DEソフトウェア特有の指針

プロジェクトの対象や、対象に影響を与える環境の中で働いている原因と結果の関係を分析することは極めて大切です。

 

表面にあらわれている有益な現象・事象、あるいは有害な現象・事象の背景にどのようなメカニズムがあるのかを理解することによって、プロジェクトが対象としているシステムを進化させる手がかりを発見することができます。

 

なぜなら、システムの進化とは、システムに含まれる有益な側面が質的量的に強化・増加し、有害な側面が質的量的に軽減・減少することに他ならないからです。

 

DE(Directed Evolution®)プロジェクトではソフトウェアに含まれる「プロブレム・フォーミュレータ」モジュールを使って、検討対象として取り上げた状況、あるいはシステムを有益機能と有害機能とが原因と結果の関係で結びつけられた図式ダイアグラム(これを因果関係ダイアグラムという)として描きます。

 

DEでは、何らかの影響を与える「状態」、「動作」、「働き」を一括して「機能」と名づけます。主観的に考えて基本的に有益と考えられる機能を「有益機能」、同じく有害と考えられる機能を「有害機能」とします。

 

DEソフトウェアを使って、ダイアグラムに描かれた状況の有益性の度合いを高める考え方の示唆を得ることができます。これを指針といいます。

 

なお、DEソフトウェアでは、因果関係ダイアグラムに表わされた状況を変化させる指針のリストを、少し角度を変えた二つの観点から得ることができます。

 

第一は「現在の状況を改善するアプローチへと導く通常の指針」のリストです。第二は「現在の状況を進化という視点から変化させる、あるいは修正する指針」のリストです。

 

このうち、「現在の状況を改善するアプローチへと導く通常の指針」は技術的問題解決を目的としたIdeation TRIZのIWB(Innovation WorkBench®)ソフトウェアで表示される指針と同じものです。

 

ここでは、DEソフトウェアでのみ使用される「現在の状況を進化という視点から変化させる、あるいは修正する指針」について説明します。

 

TRIZの知見によれば、「システムが持つ様々な機能は理想性が向上する方向へ向けて進化する」といいます。そして、ある機能の理想性はその機能が持つあらゆる有用な特性の合計を、そのシステムに含まれるすべての有害な(あるいは、望ましくない)要因の合計で割った比率と考えることができます。

 

つまり、機能の理想性を向上させるには、(1)機能の有益な特性を増強するか、(2)有害な特性を減少させる、あるいは(3)その両方を一度に行なうことによって機能の理想性を高めることができます。

 

「状況を進化という視点から変化させる、あるいは修正する指針」の一つ目は、たとえば、「システムの理想性を向上させる観点から、『介護者の腰痛防止等肉体的負担の軽減する』の進化の可能性を検討してください。」といったものです。

 

ここで参照する進化のパターンは、(1)理想性の向上、(2)人工システムの理想性の向上、(3)資源の進化、(4)資源活用の高度化、(5)技術システムの階層化、(6)エネルギー場の有効性の向上です。進化のラインは、(1)有益機能の進化、(2)有害機能の進化です。オペレータは、(1)有益機能を得る他の方法です。

 

「状況を進化という視点から変化させる、あるいは修正する指針」の二つ目は、たとえば、「『介護者の腰痛防止等肉体的負担の軽減する』の進化の結果生じ得る有害な影響と、その防止策を検討してください。」といったものです。

 

ここで参照するオペレータは、不具合を予測するための(1)弱いゾーン・危険なゾーン、(2)装置や物などに関連して予測される不具合、(3)システムの導入の各ステップで予想される有害な影響/作用、(4)潜在的に危険な瞬間/期間といったチェックリストと、予測した不具合の発生を防止するための(1)有害機能の排除、軽減、防止、(2)矛盾の解決です。

 

「状況を進化という視点から変化させる、あるいは修正する指針」の三つ目は、たとえば、「有害要素『病院職員の補助を必要とする』を有益目的に活用するか、回避・軽減・排除する方法を検討してください。この有害要素に連結された他のすべての有害な効果・特性・動作についても同様に検討してください。」といったものです。

 

ここで参照する進化のパターンは、(1)不具合な要因の減少です。進化のラインは、(1)有害機能の進化、(2)過剰な有益機能の進化です。オペレータは、(1)有害な要素から益を引き出す、(2)不十分な有益特性の改善、(3)有害な特性値の低減、(4)有害作用から隔離、(5)作用による中和(対抗)、(6)有害作用に影響を与える、(7)有害作用の原因を排除、(8)有害作用の影響の軽減です。

 

「状況を進化という視点から変化させる、あるいは修正する指針」の四つ目は、たとえば、「『病院職員の補助を必要とする』を変化させる手段を探してください。その手段は、『病院側には不法行為による損害賠償責任、業務上過失致死傷罪が負わされる』を是正する。」といったものです。

 

ここで参照する進化のパターンは、(1)柔軟性の増加、(2)制御性の向上、(3)複雑化後簡素化、(4)要素間の対応と非対応、(5)人間の関与の減少です。オペレータは、(1)空間で分離、(2)時間で分離、(3)構造の観点から分離、(4)条件・特性で分離です。

オペレータを使ってアイデアを出す方法

複数の技術分野で共通に使用できる一般概念を、あらゆる技術分野の特定の問題解決に役立てようとする意図から、Ideation TRIZの基本ソフトウェアであるIWB(Innovation WorkBench®)に組み込まれているオペレータのタイトルは抽象的な表現のものになっています。かといって、古典的TRIZで使用されている40の発明原理である、「分割」「抽出」「局所的性質」「非対称」のような単なる名詞形の表記のものではありません。

 

Ideation TRIZで使用するオペレータのタイトルは、「複数の作用の適用」「エネルギーの集中」「環境の変更」「事前の逆の作用」「分割して相殺させる」といったように、「何をどうする」といった機能的表現が多く採用されています。そのため、使い込んでくると、オペレータのタイトルを見ただけで、具体的にどのよう方法を適用すればいいのかが直感的にわかるようになります。

 

もちろん、それぞれのオペレータには、オペレータの意味を表わす説明文と、そのオペレータが具体的に使用された事例についての解説がついています。そのため、新たな問題解決のたびに問題解決者が自ら具体的な問題解決の事例を探すことなく、アイディエーション社が構築した500以上のオペレータとオペレータを使用した具体的な事例(2000以上)を利用することで、効率的な類比思考ができることになります。

 

