今回は、発明力と設計力に長けた方(以下、Kさんという。)の話です。
技術開発の場面では、アイデアを出すのが得意な方と、アイデアを具現化することが得意な方とに分かれる場合が多いようです。
その道の専門家であれば、豊富な知識、経験により、仕様が決まっている具体的な製品・サービスを設計するこは得意かと思います。
しかしながら、知識、経験による論理的思考が強く働くと、独創的なアイデアを出すことが難しくなるともいえます。
他方、知識、経験がないにも拘わらず、次から次へと独創的なアイデアを出すことが得意な方がいます。
そのような方は、想像力が豊富でイメージ的思考に優れています。絵や造形が得意ですが、実用品としての材料の選択や強度計算は不得手のようです。
そこで、前者のような方は設計力に長けているため設計部門に所属し、後者のような方はアイデア発想力や発明力に長けているため企画部門や開発部門に所属し、それぞれの役割を分担している場合が多いようです。
ところが、まれに、Kさんのように、発明力にも設計力にも長けた方がいます。
Kさんは、書道、水墨画、切り絵で個展を開くほどの芸術的な技能を有する一方で、包餡機という「お饅頭や菓子パンを量産する機械」を一人で設計してしまうほどの工学的な技術をも有しています。
私はその昔、私が設計した図面のチェックをKさんから受けたことがあります。
当時、Kさんは製造部門の責任者でした。
材料取りから機械加工、検査工程に至るすべての製造工程で、その図面にそれぞれの作業に役立つ情報が的確に記載されているかどうかをチェックされていました。
その時は、よい設計というものは、製造に関する豊富な知識、経験が必要であることを教えられたと同時に、Kさんの製造に関する知識、経験には驚かされました。
その後、私もKさんもその会社を辞めましたが、ふとしたきっかけで再会することになりました。
それは、Kさんが開いていた水墨画と切り絵の教室について、発明のご相談を受ける機会があったからです。同じ会社にいたときには、水墨画と切り絵の趣味をお持ちであるとは知りませんでしたので、相談を受けたときにはその多才さにびっくりしました。
Kさんいわく、筆や切り絵用のナイフを動かしているときに、「そこはこういう風に動かすといいよ」と、もう一人の自分が囁くそうです。その通り動かすとうまくいくが、それに逆らうと仕上がりがよくないそうです。
そういえば、「棟方志功さんは、版画を彫る前に、版木に自分が彫る絵が見えている」ということをある本で読んだことがあります。同じことをKさんは経験していたわけです。
このようなことは、イメージ的思考や潜在意識にかかわることであり、発明力に関係の深い内容になりますので、詳しくは次回にお話しします。