。