初めてオペレータを使用する場合には、ヒントとなるオペレータのタイトルを見つけたら、そのタイトルをクリックして、まず、オペレータの解説画面を表示させます。

 

オペレータの解説画面には、上から順番に(1)オペレータのタイトル、(2)オペレータの解説、(3)オペレータの事例(イラスト)、(4)関連項目(参照)といった項目が並んでいます。最初は、選んだオペレータの意味を理解するために、オぺレータのタイトルの下に強調文字(太文字)で記載されている「説明文」を読みます。

 

たとえば、「分割して相殺させる」というオペレータには、「他の有害作用を補うことができるシステム(プロセス)を部分に分割することを検討してください。」という文章が記載されています。

 

使用するオペレータの意味が理解できたら、説明文に記載されている方法を自分が抱えている問題の対象であるシステムやプロセスに適用したイメージを描いてみましょう。そのオペレータを適用した様子を頭の中で想像することで、その方法を適用した場合に起こるであろう変化(形状変化、動作変化など)のイメージを観察します。その結果、問題が解決できた状態が見えたら、その変化を生み出す原因となった具体的な手段のイメージを記録します。この具体的な手段がアイデアです。

 

アイデアが浮かんだら、IWBソフトウェアの最上段のメインツールバーの中の電球マークのアイコンをクリックして、アイデアの入力・保存ができる上下に2分割された「アイデアボックス」を開いて、その下側の区画にアイデアを文章で入力します。ちなみに、上側の区画には過去に入力した(保存された)アイデアの一覧が表示されます。

 

要領としては、システム全体またはシステムの一部、あるいはシステムの周辺にあるもの(資源)に対して、選んだオペレータが示す操作方法を強制的に適用することで、アイデアを創り出します。創造の世界では、これを「強制発想」といいます。

 

IWBソフトウェアは問題解決者に代わって具体的な解決策を出してくれるものではありません。IWBソフトウェアは、いろいろな技術分野の過去の膨大な数の問題解決事例を分析し、そこで使用されていた解決策を問題の種類別に整理して、新たな問題解決に役立つヒントを提供するものです。

 

ですから、Ideation TRIZのオペレータを使用して問題を解くには、オペレータが推奨している考え方をヒントにして、そのオペレータを適用した場合の変化を頭の中であれこれと考えること(これを思考実験という)になります。

 

IWBは解決策を検索するためのソフトウェアではありません。オペレータをヒントにして、自分の頭で独自のアイデアを考え出すためのものです。考えるためには頭の中でイメージをあれこれと描くことが必要になります。

 

普段はコトバを使って「こうすると、こうなる」というように、ある情報に基づいて客観的に考える推測(推定ではない)という論理的思考をします。しかし、それでも問題が解けない場合には、「こうすると、こうなるのではないか」と結果を推定したアイデアを出します。

 

そのアイデアを採用してうまくいくかどうかはやってみなければわかりません。試してみなくてわかるのであればそれは推測の範疇であって、前提が同じなら同じ結果が生まれる論理的思考で済んでしまいます。

 

アイデアを出すためには、頭の中であれこれとイメージを描くイメージ思考がものをいいます。創造の世界はイメージを想像する力がないと歯が立ちません。

従来の類比思考とアイディエーション社の類比思考の違い

Ideation TRIZの「オペレータ」とは、アイデア発想する際のきっかけを与えてくれるヒントのことです。

 

オペレータという名称は、数学の分野でいう演算子(ある要素を別の要素に対応させる計算記号)という用語から採用したものと思われます。

 

つまり、特定の分野Aの特定の問題aが他の分野Bの別の特定の問題bと似ている場合に、前者の特定の問題aの解決方法xを後者の特定の問題bの解決に利用したらどうかという発想です。創造的思考の定番である類比思考に当たる考え方です。

 

研究者、技術者であれば自分が抱えている専門分野の問題については、特許情報や論文情報を検索して参考になるものを利用することは日常的に行われているはずです。それでも解けない問題の場合には、自分の専門分野には参考にできる情報がないということになります。

 

ですから、どうしてもその問題を解きたいとすれば、自分の専門分野とは異なる分野の知識を参考にするしかありません。そこで、類比思考が登場します。

 

有名な類比思考として、ウィリアム・ゴードン氏のシネクティクス、市川亀久彌氏の等価変換理論、中山正和氏のNM法などがあります。いずれの類比思考でも、自分が抱えている特定の問題bを解くために、他の分野Aの別の特定の問題aの具体的な解決方法xを参考にすることになります。

 

しかし、いずれの類比思考も、どの分野のどの問題を参考にするかは問題解決者が自ら見つけ出さなければなりません。従来の類比思考を使用する場合の難しさがここにあります。

 

いずれの類比思考も、「うそのない自然界の出来事を参考にしなさい」「自分がよく知っている異分野の知識を参考にしなさい」といいます。しかしながら、子供の頃に自然に触れていない(自然現象に関する肌感覚がない)現代の若者には自然界の出来事をイメージすることができません。また、高度な専門教育を受けてきた知的レベルの高い研究者、技術者の中には、自分の専門分野以外の知識に疎いという人が多いのではないでしょうか。

 

そもそも、自分の専門分野以外の知識を自分の専門分野の問題解決に使用するような経験を持っている研究者、技術者はほとんどいないのではないでしょうか。稀にいるとすれば、それは自分の専門分野とは異なる分野の趣味を持っている人がその趣味の世界の知識を使った場合ではないでしょうか。

 

そのようなわけで、現代の第一線で活躍されている若い研究者、技術者に、「類比思考を使うといいですよ」といっても、採用する人はいないでしょうし、採用したとしても使いこなすことを期待するのは無理でしょう。

 

Ideation TRIZの中で発明的問題解決を行うための代表的なソフトウェアであるInnovation WorkBench®には、類比思考のためのオペレータのタイトルが500以上あるといわれています。

 

これらのオペレータは、過去の製品や技術などの進化の過程を分析してイノベーションが生み出した結果を研究することで作られました。具体的には、客観的な資料として利用できる発明やそれに関連する世界中の特許文献(1990年までに調査された特許の総数は200万件以上)を分析して、先人の知恵を集めた知識ベースであるオペレータ・システム(オペレータを使うための体系)を作り上げました。

 

複数の技術分野で共通に使用できる一般概念を、あらゆる技術分野の特定の問題解決に役立てようとする意図から、個別のオペレータのタイトルは抽象的な表現のものになっています。しかし、古典的TRIZで使用されている40の発明原理である、「分割」「抽出」「局所的性質」「非対称」のような単なる名詞形の表記のものではありません。

