潜在意識の活用

前回と前々回で、Kさんのもう一人の自分と、私のもう一人の自分についてお話しをしました。 私の場合には、夢の中にもう一人の自分(実際の問題状況の中で奮闘している自分)が現れましたが、Kさんの場合には、覚醒時にもう一人の自分が問題解決のための具体的なやり方を教えてくれるということでした。

Kさんの域にまで到達するには、繰り返し繰り返し考えることは勿論、非常に多くの数の開発設計の経験がなければ無理ではないかと思います。 TRIZには、Kさんのような天才的な技術者の思考プロセスを真似ることで、普通の技術者が革新的な問題解決を行うことができるように、各種の手法が用意されています。

その一つに潜在意識の働きを促すものとして、SLP(賢い小人たち)という手法があります。 この手法は、TRIZの他の手法のようにデータベースを参照するようなこと(技術的矛盾の場合に発明原理を参照することや、物質-場分析の場合に発明標準解を参照すること)はなく、何でもできる分子レベルの大きさをしたSLPが、問題解決に必要となる機能を実現してくれる状況を頭の中に描くといった考え方をするものです。

そのため、SLPが行動した後は、すでに問題が解決していることになります。 したがって、具体的にSLPがどんな行動を起こせば、問題が解決されるかを考えることになります。 私が夢の中で経験した、もう一人の自分に似たものといえますが、それと同じようなことを意識的に起こそうということです。

実はこのような考え方は、ウィリアム・ゴードンが考えた「シネクティクス」という発明技法の中にあります。 それは、人格的類比(パーソナル・アナロジー)といわれるもので、たとえば、発明しようとする機械の身になって考えるといったことを行います。

すると、その機械に及ぼす様々な作用が自分自身に降りかかってくるイメージが浮かび上がってきます。そこで、それらの作用をどのように操作すればいいかを考えれば、斬新なアイデアが生まれてくることがあるというものです。

実は、私の夢の中で起きていたことこそが、この人格的類比であったわけです(人は考えることがなくなるような状態にまで追い詰められると、意識的思考が停止し、ひとりでに潜在意識が働き出すようにできているのです)。

実は、人格的類比には致命的な欠点があります。それは、自分に降りかかる危険な要素を避けようとしますので、火の中での出来事や真空状態での出来事のような危険な現象が伴う問題については、イメージがわきにくいということです。

その点、TRIZのSLPは、いわば他人である「賢い小人たち」の行動に任せるわけですから、人格的類比のような問題は少ないということで、適用範囲が広い考え方となっているといえます。