発明原理や人手にこだわらないこと

現在、日本でTRIZといえば、創案者であるアルトシュラーが第一線で研究開発をしていた1985年頃までに完成された古典的TRIZのことをいいます。 古典的TRIZは、技術的矛盾、物理的矛盾、物質-場分析などのそれぞれ別個の問題の定式化(問題を抽象的に表現する)を行うことで、発明原理、分離の原則、発明標準解などの発明の定石パターンを使って、発明的な問題の解決を図ろうとするものです。
古典的TRIZには、この他に工学的な効果集や技術的進化の法則というものもあり、その理論と方法論の体系が膨大なため、使いこなせるようになるのに相当な時間(100時間程度)を必要とするといった欠点がありました。 そのため、イスラエルでは古典的TRIZを簡略化したSITという手法が開発されたり、日本のように技術的矛盾を解決するための発明原理だけを使うことが起きています。
自分は技術開発の問題を解こうとしているのだから、技術的矛盾だけを対象にすればいいので発明原理だけで十分だと思い込んでいる人もいます。 日本では、40個の発明原理では多すぎて面倒だということで、一部では8個、12個といった汎用性の高い発明原理だけで問題解決に取り組もうとしている人もいます。
古典的TRIZの一部分だけを使用するのでは、せっかくのTRIZの威力が発揮されないのは当然です。 発明原理だけを使って良い結果が得られなかったからといって、TRIZは役に立たないと決めつける人がいるのは困った話です。
そもそも、アルトシュラーは1970年代に、発明原理では高度な発明的問題には歯が立たないと判断し、それ以後に分離の原則や発明標準解を開発しているわけで、発明原理だけで色々な問題を片付けようとすること自体に無理があります。 理想性の観点からすれば、以上のような安易な簡略化に陥らず、取り扱いが容易であって、かつTRIZの強力な威力が得られる手法が望まれるわけです。
I-TRIZでは、通常のエンジニアリングプロセスの分析段階で、(1)問題を多観点で観察することで問題解決に使える資源を見出し、(2)問題の状況を因果関係ダイヤグラムに表現さえすれば、ソフトウェアがそのダイヤグラムの論理を読み取って自動的に問題解決のために必要な指針が網羅的に提示します。
提示された指針の中から、自社の内部状況(人、設備、資金、競合関係等)を勘案して、取り組む課題として適当と思われるものを選択すると、ソフトウェアが自動的に選択した指針に最適な解決パターンを提示します。 この解決パターンには、発明原理、分離の原則、発明標準解、革新ガイド、技術進化の法則のすべてが含まれており、それらを問題解決者が意識して使い分けるようなことは必要ありません。
問題解決者は、単に課題実現のために選択したいくつかの解決パターンを、分析段階で見出したいずれかの資源に適用する(組み合わせる)といった操作(思考)をブレーンストーミングの要領で繰り返すだけです。 後は、その操作結果として得られた技術的なアイデアの中から、自社にとって最適なものを選択すればいいのです。
問題解決者にとって、取り扱いが容易であって、かつTRIZの強力な威力が得られる手法がI-TRIZということです。 I-TRIZには使用するエンジニアリングの分野によって、企画部門に最適なDE(戦略的世代進化)、研究開発部門に最適なIPS(発明的問題解決)、生産部門に最適なAFD(先行的不具合対処)、知的財産部門に最適なCIP(知的財産制御)という各ソフトウェアが存在します。
ソフトウェアを使わないでTRIZを使いたいという人がいますが、TRIZを実務に使うのであればソフトウェアが必須であると考えるべきです。 なぜならば、TRIZは先人の知恵を蓄積した知識データベースを持っていることが他の創造技法と一線を画している点であり、その膨大な知識ベースを簡単に使いこなすには人手では無理だからです。