 

オペレータのタイトルは、「複数の作用の適用」「エネルギーの集中」「環境の変更」「事前の逆の作用」「分割して相殺させる」といったように、「何をどうする」といった機能的表現が多く採用されています。そのため、使い込んでくると、オペレータのタイトルを見ただけで、具体的にどのよう方法を適用すればいいのかが直感的にわかるようになります。

 

もちろん、それぞれのオペレータには、オペレータの意味を表わす説明文と、そのオペレータが具体的に使用された事例についての解説と挿絵(一部挿絵のないもある)がついています。

 

そのため、問題解決者が自ら具体的な問題解決の事例を自然界や異分野から探すことなく、アイディエーション社が作り上げた500以上のオペレータとオペレータを使用した具体的な事例(2000以上)を利用することで、効率的な類比思考ができることになります。

進化の制約と資源の活用

進化の過程の何らかの段階で、新しい資源や新しい考え方を用いることによって、システムはそれまでの自然な制約を逃れることができます。様々な制約を逃れる可能性は、同じ目標を達成する別の方法を選択するところに出現します。

 

他と異なる方法を考えることで、通常以下のような効果を伴います。

(1)システムそれ自身と、システムの操作法の劇的な単純化。

(2)システム、生産プロセス、技術、使用法、量産方法などの標準化。

(3)システムの機能メカニズムの効率向上。

(3)Sカーブの進化段階3(成熟期)に進まずに進化段階2(成長期)にとどまり続けること。

 

しかし、TRIZの観点から見ると、もう1つの本質的な制約があります。それは、ある機能を実現するあらゆる方法が尽きてしまうことです。

 

どの1つの機能をとってみても、その機能を実現する方法(それぞれが、既知のあらゆる資源と、資源の組合せを使用することに基づく他と基本的に異なる1つの方法です)の数は有限です。

 

したがって、事前に資源の標準的なリストを持っていれば、それに基づいて、ある機能を実現する上で実用的な方法をすべて確認することができます。

 

比較的にそれほど複雑でない量産システムを使い、多くの専門家と多数の競合企業が存在する旧来の技術分野は、その技術を進化させる上で使用できる資源をほとんど使い尽くしてしまう状況に直面する可能性があります。

 

そうなるまでの期間は、多くの技術分野でおよそ20~50年と考えられています。より複雑で生産量の少ないシステムでは、世代の移行は改良をもたらすあらゆる方法が使い尽くされるよりもはるかに早い段階で生じます。これらのことから、次の結論が得られます。

 

まだ解決されていないまったく新しい問題があった場合、TRIZを用いることによってその問題を解決できるという保証はありませんが、その課題を解決する方法が1つでもある場合には、同じ課題を達成する別の方法を複数発見し、それを実現する解決策を得ることは可能です。

 

未知なものを含めてある機能を実現するすべての現実的な可能性を明らかにすることによって、その機能を実現する精度と効率を改良し、進化戦略の失敗を回避することができます。

 

資源を詳細に分析することによって、次の2つの可能性が生まれます。

(1)独立した特許であれば、基本的にどのようなものでも回避する方法を発見することができます(後発企業の戦略)。

(2)特定の産業分野あるいは市場では、回避することのできないパテントフェンスを構築して、これを持った企業の独占を確立する(先発企業の戦略)。

 

TRIZは原理的に可能な限界を超えた解決策を生み出すことはできません。しかし、一定の時間の枠内で、現実的に可能な解決策を網羅的に発見することができます。

 

ここでいう網羅的とは、完全な網羅ということではなく、現実的な範囲で網羅的ということを意味します。これは、以下の3つの可能性が完全な網羅を不可能にするためです。

(1)余りにも高価だ、あるいは危険だなどの理由で、以前は考えられなかった新しい資源が使われるようになることがあります。例えば、ロケットのエンジンを通常の自動車に搭載するような例です。

(2)以前には知られていなかった資源(利用可能な資源のリストに含まれていない)が使われるようになることがあります。ただし、利用可能な資源のリストは何百万という過去の発明の膨大な統計と分析に基づいて作られたものですから、この可能性はごく小さいといえます。

(3)新しい発見によってシステムを進化させる新しいシステムが生まれることがあります。例えば、反重力法の自動車への導入のようなケースです。現代の科学の急速な発展がこうした事態をもたらす可能性があります。ただし、現実には科学的な発見からそれが、現実に何らかの物を作るために使われ始めるまでには、現在でも大きな時間差(数十年)があることを考慮する必要が有ります。

新製品開発とイノベーションの変遷

今までにない機能を実現する新しい技術が発明され、その新しい技術を使った新製品が市場に投入される(急進的イノベーション)と、最初に新しいものが好きな人がその新製品を使い始めます(Sカーブの導入期)。

 

上市されたばかりの新製品は最低限の基本機能しか組み込まれていませんが、今までできなかったことができるので、新しいものが好きな人はそれでも満足しています。

 

無事市場投入ができた後は、より多くの消費者に使用してもらうために、基本機能の性能向上や使い勝手の向上を目的とした補助機能を付加した次期製品を投入します。さらに、基本機能の性能には直接関係のない快適性などを提供する付属機能を付加した製品を投入することで更なる市場拡大を狙います(Sカーブの成長期)。

 

そして、広告や口コミでその新製品を知った一般の多くの消費者がその新製品を受け入るようになると、新製品の普及とともに私たちの生活が変化していきます。多くの一般消費者が使用するようになることで、売上が急上昇することになりますが、反面多くの企業がその市場に参入してきて企業間の技術競争が激しくなっていきます(Sカーブの成長期)。

 

新製品開発が成功した場合には、以上のような製品のライフサイクル(Sカーブ)をたどります。

 

ところで、技術主導型の新製品開発はその成功率が低いため、技術開発型の企業であっても、現在ではマーケティング主導の製品企画から始めることが多いといえます。

 

マーケティング主導の製品企画では、まず、多額の金をかけて市場調査を行い「顧客の声(VOC)」を集めます。集められた顧客の声は、統計分析を行い、その中から顧客の欲している機能を選んで優先順位をつけます。次に、顧客の欲している機能の重要度に合わせて品質機能展開(QFD)を使って、顧客の要求機能を製品の技術仕様に落とし込むことで、新製品の構想設計を行うといった開発手法が採用されています。

