TRIZの歴史とI-TRIZの手法との関係

日本の企業で最もよく使用されている古典的TRIZのツールは「40の発明原理」です。「40の発明原理」はアルトシューラの1973年に発表された論文「技術的矛盾除去の模範的方法」に記載されています。同時に「40の発明原理」を使用するための補助ツール(一般に矛盾表と呼ばれています。)も「技術的矛盾除去方法の適用表」として発表されています。
ARIZ-71(TRIZを使用する際の手順書の1971年度版)では、分析作業の過程で操作空間とその空間に求められる互いに矛盾する2つの要請(物理的矛盾の原型)が特定されました。また、1975年に技術的矛盾の背後にあるより一般的な物理的矛盾の概念が導入され、
発明的問題解決のすべての操作は、「物理的矛盾」を定式化し、それを解消することであるとしました。ARIZ-77では、物質場分析の5つの標準が開発され、発明標準解の概念が導入されました。(以上、「V.M.ペトロフ『TRIZ発展小史』、「TRIZ塾」ホームページを参照のこと)。
1985年には、アルトシューラが第一線で活躍していた公式バージョンとしては最新(最後)のARIZ-85Cが発表されました。ARIZ-85Cでは、「技術システムの進化の法則」の構造に対応して5つのクラスに組織化された「76の発明標準解」が含まれています。
アルトシューラは、物理的矛盾の発見に先立ち、「(技術的矛盾を解決するための)発明原理から優れた解決策が得られるのは、発明原理を一つだけ独立して使うのではなく、ある原理とその逆向きの原理とのペアで適用するときである。」ことに気づき、「物理的矛盾の特定とその克服とは単なる問題解決の方法ではない。これは、技術システムの進化において客観的に不可欠なステップである。」、「物理的矛盾はそれを克服する方法(技術システムを変化させる操作(オペレーション)と有機的に結びついている。」との考えに至ったということです(「物理的矛盾とその解法」、黒澤慎輔、第7回TRIZシンポジウム)。
以上のように、ARIZは技術的矛盾から物理的矛盾への移行、物理的矛盾の克服(分離の原則)、物質場分析と発明標準解、技術システムの進化の法則を統一的に取り扱うことで発展してきました。そして、ARIZは標準的な解法、つまり発明標準解の適用によって歯が立たない問題の解決に使用するという位置づけが明らかにされました。
少なくとも、古典的TRIZの最終版であるARIZ-85Cは、非標準的な問題状況の背景にある物理的矛盾を明らかにして、その矛盾を克服する方法を発見するための手順だといえます。
I-TRIZでは、問題状況が明確な標準的問題の場合には、「問題状況の把握」の段階で直接「標準問題のオペレータ」が使用できるようになっており、煩わしい他のツールを一切使うことなしに問題解決が図れるようになっています。
技術的矛盾や物理的矛盾といった矛盾の定義をする必要はありません。どのような問題なのかという問題の種類がわかれば、その問題を解くためのヒントが得られます。
ちなみに、I-TRIZでは標準問題として、(1)生産性を改善する、(2)利便性を改善する、(3)信頼性の向上、(4)機械的強度を改善する、(5)製造精度を改善する、(6)コストを低減する、(7)単純化、(8)重量を軽減する、(9)エネルギー消費を低減させる、(10)浪費時間を減少させる、(11)機能効率を向上させる、(12)変形、ずれ、衝撃、振動、破壊を抑制する、(13)騒音を低減させる、(14)摩耗を低減させる、(15)汚染を軽減する、(16)過熱を回避する、(17)環境との相互作用を減少させる、といった項目をあげています。
「標準問題のオペレータ」では歯が立たないような複雑な問題の場合には、I-TRIZの思考プロセスに従い、(1)システムアプローチによって利用できる資源を把握し、(2)プロブレム・フォーミュレーションによって資源の因果関係を明らかにして、(3)システムの矛盾を明らかにしたうえで、「矛盾解決オペレータ」、「有害機能の排除オペレータ」、「有益機能の改良オペレータ」を使用して、対象システムを確実に進化させる解決策を求めることを考えることになります。