TRIZの部分的使用の問題

依然に、TRIZの部分的使用について説明することを予告しながら未だ実行されていませんでしたので、今回はその説明をします。 実は、現在「TRIZ」という名称で表されているものは、当初アルトシュラーは「発明テクニック」といっていました。
そして、その後、「発明テクニック」は「発明的問題解決のためのアルゴリズム(ARIZ)」という名前に変わりました。 「TRIZ」という名称は、1970年代にアルトシュラーの書簡の中で初めて使われ、1980年代中頃に米国やその他の西側諸国に紹介する際に正式に「TRIZ」という名称を採用することにしたといわれています。
したがって、アルトシュラー自身が第一線で研究していた時期の古典的TRIZの正体といえば、「ARIZ」であるということになります。 アルトシュラー自身が手がけた最後のARIZは「ARIZ-85C」ということですが、その内容は膨大なものです。
ARIZ-85Cでは、最初に、最小問題を技術的矛盾の形で定義し、矛盾図式モデルに表した後、標準解を適用して問題を解決します。 標準解で問題が解決した場合には、解決策の質を確認するために、 新たな物質や場を導入しないで済ませることができないか? 物理的矛盾が解消されているか? 制御しやすい要素が少なくとも1つ含まれているか? 既存の特許資料と比較して新規性があるか? 解決策を実施する際に付随的問題を生じないか? といった点について考慮します。
その上で、 解決策によってシステムが改良されることで、その上位システムをどのように変化させるべきか? 改良されたシステムまたは上位システムが新しい用途で使用できないか? 解決策の原理を一般化して他の問題解決に適用できないか? といった「解決策の活用」について検討します。
他方、標準解を適用しても問題が解決しない場合には、資源の棚卸しを行い、究極の理想的な結果を定義し、究極の理想的な結果を得るための物理的矛盾を定義し、標準解を適用して問題を解決します。
さらに、必要に応じて、対象としているシステムとその外部環境に含まれる物質資源と場の資源を明らかにし、上位システム・システム・下位システムそれぞれの変化を捉えるためにマルチスクリーン・シンキングを活用します。
もし、この段階でも問題が解決しない場合には、賢い小人達のモデルを使って問題に含まれる矛盾の構造を表現し、賢い小人達の行動によって矛盾を解消するための変化を考えて、その変化を現実の問題状況に置き換えることで問題の解決を考えます。
また、必要に応じて、 究極の理想的な結果から一歩退いた形の解決策が得られないか? 物質資源や派生資源を組み合わせることで問題が解決できないか? 場を導入することで問題が解決できないか? を考えます。
それでも問題が解決できない場合には、標準解、物理的矛盾解決法(分離の原則)、物理的効果集を適用することを考えます。 問題の解決策が得られたら、解決策の内容を物理レベルから工学レベル(実行可能レベル)へと具体化させますが、もし、依然として問題が解決していないのであれば、問題を見直して、複数の問題の組み合わせである場合には、個々の問題を解決します。
また、必要に応じて別の技術的矛盾を選択する、最小問題を定義し直すといったことも考えます。 以上のように、ARIZは、標準的(一般的)な問題は標準解を適用することで解決を図り、それ以外の発明的(革新的)問題は、標準解の他に、物理的矛盾、物質-場分析(資源の棚遅し)、マルチスクリーン・シンキング、究極の理想的な結果、賢い小人モデル、物理的矛盾解決法、物理的効果集を使うという仕組みになっています。
しかしながら、日本では一般に、TRIZの紹介として技術的矛盾を定義する標準的な問題を対象とした手法のみが紹介されています。しかも、ARIZ-85Cでは技術的矛盾を解消するために標準解を使うことになっていますが、日本で紹介されている手法は標準解の代わりに発明原理を適用するようになっています。
というのも、技術的矛盾を解消するために、矛盾マトリックスを使って適切な発明原理を選択させるといった手法が一般受けする、というのがその理由のようです。 残念ながら、以上のような事情で、日本ではTRIZの本当の威力(魅力)が一般に伝わっていないというのが私の認識です。
TRIZの本当の威力を体験したいのであれば、古典的TRIZをエンジニアリング・プロセスに沿って再構成した「I-TRIZ」を使用することをおすすめします。