 

このような科学的方法を使うことで、どの会社も現在の顧客ニーズに基づいた確度の高い製品が企画できることになります。その結果、そこそこの売上が見込める新製品が完成します。

 

しかしながら、科学的方法を採用した結果、どの会社も同じような仕様の製品を完成することになるため、市場ではすぐにコモディティ化が起きてしまい、早々一般の製品と同様に価格競争に巻き込まれることになり、売上が伸びない状況に陥ることになり兼ねません(Sカーブの成熟期)。

 

そのような中、他社製品との差別化を図るために次々と新しい機能を追加するといった技術競争をしている(漸進的イノベーション)と、そのうち思わぬ新規参入企業が基本機能だけを組み込んだ低価格製品を市場に投入してきて(破壊的イノベーション)、自社の「性能が良くて使い勝手が良い高機能」の製品がほとんど売れなくなるという状況が生じます(Sカーブの衰退期)。

 

日本の家電業界の多くの新製品開発が、このような漸進的イノベーションと破壊的イノベーションによる現象に手を焼いているのではないでしょうか。

 

マーケティング主導の製品企画が盛んなときは、「顧客は製品を買うのではない。製品の機能を買うのである。」といわれていました。そのため、顧客が要求する機能を実現するための製品を開発しました。そもそも技術開発とは今欲しいと思っている機能をコストパフォーマンス良く実現するのが使命であるから、それ以上のことは責任範囲外のこととなる。

 

実は、顧客が今欲しいと思っている機能を実現することを目的とした開発自体が誤っていたのではないか、と考えられないだろうか。今は欲しいとは思っていないが将来必ず欲しいと思うようになる顧客の意味的価値(未来価値:暗黙知)を実現する新製品を開発すべきだったのでないだろうか。

 

アップルのiPod、iPhone、iPadは、顧客が感動するような外観と操作性を提供することで、他を寄せ付けない地位を確保しました。スティーブ・ジョブスは顧客の求める意味的価値をズバリ捉えた新製品開発をしていた(デザイン・ドリブン・イノベーション)としかいいようがありません。

 

顧客が求める価値が多様化している現在では、「人々は、実利的な理由だけではなく、深い感情的な理由や、心理的・社会文化的な理由からモノを買う。つまり、人々は製品を買うのではなく、その意味を買っている」という。デザイン・ドリブン・イノベーションを提唱するベルガンティの言葉です。

 

顧客の求める意味的価値は、顧客自身が気づいていないので「顧客の声」を聞くだけでは把握できません。そのため、VOCとQFDを駆使して完成した新製品は顧客の求める意味的価値とは無関係のものになっている恐れがあります。

 

技術者も一消費者であるわけですから、顧客が求める意味的価値にたどり着ける可能性はあるはずです。技術者自信が将来の顧客になりきれば、顧客が求める意味的価値を共感できるのではないでしょうか。「何が幸せか」を顧客の身になって考えることでしか、人の将来の新しい生活習慣や振る舞いを感じることができないのではないでしょうか。

 

未来の顧客は、「どんな暮らしを理想の暮らしとして掲げるか」、その「暮らしはいかにあるべきか」という理想のイメージの違いや、その理想に近づくためにどのような経路をたどろうとしているか。その違い、それがまさに各社会の文化や顧客のライフスタイルの違いなのです。新製品で新しい市場をつくるという行為は、否応なしに、新しい文化を開発するということになります。

 

デザイン・ドリブン・イノベーションは、顧客中心のいわゆる「マーケット・プル」の範疇に入るものではありません。顧客が求める意味を洞察し、それを独自の技術で実現することで文化を開発する、「意味×技術」のハイブリッド・イノベーションです。

 

日本の自動車業界は家電業界とは違い、比較的堅調な業績を上げているといえるのではないでしょうか。それは、トヨタ、ホンダ、マツダなどでは、「製品毎の開発責任者」が製品の企画から設計までをコントロールする「チーフ・エンジニア」制度を採用しており、その責任者を中心としたチーム全体の洞察力と技術開発力が功を奏しているのではないでしょうか。

 

日本の家電業界が苦戦している中で、売れる家電を出し続けているダイソンには、「消費者調査に頼らない」「広告宣伝費より技術開発に投資」「安売りはしない」という3原則があるといいます。

 

私たちはスティーブ・ジョブスやジェームズ・ダイソンのような天才技術者にはなれませんが、彼らのように「顧客の求める意味的価値」を洞察し、それを自社独自の技術(芸術的センス)で実現するといったデザイン・ドリブン・イノベーション型の「製品企画開発」に取り組む技術者にはなれるでしょう。

Ideation TRIZをものにする創造的思考の基礎

Ideation TRIZの弊社の体験セミナーなどに参加して初めてIdeation TRIZを学んだ方の中には、オペレータというヒント集を使用した「類比思考」が難しいという意見を持たれていることが、アンケートの結果からわかっています。

 

古典的TRIZの発明原理、分離の原則、発明標準解、進化の法則、工学的効果集などの複数の解決テクニックを統合した「オペレータ」というヒント集の体系を作り上げることで、初心者でもTRIZの強力な問題解決力を使いこなせるようにしたのがIdeation TRIZです。

 

しかし、使い易いはずのIdeation TRIZにも壁があったということです。

 

私たちは、過去の知識経験に加えて、特許公報や技術論文などで公開されている新しい技術知識を使って、論理的思考により問題解決を行うといった一般的な方法(帰納法、演繹法)を採用しています。このような一般的な方法でほとんどの問題が効率的に解決することになりますが、中にはこのような方法では歯が立たない問題もあります。

 

徹底的に論理的思考を行ったにもかかわらず目的とする解が得られないなら、残る方法はイメージ思考(仮説設定法)によるしかありません。創造技法の分野では、積極的にイメージ思考を使うことを「類比思考」といいます。

 

Ideation TRIZに限らず、創造的な問題解決が必要な場面では、自分の問題と本質が共通な異分野の見本(アナロジー)を参考にして、イメージ思考で解決策を手に入れることが必要になります。

 

知らないものは、知っているものに見立てて理解するしかありません。それには豊かな想像力が必要とされます。

 

創造的思考が苦手な方を、頭が固い、固定観念にとらわれている、などといいます。

 

TRIZでは、慣れ親しんだ方向の考察を熱心に行いながら、他の技術分野の観点からの検討をないがしろにする傾向を「心理的惰性」と呼びます。心理的惰性は矛盾を含んでいる発明的問題に取り組む時間を大きく浪費させ、作業に深刻な悪影響を与えます。

