発明技法であるNM法を創案された中山正和氏は、「法華経」が創造性開発のテキストであるといわれました。 「法華経」には、物事について「相、性、体、力、作」の5つで今どうなっているかを分析するための尺度と、その現在の状況が過去や未来にどのようにつながっているかを「因、縁、果、報」の4つで考えることが示されています。
ここで、「相」は外面的な特徴、「性」は内面的な性質、「体」は実体、「力」は能力(エネルギー)、「作」は現実の作用、「因」は物事の原因、「縁」は現象の間接的原因、「果」は結果として現れること、「報」は因果関係が未来に与える影響のこととされています。
このような観点によって過去、現在、未来のあり方をすべてまとめて観察するのが「本末究竟等」(相から報に至るまでの事柄が究極的に無差別平等であること)を含めた「十如是」であって、存在の真実のあり方を知る手段を教えてくれています。
一方、古典的TRIZでは、対象とするシステムと、そのシステムの構成要素である下位システム、およびシステムに関連する上位システムを観察し、システム、下位システム、および上位システムそれぞれの過去ならびに予想される未来を観察します。
「上位システム-システム-下位システム」と「過去-現在-未来」の観点を組み合わせた9つの観点で物事を捉えようとした思考法が「マルチスクリーン」というものです。 I-TRIZでは、「マルチスクリーン」よりも多くの観点でシステムを観察する「システム・アプローチ」という手法を採用しています。
「システム・アプローチ」では、「上位システム-システム-下位システム」と「過去-現在-未来」の他に、問題の原因、問題の結果として生じる不都合、および、これらに関連するシステムの機能に着目する「原因-問題-結果」という観点と、システムに対する様々なインプット(入力)、システムからのアウトプット(出力)、およびそれらの問題と関連するシステムの機能に着目する「入力-機能-出力」という観点を使用します。
「原因-問題-結果」はシステムの因果関係を観察することですが、「十如是」によれば、因果関係に直接的な関係の「因果」と間接的な関係「縁報」とがあることを教えてくれています。 「システム・アプローチ」では、システムのプロセスの前の時間とプロセスの後の時間を観察する段階が設けられていますが、これは因果関係のうちの直接的な関係のことです。
原子エネルギーの力を使って電力を得る際の利害得失を考えることは直接的な関係を考えることであって、その結果、地球の未来にどのようなことが起きるかを考えることが、間接的な関係を観察することに当たるでしょう。その両方を考えることが必要なわけです。
「入力-機能-出力」では、システムが必要とされている機能を実現するためにどんな入力が必要で、システムが機能した結果としてどのような出力が生まれるかを考えることになります。 出力は本来そのシステムが機能することによって得られるものであって、そのシステムを使用する目的に関係するといえます。入力はそのシステムを機能させるために必要な手段と考えることができます。
したがって、「入力-機能-出力」は人間の価値観に関係する目的手段関係を表しているともいえます。 「システム・アプローチ」によって、システムが今どうなっているかを知り、システムの現在の状況が過去や未来にどのようにつながっているかを知ることができます。また、システムの機能を中心とした因果関係、目的手段関係を明らかにすることで、システムの意味とそのあるべき姿を明確にすることができます。
これによって、システムが抱える問題を解決するための方向性が明らかになります。