持続的イノベーションから破壊的イノベーションへ

イノベーションの語源は、1911年に、オーストリア出身の経済学者シュンペーターによって、著書『経済発展の理論』において初めて、物事の「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」を創造する行為のことであると定義されました。
新しい技術の発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革である、ということです(「ウィキペディア」より)。
自動車やエレクトロニクスの産業分野に代表されるように、1980年代の日本の高度成長期は、欧米の新材料/新要素や新製品によるイノベーションに対し、すぐにキャッチアップして新製法によるイノベーションで競争力を獲得してきた、といえます。
ウォークマンのように日本オリジナルの製品モデルもありますが、欧米で創造された商品モデルに新製法によるノベーションで価値を生み出そうとしたケースが圧倒的に多いのが現状ではないでしょうか。 高度成長期の日本企業の生産現場では、大量生産による生産性向上を図るため、小集団活動、改善活動などで、製品の性能を上げたり、生産性を挙げたり、信頼性を上げたりしてきたといえます。
しかしながら、近年では市場環境の変化から、生産現場では少量多品種に対応する必要性が生じてきました。 そのため、顧客の声(VOC)を聞くことが重要であるとの観点から、別の意味で製品改良を繰り返すことが望まれています。
その結果、いつしか製品の性能のほうが顧客の望む性能レベルを超えてしまい、高コスト・高価格・過剰スペックの製品が出来上がってしまう、といった結果を招くことになります。 このように、顧客の要望を忠実に拝聴した結果であるのに、顧客の要望をオーバーしてしまうという逆説的な事態を、クリステンセンは過剰解決と呼びました。見方を変えれば過剰品質ということといえます。
クリステンセンは、このように、消費者や顧客が望む性能進化のスピードよりも技術進化のスピードが常に上回ると考えられています。このような既存の価値観の元での直線的な改良によるイノベーションを「持続的イノベーション」と呼びました。 このような「持続的イノベーション」は、先例があるものの改良行為で足りるものであって、古典的TRIZの得意とする範疇であるといえます。
クリステンセンは、「持続的イノベーション」の対極的な概念を「破壊的イノベーション」と呼びました。 「破壊的イノベーション」には、既存市場において大きなシェアを持ちながらもオーバーシューティングに陥った優良企業の高価格・複雑な製品に対し、より低価格や簡便性を実現する“破壊的技術”によって、これまで空白になりつつあったローエンド市場に参入する「ローエンド型破壊的イノベーション」と、新たな破壊的技術を用いた製品を、既存市場の一部としてのローエンド市場ではなく、新しい価値軸に基づいた、これまでと異なる新規市場に参入する「新市場型破壊的イノベーション」があるといいます。
クリステンセンは、「新市場型破壊的イノベーション」を「無消費」すなわち消費のなかった状況に対抗するイノベーションであるとしています。たとえば、ソニーのトランジスタラジオやウォークマンは、小型化という技術的イノベーションを新しい価値の軸で市場投入したことにより新しい市場を創造しました。
既存市場でハイエンド市場へ向けて「持続的イノベーション」を繰り返していくイノベーションが、破壊的技術によって「ローエンド型破壊」や「新市場型破壊」をもたらす破壊的イノベーションに駆逐されてしまう現象を「イノベーションのジレンマ」といいました。 「破壊的イノベーション」のうちの新しい価値軸に基づいた「新市場型破壊的イノベーション」は、残念ながら古典的TRIZの範囲を越える概念であるといえます。
非直線的な変化による「新市場型破壊的イノベーション」は、不連続な進化の法則を何百もの進化のパターン/ラインによって体系的に整理した知識ベースを活用することによって初めて、意図的に創造することが可能になるものです。
古典的TRIZを先進的な改良を加えたI-TRIZには、戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)と知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)といった、体系的に整理された進化のパターン/ラインの知識ベースを活用した「未来制御」を可能とする手法が整備されています。I-TRIZは、これらの手法を使うことで「新市場型破壊的イノベーション」を可能にします。