問題解決を考える前にすべきこと

古典的TRIZ(創始者であるアルトシュラーが研究開発していた時代までのTRIZ)で使用される発明的問題解決の手順書であるARIZでは、いきなり具体的な技術問題の状況を詳細に定義することが行われます。
それは、古典的TRIZは技術システム自体が比較的明確なものを対象としていたからです。 しかしながら、多くの技術が成長期から成熟期に移行した現在では、具体的な技術問題に取り組む前に、何をするのか、何のためにするかが重要になってきています。
技術問題には、研究の成果を利用して未だ市場に現れていない製品やサービスを実現する開発が必要なものと、既存の技術を使用してゴールとなる仕様が与えられている製品やサービスを実現する設計で足りるものとがありますが、今の時代は、設計よりも開発、開発よりも研究にその重要性が移ってきているといえます。
主に技術問題を解決するために開発されたTRIZのソフトウェアであるIWB(InnvationWorkBench)では、その思考プロセスの最初に目的・目標を見直す段階があります。 たまにある質問ですが、なぜ目的や目標を見直す必要があるのかという質問を受けることがあります。
質問者の意図は、目的や目標は顧客や上司から与えられるものであるから、変更できるものではないはずだということのようです。これこそ、技術者の思い込みの典型例の一つです。 一方、現在のようにほとんどの技術システムが成長期から成熟期へと移行している時代では、市場では同業他社から提供される製品やサービスが自社のものとほとんど違わない状態(これをコモディティ化という。)が続くため、自社の売り上げが伸びないという現象が起きます。
自社の売り上げを伸ばすには、顧客が求める他社と違う製品やサービスを提供することが必要になります。そのためには、自分は何をすべきかを考え、自分の仕事の意味を問い直すことが必要になるということです。
それは、特定技術の担当技術者であろうと複数の技術を管理統括する立場の管理者であろうと違いはありません。 IWBでは「プロジェクトの目的は思うほど簡単でないかも知れない」といいます。たとえば、車の修理に関連して問題が発生しているとしても、車の本来の目的は「修理される」ことではなく、「人や貨物を輸送する」ことであるから、修理のことだけを考えたアイデアを出したとしても、「人や貨物を輸送する」ことに役立たない(本質的な問題が解決されない)かもしれないということです。
従来のように、目先の問題だけに捉われていると、一つの問題がなくなってもまた別の問題が発生することがあり、結果的に「もぐら叩き」状態が続くことになり兼ねません。 そこで、IWBでは本質的な問題がどこにあるのかを見定めるために、目的・目標の時間的要素、現実性、内部資源などとの関係を勘案することをすすめます。
また、問題が解決されることによって誰が有利になり誰が不利になるか、解決することによって何が変わるのかといった問題の状況の意味を問います。 また、問題を解決する前に「システムのすべては当初から変化していない、あるいは当初より複雑になっていない。しかし、望む結果は得られている、あるいは、有害な結果はなくなっている。」といった理想的な状況を想像することをすすめます。
さらに、問題を解決する前に、システムをどこまで変化させることが許されるか、許容範囲を明らかにすると同時に、システムを変化させる上での制約(変えてはいけない内容とその理由)を明らかにすることを求めます。そして、制限を取り除くことができる状態とはどのような場合かを示すよう求めます。
制限を取り除くと新しい問題が引き起こされるなら、オリジナルの問題を解決するよりむしろこの問題を解決するほうがよいかどうかを考えさせます。 このようにして、解決策の評価基準になる要素を検討している過程で、問題についての理解が根本的に変化することがしばしばあります。
それが、解決策を発見するうえで大いに役立つことがあるのです。