 

解決策が自分の専門分野の中にある場合には必要な試行の数は比較的少ないかもしれません。しかし、そうでない場合には試行錯誤を通じて解決策にたどり着くのは容易ではありません。

 

類比思考で一番難しいのは、役立つ見本をどこからどのようにして見つけてくるかということです。

 

コンピュータの助けを借りないのであれば、見本は、自分の得意分野、趣味の世界などの自分がよく知っている分野から探します。また、日常的な出来事から探します。それは、その見本に詳しいから自分の問題解決に役立てられるという前提に立っています。

 

その他には、見本は、自然界から探します。自然界にはうそがないからです。

 

コンピュータを使うのであれば、インターネット検索(異分野の特許情報を含む)で分野を特定せずに、問題解決の目的に関する「~する」といった動詞形のキーワードや、「速い」「ゆっくり」といった形容詞、副詞などの価値観に関するキーワードで、共通の目的や価値観を持った見本を探します。

 

見本が見つかったら、見本の構造とその本質を参考にすることで、課題を抱えたシステムの目的や価値観を、どんな構造やメカニズム、やり方で実現するか考えます。

 

Ideation TRIZのオペレータを使えば、あらゆる技術分野の具体的な見本および見本から抽出した問題の類型ごとの解決ヒントが約500件用意されていますので、その都度見本を探しに行かなくてもいいことになります。

 

Ideation TRIZのオペレータは発想のヒントを一般的な表現で提供しますので、オペレータを使用するためには次のような手順で類比思考を行います。

 

ステップ1:

オペレータが推奨する考え方を読みます。オペレータに付随する解説を参考にして、オペレータの狙いを理解できたか確認します。次に、(1)オペレータの考え方、(2)対象としている状況(システム)、の二つを同時に頭の中に描きます。

 

ステップ2:

頭の中でオペレータの推奨する考え方をシステムに適用してイメージしてみます。オペレータの考え方でシステムを強制的に変化させるとどのようになるか、結びつけてみます。イメージがわかない場合は、別の推奨内容を試み、次々と検討していきます。

 

ステップ3:

アイデアが浮かんだら必ず記録を残します。バカバカしいと思うようなアイデアや、無理かもしれないアイデアも記録します。こうした記録が後で役に立つのです。

 

ステップ4:

オペレータを読んでもアイデアが浮かばないときには、オペレータで推奨している内容をそのまま記載します。

 

たとえば、「並列処理」というオペレータでは、「同時に並行して実行できる複数の処理に、プロセスを分割することを検討してください。」という推奨文(解説文)が記載されていますので、アイデアとして「~(利用できる資源)を同時に並行して実行できる複数の処理に、プロセスを分割する」と未完成な状態のまま記録します。

 

そして、アイデアを見直す「方策案のまとめ」の段階で再検討し、この未完成なアイデアの「~」の部分に利用できる資源の具体的な名称を記入してアイデアを完成させます。

イノベーションの種類と「意味のイノベーション」の実現

オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターは、1911年に「経済発展の理論」という書籍の中で、イノベーションを、経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合することと定義しました(ウィキペディア)。

そして、イノベーションの種類として、次の5つを挙げています。

  1. 消費者の間でまだ知られていない財、あるいは新しい品質の財の生産
  2. 新しい生産方法の導入
  3. 新しい販路・市場の開拓
  4. 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
  5. 新しい組織の実現

 

現代では、イギリスのイノベーション研究者であるパビットが「イノベーションとは、機会を新しいアイデアへと転換し、さらにそれらが広く用いられるようにするプロセスである。」と定義しているように、多くの学者の議論により、①アイデアが新しいだけではなく、②それが広く社会に受け入れられる、という2つの条件が揃って初めてイノベーションと呼び得る、というのが定説になっています(「日本のイノベーションのジレンマ」、玉田俊平太著、(株)翔泳社発行)。

 

従来の我が国の経済発展は、いわゆる「カイゼン」を中心とするプロセス・イノベーションや、トランジスタラジオやヘッドフォンステレオの小型軽量化によるプロダクト・イノベーションの、先進国をキャッチアップし、より強い競争力を得るといった従来製品・サービスの改良による「持続的イノベーション」を中心に遂げられてきたと考えられます(「イノベーション創出に向けた現状と課題」、総務省、平成25年版白書)。

 

持続的イノベーションには、徐々に性能を向上させる「漸進的イノベーション」と、一気に性能を向上させてライバル企業を突き放す「急進的(画期的)イノベーション」があります。両者は、技術進歩の方向が、既存顧客が重視する性能の向上であるという点で共通しています。

 

多くの人がイノベーションという言葉を聞いて思い浮かべるのは、この持続的イノベーションでしょう。しかし、イノベーションとは「新しいものを創り出すこと」であり、必ずしも製品の性能の向上を意味しているわけではありません。

 

「新しいものを創り出すこと」と「広く社会に受け入れられる」の2つの条件を満足するものとして、既存の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品やサービスをもたらすイノベーションもあります。これを、従来製品・サービスの価値を破壊するという意味で「破壊的イノベーション」といいます。

 

「破壊的イノベーション」には、これまで製品やサービスをまったく使っていなかった顧客にアピールする「新市場型破壊」と、既存の主要性能が過剰なまでに進歩したために一般消費者が求める水準を超えてしまっている状況で、一部のローエンド顧客にアピールする「ローエンド型破壊」があります。

 

「新市場型破壊」の破壊的イノベーションとしては、パーソナルコンピュータの原型であるAppleⅡの当初の用途は「プログラミングやゲーム」であったものが、ビジカルクという表計算用のアプリケーションソフトが製品化された後は、家庭やビジネスで使用できる金銭勘定のための「実用品」へと変貌を遂げた例が挙げられます。

 

「ローエンド型破壊」の破壊的のベーションとしては、保温温度を何段階にも選べて、日本茶や紅茶の種類に応じて最適な温度でお茶が煎れられる機能、電動式ポンプで簡単にお湯を注ぐ機能はもちろん、その他の多くの機能を有する「湯沸かしポット」が一般家庭で使用されているときに、沸かしたお湯を保温することはできないが少ない量のお湯を短時間で沸かせる「電気ケトル」が、少人数での経済的な使用を実現した例が挙げられます。

 

