前回ご説明しましたように、TRIZを実施するための手順書であるARIZ(アリーズ)は、アルトシュラーが第一線で研究していたときの最後のARIZ-85Cというもので40ステップもある膨大なものです。
ここで紹介する簡略版ARIZは、アイディエーション・インターナショナル社のIWB(Innovation WorkBench)というソフトウェアに掲載されているものです。
簡略版ARIZのステップは以下の通り、たった3つです。
ステップ1.改善したい状況を記述する。
ステップ2.以下のテンプレートに従って、理想的な状況(解決)を記述する。
(1)要求される有用な効果<記述>を生み出す要素 <記述>以外なにも必要としない。
(2)有害効果<記述>を引起す要素 <記述> をシステムから除去する必要がある。
(3)有害効果<記述> はそれ自体の原因で消え去る。
ステップ3.ステップ2で定義した理想的な状況を実現する方法が思い付けば、問題は解決したことになる。思いつかない場合には、最初に、それを実現する既知の方法を探す。
もし、そのまま採用できる既知の方法が見つからない場合は、以下の手順に従う。
①既知の方法で理想的な状況を妨げる制約(欠点)を記述する。
②障害又は制約を取り除くにはどんな変更をする必要があるかを考える。
③②でその変更を可能にする方法が思い浮ばなければ、「既知の方法を採用することで実現できることと、既知の方法を採用することで生じる弊害」との矛盾を解決するために、分離の原則を活用する。
分離の原則には、
(1)矛盾する要請を空間で分離
(2)矛盾する要請を時間で分離
(3)時間に応じて特性を最適化
(4)矛盾する要請を全体と部分で分離
(5)矛盾する要請を条件で分離
(6)有害な部分を対象物から分離
(7)必要な部分を対象物から分離
といった項目がある。これらの中から、先の矛盾を解決するヒントを得る。
以下に簡略版ARIZを適用した問題解決事例を示しますので、これを参考にして、自分の問題解決に使ってみてください。
【問題】散弾銃を用いて、空中などを動くクレーと呼ばれる素焼きの皿を撃ち壊すクレー射撃というスポーツ競技があります。競技が行われた後は射撃場の地面にたくさんのクレーの破片が散在しています。クレーの破片の後片付けが面倒です。クレーの破片の後片付けを楽にする方法はないでしょうか。
【簡略ARIZの適用】
ステップ1.改善したい状況を記述する。
→クレー射撃場では、競技終了後にクレーの破片を除去する必要があるが、その除去作業を容易にしたい。
ステップ2.理想的な状況を記述する。
→破片は自動的に除去される。あるいは、破片が消えてしまう方がより理想的である。
ステップ3.理想的状況を実現する方法が思い浮びますか?即ち、実現する既知の方法がありますか?
→思いつかない。
既知の方法で理想的な状況を妨げる制約(欠点)を記述する。
→障害:クレーは消えない。
障害又は制約を取り除くにはどんな変更をする必要があるか?
→クレーを消える材料に置き換える必要がある。
③その変更を可能にする方法が思い浮びますか?
→いいえ。
→「射撃をしているときにはクレーは存在し、射撃が終わったときにはクレーが消えてなくなる。」方法を考える。
→矛盾する要請を条件・特性で分離の原則(変化させることのできる何らかの属性あるいは条件を探し、その属性の値あるいは条件がある状態の時には一つの要請を満足し、別の状態の時に反対の要請を満足するようにする。)を適用する。
→氷製の円盤(クレー)を使用することで、破片は周囲温度で溶けてなくなる(打ち損じた円盤も溶けてなくなる)。