技術システム進化の一般シナリオ

システムを次の世代に進化させる際にどのような選択肢があり得るか、システムを巡る技術進化の経緯を視野に入れた可能なシナリオの体系としてあらわしたものを「技術システム進化の一般シナリオ」と呼んでいます。

 

技術システムが次の世代へ向けて進化してゆく典型的なステップは、ステップ1:端緒、ステップ2:スクリーニング、ステップ3:競争、ステップ4:統合とハイブリッド化、ステップ5:次世代システム候補のリスト、の順になっています。

 

ステップ1:端緒では、新しい人工システムが初めて登場するときには、システムをつくり上げようとして多数の作動原理が試されます。

 

たとえば、飛行機の推力を得る方法として、筋力、蒸気機関、内燃機関、さらにはジェット機関までもが検討されました。新システム、とりわけ人類の長年の夢(たとえば空を飛ぶこと)、が実現するまでのこうした試行期間は長いものとなりがちです。様々な作動原理はその時代その時代の技術水準というフィルターによってスクリーニングされます。

 

ステップ2:スクリーニングとは、システムを成り立たせることができそうな様々な作動原理のなかから、あるものが社会に受け入れられ、他のものは捨てられてゆくというプロセスです。

 

飛行機の推力を得る方法の例では、ジェットエンジンは後の歴史によって優れた原理だということが証明されましたが、20世紀初頭の材料技術、物理学、化学の全般的水準にとっては実用化のために克服すべき課題が多すぎたといえます。その結果、内燃機関がこのステップでの勝者となりました。

 

ステップ3:競争では、多くの場合は複数の原理のあいだの競争が始まり、結果としてある程度信頼性のある成熟した技術が複数生まれます。典型的なケースを次のように特徴づけることができます。

 

(1)ある1つの技術がその時代の勝者として認められている、これに対して、(2)主な競争相手(もう1つの選択肢)とみなされている技術がある、また、以上2つほど成熟していない(3)未完成な若い技術も認識されています。

 

このようにある時代のある適用分野で選択肢と考えられている技術の数は限られているのが普通です。社会全体が持っている資源(特に人・資金)には限界がありますから、あれこれの技術が期待できそうな実績を見せると、研究者や投資家はそれらの技術に焦点を当てるため、他の技術が成長する余地がなくなってしまうためです。

 

ステップ4:統合とハイブリッド化では、選択肢とされる技術(成熟技術と若い技術)が出揃って、それぞれの長所短所がわかってくると「統合」や「ハイブリッド化」など様々に組み合わせた発明が行なわれるようになります。これは様々な技術の良いところをもっとも効果的に組み合わせようとする試みの過程です。

 

「統合」や「ハイブリッド化」は何度も繰り返して行なわれることがあります。初めは当初の技術と技術とを組み合わせる。次にはうまくいった組合せ同士をもう一度組み合わせたり、うまくいった組合せをもう一度当初の技術のどれかと組み合わせる、といった具合です。

 

ステップ5:次世代システム候補のリストでは、「技術システム進化の一般的なシナリオ」はシステムの次世代を発見するアプローチとして以下のリストを示唆しています。

 

(1)既存の成熟システムあるいはその競争相手となっている成熟システムの変形、最適化ないしは最新の技術や作動原理を盛り込んだ改良およびそれらの組み合わせ、(2)既存システムの二重システム、多重システム化、(3)新旧システムを組み合わせた牽引二重システム、(4)現在競争状態にある2つの成熟システムを組み合わせた競合二重システム、(5)既存の成熟システムを一部に取り込んだ統合上位システム、(6)登場しつつある若いシステム、(7)以前に放棄された原理や新しく出現した原理に基づく新システム、(8)既存のシステムに他分野のシステムの原理を取り入れる。

 

「技術システム進化の一般シナリオ」によれば、既存の技術を組み合わせてハイブリッド・システムを作ることを検討しないで、まったく新しい技術に飛びつこうとする(たとえば、ハイブリッド・カーを作らないうちに一気に燃料電池車の導入を試みるようなこと)のは、大変コストがかかり誤りだということです。

 

また、「技術システム進化の一般シナリオ」は、システムの進化を歴史的な観点で分析することの重要さを教えてくれます。システムが進化を始めた初期の歴史を見ると、ほとんどの場合、失敗に終わり今では忘れ去られた試行錯誤があったことを見出します。

 

こうした試行は現在のシステムを更に改良する上での貴重な資源です。システム改良の方向性を決定する際には、過去の試行を含めて可能な選択肢を必ず網羅的に検討することが必要です。