何が変わるかでイノベーションを分類すると、

①企業から顧客に提供される「製品やサービス」が変わるプロダクト・イノベーション

②企業内部における「やり方」が変わるプロセス・イノベーション

の他に、③顧客の「認識」が変わるメンタルモデル・イノベーションという第三のイノベーションが考えられます(「日本のイノベーションのジレンマ」、玉田俊平太著、(株)翔泳社発行)。

 

顧客の認識とは、顧客にとっての製品やサービスの意味のことです。

そもそも、製品やサービスは技術と意味の両方の変化により生み出されます。顧客が本当に喜ぶ価値を「顧客価値」といい、「顧客価値」には「機能的価値」と「意味的価値」があります。

 

顧客価値というものは、経済状況や時代、その商品の成熟度などによって大きく変わってきます。例えば、高度経済成長期には多くの人が高性能で多機能な商品、すなわち機能的価値が高い商品を好んで選んでいましたが、今では自分の趣味やセンスに合ったものを選ぶ人が増えています。意味的価値の高い商品が好まれる時代になったのです。現在は、日本企業が得意としていた高性能・多機能の商品の顧客価値が必ずしも高いわけではないのです。商品の顧客価値は、機能的価値と意味的価値の合計ですが、現在は様々な領域で意味的価値の重要性が高まっているのです(「価値づくり経営の論理」、延岡健太郎著、日本経済新聞出版部発行)。

 

例えば、トヨタの高級車ブランドのレクサスは、単にトヨタの最高品質の自動車を開発するということではなく、最高のプロダクトを作るための新しいプロセスを作りつつ、それに相応しい新たなディーラー網を立ち上げ、そこで新次元の購入体験を提供して、顧客のメンタルモデルを変化させる必要がありました(「日本のイノベーションのジレンマ」、玉田俊平太著、(株)翔泳社発行)。つまり、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、メンタルモデル・イノベーションの3つを同時並行で起こさなければなりませんでした。

 

古典的TRIZは、そもそも技術の進化の法則に着眼し、発明的問題(技術的革新問題)を解決することを目的として開発されました。

 

今では、Ideation TRIZの戦略的世代進化(DE:Directed Evolusion®)というツールを使うことで、技術だけではなく社会、市場、消費者の進化のトレンドを総合的に判断して、製品やサービスや事業を新しい世代のシステムへ進化させるといった価値づくりの最上流の「企画の立案」作業を効率的に進めることができるようになっています。

 

玉田氏がいうメンタル・インベーションを「意味のイノベーション」と言い換えるとすると、意味のイノベーション⇒プロダクト・イノベーション⇒プロセス・イノベーションのすべての実現に当たって、戦略的世代進化(DE:Directed Evolusion®)のツールが有効に活用できます。

非まじめ、不合理、反システム、逆転思考

現在世界中で行われるロボットコンテストの開催を最初に提唱した、日本のロボット工学の権威である東京工業大学名誉教授の森政弘博士は、「まじめは美徳であるが、まじめの基本的な性質は一面的で一方的で視野が狭い。不まじめは困るが、ここにいう『非まじめ』は、まじめに対する非まじめの意味ではない。正・反・合というように、正のまじめと、反の不まじめとを共に包括して、しかもそれを超えた徳性を『非まじめ』という」といい、「非まじめ」の実行を勧めています(「非まじめのすすめ」、森政弘著、講談社発行)。

 

企業の経営者や起業家にコーチングを提供しているポール・レンバーグが著した「不合理のマネジメント」に関する書籍では、「辞書によれば、『合理的』とは理にかなっていること、『不合理』とは理にかなっていないことを言う。しかし現実を見れば、合理的とは世の中の常識に従うことであり、不合理とは自分の心の声に従うことである」「理にかなった行動をするとは、昔から行われていたことや、ずっと昔に誰かがこうすべきだと言ったことをあたかも絶対的に正しいかのように取り上げ、その結果、素晴らしい結果をもたらすかもしれないユニークな考え方を殺してしまうことだ。」として、「不合理」の実行を勧めています(「会社を変える不合理のマネジメント」、ポール・レンバーグ著、山崎康司訳、ダイヤモンド社発行)。

 

ポール・レンバーグは、「理にかなった行動をすることはビジネスを維持するための助けになるかもしれない。しかし、それは同時に、ビジネスを大きな上昇軌道に乗せることへの妨げになる。」「ビジネスを大きく成長させたいと思うならば、未来をつくり出す自分の能力を信じなさい。」ともいっています。

 

TRIZの創始者であるアルトシューラは、「優れた設計者が質的に異なっている点は、課題として与えられたシステム(製品や技術)だけではなく、上位システムや下位システムを視野に収めているところです(「クレーン」についての課題では建設計画全体(上位システム)を変化させたり、クレーンの材質(下位システム)を変化させたりすることによって解決することも可能です)。」「もう一段高い優秀さの特徴は、それぞれのシステムレベルについて、現在の状況だけでなく、過去と未来をも視野に入れているという点です。」といい、発明者の特徴的な能力や性質について説明しています(「体系的思考を育てることがARIZを教える最終目的だ」、アルトシューラ著、TRIZ塾 http://www.trizstudy.com/)。

 

「さらにもう一段高い水準はシステムとともに反システム―クレーンに対しては反クレーン、木に対しては木の反対のもの、など―もまた視野に入れることのできる才能です。これが特に重要になるのは対象としているシステムが発展の可能性を使い尽くしていて、何か原理的に新しい物に置き換える必要がある場合です。」とし、課題として与えられたシステムが「砕氷船」の場合であれば、氷を砕かない「反砕氷船」という反システムについて検討することであるといいます。

 

こうすることで、課題に対する大胆な解決策に一気に近づくことができるとし、「反システム」を考えることを勧めています。

 

Ideation TRIZのFA(Failure Analysis)という不具合の分析と不具合の再発防止を行う手法と、FP(Failure Prediction)という不具合の予測と不具合の未然防止を行う手法では、理由のわからない「不具合」の隠れた発生メカニズムの解明と、未知の潜在的な不具合の予見のために使う従来にない有効性をもった「逆転思考」による分析方法を勧めています。

 

「逆転思考」による分析の要点は、不具合の原因を「どのようにしてそれが起きているのだろうか。」と推測するのではなく、問題を逆転させ、それを積極的な表現に置き換えることです。

 

それにより、不具合分析(FA:Failure Analysis)では、推測するのではなく何かを成し遂げようとすることで、考える人が純粋な情熱、創造力、能力や専門知識を総動員するようになります。「達成しようとすれば、道は見つかる」のです。

