ものづくりからコンセプトづくりへ

ものづくりの主役である製造業、その中でも典型的なのが自動車産業ですが、自動車の電子化が急速に進んでおり、現在では特許出願の半分は電子部品関連であるといいます。 自動車に限らず、かつて機械的に実現されていた機能がソフトウェアで代替され、現在では電子部品が組み込まれた製品の付加価値の90%はソフトウェアに由来するともいわれています。
世の中はいわゆる情報産業の時代にあるということです。 iPod、iPone、iPadのようなものが、なぜ日本で生まれないのかといわれていますが、その最大の原因は、「もの」より「コト」(物語)やコンセプト(全体を貫く基本的な概念、理念)が重要視されるようになった時代にもかかわらず、未だにものづくりに拘っているからではないでしょうか。
確かに、日本製品の品質は世界一かもしれませんが、ほぼ同じ品質のものが韓国や台湾で安く作られて、特にコンピュータでは、製造ノウハウは新興国にほぼ完全に移転されており、日本が製造する意味がないように思われます。 そして、コンピュータと密接な関係にある情報産業では、必要な部品は陳腐化して世界中から調達できる一方、それを使って行うサービスには不確実性が大きいので、独創的なアイデアや美しいデザインなどの無形資産は簡単に手に入らないという状況があります。
情報産業の世界では、物的資本より人的資本の問題が重要であるということです。 ものづくり技術(製品)に大事なのは品質や信頼性ですが、情報産業の製品に大事なのはコンセプトです。美しいデザインとコンセプトの統一性こそが重要であり、これはものづくり技術と違って分割することができません。
日本の中で完成させなければなりません。 ところが、科学の理論が科学者の直観から生まれるように、イノベーションを生むのは技術者の才能によるため、イノベーションを起こす具体的な方法論はないといえます。
スティーブ・ジョブスが、アップルの企業理念は「本当にいけてる製品をつくることだ」といったように、「楽しく面白い仕事をする」というモチベーションこそがイノベーションを起こすエネルギーです。 また、イノベーションを広めていくためには、そうすることが必然だと思える魅力的な物語が必要だということです。
スティーブ・ジョブスがiPadのプレゼンテーションをしたときに、彼はソファに座っていました。 彼は、従来のコンピュータは机に前のめりに座って仕事をするために使用するものだったが、これからはリビングでソファに身を横たえてくつろぐときに使うものだ、という物語を伝えたかったのでしょう。
新製品を開発して世の中に普及させようとするイノベーションは、ある意味賭けであり、不確実性が大きいものです。そのため、多くの日本企業が組織によるコンセンサスでその是非を決める方法では、リスクを避けて無難な製品しか生まれないことになります。
イノベーションを起こすには、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブス、孫正義のような確固たる理念を持った強いリーダーシップを発揮できる人が必要であるということではないでしょうか。そして、その理念に共感して「楽しく面白い仕事をする」ことに生き甲斐を感じる技術者がいることが必要でしょう。