1950年代半ば頃アメリカから導入され、日本企業の製造原価低減活動に広く適用され、日本企業の高度成長に大きく貢献したVE(Value Engineering:価値工学)という技法があります。
日本で発行されているVE(Value Engineering:価値工学)に関する書籍のほとんどは、VEで取り扱う価値の概念として「価値=機能/コスト」という公式が記載されています。
しかしながら、この公式はVA(Value Analysis:価値分析)の創始者のマイルズが提唱したものではなく、アメリカ国防総省によって制定された公式に始まるとされ、その価値公式は「Value Index(価値指数)=Worth(値打ち)/Cost=Utility(効用)/Cost」というものを提示しているとのことです(「市場価格対応の品質展開実践手法」、持本志行著、(株)日科技連出版社発行)。
日本の「価値=機能/コスト」というVEの公式は、日本企業への普及に努めた産能短大の当事者がアメリカ国防総省の価値公式の分子を単に「機能」と略称し、アメリカVE協会もこれをまねて、それを再輸入した日本VE協会がこれを再確認し、VE公式「価値=機能/コスト」が同協会のマニュアルなどに定着した(「市場価格対応の品質展開実践手法」、持本志行著、(株)日科技連出版社発行)、とされています。
マーケティングの世界では、「顧客はモノが欲しいのではなく、そのモノが実現する機能が欲しいのである。」といわれます。
アメリカ国防総省が単なるモノの機能ではなく、モノの機能の値打ち(価値評価額)を問題にしていたわけです。
現在のマーケティングでは機能の先にある「顧客価値」を問題にしていますが、アメリカ国防総省はこの概念を先取りしていたわけです。
同じような考え方を取り扱う技法でも、その概念の定義の仕方や捉え方によって、生まれる成果が大きく異なることを教えてくれる案件といえるでしょう。
TRIZの基本的な考え(発見)として、「技術システムは理想性が増加する方向に進化する」という概念があります。ここで、理想性については「理想性=有益機能の総和/有害機能の総和」との公式で表現されます。
そのため、システムの有益機能を改良・増加する一方で、有害機能を排除・軽減するといった「矛盾を解決する」方法がTRIZの問題解決の方法であるとされています。
I-TRIZでは問題解決という概念をより広く捉えています。
たとえば、分母である有害機能に着目して理想性が増加する方向を考えると、システムはより小さく、コストはより少なく、エネルギー効率はより良く、環境破壊はより少なくなる、などが進化の方向であると考えます。
また、分子である有益機能に着目して理想性が増加する方向を考えると、有益機能を現在より向上させることや従来と違う方法で同じ有益機能を実現することも、進化の方向であると考えます。
実際の現場では、敢えて難しい矛盾を解決することに取り組まなくとも、問題解決できるケースがたくさんあります。
I-TRIZでは、問題解決を(1)有害機能の排除・軽減・防止、(2)有益機能を得る他の手段、改良、(3)矛盾の解決、といった3つの観点で捉えますので、実際の現場の状況に合った効率的な問題解決を実現することができることになります。