 

また、不具合予測(FP:Failure Prediction)においては、自分の計画や作業について「何が問題になるだろうか」と考えると、気持ちが守りに入ってしまい、否定的反応によって「私の」システムや計画について問題が発生する可能性を否定したり、最小限に見積もったりするようになってしまいます。ところが問いを逆転させて、「どのようにすれば問題を引き起こすことができるだろうか」と考えると、攻めの姿勢に転じることができます。潜在している不具合を発見することが満足感を与えてくれるので、その目的に向って自分の創造的能力を発揮するようになるのです。

 

自然の中には「良い」現象も「悪い」現象もありません。すべての現象は無色中立です。本来は中立的な自然現象も、否定的な観点から見ると見えなくなってしまうことがあるのです。つまり、実際に起きているできごとの背景にある現象のメカニズムはすべて必ず自然の法則に従っているのですから再現が可能なのです。つまり、問題を逆転することによって否定的な作用を現象として利用する視点が生まれるのです。

プロジェクト成果の評価と評価ツール

弊社ではファシリテーション型のコンサル(プロセスコンサルティング)のサービスを実施していますが、通常は本格プロジェクトの前にパイロット・プロジェクトを行うケースが多いといえます。

 

パイロット・プロジェクトは、顧客がその結果を確かめた上で本格プロジェクトに取り組むか否かを決定するためのお試し版という位置づけになります。

 

パイロット・プロジェクトと本格プロジェクトとは、プロジェクト全体の工数が違うと考えていただければ結構です。パイロット・プロジェクトでは本格プロジェクトの工程の一部を省略したり、各工程にかける時間を少なくすることで対応しています。パイロット・プロジェクト用のテーマを決めることは稀であり、本格プロジェクトと同じテーマを採用するケースが多いといえます。

 

パイロット・プロジェクトでは、時間の関係で各工程での取り組みが浅くなるため、プロジェクトの成果が物足りない結果に終わるのは否めませんが、Ideation TRIZの効果を確認するには十分な内容であると考えます。

 

プロジェクトで目的とする成果を出すためには、(1)確実に機能する思考プロセスに沿って、(2)目的に合った思考スキル(思考ツール)を選択して、(3)成果が出るまで粘り強く考える、ことが必要です。

 

プロジェクト成果の評価項目とその判定基準が事前にわかっているのであれば、その評価項目ごとに高い評価が得られるように、プロジェクトを進めることが可能です。

 

Ideation TRIZでは、漸進的イノベーションを起こすための発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)のプロジェクトや急進的イノベーションを起こすための戦略的世代進化(DE:Directed Evolution®)のプロジェクトが代表的なものです。

 

発明的問題解決(IPS)のプロジェクトであれば、(1)Ideationプロセス質問票のチェックリストによりプロジェクトを行う必要性と目的、成果の評価基準を確認する、(2)システムアプローチにより問題状況の多観点分析を行う、(3)プロブレム・フォーミュレーションにより問題状況の因果関係ダイアグラム作成し、課題を抽出する、(4)オペレータ・システムを使用したIdeation ブレーンストーミングを行い、課題を実現するアイデアを創出する、(5)アイデアの組み合わせ、単純化を行い、解決コンセプトをまとめる、(6)不具合予測手法を使用して解決コンセプトの二次的問題と発見し未然防止策を考える、(7)解決コンセプトの結果を評価する、(8)解決コンセプトを実行するための計画を策定する、といったプロセスを実施します。

 

戦略的世代進化(DE)のプロジェクトであれば、(1)Ideationプロセス質問票のチェックリストによりプロジェクトを行う必要性と目的、成果の評価基準を確認する、(2)システムに関する過去の歴史を調べ、環境、社会、経済、市場などの一般進化トレンドを参考にして、システムアプローチにより関連する進化トレンドを分析する、(2)システムのSカーブ分析を行い、関連する進化パターン、ラインを特定して進化ライン上にシステムをマッピングする、(3)システムの進化ラインからシステムの進化ポテンシャルと進化の限界を確認する、(4)システムの進化の資源と制約を確認し、克服すべき問題についての因果関係ダイヤグラムを作成する、(5)進化を阻害している原因を解明し、理想性のオペレータ、進化ラインのDBを使って企画コンセプトを作成する、(6)不具合予測手法を使って企画コンセプトの二次的問題の発見し、その未然防止策を考えて、プロジェクト成果を評価する、(7)システムの進化シナリオと企画コンセプトを実現するための技術ロードマップを作成する、といったプロセスを実施します。

 

Ideation TRIZにはプロジェクト成果を評価するために使用する「発明・技術評価」ツールがあります。これは、米国のアイディエーション・インターナショナル社によって300万を超える既存特許の分析により収集された知識に基づいて開発されたものです。

 

この評価ツールの対象ユーザーは、発明者、技術管理者、IP 担当者、特許ライセンスの販売と購入の責任者などです。この評価ツールを使用すれば、次の重要な側面を含む、評価対象技術の価値を複数基準によって構造的および段階的に分析できます。

 

Ideation TRIZの手法の1つである「発明・技術評価」ツールでは、

(1)技術に関するファクター

技術創造のために適用された創造的な労力の量、新規性の程度、および技術および/または社会の全体的レベルに及ぼす影響を評価します。

(2)進化に関するファクター

今後さらに開発される技術の進化の可能性を反映します。

(3)市場に関するファクター

技術の可能な用途、可能性のある市場規模、市場成長率などを反映します。

の3項目により、プロジェクトの成果について評価します。

 

このツールは、次の情報を提供し、技術の可能性の評価と格付けを支援します。

・本技術の可能性の格付けおよび本技術の改良に関するアドバイス

・特許の取得および/または特許の有益な実施を脅かす可能性のある本技術の重要な欠点

 

この評価ツールを使用すると、評価結果を踏まえた次の行動指針が記載された評価レポートが得られます。評価レポートには、次の活動を支援する情報が含まれます。

・本技術の完全な可能性を開示する(場合によって開示されないこともある側面を含む)

・技術の価値を高め、新しい可能な用途を見つけることを目的とする技術の強化についての方針を特定する

・将来の商業化の機会を高める

・特許ポートフォリオに関する意思決定を向上し、特許リソースを適切に管理する

また、このレポートによって、暫定換算、全国規模の出願、特許維持量の継続に関する意思決定を適切に行うことでコストを削減したり、技術者の商業化の「ヒット率」および投資収益率(ROI)を向上したりできます。

