1996年に英語版のTRIZのソフトウェアが日本に導入されてから16年が経過しましたが、残念ながら研究開発の現場でTRIZが利用されている状況にありません。
企業からの依頼でI-TRIZの説明に伺うことがありますが、そのほとんどのケースで、窓口の方から「TRIZは懲り懲りだ」、「TRIZは二度と使いたくない」といった社内事情の説明を受けます。
残念なことですが、これが現在のTRIZの現実です。
しかしながら、TRIZという言葉は知っているということですので、それとの比較でI-TRIZを説明することでI-TRIZの良さがわかっていただけるという、いいこともあります。
「TRIZが使えない」という場合のTRIZは、創案者であるアルトシュラーが第一線で研究していた時代のいわゆる「古典的TRIZ」のことです。
古典的TRIZは複数の手法の集まりであって、それらの手法毎に別々のルールからなる問題定義をすることで、別々の問題解決のヒントを手に入れて、アイデアを創出するといった仕組みになっています。
そのため、古典的TRIZを使いこなすには、使い方の異なる別々の手法を覚えなければならず、実践するまでに100~150時間の訓練が必要であるといわれています。
韓国のサムスンのようにトップダウンでTRIZを導入することが決定されるような場合は例外であって、日本の企業が研究者や技術者にこれだけの訓練時間を確保することはありえないでしょう。
日本では、古典的TRIZの一部の手法のみ導入した企業がほとんどです。その手法は異なる二つの特性を同時に満足することができない「技術的矛盾」を定義して発明原理(40種類)という解決ヒントを使ってアイデアを創出するものです。
縦軸に改良したい特性(39種類)、横軸に悪化する特性(39種類)を配置した「矛盾マトリックス」という一覧表を使って、対象とする問題のパターン(特定の改良したい特性と特定の悪化する特性の組合せ)の種類によって最適な発明原理(1~4個)を手に入れるという操作を行うものです。
一見すると、ゲーム感覚で解決ヒントを探すことになるので、導入当初は研究者、技術者にも好評でした。
しかし、実際の問題に適用しようとすると、何を改良する特性とし、何を悪化する特性とするかは、問題の捉え方によっていろいろ考え得ることになり、結果的に使用する発明原理が10~20個にもなることがあります。そのため、客観性がなく時間がかかるとの批判が出ました。
また、ようやくたどり着いた発明原理にしても、あらゆる技術分野に共通して使用できるヒントということで、その表現が抽象的すぎて意味がよくわからない、との批判も出ました。
最後は、矛盾マトリックスを使用する面倒な操作を省略し、最初から発明原理を使うことになりました。それも、40個では多すぎるということで、使用頻度の高い8個または12個の発明原理だけを使うといった方法が広まっていきました。
その結果、TRIZは、時間がかかる割には、オズボーンのチェックリストを使ってブレーンストーミングを行うアイデア発想とそれほど変わらない成果しか得られない、との評価が与えられてしまいました。
骨抜きにされた古典的TRIZに対する評価としては、当然のことでしょう。
古典的TRIZには、複数の特殊な問題定義の仕方を習得しなければならないという入口の壁と、抽象的な解決ヒントを使って具体的なアイデアを類比発想(強制発想)しなければならないという出口の壁があるということです。
I-TRIZは、どんな問題に対しても一種類の一般的な問題定義の方法を使用しますので、入口の壁はほとんどありません。
そもそも問題の分野には使える知識がない難問を解くことがTRIZを使う目的になっているため、TRIZでは解決ヒントとして他の分野の知識を使うために類比発想をします。
I-TRIZも類比発想することは同じですが、この出口の壁を低くする工夫があります。