TRIZが普及していないわけ(歴史的背景)

アイディエーション・ジャパンでは、Ideation TRIZの入門セミナーをはじめ、体験セミナー、認定セミナー、ワークショップなどの各種セミナーと、ファシリテーション型コンサルを実施することで、Ideation TRIZ の普及活動とIdeation TRIZを使用した問題解決に挑戦する方々の支援を行っています。

 

これらのセミナーやコンサルの中で一番多い質問は、「TRIZはすばらしい手法だと思いますが、なぜ普及していないのですか?」というものです。

 

TRIZは1997年日本で「超発明術」として紹介されました(「超発明術TRIZ シリーズ 1~4」、日経 BP 社発行)。そのため、当初はTRIZを使えば誰でも自動的に発明ができるようになると思い込んだのか、日本の大手企業の多くがTRIZに飛びつきましたが、多くの企業が思うような成果を出せなかったことで、結果として「TRIZは使えない」という誤解を産んだという歴史があります。

 

日本ではロシア語から日本語に翻訳された発明アルゴリズム「ARIZ」についての解説本が1970年代に出版されていましたが、当時は誰も関心を示しませんでした(「発明発想入門」、G.アルトシューラ著、遠藤敬一、高田孝夫共訳、(株)アグネ発行、1972年5月30日)。したがって、日本のTRIZの歴史は「超発明術」の書籍が発行された1997年または英語版のTRIZソフトウェアが輸入された1996年がスタートとされています。

 

日本で最初にTRIZの社内への普及に努力した人達(第一世代の人達)は、今は企業を定年退社しています。そして、NPO法人日本TRIZ協会が毎年開催しているTRIZシンポジウムでの発表を聞く限り、それらの方々が現在も引き続きTRIZを実践しているケースは少ないようです。

 

日本で第一世代の人達が経験したTRIZが普及しなかった理由には、その取り組み方に原因があったように思います。

 

アルトシューラが確立した古典的TRIZは膨大な体系(公準、心理的惰性の打破、理想解、資源、技術的矛盾、物理的矛盾、物質場分析、小さな賢人、進化の法則、効果集など)であるにもかかわらず、日本では企業側の都合に合わせて、当時は2~3日程度の教育課程が組まれていました。その内容は膨大であって、参加者は消化不良に陥るケースが多かったといえます(諸外国では、古典的TRIZの習得には100~150時間を費やします)。

 

そのため、当然のことのように、実践的活用を優先する企業では、比較的簡単なアルゴリズムに従って発想のヒントを手に入れてアイデアを創出できる「技術的矛盾マトリックス」を使った「発明原理」によるブレーンストーミングだけを採用して技術的問題を解決する道が選ばれました。いままでの発想法にはなかった、問題の種類によって異なる解決のヒントが示される「技術的矛盾マトリックス」というツールが珍しかったのでしょう。

 

その結果、革新的な問題解決を可能にするはずのTRIZが、日常的な改善提案を推進する便利な発想ツールになってしまいました。

 

TRIZが使用されるという意味ではよかったのかもしれませんが、「TRIZは使えない」という考えにつながる原因になってしまったともいえます。

 

実は、「技術的矛盾マトリックス」を使うには、取り組む問題について「改善する特性」と「悪化する特性」といった対立する2つの異なる特性の組み合わせ(アルトシューラは「39種の改善する特性×39種の悪化する特性」のマトリックス表を提案している)を定義しなければなりませんが、実際にはこの定義が一意に決められない場面に出会います。

 

それは、問題解決者がその問題をどのように捉えているかによって、対立する2つの異なる特性の組み合わせの内容が変わるからです。解決者が複数いると解決者の数だけ異なった組み合わせができてしまうことがあります。

 

また、1つの組み合わせが採用されたとしても、その1つの組み合わせから得られる解決のヒントは最大で4種類の「発明原理」に限定されます。

 

その発明原理も、例えば「入れ子の原理」「複合材料の原理」といったような抽象的な概念でしかないため、具体的に製品に実装できるアイデアを得ることは問題に関連する専門技術に精通している人以外には難しいのが現実でした。

 

「TRIZが使えない」とされるこれらの問題に対して、日本では、(1)アルトシューラの39×39の「技術的矛盾マトリックス」を簡略化した「簡易版矛盾マトリックス」が提案されたり、(2)「技術的矛盾マトリックス」を使用せずに(問題の状況を吟味せずに)、最初から汎用性の高い「発明原理」だけを使用する方法が試みられました。

 

前者の場合には、1つの組み合わせから得られる解決のヒントが10種類位に増え、複数の組み合わせが考えられる場合にはその数倍のヒントを検討します。後者の場合には、「8個の発明原理」「12個の発明原理」「16個の発明原理」・・・などが使われました。

 

これらの解決策が最終的に行き着いた先は、問題の種類にかかわらず40の「発明原理」のすべてを使うという方法です。

 

現在は、日本ではTRIZの第一世代の人達が活躍されていた時代を知らない第二世代の人達が活躍しているといえます。それなのに、なぜ第二世代になってもTRIZが研究者、技術者の間で普及していないのでしょうか。

 

それは、40の発明原理の全部を使用しても自分の問題が解決しなかったからでしょう。

 

なぜ、40の発明原理の全部を使用しても自分の問題が解決しなかったのか?

私の推測ですが、問題が置かれている状況や問題自体の内容をよく考えなかったからではないかと思います。

 

(1)TRIZなら問題が簡単に解けると思っていた

(2)問題を解決したいという思いが強すぎて、アイデア発想に集中してしまった

 

この改善策としては、

(1)自分が抱えている問題の状況をよく検討すること

⇒例えばアイディエーション社の「問題状況質問票」の質問に答える

⇒システムアプローチ(多観点分析)を行う

(2)問題の本質を突き止め、問題を解決するための課題を明確にする

⇒問題の状況を明らかにした「因果関係ダイアグラム」を作成する

 

これら2つのポイントがしっかりと把握されていれば、「発明原理」のような思考のチェックリストのようなものがなくとも、TRIZの基本思想である「理想性の向上」や「資源の活用」の概念を採用することで、自分の専門分野の問題は解決できてしまうことが起きます。

 

 

*「問題状況質問票」、「システムアプローチ」、「因果関係ダイアグラム」については、それぞれのキーワードが記載されている本ブログの他の項目を参照してください。